2016年5月 4日
vol.114 森田フラワーガーデン様(カーネーション&ナデシコ)後編
あれ、アレレ??
今度はまた森田さんが新しい小道具を取り出しました。まるでドラえもんのポケットがどこかに付いているみたいに次々と小道具が飛び出します。
・・・こ、これは一体!?産地ウンチク探検隊の取材を通して、数々の生産者様をお邪魔させていただきましたが、初めて拝見する代物です。いや、ここは多くを伺わずに、まずは森田師匠がなさることを拝見してみましょう。(いきなり"師匠"呼び)
その1:カーネーションの葉を任意で採取してくる。
「ツボミのすぐ下の葉がいいな。ツボミがどんどん養分を吸い上げているから、そのすぐ下は栄養がいきわたらず弱くなっている可能性がある」
by森田さん
採取した葉をビニール袋に入れます。
その2:ビニール袋の上からトンカチのようなもので叩いて磨り潰す(樹液を抽出する)
トントントントンッ!
その3:ビニールを強くねじったところでハサミでチョンと穴を開ける。
(ぬぁんと、この度穴開け役という大役をウン探が仰せつかりました!)
「たのんまっせ~ッ!」
と森田さんに言われて俄然ココだけやる気が出る。
その4:穴を開けて抽出した樹液を不思議な小道具に垂らす(ほんの数滴)
アーンド、カバーをして準備完了☆
その5:不思議な小道具を覗き込む ・・・って森田さん、それは何ですか?
万華鏡とかそんな感じ!?
「これは糖度計なんだよ」
糖度計?
カーネーションに?よもやカーネーションも甘い方がいいのですか?
「植物体に十分が糖度があるというのはつまりそれだけ健康体ということでしょ。 健康診断みたいなもんじゃ」
光の屈折率で植物体の糖度を図ることができます。覗いてみるとこんな感じ。
中にはメモリがあって、下の方が緑、上の方が青色に見えます。その境目が植物体が示す糖度というわけです。
今回の検査結果はいかがでしょうか。
「まあまあだな。問題ない」 と森田さん。
一方、葉っぱの色が少しおかしいなと思って森田さんが採取してきた葉の樹液は少し数値が低く出ました。 これも、生産していて植物体に少し異変を感じたときに原因を追究するための手段の一つです。
■森田フラワーガーデンで働く従業員のみなさま
取材で圃場内をウロウロする前に、従業員のみなさまにウン探をご紹介くださいました。
ほッ(*´ο`*)!
これで変質者扱いされずにすみます。よかった~。実はこんな風に取材前に皆様にご紹介いただけるのも結構レア体験だったりするのです。
従業員様とそれぞれされている作業とを一緒にご紹介してまいります。
◇森田さんの右腕:森田さんの奥様
ちょうど収穫をしていた森田さんの奥様。
迷いなくハサミを入れているように見えますが、切り前のタイミング(開花具合で収穫していいか否か)はどのように図るのでしょうか。
「そーねー、難しいポイントではあるんだけど、1本のスプレーカーネーションのうち3輪咲いたら咲きすぎ。
2輪咲いて3輪目のツボミの花弁が十分色付いてきた頃に収穫します。」
↑今の季節ならちょうどこのくらいが理想的。
↓これではまだまだ固い。収穫には早すぎ。
プラス、季節や2-3日先の天気も確認しながら切り前を見計らいます。
森田和友さん曰く、
「切り前は一言では決められない。使う人みなが満足する切り前にするのは、とても神経質なポイントだな」
◇森田さんの左腕:小野さん
森田フラワーガーデンさんでの就労年数が長く、奥様と同様収穫や選別を担当されます。
「女房の次に"おっかない"人」
と森田さんは恐れるそぶりを見せつつも、信頼を寄せます。
取材の時は奥様と同じく、収穫を担当していました。そのほか、選別作業も含め、産地ブランドの確立で重要な作業を任されています。
◇花柄の服に包まれた等々力(とどりき)さん
日焼け対策バッチリ系!見習います!
こちらでは何をされていらっしゃるのでしょうか。
「頭取りをしています。」
頭取り?せっかく花が付いたのに、取り除いてしまうのですか?
