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2012年5月 8日

vol.93 平園芸(福島県)

iwaki.jpgいわき市 平園芸

今回はもうすぐ「母の日」ということで,母の日のプレゼントの代名詞と言えるカーネーション、鉢物に迫ります。

美しいカーネーションで有名な福島県の平園芸のもとへ訪れます。

上野駅からスーパーひたちに乗っていわき駅へ。

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P1010458.jpg 田園風景を想像していたので、都会さに驚きです!
                          
看板.jpg車で15分ほど行くと到着です!


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今回平園芸のたくさんのウンチクを教えてくれたのは薄葉大介さんです。

2011年9月からお父さんの丈夫(たけお)さんから代替りされました。
ちなみに平園芸の名前は地名に由来し、「福島県 いわき市 」から来ています。

0-93.jpg花芽を合わせる

さっそくカーネーションに迫っていきましょう!
平園芸では直径15cmの5寸鉢を主に、4寸鉢と6寸鉢も作っています。

鉢物のカーネーションは「すべては母の日のために」と言えるほど、母の日前の出荷に照準を定めます。5輪程がきれいに咲いた頃が出荷のベストな時期だそうですが、咲き加減を合わせるためにハウス内の日照管理、温度管理は非常に大切にされています。ハウスの窓を開けたり、暖房器で調節したりします。

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一鉢ずつ見極める

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ハウスは全部で18棟もあります!

そして、カーネーションは全部で3万2千鉢も植えられています。

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ハウス内はきれいに縦横ともにピシッと整列したカーネーションの鉢花が並びます。

さらにここがポイントなのですが全体的にそのハウス内の咲き加減が揃っているのです!

実はこれは人の手によってできた光景なのです!


品種は同じでも、各鉢ごとに、やはり多少の成長の早い遅いのずれが出てきます。

例えば、暖房の吹き出し口のあたりは気温が高くなりがちなので花の開花が他の場所より早くなります。一方で、ハウスの入り口近くはハウス内より低い温度の外気に触れる機会が多いので開花が他の場所より遅くなります。
また、ハウスの真ん中あたりは日が当たりやすいのに比べ、ハウスの端や柱の場所、ハウス内のカーテンの継ぎ目で2重になっているあたりは陰になりやすく、花の成長も遅れがちになります。

そうした置く場所による花の成長のずれを全体として差が出ないように、日陰で成長の遅かったものを日当たりの良い場所へ移すといった置き直しを一鉢一鉢見て判断し、行っているのです。

この成長の差の判断は各人の目で判断されるので、パートさんたちとの共有で難しい点でもあるようです。

P4180003.jpg見事に咲き加減が揃っていて、たくさん育てられていた「グランルージュ」という品種は、最初にみたハウスでは1輪かつぼみかというもので統一されていましたが

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次に入ったハウスではもっと咲いているものでそろっていました。


3万2千鉢を一つ一つそろえるとは、非常に手間暇がかかっています。

このハイレベルさなので水やりも一鉢ずつ手でやっています。「よく底面給水で鉢の下から水を吸わせる方法がありますが、それだと常に根が濡れていて根が弱くなるんです。」
パートさんたちにも水やりをお願いしていますが、6人ほどのパートさんたちで3時間程もかかるようです。

根が強く育つことのメリットは何でしょう。

それは水ストレスに強いことです。

カーネーションが市場などに出荷された後は様々な環境が待っています。
直射日光がたくさん当たるところだったり、日光が当たりにくいところ、、、また、日本全国どこへ行くかもわかりません。暑かったり、寒かったり様々です。
カーネーションたちにはそれまで育ってきた温度良し、日照良し、肥料良しの平園芸のハウスの環境が一番居心地良いので、外に出ていくことは過酷に違いありません。

植物全般に言えますが、快適にすればするほどその環境が当たり前だと感じて育ってしまいます。水やりも底面給水にすれば常に水がひたひたの状態が当たり前になってしまいます。
すると、出荷後水が常に十分ではない環境に置かれるとすぐにストレスを感じ,根が傷んでしまうのです。
根が傷んでしまうと、植物全体元気がなくなってしまい、葉の下の方(下っ葉)も黄色くなってしまいます。

P4180010.jpgこうした出荷後のストレスを少しでも減らすため土の表面から水をやっていきます。
水やりの時期の目安は「手で持って軽くなった頃」で表面の土が乾いたくらいです。
より乾いた環境に強くなるために水のやり過ぎを避けています。


この管理力が品質がよくてボリュームのあるカーネーションにする決め手でしょう。

消費者のことを思ってくれているのは嬉しいですね。


0-93.jpg色を選ぶ

現在は20品種ほどのカーネーションを育ててらっしゃいますが、やはり色で欠かせないのが王道の赤とピンクのカーネーションです。
赤とピンクで全体のおおよそ3分の1を占めます。

