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2014年10月24日

vol.107 横山園芸☆ダイヤモンドリリー【後編】

前編の続きです。

前編では、「横山さんとダイリリとの出合い」、およびダイリリの市場価値に改革をもたらした横山さんの生産技術についてご紹介しました。

後編は、花持ち改良や育種、その他についてご紹介してまいります。

 

100a.jpg切り前と啓蒙活動  ~花持ち改良編~

ウン探的単眼視点で「ダイリリの昔」を語らせてもらえば、茎や花首は貧弱で、草丈せいぜい30-40cm程度。

1本に3-4輪付いていて、殆どがツボミで最後まで咲かない。

つぼみの首がくたっとしおれてさようなら・・・みたいなイメージだったわけです。

IMG_0514.jpg「面白くないでしょ。自分が花を楽しむ立場だったら、不本意でしょ、そーゆーのって。

楽しむ立場になって考えましたよ。そして、あらゆる書籍に示されている切り前(収穫のタイミング)を完全無視!して、切り前をゼロから自分で考え直したんだ」

 

その結論はいかに?!

 

花を咲かせて出荷する。これが私の答え。最低でも2-3輪は咲かせてから。

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 完全なつぼみで出荷するのが常識だった市場では、当初は随分叩かれてね。これじゃ咲きすぎてダメだって」

以前の切り前のイメージ↓

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 市場に何を言われても信念があったわけですね。 

 

「開花した最初の1輪がたとえ傷付いたり、折れてダメになったとしても、咲かせて出荷した方がよっぽど長持ちする。同じ品種でも私が出荷したものなら更に1-2週間花持ちするものが作れるようになった」

 

どのように理解を促したのですか?

 

「セリ人の横で頭を下げて買っていただいたり、お花屋さんに手紙やご案内を配ったり、フェアをしたり、圃場に来てもらって本来の魅力を見てもらったり・・・品種や切り前も含め、ダイリリの魅力についてコツコツ理解を求める啓蒙活動を積み上げていったんだ」

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名付けて松下幸之助作戦!(by横山さん)

 

「松下幸之助はいいものは、まずはみんなに使ってもらうことが第一歩。そのことでリピートがくる。これがほんものなんだという彼の語録を信じてコツコツとやったんだ。

 

最初は平均単価40-50円だったわけだから。

1つの球根から1本しか採花できないダイリリは、単価40-50円では出荷すればするほど赤字。

ダイリリから得る収入は、最初はご飯を食べるのも大変なくらいだったけど・・・」

 

切り前の研究も理解してもらうも時間がかかったと思います。辞めずに横山さんの心をつなぎとめたものは信念だったと推察します。そしてその信念は、日々の深い研究と広い分野の勉強から積み上げられたものだったのではないでしょうか。

"誰も使っていないということは無限の市場があることだ"とも言っていた松下幸之助氏。

横山さんには、最初から無限の可能性をダイリリに見出していたのかもしれません。

 

IMG_0563.jpg「つぼみは切った瞬間から開こうとする。だからつぼみが小さい時に切れば、そのサイズの花しか咲かないし、中の方の小さいつぼみは咲かずに枯れていく。

もともと球根に力があるから咲かせて出荷したほうが開花輪も大きくなるし、つぼみがあとからあとから開花してくるから、長く楽しむことができるんだ。

考えてみればツボミが小さいときに切ったら、花全体も小さくなるのは当然だよね。

コレ、ホントは企業秘密なんだけど!(笑)」

最近は、多くの品目で切り前を再検討する流れになっていますね。代表的なところで、トルコギキョウ、ラナンンキュラス然り。輪菊などでも咲かせて出荷するタイプのものがありますね。主役級の花はみなある程度咲かせてから出荷する傾向にあります。

 

「この時の改革がなければ、今の自分はいないと思う。

それまでの主流では、ダイリリが日の目を見ることはなかっただろうと思う」

横山さんが生産を始めたころは、園芸界の閉塞感や保守的な雰囲気を感じていたといいます。多様化・個性を尊重する時代の到来に加え、世代交代、若い世代の台頭というのも重要な要素だったのかもしれません。

 

100a.jpg  育種と選抜  ~キラキラ編~

ダイリリといえば、花弁のキラキラが特徴です。これは花弁の細胞に含まれるでんぷん質が光に反射して光って見えるのです。

 「赤系品種は金粉をまぶしたような、温かみのある金色系に輝き、ピンク系はメタリックのようなシルバー系に光るんだよ」

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Ohhhh~!本当に!ピンク系はダイヤモンドダストを思わせる輝き!*:.。☆..。.(´∀`人)

「キラキラが多い方が、それだけ細胞がたくさん集まっていて、花弁も肉厚であるということだから、良いダイリリはよりキラキラしているといっていいんだよ」

ダイリリをお手に取られたときは、ぜひ輝きを観察してみてくださいませ。

 

この魅力の一つであるキラキラを増やすためには、どのようにしたらいいのでしょうか。

品種選抜が重要だよ。夜中に電気点けてキラキラ度の高いものを選別していくんだ」

 

ん?夜中に?