「きれいなスプレー仕立てるためには、余計な花や脇芽を取り除く必要があるんですよ」
生産者さんによっては「芽かき」とおっしゃる方もいます。
カーネーションは次から次へと花芽が上がってきますが、スプレー仕立てとして残すのは4-6輪。そのため、1本ずつ確認し、余分な花芽を取り除いていく大変な作業です。
う~ん、でもたくさん頭が出てくる中で、どれを取り除くのでしょうか。判断はどのようにしているのですか?
「まず、最初に開花した一番大きい頭を取ります」
えぇw(゚o゚*)w??取ってしまうのですか??わー、大胆にも!
「そうです。大きいのは取ってしまわないと、他のツボミに栄養が行かなくなってしまいますので、残った花が均等サイズに咲かなくなってしまうのです。
最初の花はどうしても大きくなってしまいますが、スプレーの場合は花のサイズができるだけ揃っていた方がいいので。」
なるほど~。確かに花のサイズがチグハグよりは、このように揃っていた方がきれいですね。
できるだけ均等サイズで開花するようにここで頭取りという作業がキーになってくるのですね。
「そうやって最初に生まれた親を取ったら、その孫も取る」
ま、孫も!?気温が高くなってくる今の時期は、お孫さんの成長も早いので、早く取り除かないといけない。
写真では見えにくいのですが、残しておく花のすぐ横にある小さなツボミを取り除きます。
「残す花の脇にあとから、こういう小さいツボミができるの。これも早めに取ってあげないと、栄養を取られちゃう」
親と孫を取り除いてみると、あら不思議・・・サイズ感が同じツボミが数輪、何ともバランス残るではありませんか。!
これが開花すると、こーなります↓
品種は異なりますが、輪サイズが揃った様子をご覧ください。スプレーカーネーションの立ちの美しさを決めていらしたのも、この等々力さんの作業にかかっていたわけだ^^!
もーこれは気が遠くなるような作業です。
「この作業も午前中の早い時間にやってしまうのよ。午前中の早いうちなら茎がシャキッとして取りやすいけど、10時半を過ぎると気温が上がって湿気も吸って、小さいツボミがしんなりとしてしまうの。
そうすると、作業しにくくなって効率が下がってしまう。 この作業がパパッとできるのも、この時間帯だから。
私は圃場に来たらまずこの作業を優先して行うのよ」
作業効率を上げるために、等々力さんは頭取りの作業を朝一番の仕事にしています。
しかも、1周すれば終わりではありません。 親と孫を取っても取っても、孫が生まれてくるので何周もして最終形に仕上げていくのです。
うんわ~・・・ハウスの中でずっとこの作業はなかなか気が遠くなりますね(*_*;
でも、それだけたくさん取り除いた芽はどこに行ってしまうのですか?なんだか足元を拝見しても取った芽が落ちている様子はなく、とてもきれいです。
「このポケット^^!」
あ!ホント!気づきませんでした! カンガルーの袋のようにくくりつけたエプロンに取り除いた芽を入れて、作業効率を上げつつ、足元が散らからないようにしています。ウン探ではこれを「カンガルーバッグ」と呼ぶことにいたしました!
気が遠くなるような大変な作業も効率化するためにいたるところに生産者さんの工夫が見られるのですね。
◇就労1年の後藤さん
後藤さんは取材当日改植を担当していました。
土耕栽培が残る森田さんのところでは、1年を通して少しずつ改植をします。
「カーネーションは毎年改植が必要なんだ。だから、出荷が終わった畝は根っこごと引き抜くんだよ。」
こちらも大変な重労働です。
ところで引っこ抜いたカーネーションはゴミになってしまうのですか?
「これは山に持っていくんだよ。肥料になるんだ。」
お役目終了の苗はゴミにはせず自然に返し、再生のためのエネルギーとするのです。
◇就労3日目の福澤さん
取材日のほんの3日前から森田フラワーガーデンさんで働き始めた福澤さん。もう、この記事がアップされる今頃は随分慣れていらっしゃるかな~。
なぜ森田さんのところでお仕事しようと思われたのですか?
「花が好きだから」
福澤さんも等々力さんと同じ頭取りをしています。
お仕事はいかがですか?
「仕事自体は楽しいわよ。
でも1日目は仕事に夢中になって水分を摂るのを忘れて、熱中症になっちゃったわよ^ ^;」
ひょえぇ~w( ▼o▼ )w!!初日からまさかの熱中症!?
