大田花き 大田花きコーポレートサイトへ
 

2012年3月12日

vol.91 四国のエピデンドラム 後編 ~尾崎洋蘭園~

高知市と徳島市を結ぶ海岸線沿いの国道“ルート55号”(コント55号ではありません)を駆け抜け、中澤蘭園さんのある南国市から、徳島県海陽市へ。これままた南国市に引き続き、海と太陽をイメージさせる良い場所ですな~(≧∇≦)!!

kaiyoucho.JPG


室戸岬をV字に北上しようとしたときに目の前に現れたのは・・・


DSC02709.jpg


くッ、空海さまっ!∑(゜◇゜;)
DSC02710.jpg
南の海を見つめる空海さま。彼には何が見えているのか。

そうか、ここは四国88箇所巡礼のルートだった。
DSC02700.jpg DSC02699.jpg

この日も多くのお遍路さんを目撃!空海さまは年間数十万人と言われるお遍路さんたちを見守ってくださっているんですね。
DSC02706.jpg DSC02708.jpg


このV字をかたどる国道55号上にもレポートしたいポイントはたくさん!しかし、今回はタイトスケジュールなのでいちいち車を降りていると、飛行機に間に合わなくなってしまう危険あり。あしからず今回は早回し!arrow36-003.gif arrow36-003.gif arrow36-003.gif


ここ海陽市でエピデン生産で全国に名をとどろかせるのが尾崎洋蘭園の尾崎進一郎さん、75歳!
DSC02632.jpg

お若い!!しかも男前!

「昔は俳優の石浜朗(あきら)に似ているってよく言われたものだよ。
ほら、石浜朗ってテレビに出とったやろ。知っとるやろ?」


ウウゥッ(・o+)!わからぬぁい。。。
徳島到着早々に今回の“四国探検”一番の窮地を迎えました。

ウン探がわかるのは世代的に小林旭(あきら)までなので(すみません)、不本意にも反応が遅れましたが、スマホで調べて・・・SP.jpg写真を見てみると、なるほど似ています!ガッテン!


さて、その尾崎さんは、ぬぁんとフラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2011にて、エピデンのチドリで特別賞を受賞された敏腕生産者さんです。
生産にはどのような秘密が隠されているのでしょうか。いざ潜入です。


これまたなんときれいに黄色く染まったチドリ畑!!
DSC02560.jpg DSC02566.jpg

DSC02633.jpg DSC02594.jpg


「10,000から13,000鉢くらいあるかな」


花のサイズも大きいですね!
DSC02573.jpg

cmにして・・・どれどれ
DSC02577.jpg DSC02576.jpg


全長11センチ!
花だけでなく、その葉もなんときれいなこと!!WOW!!
DSC02550.jpg DSC02551.jpg DSC02552.jpg

生花でありながら、全て計算されて作られた幾何学模様を見ているかのようです。葉に“締まり”があり、肉厚でしっかりしている点もトップフローリストに愛用されるポイントですね。


過日の世界ラン展(於:東京ドーム)に出展されていたエピデンも、葉をよく見るとこの通り。

DSC02815.jpg

ちょっとだらけ気味??「(゚ペ)ありゃ?
鉢物といえども、今年のラン展はいつにない長期戦で疲れたか?

「そう、チドリそういう品種なんだよ。互生(ごせい)の葉がしっかりとしていてキレイでしょ」

 
葉の開き方には主に、
互生(ごせい)

DSC02833.jpg
互生はこのエピデンのように先に向かって右と左の葉が交互に付いているもの。(写真はツバキ)

対生(たいせい)

DSC02832.jpg

対生は、左右対称に葉が開くもの。(写真はナギ)


輪生(りんせい)
輪生は茎の節1か所から3枚以上の葉が付いているもの。


があります。エピデンは右と左の葉が交互に出てくる①互生のタイプなのです。

植物を観察するとき、つい花にばかりに目がいきがちですが、「葉がどのようについているのか」を観察すると、面白い発見があるかもしれません。

DSC02608.jpg


エピデンは花もさることながら、その葉も観賞価値が高いのですね。特にこのチドリは優秀君。

いかにチドリが優れた品種で尾崎さんの手塩にかけられカッコ良く育っているかよくわかります。
犬が飼い主に似ると言われるように、花も作り手さんに似てくるのかな~?

1鉢から何本くらい花芽が上がってくるものなのですか?

「まあ4本から6本くらいだけど、立ち本数が多くなると1本が細くなるんだ。
1鉢の中で栄養を取り合うからね。たくさん花芽が立つのはいいけど、結局は栄養不足でひょろひょろしちゃうから、立ち数が多ければいいというものじゃない。
DSC02598.jpg


それにたくさん本数が採れれば、その分次の年には株が休むからね。結局芽が出るのが遅くなるでしょ。そういうときは温度も上げなくちゃいけないし、肥料管理も変わってくる。だから全体のバランスを考えて、今年切る本数を決めるんだ」


例えばこの鉢を見てみると、断面の白い茎が今年切ったもの、茶色くなっているのが昨年切ったものです。
DSC02622.jpg

そして同じ鉢の中に、早くも新芽がお目見えしているものもあります。
DSC02620.jpg


それにしてもこれで1株ですから、立派な株です。
DSC02616.jpg


通常の温度管理はどのくらいですか。

「16-17度くらいが適温なのかな。そのくらいが最も花保ちが良くなるんだ。最低は8度」

DSC02623.jpg
前編の中澤さんはシンビジウムを山上げして、春先から出荷するエピデンは山上げしないとおっしゃっていましたが、尾崎さんは山上げをされるのですか?