 

「そう、全体を照らす太陽の光では、キラキラが分かりにくいことがある。

夕日や朝日、あるいは、懐中電灯のような一方向の光の方が反射率が高くてキラキラがわかりやすいんだ。だからヘッドライトを点けて、夜中に見回るんだ!キラキラしているダイリリはよく目立つよ☆」

 IMG_0532.jpgキラーーーン!

「こんな感じ」で!

 ふと顔を上げたら、横山さんがぬぁんとヘッドライトを装着していた!カッコよし☆☆☆

 

「ま、ゆっくり花を見る時間が夜しかなかったというのもあるんだけど。」

 

選抜して良いものを生み出す一方で、品種はどんどん増えていく。どのように品種管理をするのですか?

「遺伝子は捨てないけど、整理する必要がある。10個あるものは2個に整理する。

IMG_0531.jpg昔は親父が1泊2日でいない間に、穴を掘って、温室1棟分の球根を全部その穴に埋めたこともあったよ」(≧∀≦)゚テヘ

ぬぁんと勇気ある行動!ばれませんでした?

「ばれるよ。ばれるんだけど、ばれないように残った鉢を広げて空間を埋めていた(笑)」

目に浮かぶようですね。戻っていらしたお父様は何ておっしゃいましたか。

「やりやがったな!みたいな雰囲気はあったよ。

でも売れないのだったら、少しスクラップする必要があるとは思っていたかもしれないね。

何も言わずに見ていてくれた」

偉大なお父様ですね。

ご自身で集めたものは愛着も人一倍ですし、スクラップの必要を感じていてもなかなか実行できないところを、直樹さんがやってくれたと、感謝の気持ちもあったのかもしれませんね。

「捨てるのも大事な一方で、見極めないといけないのは、"売れる売れない"だけではないということ。

必要に迫られて捨てたんだけど、そのお陰で埋もれていたものが見えてきた。

 "育種は捨てること"ということを実感した瞬間だった」 

並行して、当時出荷していた市場の買参人さんのご意見を取り入れたことが今の品種につながったといいます。

「少しくすんだ色とか褐色系のものも残したりね。自分ひとりではその判断はなかった。

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"困ったらウチに全部出しな"と支えてくれたお花屋さんたちがいてくれて、その方たちの支えがあり自信を持って取捨選択ができたんだ」

  

100a.jpg育種 ~「手で折れて、曲がらない」編~

実は横山さんが育種の段階でもう一つ気にしていることがあります。

それは手で切り取ることができること品種を残すということです・・・って、ええぇぇーーーー!?(゚ロ゚;)エェッ!?

さきほど、茎が丈夫なものっておっしゃっていませんでした?(前編参照)

そこは矛盾しないのですか?

IMG_0580.jpg「矛盾しないよ。手で折れるものでも茎は丈夫に仕立てられる。

ハサミを使うと、

①  ウィルスが入りやすくなる

②  両手がふさがるから、仕事の効率が下がる」

だから、右手でポキポキ折れるものを選抜していくんだ」 

草丈が十分に採れて、茎は丈夫なんだけど手で折れる。花弁はキラキラ。これが良いダイリリです。

 

100a.jpg育種方向性

ダイリリの育種の方向性を聞いてみました。

・・・が、すぐにこれは勉強不足のうん探の愚問であることに気付かされました。

それでも、横山さんは根気良く丁寧に答えてくださいました。

 517.jpg「面白いことでもあるんだけど、ダイリリという植物は"コレいいかも!?"と目を付けたとして、それが種から花を咲かせるまで5-6年かかるんだ。そこから生産を商業ベースに乗せるまで更に6-7年かかるんだよ」

 そんなに時間のかかることなのですか。

 「そう。更には、もともと開花率も良くない花だから、一旦花が咲いて綺麗だなと思っても、商業ベースに乗せられるかを確認するために、増殖する前に開花率をみるんだ。これを"検定"というんだよ。

この検定に6-7年かかる。

これをさらに100本以上にして商業的に生産していこうとすると、トータルで15-6年かかるんだ。」

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なるほど、そうなると現在のデザイナーさんたちの潮流を追いかけることがいかに無意味かということですね。

 「結果論として出たものを売って行くしかないという難しさもある。

だから私としては、流行を追うというよりも世界の品種を見て"何がないのか"、"どうだったらいいのか"というのをポイントにしている。

それと同時に、私も花を楽しむ立場でこの花はどうだったらいいのかを考えている。

例えば花持ちがいい方が好ましいし、存在感も大きい方がいい。あるいは、せっかく"ダイヤモンド"リリーという名前があるのだから、キラキラと輝いている方がいい。

そして、長い間脇役でしかなかったこの花も、主役級のボリュームを出せるようになってきたから、品種選抜ばかりでなく、作り方・育て方もそのような方向で進めているんだ」

その通り、横山さんちのダイリリはボール状!