さらに赤、ピンク以外に黄、オレンジ、紫などさなざまな色の品種を栽培しています。花の専門店さんは1ケース6色入ったMIX6種を好んで仕入れることから、平園芸では赤、ピンク以外の色の品種の栽培にも力を入れています。
その他市場などの注文に応じての栽培もしています。

王道の色を重視しつつ、複色のもの、香りの強いもの、珍しい色合いのカーネーションも作られています。
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P4180036.jpgP4180041.jpg

0-93.jpg品種選び、大切なポイントは

●株張りするもの(ボリュームがあるもの) 
●成育性の良いもの 
●花の形が整っていること
●色合い 
●輪数が多いこと
●花保ちが良いこと
●花ふけの遅いもの(退色のおそいもの) 
●花の弁が多いもの   
●葉の色                            など

毎年こういったたくさんの点に注意が払われ、同じ赤色でも優れたものが選ばれます!
また、“ベロが目立たないもの”というのも、意外と気になる人が多いのでポイントです。

ベロとは、、、
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↑この花の中から白く出た糸のようなものです。雌しべの一部、花柱(かちゅう)と呼びます。

どんなカーネーションにもこの花柱はあるのですが、品種によってこの花柱が花の中に隠れて見えません。真っ赤な「グランルージュ」はまさにそうです。↓
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また、今年の母の日が終わり次第来年向けの品種選びが始まります。

大田市場の中央通路で毎年鉢物カーネーションの展示がありますが、いろんな品種紹介や、最近の売れ行きを踏まえた来年に向けての提案がされているので、それも参考にされるそうです。


0-93.jpgカーネーション 出荷までの道のり

母の日から遡ること半年。

9月終わり~10月初め頃に種苗会社から「挿し穂」という茎から根が出た状態のものを仕入れ育てていきます。
3~4週間後には1本の茎が伸びて茎の節数が3~4節ある状態になっています。
この時期に“ピンチ”という芽を摘む作業を行います。
このピンチという作業をすることで茎の脇から新しい芽が3~4本出てきて、茎数が増えるわけですね。

このピンチ作業は12月後半にも行われます。

茎に節の数が13個ほど見られるようになった頃、花芽ができます。つぼみの兆しです!

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そして1ケ月後 つぼみが小豆の大きさです。

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さらに1カ月後 色が見え始めます。

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さらに1週間後 開花です。

この道のりを経ていよいよ市場へ出荷です。

0-93.jpg薄葉さんの今まで

薄葉大介さんは平園芸の長男として生まれ、幼い頃から家業を継ぐものだという意識の中、育ってこられました。しかし、ずっと今までこのいわき市にいたわけではありません。大学時代は東京で過ごし、経営学部だったそうです。意外な過去がありそうですね!

大学受験の時に農学部と経営学部を受けて両方受かったのですが、
「もともと理科が好きではなかったんですよ。」と振り返ります。
また、「新聞を配達することで奨学金をもらえる新聞奨学生という制度があって、その募集が文系の学生に限られていたんですよ。」
というわけで、2つの学部を天秤にかけた際に経営学部へ進まれました。

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その新聞奨学生ですが、お話を聞いていますと結構タフです。毎日の朝刊、夕刊を配り、加えて月末には集金をする仕事もあります。「普通に社員みたいに働いている感じでしたよ。」と語ります。

しかし、「大学よりそっちの方が楽しくて、、、」ともおっしゃるので決して辛い毎日というのではなく、楽しみながら大学生活を過ごされていたのが分かりました。

0-93.jpg矢祭鉢物研究会で学ぶ

そんな薄葉さんも大学生活を終えて実家に戻られると、お父さんの勧めで福島県矢祭町に研修へ行くことになります。

福島県は縦に3つの地域に分けられ、東を浜通り、西を会津、真ん中を中通りと呼ばれます。矢祭町は中通りの最南端に位置します。
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この矢祭町に矢祭鉢物研究会というカーネーション、シクラメン、ポインセチア、ルクリア(ニオイザクラ)、プリムラなどの鉢物生産において名人級の人たちの集まりがあります。

略して、矢祭鉢研です!