「するよ」


中澤さんの場合は、生産品目の中でもシンビ8割、エピデン2割でした。シンビをメインで生産し、シンビの出荷が終わる春先からエピデンを出荷するという全体構成の中で、開花コントロールのためにあえてエピデンを山上げしていませんでした。


しかし、エピデンが主力品目の尾崎さんは、1年の中でもできるだけ長い期間エピデンを出荷する必要があります。
そのためには山上げをするものとしないものに分けているのが石浜朗さん、いえいえ、尾崎進一郎さんの計画です。
山上げをすれば早いものは11月から出荷できます。もし山上げを行わなければ、このように年内に咲かせることは難しくなってくるでしょう。


「エピデンにとっては地上では暑すぎるんだ」soleil.jpg


暑い中にいるとエピデンはどうなるのですか?(゚ー゚*?)?


「そりゃもう死にかけやな。生きとるだけ。
シンビもそうやけどエピデンも葉だけダラダラと栄養生長するんだ。そりゃだらしなくね。花芽は付けん」


ご説明いたしましょう。
植物の生長には栄養生長生殖生長があります。

栄養生長(vegetative growth)とは葉や茎などの栄養をつくる器官が生長することです。

一方、生殖生長(reproductive growth)とは花を咲かせ、結実し、種子を残すための生長のことを指します。

尾崎さんのおっしゃる「葉だけダラダラとだらしなく伸びて、花芽を付けない」というのは、暑いと栄養生長だけが促進されて、花を咲かせるための生殖生長をしないというわけです、ハイ。

DSC02588.jpg

「でも山上げすれば生殖生長して開花するから出荷に繋げられる。うちのものでも山上げするものとしないものとに分ければ、11月から7月くらいまで出荷することができるんだ」


山上げはお一人では大変な作業なのでは?


「その時は臨時で雇うけどね。

でも“山上げ”はまだいいよ。“山下げ”の方が大変なんだ」

富士山に登頂に挑んだときも、下山の方が思った以上に大変だったのですが、つまりそういうことですか?膝がガクガク・・・(;´Д`A ```


「下げるときは花が付いているから大変なんだよ。葉も傷つくしね」


なるほど、それは100倍気も遣いますし、作業も丁寧に行わなければなりませんね。

山上げと山下げのときは、何千鉢というエピデンを一つ一つこのトレーに載せて、さらにトラックに載せて1トレーずつ載せたり降ろしたりするわけですから、それはそれは気の遠くなるような作業です。

DSC02584.jpg

例えば、施設にある中の半分を山上げするとして、6,000鉢。
このトレーは5鉢入りだから、6,000鉢÷5入り=1,200トレー
この1,200トレー分をトラックに載せて、山に上がって、降ろしての繰り返し!
きょえーーーッ!!(+_+) フニクリフニクラ、アタマクラクラ、貧血オコシソo(@.@)o


それにしてもこのチドリは背が高いですね。


「このチドリっていう品種はとても丈が伸びるんだ。大きくなりたい品種なんだよ」

DSC02579.JPG


向上心があるんですね!

「そう、向上心があるの。片親の原種がそうだったから。
でも例えばこういうのは切り花としてあまり良くない。伸び過ぎ」


どれどれ・・・ウン探の短すぎる指を使って図ってみると・・・
DSC02603.jpg

なるほど、2.5節分くらいですね。

しかし、節間の詰まった良いものは、指を開ききらなくても3節分リーチできます。
DSC02602.jpg


DSC02601.jpg DSC02600.jpg


良く見ると葉と葉の間隔も違いますし、比べてみると左の方が良く締まっていてカッコいいですね。
DSC02607.jpg


皆さんがエピデンを選ぶときは、この節間の詰まり方が一つの基準になりますので、よく観察してみてくださいね!



この大輪で発色が良く、切り花に十分な丈も採れて、花保ちも良く、丈夫な優秀君チドリは、尾崎さんのオリジナル品種です。
DSC02589.jpg DSC02627.jpg

 病気とかにも強いのですか?


「そうね、割と強いね」


万が一病気が出たらどうするのですか?


「早く見つけてほうる!これしかない!」


尾崎さんの生産は明快ですね。
エピデンのどのようなところが好きですか?

「まっすぐに立つところね。支柱がなくてもまっすぐに立つ。
DSC02628.jpg

それからもう一つは、新芽が出たら100%花が咲くところかな。
“花芽が出たら”じゃなくて、“新芽が出たら”だよ。芽=花なんだ。分かりやすいでしょ」

DSC02609.jpg


確かに、そのような植物はちょっとほかに浮かびません。


「エピデンは正直なんだよ。手を抜いたら抜いただけの結果だよ」


ではエピデンは尾崎さんにとって何ですか?


ナニって言われても、なんでもええよぉ

そんなこと考えながら作ってないしな。自由に書いといてぇ~pencil.jpg


えーーーー∑(゜◇゜;) !!ナンテ率直!
そんなお答え、初めてです・・・・ドキッ

本当になんでも自由に書いちゃっていいんですかぁ?
“一生離れられねぇ恋人だぁは~ん❤”とか勝手に書いちゃいますよφ( ̄ー ̄*)ムフフ!!