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「できるだけヒガンバナから遠い形になるようにイメージしているんだ。

花と花の間に隙間のないくらい、ぼってりとした存在感のもの、花首など頑丈なものに仕上げていきたいと一心で育種と生産に注力しているよ。」

お客様の声を反映させるばかりでなく、生産性や存在感、世界の中での希少性をを見て決める。

理想の追求と消去法を掛け合わせる。

それを続けてきて、ちょうど今14-5年目。今年は横山さんの集大成元年です。

  

ちなみに、こちらはダイリリの原種。園芸品種より花弁が細く、現在市場流通しているダイリリと雰囲気が大きく異なります

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100a.jpg横山さんにとってダイリリとは?

「ほっとするもの。植物って正直だし。とりわけダイリリなどネリネの仲間は、こんなにめまぐるしく変化する時代の流れの中で、時代に合わせて早く開花したりしない植物。冷蔵庫や薬剤処理をやっても決してサイクルを早くしたりできるものではない。常にマイペースを貫く強者だよね。

季節感があって、人間のペースではなく植物のペースで育っていくことが魅力のひとつ。ダイリリは自分の心の安定でもありペースメーカーにもなってくれるものなんだ」

また、"ダイリリの潔さが好き"という横山さん。

開花前に葉が枯れたかと思うと、長い間蓄えてきたエネルギーを一気に放出させるかのように開花し、また秋になると新しい芽が出てくる。開花の美しさは一瞬に凝縮され、生命が終わったかのように見えるが、また新しい芽が出てくる。この生命力の緩急とダイナミズムに引きつけられるんだそうです。

「それから、純粋に輝きがあってキレイだよね」

516.jpgとダイリリ以上に大きな瞳を輝かせてお話する横山さん。

「栽培している植物たちは、自分表現ツールであり、武器であり、ガソリンでもあり、どんな苦労をもいとわず一生懸命にさせてくれるもの。

花は私の人生そのものである。(←ここだけ藤岡弘風の野太い声)」

 

 100a.jpg横山さんの夢 ~南アフリカへの恩返し~

ダイリリは、はるばる南アフリカから日本へ大移動の果てに、日本でその魅力と価値を認められつつあります。

「それを、本当のふるさとである南アフリカに返してあげたい。」

 返す?原産地の南アに?

「そう、実はロスチャイルド家がダイリリを南アから持ち出した時、根こそぎ持って行ってしまったため、もう現地にはほとんど残っていない。南アの植物園で働く人ですら、ダイリリを知らなかったりするんだ。

だけど、本来ダイリリは故郷の南アでも魅力と価値を認められてほしいと思う。そして、ダイリリを大きな産業として南アがさらに発展するといいと思う。私はその手伝いをしたい。これは、ダイリリでご飯を食べさせてもらっている私の恩返しであり、夢なのです」

 

100a.jpg良いダイリリの見分け方三箇条(①②は横山園芸直伝虎の巻)

①茎や花首がしっかりしていること

 触ってみて、細くてもしっかりしていればOK。

②花弁が厚いもの

 質感を見る。花弁が厚い、イコール、一つひとつの細胞が大きく、数も多いということなので、その分キラキラが増します。

 花持ちの良さに直結しますので、必ずチェックしましょう。

プラースッ!横山さんのダイリリであれば、間違いありません!by ウン探

  

100a.jpg横山さんの園芸の原点 ~シクラメン~

実は、横山さんの園芸に対する興味の原点は、ダイリリではなくこの原種のシクラメンにあったと言います。

年末に出回る一般的なシクラメンではなく、あくまでも原種のシクラメンです。

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「小さいころから、親父が圃場で働く傍らで、ベンチの下で遊んだりしていたんだ。そのときベンチの下には原種のシクラメンがたくさん咲いていた(現在もそうであるように)。私の園芸への興味はそこから始まったといえる。

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英国に園芸留学していたときに、50-60年生きてきた、塊茎(かいけい=シクラメンの根の塊)の巨大なシクラメンに出合ってね。年末に販売される一般的なシクラメンは、1年使い捨てが当たり前の認識でしょ。50-60年も生きるシクラメンを見たときは、強烈な印象を得たよ。寒さ暑さに負けず、長生きするスゴイ植物だなってね。」

 

こちらは、横山さんちの国内最大級の原種のシクラメン。40年ものです。

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透明感のある花弁と繊細な立ち姿、香りも見事です。

まるで清純な天使か妖精が住んでいるかのような美しさ。これに心を奪われるのは必然至極。

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 「ヨーロッパでは"アルプスのスミレ"と呼ばれているんだ」

 なかなか言い得て妙ですな。確かに、こうして原種を見るとスミレのように可憐な花です。小輪で繊細な印象、花弁に透明感があるのが特徴です。

上向きのこのようなものまでありました!

