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2015年7月13日

マーケットインの改革を、農業(農家)は一日にしてならず

 今回は、二点のトピックスを柱にお話をしたいと思います。

 一点目は、農業に参入する企業への警鐘です。大規模農業をやりましょう、企業も農業に参入しましょうといった風潮があり、新聞等では上手くいっているように報じられていますが、実際の所はあまり上手くいっていない実情があります。例えば、十年以上前、某大手衣服メーカーが野菜の生産・販売をスタートさせましたが、結局3年で撤退しました。約26億円の赤字だったといいます。他の企業でも、農業参入後、赤字を垂れ流して続けていたりします。何故そのようなことになるのでしょうか。これは、農業に対する認識が非常に甘い点が指摘されるでしょう。花もそうですが、農業にはノウハウが非常に重要で、かつ、大々的に施設栽培するとコストがかかってしまいます。「初期投資をして、初年度は売上げもいかないし赤字かもしれないが、右肩上がりに生産量、収益が伸びて云って、大体5年目くらいに損益分岐点を超えて、10年目位になると初期投資が回収できる」。こういった計画書を殆どの企業が作成してスタートするわけです。ところが、天候不順等の様々な外的影響を、ノウハウを駆使しながら生産をしているのが今の日本の農家です。そこが欠けているのです。もう一つは、右肩上がりにはずっといかないということです。農業はどうしても山あり谷ありの生産になってしまいます。何故、今の日本の農家が成り立っているかというと、単位の小さい一つ一つの農家が、自分のリスクで行っているからです。例えば今年、キャベツを作ります。キャベツが暴落した場合、農家の人は「しょうがない。来年頑張るしかない」。こういう風にやりますよね。単位は小さいですが、農家は全てのリスクを背負っています。これを企業がやろうとすると、右肩上がりの計画をしておいて、どんと落ちると、手の打ちようがない。計画書通りには上手くいかないのです。

 ノウハウの問題と、リスクをどう取るかということ。これが出来ている日本の農家は凄いのです。ただ大きくすれば、企業が入れば上手くいくというのは幻想であり、大変難しい所であります。

 もう一つのトピックは、JA改革です。準組合員(農家でない方がお金を出して、準組合員になり、様々なサービスを受ける)の比重が大きくなって、特に都市部で高くなってきました。この方々の加入で金融資産が増え、それを営農に振り分けています。営農だけではなかなか利益が出ない中、準組合員の加入は利益の大きな一つです。これが、準会員を認めないという改革になるかもしれません。そうなると、JAが今行っている営農指導、営農に関するサービスが低下してしまう危険性があります。これについては非常に危惧すべき点です。また、「農協が独自な売り方、販売ルートをすればいいじゃないか、販売先を開拓して自由な販売をすればいいじゃないか」という見解も出てきますが、これについては、私からすると、全く流通を知らない人の意見であります。例えば、先週嬬恋に行ってきましたが、嬬恋では一日に15万ケース位のキャベツの出荷量があります。これを細かくは売れません。しかも、ニーズというものが当然あります。マーケットインの発想でなければなりません。今のマーケットでは、小売より量販店のシェアが増えている為、大量流通が必要とされています。大量流通を望んでいるのだから、大量に出すというのは一つの武器ですよね。もちろん、レストラン等に個人で売ったっていいのです。しかし、はたしてどれくらいの需要が見込めるでしょうか。一つのレストランではキャベツなんて1箱あれば十分でしょう。そういった所を、千件、二千件の契約を持てるかどうか。ここが、マーケットインの発想になっていない所です。プロダクトアウトの発想で考えているのが今の農協改革です。

 ニーズがあるものをつくる。仕掛けをする。こういうことをしていかなければいけません。どうも、今の農協改革の指針は、その辺を把握していないと思います。ニーズに沿った改革をしていかなければ農協の改革は難しいでしょう。

取締役 川田 一光
(東京青果 株式会社 代表取締役社長)

2015年7月13日 11:23

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