「まあ、一生懸命愛情を注ぐ対象かな。私も凝るほうやから。
人生の中で凝ったものの一つやな。
以前は犬に凝ったことがあってセントバーナードを連れて大井競馬場の品評会に行ったこともあるよ」


大井競馬場って大田市場からすぐそこじゃないですか!
そんなに遠路はるばる大きなセントバーナードを連れて・・・すごくハマっていらしたのですね。
尾崎さなんが凝った犬やエピデンに共通することってなんですか?


「素直で正直や」


そうですね、チドリなんて加えて向上心もありますしね( ^―゜)b

「植物は正直で手をかけただけ応えてくれる。手を抜いたら抜いただけの結果や」DSC02612.jpg


エピデンは「鏡」のような存在でもあるのかもしれません。
尾崎さんがいかに手をかけたかを正直に映し出してくれるわけですから。


取材中、太陽が高くなり尾崎さんが遮光をしようと施設の巻き上げ機をグルグルと回していきます。
DSC02635.jpg


「うぅッ。あれ?なんかおかしい。引っかかっているかな・・・」


うまく遮光シートが広がらないご様子。
困りました。どうやってお手伝いしましょう!?
マズイッ!!花の命がかかっている!このままでは強すぎる日差しで花が焼けてしまう!
消防車を呼んだらまずいだろうし、救急車か??レスキュー隊の誰か若い人が手伝ってくるかも!?
こういうときはどうすればいいんだっけ。


・・・と一人悩むウン探。
DSC02636.jpg


そんなウン探の心配をよそに、気付いたら尾崎さんはひょいッと屋根に上って、引っかかっているポイントを見に行ッてしまいました。アレッ!?サスガ!!
DSC02637.jpg DSC02640.jpg

この身軽さ!とても75歳とは思えない!∑(゜◇゜;)


DSC02639.jpg


梯子、途中で終わっているのに、ひょいっと上ってしまいました。→


「上から見ると一面のエピデン畑がキレイだよ~!」

なぬッ??
アンテナピーンッ!antena.jpg
ウズウズ・・・ウズウズ・・・

なんだか上りたくなってしまった。
“探検隊”の名において、生産地の美しい花の光景を読者の皆様にお伝えする責務があります!

「あのぉ~尾崎さん、アタクシも上らせていただいてもよろしいでしょうか・・・」

ドキドキ、ドキドキ((o(б_б;)o))ドキドキ


「いいよ」

あ、意外とアッサリC=(^◇^ ;


「ありがとうございます!」


喜々として梯子を登り始め、施設の上に立つウン探。
コント55号を辛うじて知る世代とはいえ、このくらいまでならなんとかOK。

上から見ると、写真では少しく施設内が曇って見えますが、施設の三連棟一面にチドリが広がり本当にキレイです。
DSC02646.jpg DSC02647.jpg

DSC02645.jpg DSC02648.jpg


写真ではお伝えしきれないのがなんとも心苦しい限りです。


ふと顔を上げれば、心配そうにこちらを見る尾崎さん。

DSC02643.jpg


ダイジョブ、ダイジョブ!パチッ☆-(^ー'*)bオッケー
転ばないように気を付けて歩きますからぁ~!


って、違うか。尾崎さんが心配しているのはアタシじゃなく施設の方か。
アタシの体重で施設が壊れるじゃないかって?。。。ナルホド!←やっと正しく理解できました。
どうもすみません。速やかに降りましたm(_ _)m



そもそもは尾崎さんもシンビジウムの鉢物を生産していたました。
DSC02656.jpg DSC02657.jpg

それが10年くらい前から鉢を減らして、徐々に切り花に転換していったといいます。

現在尾崎さんが切り花として作っていらっしゃるのは、チドリとオオデマリの2品種。


「オオデマリは晩生(おくて)、チドリは早生(わせ)品種なんだよ」

↓オオデマリ。輪はこれからまだまだ大きくなります!
DSC02532.jpg DSC02543.jpg

ご説明いたしましょう。
“早生・中生(なかて)・晩生”という言葉を聞いたことがあると思います。

生育期間が短く、定植から早く収穫期を迎えられるものが「早生」

遅いものが「晩生」

その間が「中生」となります。

中でもとりわけ早いものを極早生、遅いものを極晩生といいます。
これは品種特性といっていいでしょう。
これらの成熟の早晩性は主に遺伝によって決められています


これらの特徴を品種別に把握した上で一部山上げしたり、地上に残しておいたりと調整しながら、本来1年に1度しか開花しない花を1年の中で少しでも長い間、途切れずに市場出荷できるようコントロールしているのです。


これは知恵と腕ですな!


チドリは尾崎さんのオリジナル品種で、名前を付けようと思ったときにアルバイトの女性が“チドリがいい!”とおっしゃったので、そのままチドリになったということでした。


「チドリは白い鳥なのに、なんで黄色いエピデンにチドリなのかわからない」

と尾崎さんはおっしゃっていますが、それでも“チドリ”という名を受け入れるところが心の広さを物語っていますね。


尾崎さんを支えるアルバイトの皆さんと(取材当日は1人お休み)
DSC02659.jpg

DSC02658.jpg

バイトさん「写真、いやー」

尾崎さん「ええやん、すぐ終わるで」

という和気あいあいとした会話が聞こえてきそうですね!










★尾崎洋蘭園の格言

・ 植物は正直者。難しいこと考えずに、無心でエピデンに愛情を注ぐべし!
  彼らは必ず応えてくれるheart08-001.gif

・ エピデンの品種ごとに早生、晩生、中生の性質を把握し、
  山上げシステムと組み合わせ、できるだけ長い間市場出荷するべし!