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「ダイリリの横山園芸」かと思いきや、シクラメンやクリスマスローズ、そのほか球根植物の専門家でもあるのです。

そのような園芸全般に詳しい横山さんは、園芸農業の先生にも変身します。

東京農業大学で非常勤講師として教鞭を執ること早6-7年。経営や育種の視点から教鞭を取っていらっしゃるのです。

農大クラスでの横山先生の別名はぬぁんと「園芸界の松岡修造」!

それだけ横山さんが植物に熱く、情熱が生徒さん達にもそれが伝わっているということでしょう。

  

10年、20年単位で結果が出るダイリリと日々向き合う横山さん。増殖率が低く、生産性が悪いからとロスチャイルド家が手放したダイリリと日本で気長に付き合い、それまでの市場価値を一新し、ダイリリのイメージに革新を起こしました。

IMG_0741.jpgそれも、すべて植物本位の視点を持ち、利他の境地でお仕事をされる横山さんのような考えの持ち主のなせる業でしょう。ダイリリがペースを変えず、生産に無理の効かないからこそ、横山さんの心の安定になるといいます。

植え替えや切り前のタイミングなど、瞬間を見極めつつも一つの植物をずっと見つめ続ける。鋭い観察力と根気を持ち合わせた、誠実で思いやりの篤い人となりなのでしょう。

皆様も、この季節にしか流通しないダイリリと向き合い、ぜひダイヤモンドリリーの歴史と横山さんのスピリットを感じてください。

  

100a.jpgお・ま・け ~ダイヤモンドリリーとは?~

ダイヤモンドリリーは、ヒガンバナ科ネリネ属の植物で、学名をNerine sarniensis(ネリネ・サルサルニエンシス)といいます。また、ネリネ・サルニエンシスをもとに改良した品種もダイヤモンドリリーとなります。

 

nerine.jpgネリネ属?あの球根植物のネリネ?

"ネリネとダイリリって、どう違うの?"と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

良い質問ですd(゚-^*)good!!

ネリネもダイリリも同じヒガンバナ科ネリネ属の植物。原産も南アフリカで、極めて近い植物といっていいでしょう。

しかし上述の通り、ダイリリがsarniensisを中心に改良したものである一方、ネリネはNerine bowdenii(ボーデニー)という品種を中心に改良したものです。花弁を見ると、ネリネの方が細く、若干フリルが入っていることがダイリリとの違いです。また、ネリネの花弁はダイリリほどキラキラしていません。

ネリネかダイリリか、似たような花に出合ってどちらかわからないときは、花弁をよく観察してみましょう!

詳しくは「花研手帳2015」32-33ページをご参照ください。横山園芸さん監修による見分け方一覧表が掲載されています!そのほか、似たような植物であるリコリスとヒガンバナを合わせ、 4品目の違いを比較しています。

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<写真・文責>:ikuko naito@花研

2014年10月20日

vol.107 横山園芸☆ダイヤモンドリリー【前編】

ひっさびさのうんちく探検隊は、高く晴れあがった秋空の下から、まさに今旬を迎えているダイヤモンドリリーについてのウンチクをお届けいたします!

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うーん「(ーヘー;)、ダイヤモンドリリーってちょっと名前が長いので、この際"ダイリリ"って呼んでしまうことにしますッ!

 

ダイリリといえば、なんといっても「横山園芸」!横山園芸のファンのみなさま、おまっとちゃん!(こんなノリでえぇんかな?)

横山園芸を知らない方は、ぜひこの機に連想のチェーンで繋げてください。横山園芸は世界でも最もダイリリの品種を保有している育種家と思われ、また、数年前は知る人の少なかったダイリリを秋の主役級の花に昇格させた張本人でもあります。

「ダイリリといえば横山園芸」の認識は今や花き業界のスタンダード。どなたにも異論はないでしょう。それは、横山園芸が一般的な生産者とは、ちと違うからです。その所以を探ってまいりましょう。

 

こちらが横山園芸の横山直樹(よこやま・なおき)さん。

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埼玉県との境にある東京都清瀬市で花の育種・生産をする若き篤農家です。何を隠そう、横山さんは農家のサラブレッド☆

農家のサラブレッドとはどういうことか説明させてください。

昔、武蔵野と呼ばれる東京都と埼玉県にまたがるこの一帯は雑木林でした。適度に木陰もできるとても良い場所で、近くには"御殿山"の名前が残るっているように、お殿様の保養地となっていたほど。

IMG_0710.jpg←現在ではこんなにきれいに整備されていますが。

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江戸時代に、この広大な武蔵野平野一帯を、ある6軒の家族が一生懸命開拓し農業を始めました。この6軒を武蔵野開拓六家といいます。このうちの1軒が横山さんのご先祖様に当たります。直樹さんはその末裔で、栄光の15代目。

