大田花き 大田花きコーポレートサイトへ
 

« vol.87 JA会津みなみ(福島県) | トップ | vol.88 八丈島の切り葉・切り花 ~後編~ »

2011年11月14日

vol.88 八丈島の切り葉・切り花 ~前編~

皆さん!ウンチク探検隊もついに記念すべき第88回目!末広がりの88回です!

これまでウン探を一度も見逃したことがないというツウなあなたに聞いちゃいます(≧∇≦)
東京都下にある花の産地をいくつ言えますか?
このウン探も88回といえども東京都の産地をレポートしたのは1回か2回か・・・?
2つ以上言えたら、相当ス・ゴ・イ!


今回の取材先は東京都でも有数の花の産地!もちろんウン探も初上陸の地域です。
さてどこでしょう!?

DSC01309.jpg DSC00009.jpg
DSC01384.jpg DSC01316.jpg


ヒント:羽田から南下することおよそ300km、伊豆諸島の一つで、夏は多くのダイバーや釣り人たちが訪れる南の島!

正解は・・・・・

moreMAPhati.jpg


八丈島!・・・ってここまで引っ張っても、タイトルでもうバレバレですが^_^;
ウン探第88回は「8」つながりで、ここ八丈島からお届けしまーーーす!(*^^)vイェイ!

DSC04567.jpg


さて、八丈をディープに知る前に、さらっと一般常識をおさらいしておきましょう。
真中がくびれたこの形は、よく「ひょうたん形」に例えられます。

hyotan.JPG


1960年代にNHKで放送された「ひょっこりひょうたん島」は、諸説ありますがこの八丈島がモデルだったとも言われています。
♪ひょっこりひょーたんじィーま~ぁって若い方々、分かります??


緯度にして九州の長崎、熊本周辺、更にずずーーーーっと西へ行けばヨーロッパより南の北アフリカ、昨今まで政情穏やかでなかったリビアの首都トリポリ辺り、アメリカ大陸ならロサンゼルスより更に南のサンディエゴに相当します。結構“南”よね~。

八丈富士三原山という2つの火山によってできた島は暖流の黒潮の影響を受け、年間平均気温は18度、冬場の平均気温も10度と比較的温暖、年間降水量は東京全体平均の倍以上に当たる約3,000mmにもなる海洋性気候。日本有数の雨地帯といっても過言ではないでしょう。

5761747.jpg 4598051.jpg


森に入れば1年中濃い緑に恵まれ多くの野鳥が現れる。海に入れば亜熱帯の珍魚の宝庫。豊かな自然に恵まれた八丈島の面積約70平方キロメートル。東京都区で最も大きい大田区(約60平方キロメートル)と最も小さい台東区(約10平方キロメートル)を合わせたくらい。


人口約8,000人。ここでは“島内みな知り合い”って感じで、道路で誰かとすれ違うたびにご挨拶。
お名前も皆さん似たような苗字が多いので、ファーストネームで呼ぶのが八丈流。


そんな八丈島は、実は東京都下における花きの大産地なのです。
何を生産しているか。
もちろん高温多湿の環境ですから、熱帯系のものなら何でもお手の物なのですが、花き市場に出荷されているのはロベやレザーファンなどの葉物です。

いまや「“ロベの島”八丈」と言われるほどロベの生産は盛ん。
今回のウンチク探検隊では、なぜそれほどまでに有名な葉物の大産地が八丈島に生まれたのか、秘密を見てまいりましょう。


お邪魔したのは共選産地と個選産地。

いつにも増して記事が長くなる気配ぷんぷんなので、今回は前編/後編とに分けてお送りしたいと思います。スペシャルバージョンです!

blockline.JPG


まず前編は共選であるJA東京島しょ(とうしょ)八丈島支店
早速ですが「島しょ」ってなんでしょ?

「島嶼」と書き、「嶼」「小島」を意味します。
つまり“東京島嶼”といったら東京の小さな島たち。そのうち八丈島にある農協の支店がJA東京島しょ八丈島支店いうわけです。

こちらは八丈支店のレザーファン組合のみなさま。レザー一筋!の専業で他の農産物は作っていらっしゃいません。
組合員の皆様併せて500坪以上で生産しています。
DSC01322.jpg

お邪魔したのはレザー一筋21年の佐々木忠彦さんの圃場。2種類のレザーファンを生産しています。
DSC01448.jpg DSC01449.jpg


え?2種類?レザーって品種の違いがあるの?と思われた方はなかなか鋭いですね。
市場に出荷されるときはその別なく全て「レザーファン」として出荷されますが、実は八丈のレザーは厳密に言うと2品種あるのです。

DSC04497.jpg DSC04496.jpg


いや、しかしどちらがどちらなのか全然見分けがつきません!?(゚_。)?(。_゚)?アレレ?