<尾崎さんのエピデン流通期>
availability.JPG

※①出荷期はその年の気象条件にも大きく影響されますので、変更になることがあります。
  ②通常11月は下旬より出荷スタート。

6月、7月くらいまで切れないことはないのですが、クオリティ優先のため、OTAへの出荷は5月終了を目途としています。
それでも尾崎洋蘭園さんのエピデンはこんなに長い間出荷されていますので、是非ご利用くださいませ!

・チドリの丸い黄色は海陽町の太陽なのだー!
エピデンのチドリを見かけたら、尾崎さんの愛情と海陽町の海&太陽をイメージすべし!solei2.jpg(写真はイメージ)


「海の男」的な潔さと懐の深さを感じるさせる尾崎洋一郎さんでした。


DSC02589.jpg


<写真・文責>:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


2012年2月17日

vol.91 四国のエピデンドラム 前編 ~中澤蘭園~

今、東京ドームでは世界ラン展の真っ最中!

DSC02749.jpg DSC02754.jpg DSC02748.jpg DSC02746.jpg DSC02745.jpg DSC02766.jpg 
↑こういうの、“春蘭満”ていうのかな。。。


ウン探では前回コチョウランを取材したところではありますが、このラン展ブームに乗り、引き続きランの産地を探検したいと思います!


やってきたのは南国市!
DSC02488.jpg DSC02489.jpg


いかにも暖かそうな響きのところですが、日照がある分、放射冷却により南国市でも朝の気温は結構低い・・・取材当日空港でマイナス2度∑(゜◇゜;)
ヒエ~ッ
“南国”市なのにっっ??
南国市って一体ドコッ?


南国市とは高知県で、高知市の東隣にあります。

nangokusi.JPG


ラン展は東京ドームですが、ここ南国市でドーム型のエピデンドラムとシンビジウム(こちらはドーム型ではありませんが)ご出荷下さっているのは
中澤蘭園の中澤速夫さん
DSC05547.jpg
(奥はご子息の佑介さん)


早速、圃場拝見です!いざ、お邪魔しま~す!
DSC05524.jpg DSC05492.jpg


よくみるとフラワーネットを使っているんですね。
DSC05496.jpg


「エピデンも鉢物の場合はワイヤーでタガをはめるでしょ。2段くらい。
切り花の場合はこのフラワーネットがタガ代わりになるんだ」
DSC05543.jpg

なるほど、これがあれば花が倒れずまっすぐに立つのですね!

「そうそう、フラワーネットを使わずに水をたくさんやったら全部ベターーーーッと倒れてしまったことがあったけどね!」


フラワーネットが果たす役割は大きいのですね。


「エピデンは水が足りなくなると早く咲いた花からダメになるから、球状に仕上がらないんだよ」

そうなのです、みなさま!中澤さんのエピデンは大きな球状で出荷されることで、市場から高い評価を得ているのです。


普通のエピデンはこんな感じ↓
rannten 005.jpg rannten 006.jpg

合わせてあるゴッドセアナムの大きさと比べていただければ、およそどれほどの大きさかはイメージがつくかと思います。
花は上向きで、球状にはなっていません。

それに対し、切りのエピデンのカテゴリーを超えて、新しく中澤さんから提案されたのはまるで球を描くようなエピデン!

policy3.jpg

「潅水が多すぎるとシミになっちゃうでしょ。この水やり加減が重要なんだ」

なるほど、大きなドーム型のエピデンを作るには水やりのさじ加減が一つポイントのようです。

「最初の1輪が咲いてから球状になるまではとても時間がかかるんだ。何週間も何か月も・・・!

DSC05508.jpg

その間には病気が出るかもしれないし、花保ちが悪くて先に咲いた花は枯れてしまうかもしれない。さまざまなリスクを抱えながら球状になるまで管理する。

だから、生産者として“悪くなる前に早く出荷したい”と思うのは必然の心理なんだよ。その方がロス率も下がるわけだし。
そのリスクを考えながら回転率良く小輪や中輪で大量出荷するか、球状になるまで管理して大輪を出荷するかはそれぞれの生産者の考えや経営方針によるんだ」


なるほど、技術もさることながら、大輪の球状に作るかどうかは産地さんとしてのポリシーがあるのですね。
policy1.jpg policy2.jpg DSC05502.jpg


エピデンは葉も幾何学模様のようでこれまた美しいという特徴がありますが、切るときに注意することはなにかありますか?

「出荷のために切るときは、少なくとも下葉2-3枚を残すんだ」

DSC05515.jpg


どうしてですか??丸坊主にしちゃうとどうなるのですか?←愚問?


「植物は花を切っても葉で仕事しているからね。光合成するために葉を残しておかなくちゃいけないんだ。
そして栄養がバルブ(※)に蓄えられていく。
そうすると次に出てくる芽はとても元気で良質なんだ。
DSC05511.jpg
球状にしたときに輪の大小は品種特性とバルブの力によるところが大きいからね」


※バルブとはエピデンの株を作る根元の部分です。

なるほど、丸坊主にしちゃうと光合成できなくなって、植物体の力がなくなるわけですね。
エピデンの足元をよく見ると、なにやら土でもロックウールでもなく木のチップのようなものを使っています。
DSC05521.jpg DSC05523.jpg

これをバーク(樹皮)と言い、松や杉、ヒノキなどが原料となっています。中澤さんがバークを使ってエピデンを栽培する理由は何でしょうか。


「作りやすいから。
なによりエピデンは着生ランだからね!」


出ました。ウン探、出る単、“着生ラン”!!!ニューワードです。ジャン!