「狩猟民族に見えるかもしれませんけど、根っからの農耕民族なんです(笑)」

という横山さん。

いえいえ、横山さんと少しでもお話したら、そのハートの温かさから農耕民族であることは十分に納得できるはずです。

しかし昔から花農家だったわけではありません。

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 「明治時代には藍染めをやっていたんだ」


植物の藍を栽培して、染めものを販売していたんだそうです。圃場には藍染めの時に使っていた壺がごろんとしていて、藍染め屋さんだったこと物語っています。アリババと40人の盗賊の油壺を思い起こさせるその大きさたるや、大人一人がすっぽり入るに十分すぎるほどです。

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ところが、世の中に工業化の波が訪れたとき、藍染めも例外ではなく、個人では競争力がなくなり藍染めの一切合財を売り払って、改めて土地を買い野菜を作り始めた・・・のが、直樹さんのお祖父様のお祖父様。

 

花を始めたのは直樹さんのお父様ですが、その時はまだ野菜との兼業。花専業にしたのは直樹さんからです。

直樹さんはダイリリばかりでなく、ネリネ、クリスマスローズ、その他種々の球根類の育種と生産育種・生産、並びにシクラメン(とりわけ原種系)の生産を行っています。

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圃場の入り口には、線香花火を竹ひごで再現したかのようなオブジェがたくさん・・・。

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こ、これは何ですかΣ(゚口゚;

 

「コレぜ~んぶネリネの仲間」

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ネリネの仲間(ヒガンバナ科)の植物で、開花後に種子ができた後のものです。竹ひごではなく、本物の植物です。よく見るとひとつひとつ形やサイズが違います。まったくカッコいいオブジェですね。

「品種によっては、種子ができた時にこのボール状の頭がポロリと取れて、アフリカの大地をコロコロと転がりながら中に入っている種子をばらまくものもあるんだよ」

その光景を目の当たりにしたら、まるで生き物のように思うでしょう。ホント面白い植物です。

 

100a.jpg横山さんとダイリリとの出合い

横山さんがダイリリやネリネなどの球根植物と出合ったきっかけは何だったのでしょうか。

「端的に言えば親父がやっていたから」

しかし、お父様がダイリリを始めるにはドラマがありました。

ダイリリは南アフリカ原産の植物。

現地でダイヤモンドの採掘に投資していた英国のロスチャイルド家がダイリリに目を付けて、ごっそり英国に持って帰ってきたんだ。

だけど、増殖率や生産性が悪かったからお金にならず、趣味家の花となった。それが世界のあちこちに散らばって、東は日本へもやってきた。

日本へはそのほかの品目もいろいろ入ってきて、その時の種苗を園芸家たちで分けて管理しようということになったんだけど、ひとつの品目が複数の人の手に渡ってしまうと、遺伝子管理が難しくなってしまうから、親父がネリネやダイリリ担当として一切を引き受けることになったんだよ」

 

diamond.jpgダイリリが南アフリカから飛び出して、世界に流通するようになったというのも、あのロスチャイルド家が関係しているのだといいます。ロスチャイルド家といえば19世紀末から20世紀初頭にかけて、南アのダイヤモンド鉱石採掘に大きな投資を行い、ダイヤモンドのDeBeers(デビアス)社設立の際に多大な支援をした財閥です。

 

んで、ここからはちょっくらネットサーフィンしたくらいではなかなか出てこない話になるのですが、ダイヤモンドや金の鉱脈を掘り当て、英国にじゃんじゃか送るのと一緒に、ダイヤモンドリリーも持って帰ってきたのです。しかも、結構えげつないほど根こそぎ。

ま、それだけダイリリがキラキラと輝いて美しかったということでしょう。

ダイヤモンドと一緒に南アから持ってきたダイヤモンドのような輝きを放つユリのような花だから、ダイヤモンドリリー。英国人が命名しました。

 

ダイヤモンドリリーの方は開花率が悪く、商売にならなかったから趣味の範囲のお楽しみとなりました。

ダイリリは、南アフリカから英国に渡り、日本へ島流しにされて、今横山家で温かく迎えられ育てられているというわけです。

何とも壮大な話。

品種数でいけば、世界でも横山さんのところに最も多くダイリリが集められているものと思われます。商売にならないと言われたダイリリですから、一生懸命品種改良をしている人も、横山さんをおいて世界ではあまりいないでしょう。

「きれいな花をつけるのに、儲からなかったダイリリにとって、日本は流転の地」という直樹さん。

ダイリリは流通期がとても限られているものですし、バラやキクのような大品目と違って本数も多く流通するものではありません。つまり出荷したとしても、それほど大きな売り上げが期待できない。おまけに、品種改良やら育種業務ときたら、本来はそれだけでは採算が採れるものではありません。

IMG_0519.jpg「親父は苦しい思いをしたと思う」

と直樹さんは思いを巡らせます。

市場価格で白いダイリリが1本500円という高値で取引されたこともあった。それくらい希少なものだった。しかし、生産効率や増殖率が悪いということで、生産をやめていく人が多かった。

「廃れるというよりは、注目されなかった」

それ以上に、ユリなどほかの球根の方が注目されたし、作りやすかったのかも。

 

