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2016年7月 4日

二つの潮流

 3日(日)、川崎のチネチッタで映画『フラワーショウ!』を観に行った。ロンドンで開催されるガーデニング世界大会「チェルシー・フラワーショー」で、アイルランドの若き女性が金賞を受賞した実話である。ガーデニングで有名な英国本土の、世界最大とされる大会での受賞である。アイルランドの園芸家からすると、一神教の社会では異端とされていたケルトの自然観、また、様々な自然の神々が認められたということで、21世紀は新しい時代だと希望を持って語られた筋書きだった。同様に、日本もいたるところに神々がおり、畏敬の念をもって拝まれている。その意味で、アーティストの石原和幸氏が「チェルシー・フラワーショー」のアーティザンガーデン部門で五年連続金賞を受賞していることも、彼がデザインした庭が、今と未来を美しく形作っている為だろうと想像する。

 昨日は参院選の真っ最中ということで、川崎では昼の暑い中でも選挙活動が盛んだった。『フラワー・ショウ!』もグローバリゼーションの中の1つの価値観であるように、今回の選挙で、世界の潮流である18歳からの投票権がいよいよ日本でも行使されることとなる。若者が集まる川崎駅の東口でも西口でも、各候補が支持を訴えていた。こういった世界共通の価値観は、ダッカのテロ事件に対する、市民の哀悼の意の示し方にも表れている。イスラムの国・パキスタンでも、蝋燭を灯し花束を捧げていた。花束は菊・カーネーション・バラ・ユリ・ガーベラ・グラジオラス等が中心で、これも世界共通の花であった。

 一方、世界のグローバリゼーションによる近似性や、多様性を認めるという思想の潮流とは逆に、過去を共有するものたちによる民族主義的、階層的な動きがある。国際政治でいえば、ロシアとトルコの民族紛争的敵対関係が、我々日本人にとっては分かりやすい例えだろう。それと同様に、日本の農業関係でも、時の政府と農業団体が対抗姿勢を強めることがある。これも、歴史的な経緯からだと小生は思っている。政府はアンチ系統農協の農業法人を国の諮問委員会等に入れることがあるが、規模の大きい農業法人が、地域の農協を通じて農産物を販売するところも多くなってきている。これこそ、日本らしいと小生は思っている。例えば、日曜日の人気番組「笑点」のスポンサーになっている系統農協では、とぴあ浜松農協の白玉ねぎを一つの象徴として取り上げている。また、小生がよく知る民俗学者の柳田国男(元農商務官)が見た系統農協の在り方も、大小の規模の農業者とも協業する在り方も、結局、これが日本の農業ではないかと思う次第である。

 何故そう思っているかというと、日本の今の農村地帯をつくってきたのは、戦国時代を経て、国として落ち着いた江戸時代からだ。各藩の武士政権は年貢を納めてくれればよいので、武士と農民の双方が折り合いをつける形で形成されたのが、村請制度・庄屋制度である。監督官は郡奉行やその地域の代官。その下に大庄屋。大庄屋は10の庄屋を束ねており、その庄屋はさらに50人程の農家を束ねる。束ねると言ったが、庄屋は50人の農家の面倒を見るということだ。武士ではなく、あくまでも有能な農家を自分たちの中から庄屋として選び、10の庄屋から大庄屋を選んで出来た制度である。こういう風だから、天候で飢饉になった時、民政ではない大名はさらなる増税をしようとする。そうすると、当然一揆が起きることとなる。民政は庄屋を中心に行っていたわけだ。このように、「農業」という仕事をする庄屋農民組織のゲゼルシャフトと、地域構成員の幸せを願う「農村」というゲマインシャフトとの境が、あやふやになっていた歴史がある。今では、農協の支店はその地域のことを考える庄屋の役割。農協の本所は、広い地域の民政を行う大庄屋の役割。そして、県の全農や共済等、全中まで含めた系統機関は、今は軍事国家ではないから、県全体の民政を行う役割を行っている。そこをふまえて初めて、岩手県や静岡県等の、現代に合った農業者と系統農協の在り方が出てきている。

 大規模になった農業会社は農協を利用しない。それはそれで良いだろう。しかし、農協を利用しないから儲かるというのは間違いだ。そういう会社も地元の農協か、あるいは、全農県本部を通した方が儲かる場合が多い。江戸時代から続く歴史を知ること。そして、明治の農商務省の時代、戦前・戦後の農林省の時代、さらに、今の畜産と園芸が主力となった日本農業の時代の在り方を学ぶことによって、人気番組「笑点」に出てくる、とぴあ浜松のプロとして農家を支える農協がイメージ出来る。農家と伴に生活し、農家を支える主体性をもった農協としての姿だ。系統農協は自分の都合を通す圧力団体ではないことを、読者の皆様に歴史から学んで理解してもらいたい。これは、日本民族の有り様なのである。

投稿者 磯村信夫 : 2016年7月 4日 16:07

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