ご説明いたしましょうillust2012_thumb.jpg

ランには地生ラン着生ランとがあります。


地生ランとは、その字の如く他の植物と同様に地面に生えるランを指します。野生の場合は多くは直射日光を避けた薄暗い樹木の足元などで生活しています。
シンビジウム(半地生のものもある)、パフィオ、ディサ、エビネ、シュンラン、シランなどがこれに当たります。
726884.jpg 9274799.jpg


これに対し、着生ランとは主に木の幹や枝、あるいは岩などに根を巡らせて体を固定して生活するランのことです。

DSC01714.jpg←これは鎌倉のお寺さんで撮影。なんとまあタイミング良く満開。

DSC09864.jpg←これは和歌山の神社で撮影

植物はすべからく土に生えると思いがちですが、木や岩に“着生”して生活するものもあるのです。普段の散歩道でも“ちょっと観察”してみると面白いでしょう。チャンスは神社仏閣やナンチャラ自然公園などにあり。これらの場所で大木を見つけたときはその枝をよく見てみると、ランが着生している可能性大です!

着生ランにはコチョウランやカトレア、バンダ、デンドロビウム、オンシジウム、デンファレなどがあります。

cat.jpg vanda.jpg dendro.jpg onci.jpg 

そしてエピデンはどちらかというと・・・・

drrrrrrrrrrrr←ドラムロール


着生ランになります。
それが証拠になんと・・・↓↓↓この通り!


エピデンのエピ(Epi)はギリシャ語で「上に」


デンドラム(dendrum)「木」の意味


に由来しているのです!!

つまり、「エピ+デンドラム」で「木の上に」の意味なのです!!ソノママ!!

自ら“アタクシは着生ランです”で言っているようなもの!
まさに日本人男性にとっての「日本太郎」のような名前なのです。


これぞトリビア!トレビア~ンでございます。♬♩♫♪☻(´∀`*) (独り感動!)


ここで伊藤蘭ちゃんはどちらに属するのかと思われた50代のお父様たち!ランちゃんはキャンディーズですよ~!“永遠に不滅です!”、ハイ。


ところでバークと一緒に入っているこの白っぽい粒々は??
DSC05521.jpg


「肥料だよ」
DSC05526.jpg


“肥料”って何を指すのですか?


「窒素・リン酸・カリ(カリウム)」

はい、ここポイントです!illust2012_thumb.jpg

これはあらゆる植物にとって最も重要な三大栄養素
農業を学び始めた人が最初に習うABCです。


★ 窒素は植物を大きく生長させる役割
★ リン酸は開花結実させる役割
★ カリウムは根(ランの場合はバルブ)を発育させる役割

をそれぞれ担います。


これらを植物が必要としている適量をバランスよく与えることが生産者さんの腕の見せ所です。

DSC05530.jpg

「このツブツブ肥料にはその栄養素がバランスよく含まれているんだ。
ポリオレフィン系(ざっくり言うとポリマーのこと)の樹脂で回りが加工されていて、気温が25度になると自然に栄養が溶出する仕組みになっているんだ」

スゴイ!小さな粒の中に緻密に計算された世界が凝縮されているんですね!

「そう、25度設定だからそれ以上気温が高くなったら早く溶出するし、それ以下だったら少しペースが遅くなる。
じわじわ出てくるから安心なんだ。シンビは地生ランだけど、エピデンは着生ランだから、肥料もシンビより少なくて済むからね、こういう肥料もじっくり溶出するものが好ましいんだよ」

中澤さんはこのあたりのこともなんだか熟知しています。
なぜそんなに詳しいか、その秘密はこのコーナーを最後まで読んで下さった方だけに教えちゃいます!




以前、ウン探でシンビジウムの切り花生産者さんを訪問したときに、「山上げ」をしていると伺ったのですが、エピデンも「山上げ」(※)するのですか?

※山上げとは?
御説明いたしましょうillust2012_thumb.jpg


シンビジウムなどで夏の高温期を避けるために、標高の高い高冷地に移動することです。このことにより開花を促進することができるのです。

DSC05548.jpg
「エピデンの山上げも一時期はしていたんだけど、今はやっていない。シンビジウムの出荷が終わった春にエピデンを出荷したいから山上げしないんだ。山上げをするとシンビジウムと出荷期が重なってしまうからね。


でもシンビは山上げしているよ。
高知の夏は都会に比べたら過ごしやすいけど、夜温が下がらないんだ」


確かに、夜温が下がりにくいのは近年の傾向でもありますよね。田舎育ちのウン探隊員は、幼い頃は窓を開ければ寝られるくらい十分涼しかったと記憶していますが、現在は同じ場所でももう窓を開けただけでは、もう寝苦しくて、寝苦しくて・・・
夜温が下がらないということは、日中との温度差が少ないということですね。
でも、どうして夜温が下がらないと植物に良くないのでしょうか?

「消耗が大きくなっちゃうんだ」

消耗!!そう、そうですよね~!!
・・・って、はて?つまりどういうことですか??←ナカナカ物分かりが悪クテェ(-.-;)

DSC05532.jpg

「ラン類はバルブに栄養が貯まるでしょう。でも暑いと体力を消耗するから栄養が貯まらなくなるんだ。そして株自体の力がなくなる。
でも冷涼な山間地に持って行くと消耗が減るから株に力が出るんだよ」


DSC02503.jpg
どのタイミングで山上げするのですか?
“暑い”って感じるのって、個人差があると思うのですが・・・欧米人と日本人とでは確実に体感温度がちゃうしなぁ・・・その上、ランと人なんてもっと違うのでは?ランの気持ちを推察するなんてどうするのでしょうか。
何を基準に??ムムム・・・


花芽が出たら山上げするんだよ」

そうですか!意外と明快!