100a.jpg家業を継ぐ

直樹さんは、大変な思いをしてダイリリとずっと向き合うお父様をどのように見ていらしたのでしょうか。

「農家を継ぐのをやめようと思った瞬間もあったよ。大変なのに儲からないっていうイメージも世の中には何となくあったしね。

だけど、農家になりたいというよりは、植物が好きだったという理由の方が大きいかな。

好きというのを強く認識していたわけではなく、小さい頃から栽培ベンチの下に潜って遊んだりして自然に花とふれあい、人にあげれば喜んでもらえる顔を見て、花や植物は人を幸せにできるんだなと実感したよ。

花を作るのは確かに大変。苦労は売っちゃいけないけど、花の良さとロマンを売る。こういうことを大切にしていきたいなと思ったんだ」

横山さんにとって、植物は常に身近な存在であり、ごく当然のように生活の一部になっていたのです。

お父様のお姿が大変そうに見えたかどうかに関わらず、園芸のお仕事を継がれるというのは、ごく自然の流れだったということでしょう。

 

そのようにして横山さんはダイリリの、いわば「神主」となるわけですが、神主となったばかりではなく、消費マーケットにおけるダイリリのステータスアップに大きく貢献してきました。

 

ざっくりまとめると、以下の通りです。

①30-40cm程度の細く華奢な脇役イメージだったダイリリを、60-70cm採れる主役級の花にした

 1本に10輪以上付け、球状に仕上げることにより、限定的にしか出荷されないダイリリの価値向上を達成しました。

②切り前を再検討することにより、日持ちをさらに1-2週間延ばすことができ、開花率も向上させた。

③限定的だったダイリリの出荷期を、山上げ(山梨)することによって3倍に延ばした。

 現在は10月1日から11月中旬まで可能。

 

これらは日々研究を重ねた横山さんの「生産技術」「育種力」「情熱」のトライアングルで達成したことです。

 

では、こだわりの生産から探っていきたいと思います。

 

100a.jpg生産技術 ~大輪ちゃんを作る編~

横山さんちのダイリリは、すべからく大輪ちゃん!

のちほど輪径の採寸結果を発表いたしますが、どのようにすれば大輪ちゃんが誕生するのでしょうか。

ポイントの一つとしてポットで栽培することが挙げられます。しかも! 

「球根に対し、少し小さめのポットで栽培することがポイントなんだよ」

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その心は? 

「一つは品種によって球根のサイズが全く違うから、ポットの大きさや植え替えのタイミングをそれぞれに計っていかないといけない。それぞれに個性を引き出すために鉢で個別管理をするんだよ」

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そして、もう一つのポイントが重要です。

 「球根にストレスをかけることが必要。 

ポットで栽培するのも、ストレスをかけるためなんだ」

 ストレス?

植物にストレスをかけるのですか?ポット管理をすることによって??☆!☆?☆ (☆_◎) ☆!☆?☆チンプンカンプン??

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「地面に直植えしたり、大きなポットに植えると、ダイリリは"ワタシは生きていけるからいいわ"と花を咲かせずに悠々自適に生きてしまう。

ところが、根っこの両壁を制限して適度な圧力をかけることによって、ストレス、つまり生命の危機を感じて、子孫を残すために花を咲かせるんだよ。

 

イメージは歯磨き粉のチューブ。

ギュッと絞ると、ペーストがピュッと出るでしょ。イメージはあんな感じ。

toothpaste.png

もし、やんわりとしか握らなければどろぉ~っとしか出ないし、握らなければペーストが出ることすらない。

その原理と一緒で、球根にギュッと圧力をかけると、生命力を集中させて良い花を咲かせようとして、すごい勢いで花芽がグーッと上がるんだ。

この原理を使って、今まで花芽が30cm程度しか伸びなかったものを50-60cmまで伸びるようにしたんんだ。同じ品種でも全然違う結果になるんだよ」

 

なるほど!これがダイリリ改革のひとつ大きな要素なんですね!

 

「ネリネやダイリリが元々とどのようなところに生息しているのか、さらにはその中でも良い花を咲かせるものはどのようなところに咲いているのかを調べたら答えが出たんだ。

花付きの良いダイリリは南アフリカの岩場に生えている!」

 

え!?Σ(゚д゚;) ヌオォ!?

いッ、岩場??

可憐な姿とはギャップがあって意外ですね。

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「日本でいうサル山のようなところ。

こういうところに自生しているものに限って、花付きが良かったりするんだ。」

 

え?そんなところですか?