4月中旬の飯田では外気は20℃も行かないくらいだと思いますが・・・
「ちゃんと"涼しいところからやってね"と言われてそうしていたんだけど、やっているうちに太陽がどんどん高くなって、水分補給を忘れちゃったのよ~。
でも2日目からはきちんと水分を摂ったから大丈夫!」
ハウスの中はカーネーション仕様の環境。おまけに作業は傍で見ているより重労働ですから、くれぐれもご自愛くださいね。
■水揚げ
収穫後はもちろん水揚げ・・・なのですが、 ここにバケツが2つあるのは何のためですか?森田さんに伺いました。
「左のバケツ【A】で茎元を洗って、右のバケツ【B】で水を飲ませるんだ。
【B】はもちろん前処理剤入り。選花場に持っていくまでの短時間ね。」
森田さんは、これらのバケツの水質チェックも定期的にされています。
こちらが森田さんが見せてくださった水質チェックの結果です。シートに丸い跡がついていたら、その水はバクテリアなどの最近が多いことを示してします。
水質検査のシートも
感覚ではなく科学と理論に基づく森田さんの生産ポリシーをここにも垣間見ることができます。
↓写真の下段中央に丸がはっきりと見えるのは、これは【A】の洗浄用バケツから採取したものです。
「だからこそ【A】は頻繁に水を取り替えるんだ」
と森田さん。
バケツ【A】の水が汚れるのは確かにその通り。なぜなら、カーネーションの汚れを洗い落とすための水ですから。
それさえも意識して常にきれいに保とうとする森田さん。ほかのバケツ【B】や選花場の水は台紙とほとんど色が変わらないほど、水がきれいですね。さすが、品質管理の意識が高い森田さんならではです。
「それから選花場でSTS剤(※)を飲ませて出荷というわけだ」
こちらがその選花場。
ちょうどSTS剤を使い水揚げをしているところです。
※STS(エスティーエス)剤とは?・・・Silver Thiosulfate(チオ硝酸銀錯塩)の略です。 エチレンによる老化作用を抑制し、切り花の寿命を長くする前処理剤。カーネーションやスイートピーなどでは標準的に使われています。
あーーーー!
見つけました。この選花場にどこかで見たことのあるものが!?
■フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2015 新商品奨励賞受賞☆☆☆
これはフラワーオブザイヤーOTA2015の賞状です。何を隠そう、森田さんはフラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2015の新商品奨励賞に輝かれのたのです。
受賞品種こそ、森田さん自ら育種を手掛けた「線香花火」。
以前見つけた突然変異の品種を固定して、「線香花火」と名付け、2015年にデビューし、見事受賞と相成りました。花弁のヒゲのようなものが放射状に飛び出すその様を線香花火に喩えたとは、ネーミングもなかなか言い得て妙です。
その時の賞状やポスターを選花場に掲示して、励みにされていらっしゃるのだとか。主催する私どもとしても嬉しい限りです。
■採花日表示・・・正直であること
輸入品との差別化のために採花日表示をしています。
これは森田フラワーガーデンさまを森田フラワーガーデンさまたらしめる一つの特徴的な取り組みと言っても過言ではないでしょう。大田花きでも1日に何万ケースと全国、或いは海外から入荷がありますが、採花日表示の上出荷している生産地様は片手で足りるほどしかいらっしゃいません。
こちらがその表示です。
ここに森田さんの生産者さんとしての義務と責任感、生産ポリシーを感じることができます。
■生産で最も大切にすること
森田さんにとってカーネーションの生産上大切なことは、水・空気・太陽の三要素であることを前編でご紹介しました。
しかし、本当はそのほかに最も大切にされていることがあります。
「それはやはり人との出会いだよ。
やっぱりとてもいいカーネーションを作ることが最も気持ちのいいことだし、お客様にも喜んでもらえる。それだけに、あらゆる知恵と知識を絞るしかないんだけど、これには限界があって、一人で腕を組んでいるだけではなかなか進まないんだよ。
人に教えてもらったり協力してもらったりして生産は前に進むんだ。」
なにによりこれが森田さんの哲学"モリタイズム"です。
だからこそ森田さんが市場や小売店に求めるものは 「こだま」 です。