「だいたい6月下旬から7月なんだけどね、このときに花芽が出ているかを確認して、出ていたら山上げを始めるんだよ。

山上げをすると、花芽の伸長が良くなるので早く出荷できるんだ。例えば山上げせずに今まで1月に出荷していたものが、山上げをすれば12月に出荷できる」


なるほど、12月の切り花マーケットの大きな需要期に出荷できたら、これはいいですね。

DSC02499.jpg


「そうでしょ。従来12月後半の年末ぎりぎりに開花していた花も、山上げをするようになってから11月から出荷できるようになったんだ」


それは実需者にとってもいいことですね。

それにしてもその山上げ作業を中澤さんとご子息の佑介さんとで行うのですか?


「そうだよ。でも2人では手が足りないから、臨時で人を雇うんだ。4トンロングの大きなトラックを借りて一つ一つ手作業で圃場から出して、トラックに積んで、1-2時間かけて山まで行って荷を下ろすんだよ」

DSC05551.jpg


本当に、これらの大変な作業を「山上げ」という小学1年生で習う初級漢字を含む3文字で片付けてしまうには、あまりにも簡単すぎるではないか!!

それをどのくらい往復するのですか?


「山上げに12往復くらい、山下げにまた12往復くらいかな。

12車(しゃ)って言うんだけどね」

トゥ・・・トゥウェルヴ!!∑(゜◇゜;) ←って全然英語で言う必要ないのですが・・・この驚きをどう表現しようかなと思いまして。

手間も大変ですが、人を雇ったりトラックを借りたりではなかなかコストもかかりそうですね。


「そうなんだよ。そのほかに山の地権者に場所と施設代を払うでしょ。それも全て生産コストのうちだから、山上げするってことはとても労力とお金と時間のかかることなんだ。

それでも安定して出荷できるというメリットを得られるからね。
“消費者”、“市場”、“生産者としての信頼”と全ての人にとっていいことだと思うから、私たちのポリシーでやっているんだよ。5年前くらいから始めたんだ。

シンビは鉢の生産の方が先だったでしょ。
山上げの技術は鉢の生産者さんが長年積み上げた技術なんだ。それを現在では切り花に応用している。

DSC02505.jpg

だから切りシンビの生産は歴史が浅いといえども、園芸業界では確立された技術なんだ。
つまり開花コントロールを可能にしたということだから、歴史的に見たらとても画期的なことなんだよ。花の気分に任せていつ咲くか分からない開花を確実に調整できるようにしたわけだから」


なるほど、山上げによって安定して出荷できる“確実性”を確保できるわけですね。
高知県、とりわけこの太平洋に面した南国市はその名の通り日照量も多く、冬も温暖。山も近いので山上げも比較的効率的に行えるという優位性があるのです!



実は中澤さんは今でも切り花生産の8割はシンビジウムです。
DSC02500.jpg

鉢物の品種の中から切り花に向く品種を選ぶということですが、どのような基準で“切り花に向いている”とご判断されるのですか?


「ひとつはもちろん水揚げと花保ちね。これが良くないといけない。これはエピデンも同じ。

それから傷が付きやすいものはNG。気付かないうちに傷が付いて、輸送中に表面化して、お客様の元に届いたときには大変なことになる。花弁が肉厚で傷が付きにくいものがいいね。

DSC02509.jpg

それから、“根が強い”もの。これは品種にもよるんだけどね」

根が強いかどうかはどこで見るのですか?

「株分けができるかどうかってことなんだけどね。株分けができないってことは、根が弱いということ。丈も伸びないから切り花には向かないんだ。

あとは花粉が落ちないものね
落ちるとリップの色が赤くなっちゃうんだよね」


コチラが実際に花粉が落ちて赤くなったもの。こちらは本来はリップの赤い品種ではないので、こうなると花の価値が落ちてしまいます。
DSC05477.jpg


“リップ”といっも「なんのこっちゃ「(゚ペ)??」という方もいらっしゃると思いますので、ついでにシンビジウムの花を構成している部分の名前をおさらいしちゃいましょう!

シンビの花の構成要素は以下のようになっています。
simbistructure.jpg

① ドーサルセパル(dorsal sepal)
    dorsal=“背面の”という意味 sepal=“ガク片”のことです。
     アッパーセパル(upper sepal)と言うこともあります。

② ラテラルセパル(lateral sepal)  
   latelar=“側面の”という意味
      ローワーセパル(lower sepal)と言うこともあります。

③ ペタル petal=“花弁”、つまり花びらのこと♪

④ リップ lip=“唇”に由来します


あ、なるほど、つまり①と②はガクなんですね。③が花びらなんだ。
見た目には全然区別つきませんが、触ると実は違いが分かります!

③だけ少し柔らかい。今度シンビを見る機会があったら、是非皆様の審美(シンビ)眼で見てみてください!


そういえば、シンビってバラなどにあるようなガクらしいガクがない・・・アレ??

cymbisepal.jpg←ホラ、ない・・・(-.-)

例えばバラでいうところのこのガクに当たる部分が見当たらない・・・ドコドコ(@◇@;)?
sepalsaiyo1.jpg


と思っていたら、①と②がガクだったんだ~(T_T)(感激!!)
数十年の謎が解けたぁー・・・?