分からなくてもいいのです(*^-^*)ダイジョブ!
見た目は殆ど同じの2品種は、日本に最初にやってきた在来種と“マイルド”という改良種です。しかもココ八丈島で育種されました。在来種の中から良い品種だけを選抜に選抜を重ねてマイルドが生まれたのです。

“良い品種”とは何かというと・・・
① 大きくてしっかりしているもの
② なにより胞子がつきにくいこと


レザーはシダ植物ですから、小学か中学の理科で習った通り、花を咲かせて実が成って・・・という方法ではなく、葉の裏に付く胞子を飛ばして子孫を増やすのです。
ですから、普通のシダの裏はこの通り胞子でぎっしり!
DSC04475.jpg DSC04472.jpg

WOW(@_@;)!!見る人が見たら気持ち悪いと思うことでしょう・・・。
もしくは逆に「素敵」と思うかも?
一般的にはこの胞子がない方が受け入れられやすいので、胞子がつきにくいものを改良してマイルドが生まれたというわけです。
ですから、在来種の中でも胞子が付いておらず、きれいなものは現在でも出荷されます。


“切るタイミング”はどのようにみるのですか?

「まず色を見て、緑が濃いこと。

その次に触ってみる、まだ湿っていて柔らかい場合はまだダメなんだ。そういうのは色が少し淡いでしょ。これではまだ若いから、切った後に水を吸い上げる力が弱いんだ。レザーはシダ類だから水が好きでしょ。水が上がらなかったら致命的だから、ここを見誤ったらいけないんだよ。

DSC04491.jpg
(↑こちらは形は既に整っているが、周りの葉に比べて色がまだ淡い。これは収穫にはまだ早いということ)


そして、葉が固くて乾いていること。
それを手で切り取るんだ」


え?手??hand.jpg

手で切り取るんですか。疲れませんか?
「その方が作業が早くて効率がいいんだ。こうやってね!」

DSC04478.jpg

なるほど。作業性の問題ですね。

「だから腰が痛くなっちゃうんだよ」

waistband.jpg

これはなかなか大変じゃ(>д<。)
だから、皆様のお悩みは腰痛なのだとか。こうやって腰にサポーターを巻いていらっしゃる方も。

腰は「月」(にくづき=つまり「体」)に「要」(かなめ)と書きます。農家の皆様、くれぐれもお大事に☆


さて、良いレザーを見分けるポイントは?
「必ず表と裏からチェックすること。
表から見て左右対称なもの。そして今度は裏を見てさっき言ったとおり胞子が付いていないもの」

DSC04483.jpg DSC04498.jpg


DSC04482.jpg

生産管理で気を付けていらっしゃることはありますか?
「冬場は最低気温4-5度が限界なんだ。霜が降りると若い葉はダメになっちゃうからね。最近は温暖化で施設内に霜が降りるということも少なくなったけど、油断できないんだ。」

そう。レザーにとってベストの管理は温度23度、湿度80%
・・・って結構蒸し蒸し蒸していますね~(;´д`)フー

夜温は14-15度程度が理想的。この昼夜の温度差がないと葉が締まらないのです。
しかし、それ以下の温度になるとやはり気を付けなければなりません。

レザーにとって理想的なこの環境は、実は世界でもコーヒーベルト(コーヒー豆の産地が集中している一帯。赤道を挟んで南北回帰線25度の間)の環境とほぼ同じなのです。
【↓コーヒーベルト】
coffeebelt.jpg


実はレザーファンの輸入品もこのコーヒーベルトの国々から出荷されているのがほとんど。しかも赤道直下でも標高1,000メートル以上の所だったり、植物の栽培には大変恵まれた環境でレザーがじゃんじゃか生産されているわけです。

八丈島はもちろんコーヒーベルトには入っていません!そのようなハンディキャップの中、八丈のレザーも世界のトップレベルの品質を保っているのです。バラやカーネーション、トルコギキョウや球根類などなど(ありすぎて以下省略)の生産品質と並び、レザーにおいても日本のトップクラスは世界のトップクラスというわけですね。

こちら佐々木さんの奥様。大切な戦力です。
DSC04495.jpg

奥様にとってレザーファンは何ですか?

「敵であり味方である」

スパッと答える奥様。さすが、反応がいい。
つまりどういうことでしょうか?

「仕事は決して楽ではないので“敵”とも言えるし、精神的に救ってくれるものでもあるので“味方”ともいえる」

「敵」というのはご苦労が多いということが容易に想像されますが、恐らくは味方が前提なのでは?“味方、ときどき敵”といったところでしょうか。

そうでなければ、このようなりっぱな↓鉄骨の施設でレザーを作りませんよね( ^―゜)b
DSC01451.jpg DSC01453.jpg

そう、八丈の皆様は鉄骨の施設でレザーを栽培されている方も少なくありません。


って、えーーーーぇえ!!(゚ロ゚屮)屮??!!
鉄骨はちょっとやり過ぎじゃありませんか?鉄骨の施設では作るのにもお金がかかるし、葉物生産で回収するにもなかなか時間がかかるのでは?