☆ここで森田さんよりお取引先のみなさまへ一言
「こだまをください。」
森田さん曰く、
「私の花に対する皆さんの意見を聞かせてください。良いことでも改善すべき点でも結構です。
さもないと、何が正解なのか、何が喜んでいただける商品なのかわかりません。
みなさまに評価していただいた品種も、気付かずに生産を止めてしまう可能性もあります。 是非、皆さんからの声をお返しください。
つまり"こだま"をください」
こだまがなく一方通行では、需要と生産のミスマッチが起こってしまいます。
作る側と販売、使う側のコミュニケーションがなければ、花を通じて生活者のみなさまに幸せを届けることはできません。 これこそ「人との出会い」を大切にする森田さんの信念です。
「市況に見る数字だけではお客様の満足度は分からない。
私たちの業界の目的は、立場こそ違えど、みな"花を通じて生活者の幸せを提案する"というもの。 たとえば私であれば、カーネーションの生産を通じて生活者のみなさまに幸せを届けるというもの。 でも、私がここで花を作って待っているだけでは、本当の満足度は見えないんだよ。
ここに情報の相互性が生まれることで業界のレベルの底上げができるようになるはずだよ」
「こだま」とは本来「木霊」と書きますが、森田さんのおっしゃるこだまは、どのような小さい声でも聞かせてほしいという意味から、あえて「小さい魂(たましい)」と書いて「小魂(こだま)」とさせていただきます。
ぜひ 花に対する気持ちや魂を森田さんにフィードバックしてくださいませ!森田さんは人の心や花に対する魂を大切にする人なのです。
■そもそもなんでカーネーション&ナデシコ??
森田さんはなぜこの飯田という地での生産にカーネーションを選んだのでしょうか。
ここはきっとウン探しか知らない話↓・・・うふ^^❤
「小学校の頃に種苗会社の愛好会に入っていてね。よく"なんとかの会"ってあるでしょ、アレ。
そこに入会してカーネーションのタネを注文しては育てて咲かせていたんだ。」
お~!森田さんの花栽培の才はランドセルを背負っていた小学生の時に芽生えていたのですね。
「なぜそんなことをしていたのか、30-40年経ってから分かったんだけど、小学校の担任の先生が花が好きだったんだな。
その先生の影響があったのかなと思うけど、確かなことは分からない。可能性というくらいだな」
もしかすると、森田さんは生まれながらに何か花と通じ合うものを持っていらしたのかもしれません。
☆森田フラワーガーデン 森田和友さんの哲学(格言)☆
・ 最新が最善とは限らない。生産設備一つにしても理論を吟味し導入せよ。
・ 花生産に必要なのは、太陽・空気・水!
それらの環境を「数値化」して、常に裏付けと理論を以って生産に臨むべし!
・ しかーし!その数値化生産を裏付けるのは「人との出会い」と「心」。
周りの人に教え、教えられ、生活者のみなさまに良い花を届けようという心が森田さんの花を生み出す。
これぞモリタイズム!
・ 情報の双方向性があるからこそ、花を通して生活者へ幸せを届けることができる!
だから「小魂(こだま)をください」。
・ 道を見失ったときは森田さんの花を手に取ってみよ。
森田さんの花から魂を感じれば、何かヒントを得られるかもしれません。
☆番外編 ~竹林探検隊 with森田さん~
森田さんと飯田の山を竹林探検(チクリン タンケン)をさせていただきました!
これこそ「産地ウンチク探検隊」の醍醐味。そろそろ「山地ウン竹(チク)探検隊」に名前を変えようかな??
道なき山の急斜面を竹につかまりながら大股で登ると・・・(森田さんは忍者の如く、すいすいとあっという間に登って行ってしまいますが、お尻の重いアタクシにはひと苦労です^ ^;)
落ち葉が敷き詰められたフカフカの地表と急斜面に足元を取られ、どちらが空でどちらが地面かわからくなるようなめまいに襲われながら、森田師匠を見失わぬよう登りつめると、そこにはなんと・・・ッ!!
春蘭(シュンラン)が控えめに迎えてくれました! あそこにもここにも。
斜面を登るのに夢中だと見落としそうですが、そこはベテランの森田さんが教えてくれました。
「ほらここにな!」と教えてくださる森田さん。
あんりまあ、こんどは竹の陰に隠れニョッコリ頭を出すのは立派なタケノコ☆
立派なタケノコじゃ~。
ウメの実も成り、
4月の飯田の山は、春の恵みに包まれているのでした!