そうなのです。実は、この「後ろに3枚のガクがあり、前に2枚の花弁がある」というのがランの花の定義なのです。

7060713.jpgランの中でもマスデバリアのようにそれが変化を遂げて別の形をしているものもありますが、本来はこの「ガク片3枚+花弁2枚」がランがランたる故なのです!


「花粉が落ちることを“花が泣く”っていうんだよ」


もうここまで来ると、なんだか“シンビツウ”になった気分です。
なかなかシンビの切り花用を見つけるのはハードルが高いんですね。

「でも、美しさに魅せられてついつい苗を買っちゃうんだけど^_^;」


ここがまた中澤さんらしいところですね。本当のお好きなのです。


「神秘的だからね」


シンビがシンピ的だなんて、中澤さんもなかなかダジャレ好きですかぁ?
んもう、隅に置けませんね!ゞ( ̄∇ ̄;)

そのような中澤さんのシンビ中心の生産に、どのような経緯でエピデンが導入されたのでしょうか。


「シンビとは違う、何か変わったものを作りたいと思いがあったんだ」


例えばどのようなものをイメージされていたのですか?


「1月、2月はシンビの卸値が比較的下がる時期なんだ。だからこの時期に出荷できるもの、そしてシンビの出荷が終わる春先から出荷できる何か“春のイメージ”を作れるものを考えて、エピデンを導入したんだよ」

“春のイメージ”・・・ですか。
springImage.jpg

「そう、今までのエピデンは濃い色とか暗い色が多かったでしょ。そのエピデンにパステル調の“春のイメージ”を託したいと思ったんだ」
DSC05535.jpg policy4.jpg

なるほど、さすが中澤さん、コンセプトが明確です。
圃場もその“春のイメージ”が十分に表現されています。

淡い色のエピデンは県内外のご友人からの情報により、育種と生産を始めたといいます。


「転機は農水省にあったんだよ。
6、7年くらい前だったかな、農水省の本庁で花を展示する機会があって、そこで球体に極めて近い状態に仕上げたエピデンを展示したんだ」

春のイメージを託した球形のエピデンだったわけですね!
DSC05493.jpg DSC05501.jpg


「ソフトボールくらい大きくて真丸のものを展示したんだよ。これが思った以上に反響が良くてね、市場関係者からの関心を集めたんだよ。これが自分たちの自信にもなって“もっとやってみよう!”と思うようになったんだ」

DSC05542.jpg

折しも花きマーケットでは切り花品種の大輪旋風が吹き荒れていました。中澤さんの立体的で存在感のある大輪球状エピデンは市場関係者にとって大変新鮮に映り、大きな可能性を感じさせるものだったことと想像します。

大輪ブームの中にあって、面で見せる花ではなく、ドーム型の立体を表現できる数少ない大輪品目、しかも高級イメージを携えたランであることを考えると、農水での展示ではまさに“新進気鋭の逸材”として威光を放っていたに違いありません。


それにしても、限りなく球体に近い形に仕上げるというのは、なんという技術でしょう。


「球体に作るというのは、先に咲いた花を長く残して新しく咲く花と合わせて球状にするわけだから、花保ちが良い品種じゃないとできないし、その分生産のリスクも高くなるんだよ」


05541.jpg
球状に作るためには、先に咲いた花を奇麗な状態で咲かせ続けながら、新しく咲く花を待たなければならないのです。

ちなみに花が終わるとこういう感じ。
DSC05516.jpg DSC05517.jpg


花を長く圃場で咲かせて球状に仕上げるまでには、どのようなリスクがあるのですか?

ボト(※)によるシミが発生したりするんだ。特に3,4月ね。この時期は“菜種梅雨”があるから湿度が上がるから、ボトになりやすいんだ」

※ボトとは?
ご説明いたしましょう!「ボト」とは「ボトリチス菌」の略で、加湿の状態で発生しやすくなる悪役の菌のことです。この菌が付いてしまうと灰色かび病となり、花弁に黒っぽい斑点が現れたり、茎葉が解けるように腐ったりしてしまいます。時間の経過とともに拡散してしまう場合が多いので、ボトを見つけた場合は速やかに処分する必要があります。エピデンもそうですが、バラやトルコギキョウなどにも発生しやすく、十分注意しなければいけません。ボトを出してしまうと生産者さんの信頼にも関わりますから、生産者さんにとっては天敵とも言えるかもしれません。


菜種梅雨とは3-4月に連続して降る雨のことで、菜の花が咲くころの雨だから菜種梅雨といいます。主に関東以西の太平洋側で見られる現象です。
なるほど、春の象徴でもある菜種のイメージにしたいのに、“菜種梅雨”に悩まされるわけですね。何と皮肉な・・・。

「そもそもこの時期には、エピデンの鉢物出荷で終盤を迎えた生産者さんたちが、切り花にして出荷していたんだ。
だから、以前は今ほどエピデンの評価も高くなかったんだよ。でも私たちはそのエピデンのイメージを払拭したかった。
結構な挑戦だったんだよ。しかもエピデンで切り花専門の生産者が周りにいなかったから更にハードルが高いよね」


DSC05494.jpg

「でもこれを乗り越えて、“新しい高級感”を提案していきたいと思ったんだ」


というのはご子息の佑介さん。頼もしいですね。


「そう、エピデン自体の認知度もあまり高くなかったし、従来のエピデンとは違う価値観を提案していきたいと思ったんだよ。
だからこそ“魅力溢れる色が必要!”と考え様々な品種を選抜したんだ」

とお父様。

「たとえばこのエピデンの色を見てみて。

colordifference.JPG

元々はこの真中の色だったんだけど、枝変わりで上の色とか下の色とか出て来てね、“春っぽい”でしょ。だからこの色を固定して出荷しているんだよ」

なるほど、枝変わりが出たら、中澤さんのセンスとインスピレーションでエピデンの本当の価値を見つけて増やしていくわけですね。


「こんなのもあるんだ」

な、なんと絞り?