いえいえ、それが違うのです!
ここ八丈島は日本屈指の台風銀座に加えて、台風のないときでも強い潮風がビュンビュン吹き荒れる海洋性気候なのです○o。困ヽ(*゚Д゚*)ノ困。o○


だから通常の八丈の一般家屋は2階建てが少ない・・・。強風が吹くから。いや、“吹き荒れる”から。
DSC01574.jpg

昔はよく木造家屋の屋根を吹き飛ばされたのだとかΣ(゚д゚;)!
そのくらい強風が吹き荒れるので、ヤワな施設では飛んで行ってしまうのです。

それに、強風が吹くたびに「大丈夫かな・・・大丈夫かな・・・」という心労やストレスを考えたら、やはりこれは丈夫な鉄骨の施設を作るということがいかに大切なことか、お分かりいただけると思います。はい☆-(^ー'*)


風も強いし雨もよく降る。
この鉄骨施設に守られて、気温と日照と湿度は理想的な形で確保できる。だから八丈の皆様の手によって丁寧に作られたレザーは肉厚で艶々☆
発色も違うし、良く持つのです。
DSC04503.jpg DSC04500.jpg

ところで皆さん、日本でレザー栽培発祥の地はココ八丈島であることをご存じでしたか?
(さっきチョット言ってしまいましたが・・・)

昭和40年、当時の横浜植木会社(現:横浜植木株式会社様)から30株ほど購入したのがきっかけ。
昭和50年、次世代を担うスーパースターとして八丈島で本格的に増殖し始め、30株から始まったレザーは300株、3,000株、30,000株と爆発的に増えていき、量販体制に。気付けば洋花ブーケの葉物といえばレザーファンは欠かせないというほど一世風靡した品目です。


昭和50年代、レザーファンの時代が到来!
IMG_0520.jpg


でもどうして、これまた「レザー」と呼ばれるようになったのでしょうか?
英名をレザーリーフ・ファーン(Leatherleaf Fern)といいます。直訳すると「革質の葉を持つシダ」。
想像ですがツヤツヤとした葉の表面が革素材のように見えたのでしょう。そのような高級素材にも例えられたレザーですから、日本でも大ブームを起こすのは至極当然のことにも思えます。ブームを起こすには確固たる生産体制がなくてはなりません。その生産を支えたのが、この八丈島の皆さんなのです。

これからも国産のレザー供給を力強く支えてくれることでしょう。

blockline.JPG

さて、こちらは独特な雰囲気をお持ちのお父さん。
こんにちは(✿◕ ‿◕ฺ)ノ))。₀: *゚✲コンニチハ✲゚ฺ*:₀!!

DSC04401.jpg

なんと知る人ぞ知る八丈島の生き字引きこと喜田孝(きだ・たかし)さん、66歳です。
八丈島農協のロベ生産組合の第2代組合長さんです。ロベの話を伺う前に、八丈島のオリジナル言語について教えていただきました。

なんでも八丈島の方言は日本に数ある離島の中でも最も古い方言なのだとか。そのような貴重な言葉にもかかわらず、全国でも4番目に話す人が少ない方言でもあるのだとか。年々話者が消えゆく幻の方言。せっかくですから喜田さんとちょっとお話してみましょう。

DSC01329.jpg


喜田さん、こんにちは!
(喜田さん)「ロベ∀йィ゚+o。△★*@Θ±。。。」

え? ☆!☆?☆ (☆_◎) ☆!☆?☆チンプンカンプン(衝撃的!!)
なんておっしゃいました?全然わかりませんでした。
今、八丈の言葉で何かおっしゃったのですか?それとも日本の共通言語だったのでしょうか・・・それすらワカラナイ!


すみません、昔から英語も聞き取りが苦手だったもので、もう少しゆっくりお話していただいてもよろしいでしょうか?

「ロ・ベ・オ・ヤ・マ・ナ・ベ・ト・カ・ラ」


はあ・・・。
八丈島の言葉のようです。
それにしてもこの音の羅列は一体何を意味しているのでしょう。(゚_。)?(。_゚)?