 

「そうそう、岩場の斜面でゴツゴツゴツゴツした狭い空間に球根を蓄え、根を伸ばしていくもの。その間から、ぴょーーんと花首を伸ばしていい花をつけているんだ。 

ところが、林の中や肥沃な土地にあるダイリリは、小さな球根は確かにいっぱいあるんだけど、開花の痕跡がない。良すぎる環境にいるとだれちゃうような感じだよね」

 

横山さん、観察力・洞察力があるんですね。

「実際に自生地に赴いたり、本で読んだりしてわかったんだ。

良い環境でよいものを作り上げるという常識から、ストレスを与えた極限の環境から良いものを生み出すという、逆転の発想だよね。」

 

どのくらい窮屈にするのでしょうか・・・なんて聞いても、自分がポットに入って体験するわけにもいかないし、う~ん・・・と困っていたら、ちょうど分球のタイミングを迎えたポットの中を見せてくれました!スゴイネ~!横山さん、ありがとうございます号泣(/_<。)

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どれどっれ~

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ポットから抜き出して・・・この状態では、一見まだそれほど窮屈な感じがしません。

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ところが、横山さんが解体していくうちに・・・

うわ~!出てくる出てくる!

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「これが親株」と言いながら、次から次へと分球していく横山さん。

球根ばかりでなく、根も太くて丈夫です!

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これでおしまいかと思ったら、まだまだ分球が続きます!

ワン、ツー、スリー、フォ・・・・・ρ(・_・)

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ぬぁんと、合計6球も納まっていたのです。

しかも、なんがーい根がグルグルに巻かれています。この立派な球根と根っこ。芸術的にすら見えてきます。

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「こうなって初めて良い花が咲くんだよ。

この状態でポットに4年間植えっぱなし。一番小さいもので2年目の球根」

 

何が信じられないって、この3寸ポットにこれだけ球根が入っていたということです!

それをまたポットに納めようと思っても、コンビニのチキンナゲット状態。

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もう元には戻せません!

 

しかーし!d( ̄▽ ̄)!!

この窮屈な状態が、良い花を咲かせるためにはちょうどいいのです。

"一つ屋根の下"って感じかな。人も多くの人の中で揉まれて人間性が磨かれるように・・・

 

653.jpg1つの球根の寿命は12年ほど。

最初に開花するまで4年程度かかるから、現役で活躍する期間は8年なんだよ

 

なるほど、開花させるようになってから8年でお役目終了ですか。

 

「ダイリリはひとつの球根から1年に1本しか開花しないんだよ」

 

わ、これまたダイリリの生産性が悪いといわれるゆえんですね。

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市場に1,000本出荷しようと思ったら、1,000個の球根がないといけない。その分場所もとりますね。

1年に1回、1つの球根から究極の1本を絞り出す。ここに横山さんのスピリットが凝縮されているように思います。

 

「これが今、ウチで一番大きいもののひとつだよ」

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と見せてくださったのが、こちら。

計測したところ、花の輪サイズ・・・・・脅威の14cm。

しかも、1つの花序に、ワン、ツー、スリー、フォ・・・ふっくらとした開花間近のツボミを合わせ、11輪も付いています。

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これは私たちのダイリリに対するイメージを大きく変えるサイズです。

また、大きいのは輪サイズだけではありません。

その草丈! メジャーを100cmに固定して横に並べました。

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ぬぁんと、およそ70cmの草丈があります。 

し、信じられませんw(゚0゚*)w 引田天功のマジックショーを見たかのような驚き!

それから、みなさーん、ちゅーもーくッ!

昔のダイリリは、横山さんの右手にあるようなイメージでしたが、それを左手のダイリリにまで作り上げるようになったのが横山さんなのです。よくある施術前・施術後を比較したかのような、目を疑うほどの大きな差をご覧ください!

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まさに横山さんが目指してきた存在感のあるダイリリを体現しています。

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もうこれは革命ともいうべき生産技術でしょうΣ(゚д゚;)

茎も長いだけでなく、丈夫!

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ダイリリでフェンシングができそうなくらいです。突かれても痛くないけど。

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「たかが5cmもない球根から、60cmも70cmも長くブットイ茎がぴょろーと伸びて大輪の花を咲かせるのがすごいね。

茎の長さもお"前、何頭身だよ!?"って思っちゃうよね」

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と横山さん。

栽培している横山さん自身も、引き出された植物のパワーに驚かされています。

 

100a.jpg生産技術 ~出荷期を長くする編~

もうひとつ、横山さんがダイリリにもたらした大きな変革があります。

それは、開花期をずらしてダイリリ全体の出荷期間を長くしたということです。

 

578.jpg「本来ダイリリは10月下旬から11月上旬の2-3週間の間に1年分が怒涛のように出荷され、パッと出荷が終わるという性質なんだ」

短期間に出荷が溢れるから、市場での取引価格も安定せず、生産者さんは余計に手放したくなるわけです。

(申し訳ございませんm(_ _)m)

しかし出荷期が少しでも長くなれば、ダイリリの市場価値が上がります。

 

「開花時期をずらして、10月1日から11月中下旬まで出荷できる体系を確立したよ」

 

おっと!出荷期間が倍以上!!