DSC05554.jpg DSC05555.jpg


そのお隣はボカシ??
DSC05557.jpg DSC05558.jpg


“春っぽい”上に、なんとも和にも洋にも合わせやすい色の入り方ですね。
このような花まで作り出して消費者やフローリストの皆さまの心をくすぐっていらっしゃるのはさすが!!

「昔はコチョウランやオンシジウムの切り花などを作っていたこともあったんだよ!」


なんと!∑(゜◇゜;)
実はランのマルチプレーヤー!!


「特にオンシジウムは輸入花のない時代だったからね。でも輸入が増えてきて価格を取りづらい時代になったでしょ。だから辞めたんだ。もちろん今でも輸入勢と住み分けをして国内でコチョウランやオンシを作っている方はいるけどね」


いろいろなランを手掛けてきた中澤さんですが、エピデンをあるときお知り合いの方に鉢のエピデンを見せてもらった時は、一目で“切り花でいけそう”(♛‿♛)ノ*♡*♡゜*:.ღ .:*・゜キラキラ♡゜*:.ღ .:*・゜という直感を覚えたといいます。


そこから次のような段階を追って、生産が増えていったといいます。
→コレもしかしたら面白いかも?
→じゃ、ちょっとやってみよっか!
→なんだかいいみたいだから、もっとやってみよっか!

このエピデンに対する着眼点にしても、その品種の可能性にしても、どうしてこのような“いけるかも?”直感が働くのでしょうか。


「たくさん産地を見てきたから、“いけるかも?”のような感覚が身に付いたんだよ」


DSC05487.jpg

産地をたくさん見ていらしたとは・・・つまり?


「実は経済連に勤めていたんだ」


そう、そもそも中澤さんは高知県経済連(現在の全農高知)にお勤めだったとおっしゃいます。

当初は肥料関係の部署にいらして、その後技術部署へ異動。それからは結果の農家さんを巡回するのが重要なお仕事の一つでした。当時、野菜から果樹から花から全て「畑」で収穫するものを作る県下の有名な生産者さんは殆ど訪問したといいます。


「本当の生産を目の当たりにしたよ」


なるほど、これが肥料や生産技術のことを詳しくご存知だったワケだったのですね!


経済連にお勤めの一方で、花好きから趣味としてシンビジウムを作っていました。
河野メリクロンさんのオリエンタルクイーンとオリエンタルキングという最初のメリクロン苗を導入したのが第一歩だったといいます。

※メリクロンとは
御説明いたしましょうillust2012_thumb.jpg


育てたい植物の生長点の組織を取り出し、寒天などの無菌状態で培養、繁殖させることです。特長は個体差がなく統一された苗を作りやすいことにあります。メリステム(meristem=分裂組織)とクローン(clone)を合わせてできた造語です。


そのうちのある品種が思った以上に良い結果が出たため、ご自身の気持ちの位置付けができたといいます。それ以降、どんどんシンビの生産を増やしていき生産者として独立したというわけです。


将来はどのようなエピデンを作っていきたいと思いますか。
DSC05489.jpg

「これからももっと面白い色を出して、エピデンの本当の価値を楽しんでもらいたいと思うね。
そのためには多くの品種を安定的に作り続けていく。その中でも更に“キラリ”と光るものを付けくわえていくことも忘れてはいけないなと思うよ。

また、エピデンは大輪でありながら、ダイナミックというより上品で柔らかいムードを携えているよね。その雰囲気を大切にしながら、且つ花保ちの良いものを安定出荷できるようにしていきたいと思うな」


DSC05553.jpg

エピデンの花言葉は「可憐な美」

中澤さんはこれからも、この花言葉通りの雰囲気を大切にしながらも、立体的な気品を備えたものをご出荷してくださることでしょう。


★中澤蘭園の格言

・ エピデンドラムを通して体現するのは“春のイメージ”。
  可憐で上品なエピデンを作り、新しいエピデンの価値観を提案すべし!

・ シンビジウムは消費者、市場、生産者、“三方幸せ”のために山上げで開花時期を調整すべし! 
  でも山上げはコストも手間もかかるだよー。

・ センスとインスピレーションで切り花に向く新しい品種を開発すべし! 
  
・ エピデンは着生ラン。コンポストにはバークを使い、肥料はゆっくりあげましょう! 
 神社仏閣巡りは着生ラン探しがオモシロイ!( ^ー゜)b 上向いて歩けばイイコトあるかも☆


★消費者とお花屋さんの皆様に一言

ナイショですが、他品目も栽培研究中です!

おっと、これは意味深発言ですね!
ずっと多彩なランを広く手掛けていた中澤蘭園さんから、近い将来どのような品目が出荷されるのか楽しみです!

四国のエピデンドラム~後編~に続く


<写真・文責:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


Copyright(C) Ota Floriculture Auction Co.,Ltd.