その1人、金澤さんは(有)矢祭園芸として生産されていて、花の栽培や育種で高い技術を持つのはもちろん、研修生への生産技術の指導など、人の育成にも力を入れていらっしゃいます。

薄葉さんは矢祭園芸の研修生として、またその研修生たちや研修を終えた元研修生たちで創った現在20名ほどから成る「金澤塾」という勉強会の塾生として生産の技術を学びました。

金澤さんの考えでは、“実際に自分で失敗しながら必要な知識を学ぶ”というもので、薄葉さんも実際に研修する中で、植物の温度などの管理、病害虫対策の技術を磨きました。

鉢カーネ.JPGそして、研修後実家で生産を始めます。平園芸ではそれまでお父さんの丈夫さんがシクラメンに力を入れて生産されていましたが、大介さんが生産を始めることになって、カーネーションの生産も加わることになりました。

薄葉さんは今も矢祭鉢研の月1回行われている生産についての検討会に参加し、ひたむきに日々技術向上に努めています。

個人で自分流に作ると花芽の具合が鉢によってバラバラになりがちですが、
矢祭鉢研には、「この時期はこれぐらいの育ち具合が良い」といった目安がしっかりあります。

薄葉さんは、出荷予定の鉢物のサンプルを、種類ごとに各6~10鉢を検討会の時に、厳しく名人たちの目でチェックしてもらっています。

自分はこの矢祭鉢研の名人たちと共に厳しい基準に沿って作っているのが強みと言います。

現在平園芸ではシクラメン、カーネーション、アッツ桜を3本柱に生産し、昨年からチェッカーベリーも始めました。各花の出荷時期が集中していないので年間を通じ、良いリレーができているそうです。

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広い土地を生かして量も多く生産されていますが、4本柱のように種類を絞ることでその花の性質を細かく把握し、品質を第一とした生産が行われています。


アッツ桜の珍しい品種も見せてもらいました。

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0-93.jpg東日本大震災では

先の大震災では原発事故でもいわき市は避難指示が出ませんでしたが、薄葉さんは幼いお子さんの雄大君(当時まだ1歳)もいるので自主避難をすることにしました。

「いわきに帰ってくるのがいつになるかわからない」という辛い思いの中、薄葉さんがパートさんたちに平園芸の休業を知らせた時は、皆さん涙、涙だったそうです。それだけパートさんたちもこの平園芸を大切に思われていたのですね。P1010463.jpg


薄葉さんはその後お姉さんのお家や、ご親戚の勤めていらっしゃる会社の社宅がある千葉へご家族で避難されました。
これまで愛情を込めて育ててきた花たちを残して、またこれから先の見通しがつかない不安定な状態で生活するのはとてもしんどかったと思います。

1ケ月経って、4月半ばには原子力発電所から半径20~30km圏内の屋内退避指示が解除され、いわき市の放射線量も低いことが確認されました。いわき市から避難していた人たちも戻り始めました。


薄葉さんは避難してから、ありがたい縁で学生時代に新聞奨学生でお世話になったお店で働かせてもらったりした後、いわき市に戻りました。

パートさん.jpg
震災後、平園芸で再び花を作れるようになり「またパートさんたちと一緒に仕事できるのが嬉しい」とおっしゃいます。
「パートさんたちを“雇っている”というのではなく、仕事をパートさんにして頂いている、みんなに助けられて成り立っていると感じます。」

こうした謙虚さ、どんな人も大切にする姿勢はパートさんに話をする雰囲気からもうかがえました。

0-93.jpg平園芸のモットー

こうした姿勢は、薄葉さんのお父さんの丈夫さんが考えられたキャッチフレーズ
「人と共に 花と友に」にまさにつながっています。
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これには一緒に働いてくれている人がいて、市場で売ってくれる人がいて、いろんな人が関わってくれるおかげで花を生産できることができ、また、花が友達のように身近な存在になってほしいという思いが込められています。

花は好きになるのに年齢、性別は関係ないので、たくさんの人に花好きになっていってほしいと薄葉さんはおっしゃいます。

P1010462.jpgちなみにこのキャッチフレーズを考えたお父さんの丈夫さんは、今は家庭菜園とお孫さん雄大君のお世話を楽しんでいらっしゃるということでした。


0-93.jpgka-ne.jpg平園芸の格言

○たくさん作っても愛情は一鉢ずつしっかりかける!
○母の日に向けて花芽をしっかり合わせる!
○人との結びつきを大切にする!

0-93.jpg平園芸からメッセージ

●カーネーションは多肥料を好む植物なので、開花している時期には多くの肥料を必要とします。長く楽しんでもらうために肥料を随時あげてください。
●置き場は日当たりの良いところに飾ってください。
●水をやった後に受け皿に溜まった水は、しっかり取り除いて下さい。

0-93.jpg最後に

P4180027.jpgもうすぐ端午の節句です。雄大君がいるので、立派なのぼりが立っていました。

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↑雄大君。穏やかで安心した表情が印象的でした。素敵な人たちと、素敵な環境の中で大きくなってね。


今回平園芸さんに訪問させて頂いて非常に人への思いやりを大切にされているのを感じました。この思いやりが花へも向けられています。

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今年も母の日の出荷が楽しみです!hana.bmp
                


                                                (文責:kadono hiromi)

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