DSC04398.jpg

「“ロベヲ、ヤマナベトカラ”って言ったんだよ」


あぁ!なるほど、“ロベヲ、ヤマナベトカラ!”とおっしゃったのですね。そして普通の言葉もお話になるんですね・・・

それでなんとおっしゃったのですか?(←全然理解が進まない)

「“私はロベを山に植えました”って言ったんだ」

なるほど、やっと伝わりました。ありがとうございます。
八丈の方言をお話しされる方は今となっては大変貴重ですね。


で、その貴重な人物喜田さんも“ロベヲ”作っていらっしゃいます。

DSC04397.jpg


「昔はね、牛を飼っていてホルスタインのおっぱい絞りをしていたんだよ」

へ~!ホルスタインのおっぱい絞りからロベ生産に職業変更ですか。かなりの転身だと思いますが、何かきっかけはなったのですか?


DSC04430.jpg

「昔はココ八丈では畜産も有名だったんだよ。昔は八丈の牛乳は世界一と言われたものだったんだ。
でも飼料の価格高騰などで徐々に畜産は儲からなくなっていたんだ。だから私も畜産をやめて昭和35年にロベ生産に移ったんだよ。そのころはロベが成長株だったからね」


あ、ホントだ。
ふと振り返れば、農協の集荷場と同じ敷地内に牛乳の加工場がある・・・。

DSC01344.jpg DSC01343.jpg

こちらが今でも有名な八丈牛乳。

DSC04432.jpg


早速いただいてみると・・・(* ̄O)◇ゞ ゴクゴク

わッ!“本当の牛乳”の味がする!

いつもスーパーで買う牛乳と明らかに違います。
本当はこのような味をしているということを教えてくれる“本物牛乳”という感じです。しかも低温殺菌(今回もお得意の四文字熟語か?いや、花とは関係ないからやめとこ)。
おいしいですよ。牛乳好きにはたまらない。


八丈名物、生き字引の喜田大先生にいろいろ教えていただいたところで、現役組合長にバトンタッチ!

DSC01342.jpg

こちらは八丈農協で250軒にも上るロベの大生産組合のリーダーを務めるのが第4代組合長の浅沼實(あさぬま・みのる)さん57歳。


實さん(八丈は同じ名字の方が多いので、現地の習慣に倣って下のお名前にて!)も25年前に民宿経営からロベ生産に華麗なる転身をした転身組です。

ちょうど集荷所で集荷作業をされていました。

DSC04402.jpg DSC04403.jpg

DSC01333.jpg DSC01334.jpg


ロベを階級分けして箱に詰めているようですが、ロベの良し悪しはどこでみるのでしょうか?

“良いロベ”の見分け方を教えていただけますか?

「本当に良いものは“葉切り”がされていないものだよ」
↓葉切りされているもの。葉先がバツン!と切ってある。
DSC04405.jpg DSC04407.jpg

ではどうして葉切りして出荷するものがあるのですか?

「風に吹かれて周りの葉と当たったりすると葉の先が傷むでしょ。だからそこを切り取って出荷するんだよ。
切らないとその傷がだんだんにじんで広がってきてしまうからね。

だから葉先が切れていなくて先端まできれいに伸びているものが“秀品”、葉切りされているものが“優品”なんだよ」
(※品質の階級は上から秀品、優品の順です)

それにしても、見てくださいと言わんばかりの素晴らしい艶です。
DSC04409.jpg


ロベはヤシ科ですから、主な出荷期は春夏かと思いますが、冬場は何をされているのですか?皆様ロベ専業と伺ったのですが?

「枝うちとか圃場のメンテナンスだよ」

毎日?

「そう、毎日。
きちんと冬場にメンテナンスをしないと、葉が伸びたい放題では下の方の葉は日照不足にもなるし、高温多湿になって虫害や病気も出やすくなる。夏場に良いものを出荷するには冬場のメンテをいかにきちんとするかにかかっているんだよ」


ふと見れば實さんのお足下はなんと“地下足袋”!
DSC04425.jpg DSC04426.jpg


いつもこのスタイルですか?

「そうだよ。集荷場と圃場ではいつもコレ。滑らないし踏ん張りがきくんだ」

それではお待たせしました!ロベの圃場にお邪魔してみましょう。
みなさん、ロベがどのように作られているか想像できますか?
こんな感じかしら?
8038749.jpg


それともこんな風に植えられているのかしら?
1620022.jpg


はたまたこんな感じの高いヤシにロープ一本で登って切ってきたりするのかな~、(だから實さんは地下足袋を履いていたんだ)なんて想像されているみなさん♪
8870035.jpg

真実をお伝えします(*`д´*) ←真剣な面持ち
コチラがその圃場です。
DSC04438.jpg DSC01415.jpg


えええーーーーーぇ!なんだか想像と全然違うぅ!


お邪魔したのは共選でロベ組合を構成する250人のうちのおひとり、村上真理子さんです。

この真理子さんがまた只者ではありません。

何を隠そう2010年2月の関東東海花の展覧会にてロベで「農林水産大臣賞」を受賞したスゴ腕なのです。

「色ツヤがいいからって評されたかな。良く覚えていないわ。ハハハッ(笑)」
DSC04455.jpg

さすが、この明るさですよ。ロベにツヤをもたらせているのは!