・・・もちろんこれらは鑑賞しただけで、一切採取しておりませんのでご安心くださいませ。
また、森田フラワーガーデンさんがあるこの飯田には、2027年にリニア新幹線が開通する見込みです。 森田さん家至近のまさにココ。
取材当日新宿駅から高速バスで片道4時間かけて訪れたこの地にリニアが開通すると、なんと40分で飯田と品川が往来できるようになります。(名古屋へはわずか20分。車内でおにぎり食べている間に到着やな)
飯田から東京へのまさかの日帰り(!)ももはや夢ではなくなりますね。
つい先日の総務省のアンケートによると、移住したい地域ナンバーワンに輝いたのがほかならぬ長野県。リニアが開通すればさらにそのブランド価値が向上すること間違いなしですな。
☆おわりに・・・
ホントいつもながら、長くてすみません^ ^;
森田師匠のような方にいろいろ教えていただくと、どうしてもみなさまにお伝えしたくなってしまいましてね。これでもだいぶ内容を絞って掲載させていただきました。これ以上は"テキトーにカット"できない性分なのです。何卒お許しください。
<写真・文責>:ikuko naito@花研
2016年5月 3日
vol.114 森田フラワーガーデン様(カーネーション&ナデシコ) 前編
北海道、福島、岩手に次ぐ全国第4位の面積を誇る広い長野県。中でも下伊那郡(しもいな・ぐん)は南部に位置し、静岡県や愛知県との県境もすぐソコという場所です。
下伊那郡豊丘村(とよおかむら)は、1万年以上前の旧石器時代から人が住み、地の利を生かして暮らしを切り拓いてきました。 標高およそ430メートル、赤石山脈と木曽山脈にはさまれた清流天竜川周辺では、標高1,890メートルの鬼面山を背景に、水稲や果樹生産などの農業が発達しました。
もちろん花き生産も例外ではありません。
ココ下伊那といえば、カーネーションの生産地として全国に名を馳せています。 母の日を目前に、この度はこの地でカーネーションとナデシコを生産される森田フラワーガーデン様を訪れました。
ナデシコとカーネーションをなぜ一緒に!?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、両者は植物の分類上、年子の兄弟のようなもの。
いずれもナデシコ科ナデシコ属に分類され、学名をDianthus(ダイアンサス)と言います。
両方ダイアンサスなのですが、市場では商習慣なのか、便宜的にナデシコをダイアンサス、カーネーションをカーネーションと呼び、混同を防いでいます。
しかし、これは一般的に当てはまることではございませんので、生活者のみなさまはご留意くださいませ~。
Dianthusとは何を隠そうギリシャ語で「神の花」の意味。Oh, my God!Σ( ̄ロ ̄lll)
経営主の森田和友(モリタ・カズトモ)さんは、神の花と呼ばれるカーネーションとナデシコを豊丘村で半世紀近くにわたり生産されています。
なんて悠長にご紹介している場合ではなく、テキパキとお仕事が早くい森田さんは、取材でお邪魔した途端に早い足取りで動きだし何かを始めました。
ショーターレッグス(短い脚)の取材班は小走りではないと森田さんの歩みについていけないほど。
何をされるのか見ていますと、圃場で灌水中の水を小さなビーカーに採取。 その上、なにやら取り出し・・・・ ぁああああッ!
これは、中学生の頃に理科の授業で使ったことがあります! リトマス紙!
「そうだよ、圃場の診断をやっとるんよ。水のpH値を測っているんだ。排水を採ってpHが正常値かどうかを確認する。」
リトマス紙にチョッと水を浸けて、色が変化したリトマス紙の色とサンプル色とを照合し、pHがどのくらいかをチェックしていきます。
pHと一緒に測定するのがEC。(※)
そうした測定値を農業カレンダーに記録し、栽培環境に異常がないか、定期的に確認しています。
※ECとは・・・?