いやいや、それもあるでしょうけどウン探の名にかけて、農水大臣賞受賞の秘訣を「真理子さんの明るさ」で片づけてはなりません!(自戒!)


圃場を拝見いたしましょう。

DSC01416.jpg DSC01428.jpg


直射日光がビシバシ当たると、さすがのロベも葉が焼けてしまうので、遮光のためにネット施設で育てています。

「このネットは風除けの意味もあるのよ。強い風に当たると葉先が茶色くなっちゃうから。」

真理子さん、ロベ生産で何か独自に心がけていらっしゃることはありますか?

「そ~ね~、肥料は年に2回でしょ、あとは除草をしっかりすることかな。ロベにとっては台風と並んでムシが大敵なので、除草を徹底するというのは防虫対策でもあるのよ」

なるほど~。

ロベ畑って下から覗くとこのようになっているのですね~。

DSC01429.jpg robetrees.jpg

これはまたきれいに並んでいらっしゃること!∑(o'д'o)!!


DSC01430.jpg

「そうそう、それからロベの木を植える時に結構間隔を取るのよね。90-95cmくらい。
人によっては75cm以下の人もいいるくらいなんだけど、ウチは間隔が広い方かな。そうすると風が吹いて葉が揺れ動いても、葉同士が擦れ合わないし葉先が割れなくなるのよね」


あらまあホント。葉先がきれい!これなら葉切りする必要ありませんね。
DSC01424.jpg DSC01423.jpg


水やりは?
「ここ八丈では水やりの必要ないのよ。1年を通して十分雨も降るし、湿度もあるしね」

DSC04441.jpg

どこから切っていくのですか?
「幹の下に生えている方から順に切っていくのよ。樹の天辺に生えている5枚位を残してね。8月には全て収穫してしまうの」

DSC01425.jpg

この施設内のロベの樹はだいたい1.4mくらいでしょうか。ここまで大きくなるのにどのくらいかかるのでしょう?

「10-12年。実生(種から育てること)から苗にするまでに4-5年かかるのよ。苗になったら定植して、この高さになるまで更に5-7年ね。どんなに早くても定植から5年目でやっと製品を採れるようになるの。

DSC04448.jpg同じタイミングで植えても、苗ごとに生長の差があるから、結構高さはボコボコしているでしょ(笑)。高くなりすぎた樹は葉を採った後に幹から切ったりするのよ。そうでないと、低い樹たちの日照権を阻害しちゃうから」


1株から何枚くらい採れるものなのでしょう。
「1回で7-8枚。
切らずに置いておくと葉先が黒ずんできたり割れたりしちゃうので、きれいなうちにね。施設内を回って採花のタイミングをよく見てね。どこを残しておいて、どこを今日切るかの判断が駆け引きだったりするのよね。いまだに日々勉強中よ(笑)」


あれれ??(゚~゚o)???
ロベの葉元をよく見てみると、葉になりかけの子供みたいのがいます・・・これは?

DSC04443.jpg DSC01427.jpg

「葉じゃなくて、トゲだよ」

トッ、トゲッ!?∑( ̄[] ̄;)!

ぬぁ、ぬぁんと!こんなに大きくて鋭いトゲが付いているのですか?ロ、ロベに??

あ、ホント触ると固くて・・・これ刺さったらイタイでぇ~=(´□`)⇒グサッ!!
ん?つまり、このトゲを処理して出荷してくださっているということですか?

「そーよー!」

だから真理子さんの手もこの通り・・・アタタタッ!

DSC04449.jpg DSC04452.jpg

指を指しているところはとげが刺さって皮膚が変色してしまったところなのだとか。

「トゲはね、1度水に浸けるとふやけて取りやすくなるの。
数時間置いたものをこうやってカマで取る。1本1本両サイドね」

DSC04470.jpg DSC04468.jpg

エ━━━(゚ロ゚;)━━ッ!!(驚)

ロベの出荷前に1本1本トゲをカマで取っていてくれていたとは、知りませんでしたm(_ _)mモウシワケゴザイマセン!

市場では大きい箱にたくさんロベが入ってくるものですから、てっきり簡単なものかと思ってしまいましたが、真理子さんの白魚のようだったはずの手をこのように傷つけてまでも、このような鋭いトゲを1本1本取ってからご出荷頂いていたとは・・・脱帽!

【トゲ取りシーン】
DSC04461.jpg DSC04459.jpg 

DSC04462.jpg DSC04467.jpg

きれいにトゲが取れました。


出荷までは本当に手間のかかるものなのですね。

でも真理子さん、どうしてロベを生産品目として選んだのですか?
DSC04469.jpg

「私にはロベしかないのよ~。ロベなら難しい技術も要求されないし、連作障害もない。

自分のペースでできるでしょ。ご年配の方でもなんとかできるということは、自分が年をとってからも続けられるってことだしね。

八丈にロベがなかったら生活していけなかったという人も多いのよ、ウン探さん」


連作障害もなく年を取ってからも続けられるというサステイナブルなところがいいですね。

「そうそう、同じ八丈名物でもアシタバは3年で畑を替えなくちゃいけないの」

DSC01539.jpg ← 八丈名物「アシタバ」


農業を続ける人にとって、同じ土地でずっと同じものを作っていけるというのは大きなメリットですね。
ロベがあっての八丈島。ロベが八丈の経済を大きく支えていることがよく分かります。


こうしてトゲまできれいに処理されて、集荷場に集められ、出荷の準備ができた商品は八丈島の港に集められます。
DSC01330.jpg DSC04408.jpg

DSC04399.jpg DSC04410.jpg


こちらがその港、底土港(そこどこう)といいます。
DSC01360.jpg DSC01358.jpg


底土港(そこどこう)ってそこドコ?(ア。スミマセン!)

いやいや、冗談抜きにしてそこはどこかというと、八丈島の形をひょうたん形に例えると、このくびれのところにあります。

panorama.JPG

DSC01413.jpg

八丈島のメインの港です。

底土港から出船して東京は竹芝桟橋に到着します。所要時間はおよそ10時間。飛行機であれば1時間足らずの距離なのですが、航空貨物事業が撤退してしまったので、切り葉のような大きな箱のものは船で送るしか手段がなくなってしまったのです。

東京都下でありながら大消費地が遠い。離島である分、生産資材や肥料のコストも本土より高い。加えて、船は欠航率が飛行機よりも高い。これが八丈で花きを生産出荷する人の悩みです。


それにもめげず、平坦地が少なく意外と山がちな八丈で、急斜面を開墾して“段々ロベ畑”にしてでもロベの量販体制に臨みます。
そりゃもうこんな感じ↓
DSC01404.jpg DSC01403.jpg


車を走らせれば、流れる景色はロベ林。
DSC01402.jpg

↓谷間にも(写真上部の緑がロベ)
DSC01405.jpg


♪あれに見ーえるはロベではないか・・・ってホントに木々の向こうに見えるアレもロベです。
DSC01408.jpg


ちょっとスペースがあればすかさずロベを植える。どんなに狭い場所であっても、まさに生き字引きこと喜田さんのおっしゃる「ロベヲナベトカラ」状態。

八丈の方々をここまでロベ生産に駆り立てるものって・・・


それは後ほどレポートいたします( ^―゜)b

blockline.JPG


その前に季節外れですが、せっかくなので共選の「サンダーソニア」の生産現場をちょっとだけお見せしちゃいます。(ウン探を見てくださっている方だけに特別♪)


こちらは奥山隆(おくやま・たかし)さんです。
DSC04561.jpg


サンダーソニアを共選で出荷してくださっています。今は時節柄花もなく、球根の育成が主な仕事です。


「サンダーの球根はね、こうやってV字型になっているんだよ」

DSC01731.jpg

へ~、V字型の球根ですか。珍しい形をしていますね。
ほら、こんな感じ。なんだかカワイ♪

thunderbulb.jpg

「養成するときはまずこのV字の先を見るんだ。

これは先が黒くなっているでしょ。
thunderedge.JPG


これは組織が死んでいるんだ。こうなっちゃうともうダメ。
これは切って、処分する。


もう一つを見てごらん。こっちは白くてぷっくりしている。
DSC01733.jpg

これは生きている証拠。
一つの球根の中でも、生きている方だけを切り取って養成するんだ」

この白い粉は何ですか?体操選手の手ように白粉にまぎれていますが・・・?
DSC04554.jpg

「殺菌剤だよ。割ったら傷口ができるでしょ。そこからバイ菌(ウィルス)などが入ったら大変だ。
ダメになっちゃったら、今の努力が水の泡でしょ。
もっのすごく繊細なんだ、サンダーの球根ってのは」


アレレ?どうしてその作業場にスケールがあるのでしょう???ヾ(゚ー゚ヾ)^?。。。ン?
DSC04556.jpg


「もちろん重さを測るためだよ。3-4グラムの球根と5グラム以上の球根とに分けているんだ」


な、なんと!∑o(*'o'*)o ウオオォォォォ!!
どうしてですか?4グラムと5グラムの境ってそんなに大きいものなのですか?