Electric Conductivity:電気伝導度
溶液の中に溶け込んでいるイオンの総量を示す値。単位はミリジーメンス(mS/cm)。
イオンの量が多いと電気が伝わるのに負荷がかかりEC値が高くなる。ロックウールの養液栽培において、肥料分が多くなると電気が多く流れる性質があるので、肥料分のコントロールにEC値を目安にする。
この数値が高すぎると、養水分の吸収が悪くなり、延いては根の張りも悪くなり、植物が傷むことが懸念される。
基準値から大幅に外れることなどがあったら、肥料で調整して正常値に戻していく。
これを「肥培(ひばい)管理」といいます。
「肥培管理をしないと植物が肥料を吸収できなくなってしまうんだ。 まず肥料を吸収できる環境を作る必要があるんだ。」
植物の調子がなんだかおかしいなという時、肥料をやっても調整できなくなってしまうのです。
働き者で手足が止まることのない森田さんには、朝の挨拶も中途半端のまま、森田さんの圃場管理に突撃探検隊となりました。
さて、森田さんが生産環境の上で大切にしていることは大きく3つ。
■水と空気と太陽と・・・ 森田さんにカーネーションの生産で大切なことを伺いました。
「水と空気と太陽。これが植物が育つ三要素。これをいかに整えていくかが重要なんだ。
人間が生きていくためには何が必要や?水と空気と太陽やろ。それと一緒やわ」
という森田さん。植物が育つ三要素を聞かれて、思わず「土」を入れてしまいましたが、土は三要素に含まれていません。土や肥料は条件ということです。
【水】
冒頭でご紹介したように、リトマス試験紙で水のpHやECをチェックするのが一つ。
また、灌水方法も森田さん流のポリシーがあります。
灌水スイッチを押す森田さん。押した途端に水がカーネーションの足元からシャワ~ッと噴出します。
(↓灌水中)
「これは、灌水方法の最先端ではない!」
で、で、ではない・・・!?
「ではない」ことを強調しつつ、なぜあえてシャワー灌水をされるのでしょう。
「新しい方法は点滴形式なんだけど、わたしは点滴は好きじゃないんよ。 ポタポタ落ちるから、水が落ちたところにしか水や養液がいかんやろ。
もっと株全体に水がいきわたった方がいいんよ。管理しやすいしね。純粋に好き嫌いの問題なんだけど。
最新のものが常に最善とは限らないからね。」
水遣りひとつとっても森田さんのポリシーを垣間見ることができます。
【空気】
空気、つまり温度や湿度、風通しです。
暑さ対策も欠かせません。 カーネーションの原産地は、地中海沿岸の地域。 風通しが良く、夏場も日本ほどの猛暑にならない地域で生まれたことを思えば、カーネーションが暑さにそれほど強くないことは想像に難くないと思います。
取材中も太陽が高くなると、森田さんは、
「ちょっとクルクル行ってくるわ!」
と駆けだして、ハウスの側面のビニールを巻き上げました。
↓クルクル中の森田さん。
こうすると、ハウスの側面が空いて、風通しが良くなります。気温や湿度が高くなりすぎないよう、絶えず換気に気を配ります。
【太陽】
カーネーションはとりわけ日照を好みます。日照量が足りないと発色もいまいち、植物体の元気もなく良い花はできません。
しかし、いくら"神の花"と呼ばれるカーネーションを栽培している森田さんといえども、周年出荷を実現するのにお天気のコントロールをするのは至難の技です。
「そこで、使っているのがコレ」
コレ?? どれ??
あ、コレ??
通路に敷いたシルバーのマルチシート。太陽の光を反射するため、畝の中と通路とに敷き、空からの太陽光を最大限に生かします。
「太陽と水と空気の条件を整えるのに手抜きは絶対できない」
良い花を生産するための三原則です。
とはいえ、培土も無視できるものではありません。
■培土・・・こだわりのベンチ栽培
森田さんはロックウール栽培と土耕栽培と両方を使います。土耕から始めましたが、徐々にロックウールに変えているところです。
ロックウールとは玄武岩や石灰などを原料した人造鉱物繊維。このスポンジのことです。今や農業生産では花きのみならず広く培地のスタンダードとして世界中で用いられています。
でもなぜロックウールに変更しているのですか?
「ロックウールの方が作業性が圧倒的にいいからさ!