DSC04563.jpg

「芽が出てきた植物体の大きさとかエネルギーっていうのは、球根のサイズに大きく影響されるからね。

3-4グラムの球根は7-8輪の花が付いたMサイズの商品になるんだよ。5g以上の球根なら9輪以上、出荷時の長は80cm以上という大変立派なLサイズ商品。

採花してからMとLに仕分けするのではなく、最初から分けて商品のバラツキを最小限にするんだ」

なるほどぉ~。
そこまで緻密に良いものを作ろうとしている。

「こうして丁寧に処理していったものを、植え付けまでの間冷蔵庫に保管しておくんだ。

3-5℃で3か月間ね。
一度冷蔵庫に入れた球根を3月上旬まで時期をずらしながら定植するんだ。あえて開花時期をずらして、継続して採花できるようにね。

これを“休眠打破”っていうんだよ」

“休眠打破?”

眠眠打破ならよく知っていますが・・・ア、スミマセン、休眠打破ってなんですか?

「サンダーのような球根植物のうち、多くは季咲きは5月でしょ。
(※季咲き=人工的な処理を加えずに、季節がくると自然に開花すること。本来の旬)

球根の場合は冬の寒さに当たると、“寒いから寝る~”とお休みなるわけ。球根はむしろ“寒さ”に当てないといけないんだけど。

そのあと春が来て気温が上がると“わ~い!温かい~(≧∇≦)”と目を覚まして芽が動き始める。
そうすると開花のタイミングがちょうど5月なんだ。
この冬と春を人工的に作るのが休眠打破っていうんだよ」


球根を冷蔵庫に入れて寒さを当てて、冬だと思わせる。(本当の季節な夏なのですが、冷蔵庫に入れて冬を体感させちゃう!)


そして、冷蔵庫から出して圃場に定植、隆さんのところは施設栽培なので温度コントロールをして、本当の季節は冬なのですが今度は春だと思わせる。

畝によってタイミングをずらしながら球根を定植していくことによって、季咲きを待たずに冬でも継続的にサンダーソニアを採花することができるのです。
DSC04564.jpg DSC04558.jpg


少しだけ芽を出したサンダーたち。良く見ると既にサンダーの葉の特徴を示しています。
DSC04559.jpg DSC04560.jpg

残念ながら今はまだ花はありません。
DSC04566.jpg


今日のところはフリー素材で入手したサンダーソニアの写真で堪忍してください。スミマセン!
thundersonia.jpg


下を見ても花はないので、ふと上を見ると・・・


DSC04565.jpg


あ、電照がある・・・!
もしかしてサンダーソニアって電照栽培なんですか?


「電照栽培じゃないよ。夜業用だよ」


や、夜業・・・!!w(゚o゚*)w!!

夜遅くまでそんなにお仕事されるのですか、隆さん?

「一つ一つ球根を手で植えていくからね。1ベッドで4,000球植えるんだ。
日が短くなると明るいうちに作業が終わらないから、この夜業用ライトは必須なんだよ」


どうもすみませんでした。

隆さん、くれぐれもご無理をなさらないようお体を大切にしてください。


blockline.JPG


さてさて、ここまで色々皆様に教えていただいたのですが、う~ん、わからないな~。

八丈島の皆様をここまでロベ生産に駆り立て、ロベの島八丈が誕生した理由・・・


motimarusan.jpg

こちらは八丈島農協の持丸元一(もちまる・もといち)さん。57歳。

「八丈といえば葉物。昔から八丈は葉物で有名なんですよ」

はあ・・・。でもどうして葉物で有名な八丈が誕生したのでしょうか。


「八丈の気候とか諸条件に合っているんですよね。
例えば花物をやろうと思ったら、苗代や球根代はのコストがかかるし、市場までの運賃は東京都下でありながら本土とはレースにならないほど高いんですよ。
運搬コストが全般に高いから内地に送る商品だけではなく、八丈に送る商品も高い。だから八丈島の物価は少し高いと言われるんです」


加えて風が強い八丈からの船便は航空便よりはるかに欠航率が高い。

「これがまた結構欠航するんですよね」(あ~、ダジャレ得意なんですか?)


9450780.jpg 
↑嵐の底土港。これでは船が出るはずもなく・・・。

「多い時では週3回出荷のうち2回も欠航するんです。
しかも、出荷したい時に限って。春先は春一番も吹きますから、3週間出ないということも決して珍しくないんですよ」


となると、せっかく採花したのに市場に送れず全部廃棄なんてこともよくあるわけです(+_+)ショック!


通常通り船便に載せられたとしても、海の上で揺られているだけで10時間。東京都下なのに長いぃ~!
そのようなリスクをトータルで考えたときに、なかなか「葉物」という選択の代案を考えるのは難しくなってくる。
そのような制約条件の多い中、せめて生産と販売は安定してできるものということでロベやレザーになったわけです。


では、八丈島とロベ・レザーとの出会いは何だったのでしょうか。
必ずその出会いがあったはずですよね?

なんと八丈島における園芸の発祥は享保年間にも遡るのだそう。
享保といったら江戸時代8代将軍吉宗の享保の改革の享保年間??


そうなんです。江戸時代、日本の花卉園芸文化は飛躍的に繁栄したと言われますが、離島であるここ八丈でさえもこの時代に園芸文化の発祥を見ることができるのです。


そのころ本土からもたらされたのはソテツ、ボタン、シャクヤク、キク、バラ、アサガオ、ツツジなど。これらに加えて八丈に自生していたのはソテツ、タニワタリ、フウラン、セッコク、エビネラン、ギボウシ、マンリョウなどがあり、人々は多種にわたる観葉植物に見飽きることはなかったと言われています。


しかし、この観葉のための植物から八丈の経済を支える園芸植物へと成長するのは大正時代になってからでした。

はい、ここがポイント!( ^ー゜)b  八丈島とロベとの出会い。

大正10(1921)年、当時の「横浜植木会社」(現:横浜植木株式会社)という園芸会社が八丈島の亜熱帯的な気候に目を付け、東南アジアからロベ2株を持ってきて植え付けたのが、まさに出会いとなります。←八丈に目を付けロベを植えたこの方、この企業がやはりセンスありますね~。


このロベの2株が雌木と雄木の対になっていたために、これが親木となって種子が採取され、ロベはどんどん殖えていきました。
このように八丈にもたらされた園芸品目は数知れず。八丈の気候条件と相まって、後の八丈を園芸王国にのしあげたのです。


DSC01432.jpg


「八丈にもたらされた最初のロベの親木がまだあるんですよ」と元一さん.


えッ∑(゜◇゜;) ギョギョッ!

化石でも標本でもなく、ホンモノの親木があるのですか?
イキテル??生きていらっしゃるんですかぁ????


「そう。見てみますか?」

と連れて行ってくださったのは「ロベの碑」。

コチラ↓
DSC01446.jpg DSC01439.jpg

いつもロベをご利用の皆さま、このようなものがあることをご存知でしたか?

(あたくしは存じ上げませんでした・・・カ・ン・ゲ・キ(დ☣‿☣)!!)


八丈の経済を支えるロベに最敬礼の思いを込めて、昭和58年に自治会の皆様によって建てられました。

DSC01442.jpg DSC01440.jpg


ロベの碑の両脇を護衛するかのように立っているのが八丈に最初にもたらされたロベの2本です。

そのお姿は斜陽を浴びて神々しいほどです。

お足元はこんなに苔むして・・・!
DSC01445.jpg

八丈の皆さんにとっては、戦後の物資欠乏や食糧不足の危機を乗り越えた今日の経済的繁栄もこのロベご夫妻の賜物なのです。
いわばロベの島八丈を生み出したお父さんとお母さんです。


このお二方あっての花き業界、そして大田花き。
ロベご夫妻、ありがとうございます(合掌)。

もうここまで「ロベ」を連発すると、「なぜ“ロベ”というんだろう・・・」と分からなくなってしまいましたが、ロベとはその学名であるフェックス・ロベレニー(Phoenix roebelenii)を略してロベと呼ばれるようになりました。最初から略しっぱなしですみません。。。


はい、それでは最後に共選を代表して實さん!

八丈では消費者の方々と直接お話しされる機会も少ないでしょうから、ここで消費者の皆様に一言お願いします!


DSC04423.jpg


「ロベを使ってくれてありがといと思っています。

生け花やスクールの先生、仏業務の方々、そのほかロベをいつも使ってくださる皆様、長い間ロベを使ってくれてどうもありがとうございます」

皆様への感謝の思い!お預かりいたしました!
ロベを使ってくださっている皆様に届きますように~!

blockline.JPG

【JA東京島しょ八丈島支店の格言】

・ 八丈のレザーもロベも品質は世界トップレベル。緑は濃く艶やかで肉厚、葉が締まっていて本当に美しい。
  もう一度その美しさを見つめ直すべし!

・ レザーファンの栽培条件はコーヒーベルトの条件がベスト也。
  コーヒーベルトより少し北緯の高い八丈では寒さから葉を守れ!

・ ロベは葉先が命!
  風に揺れても葉がぶつかりすぎないような間隔で定植すると◎。
  トゲは取っても刺されるな!生産に携わる皆様はご注意ください❤

・ 離島の制約条件、限られた選択肢の中で島の経済を支えるほどの
  大きな産業を生み出した八丈ピーポーのスピリットを見習うべし!

・ 台風銀座八丈における施設栽培は鉄骨が基本!

・ ロベの島八丈を生み出したロベご夫妻に最敬礼の念を以って臨むべし!
  八丈にお出かけの際はぜひ立ち寄ってみてください♪


後編につづく


blockline.JPG


<写真・文責:ikuko naito@花研>
illust2018_thumb.jpg

Copyright(C) Ota Floriculture Auction Co.,Ltd.