植え替えるときに土を興す必要も堆肥を入れる必要もない。ロックウールのベッドをパタンとひっくり返し、蒸気消毒をすればいいだけだから、土に比べたら労働力が全然違う。」
それでいてロックウールと土耕とで出来上がりの商品に差はありません。少なくとも森田さんの圃場の中においては。
もう一つ森田さんのベンチには秘密があります。
こちらの、地表から少し上がった「隔離ベンチ」です。
培地が地表に直接付かず、隔離されているから「隔離ベンチ」。
「地表にベンチが近い人ほど生育が安定している。高いベンチほど培地の温度が不安定になるから、その分、地温にも気を付けんにゃならんということ。培地の温度が乱高下すると肥料を吸収しにくくなるということだ。」
森田さんのベンチは高い方ですか、低い方ですか?
「まあ、低くはないわな。 ほれ、見てごらんよ。地に着いとらんやろ。」
でもなぜ、生育が不安定になるのに高めにベンチを作るのでしょうか?地温が安定して作りやすい方がいいのでは?
「それは大きく2つある。
① 病気防止:地表と接着していると、ウィルスなどの病気が蔓延しやすいから。」
う~ん、なるほど、これは重要ですね。病気を防ぐため。もう一つは?
「② 作業効率アップ :高くすることで、ちょうど人が立った状態で腰を曲げずに作業をすることができる。 ベンチの下に足(フット部分)を入れて作業できるでしょ。それだけでも労働生産性が高くなるわけだ。」
なるほど、病気の防止と作業性を考えてベンチを10cmほど上げているわけですね。
「ベンチの下に手を入れてみ?!」
え? w(゚ロ゚;w?ベンチの下にですか?
こんな感じ? ・・・と手をベンチの底に当ててみると・・・ ・・・ん??(・_・?)
あら??なんだか底の部分が波々しちょる?なんでジャ?
底はフラットではなく、3-4cm程度の幅で波うった、京都の千寿せんべい(波形でクリームを挟んだクッキー)のようにうねうねしています。
こッ、これは?
「その波々はトタン屋根になっている素材を使ったんよ。 この屋根。 」
と森田さんが指を差したその先を見上げてみると・・・!?
や、屋根!!(ノ゚ο゚)ノ
「この波打った屋根を使うんよ。重ねて使うことで、畝の幅を調節できる。広くも作れるし、狭くも作れる。」
説明しましょう!
つまり、こういうことです。
このうねうねをたくさん重ねれば畝幅を狭くすることができるし、2-3こにすれば広くすることができる。なんというアイディアでしょう。
「国内生産者さんに教えてもらったり、自分で模索して、独自のこの方式を取り入れたんだ。 」
森田さんのベンチは森田さん考案のオリジナルベンチ。 普段は頭の上にあるものと、足元に使ったというわけですね。
森田さんのカクリベンチにはカラクリがたくさん! まさに森田さん流カクリベンチならぬカラクリベンチ!
「でもここに辿り着くまでに10年くらいずっと悩んでいたよ。」
という森田さん。ベンチ栽培は大型投資。大型鉄骨のハウスでないとなかなか設計できません。
大型投資に踏み切ったのにはきっかけがありました。
「またね、そのころこの辺りでイチョウ病という病気が流行ってね。」
イチョウ病?胃腸病なら私もよくお世話になっていますが・・・?
「ちゃうわッ!
萎凋病(イチョウビョウ)だよ。」
萎凋病とは、カビが原因で植物の導管(水を吸い上げる道)がバクテリアで腐ってしまうという病気。一度発病してしまうと対策を取るのが難しく、最後は株ごと枯れてしまうので、生産者にとっては頭の痛い病気です。
「人間でいえば、血管が詰まる病気と同じだから致命的だよね。
それが根からも茎からも出て、ウチでも発生してしまったんだ。 蒸気消毒をすれば消毒できるということは分かったんだけど、土耕栽培のまま消毒しても地中からどんどん萎凋病が上がってくるから、完全に消毒することはできない。
隔離ベンチにしなくては病気も隔離できない。そこで米国やヨーロッパでカーネーションの産地を巡り、自分の目で見て、"カーネーションの生産とはこういうものだ"というスタンダードを知って、腹が据わったんだ。
投資金額が大きいだけにつまり一生やる!っていう腹づもりがないとなかなか隔離ベンチにはできないわけよ。私の20代はその決心がつくまでの葛藤だったね。」
という森田さんの葛藤の青春時代のお話を伺ったところで、後編に続きます。後編では知られざる森田フラワーガーデン様にさらに深く潜入です!
<写真・文責>:ikuko naito@花研