劇的に長くなり、ダイリリは瞬間芸の花から秋を代表する季節の花へと躍進しました。

IMG_0606.jpg「ダイリリはヒガンバナ科の植物だから、秋に咲かせて冬に葉が出て・・・というのが普通のサイクル。花が枯れると葉が出てくるんだ。

通常の球根類は、季節をずらして開花させる場合、夏に冷蔵庫に入れたりするけど、ダイリリがほかの球根植物と違うところは、花が終わって葉が出た段階で、葉の基幹部分に来年の花芽がもう形成され始めているってことなんだ。

実はこのタイミングで冷蔵庫に入れると、花芽が死んでしまうんだ」

この状態で、既に葉の奥に来年の花芽が形成され始めている。

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 なるほど、花が終わったからといって冷蔵庫に入れることができないところがダイリリの開花調整をできない理由なのですね。

 

IMG_0579.jpg「しかも、花芽は1年かけて形成されるから焦らせすぎてもダメ。なにをやっても、開花調整がほとんど効かない植物なんだよ。」

 

それが商業的に大量生産されない理由の一つでもあるわけですね。

ところが横山さんは「山上げ」をすることによって、開花調整に成功したのです。

 

「平地では暑すぎる夏期に、山梨の高冷地に持っていくんだ(これを"山上げ"といいます)。冷蔵庫ではなく、快適な涼しさの中で花芽を生かしておいて、花芽が顔を出し始めたときに清瀬に戻してパッと花を咲かせる。

球根の開花調整の本を読んで、いろいろな温度と環境の中で試してわかったことなんだ」

 

春が到来してから、一定の積算温度に到達したら(←1日の平均気温が○℃の日×○日続く=数字はオフレコにしちゃおっと( ̄X ̄;))山上げする。

516.jpg山上げで開花をずらすだけでなく、開花率も良くなります。清瀬からちょうど100キロの山梨県忍野村(おしのむら)という富士山の麓へ。季節になると1回山上げするのに5回山梨へ、また下ろしてくるのに5回山梨へ(これを"山下げ"とは言いません!念のため)。

たとえ冷蔵庫に入れたとしても摂氏何度なら花芽が生きていられるか、横山さんは他人が思えば気が遠くなるほどのトライアンドエラーを繰り返して、限界値を知ることができたといいます。

<後編に続く>

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<写真・文責>:ikuko naito@花研

2013年6月18日

vol.100 JAみなみ信州 【後編】品目紹介と日本農業賞おめでとうの巻

前編に引き続きJAみなみ信州の後編は、ダリア以外をご紹介していきまーす!

 

★オキシペタルム

みなみ信州は花でいえば元々オキシペタルムから始まった花き産地です。

・・・ん?オキ△★_ΩΘ?

ソレ何の花?と思われた方へ、ここがこの花が残す大きな課題の一つ。

↓この花のことです。

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 え?ブルースターじゃないの?!と思われた方へ。

厳密にいうとブルースターというのは品種名です。つまり、バラの中のローテローゼにあたる名前です。

従いまして、例えばこの写真の品種名はピュアブルーなので、ブルースターではありませんということになります。しかもブルースターという品種は現在ほとんど流通していません。

むしろ、ブルースターとは全く別の花といっていいほどあらゆる点が改良され、生まれ変わっています。

 

そう考えると、こんなにかわいらしい花の名前が、なんとも難しい学名のオキシペタルム(以下「オキシ」と呼ばせていただくことがあります)という名前で流通しているのが何だかミスマッチに思えてきます。馴染みの薄い名前を使って消費拡大を推進していくのは、大変な障壁になります。この名前はオキシ自身のためにもなんとかしたい課題の一つです。(最近、学名はTweediaトゥイーディアが使われることがあります)

 

なんて、ブーブー(-ε-)言っている場合ではなく、こちらはJAみなみ信州でオキシ一筋30年の池田毅さん

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生産のみでなくオキシの育種家さんでもあり、白、ピンク、紫など様々な色と形と性質のものを生み出されているのです。

P6040072.jpgダリアの周年栽培を方針の軸に据えてから、多くの農家さんがダリア生産に切り替えましたが、オキシの魅力に取りつかれ、今でもなお、オキシの育種、生産から手掛けていらっしゃる、まさに日本を代表するオキシペタルムのトップブリーダーなのです!

 

             

池田さんの心を離さないオキシの魅力とは何ですか?

「初めて見たときにね、"なんだこの絵具を垂らしたような色は!?"っていうスゴイ衝撃を覚えたんだ。片面だけに花をつける面白さと、水彩画のような濃淡。

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オキシと意見が合ったというか、美意識が通じたっていう感じかな」

 

オキシを一目見た瞬間に電流が走ったような感覚ですか?!

いわゆる一目惚れというやつですね、いさん

 

ぬぁんと、早速見つけてしまいました!

さすが育種家さんの圃場には、まだ見ぬ潜在パワーに溢れた逸材が隠されていますね~!

池田さんの圃場で見つけたのは初めて見るオキシペタルム。

ブルーB.bmpでもなくピンクP.bmpでもホワイトW.bmpでもなく、なんとパーポー(←パープル)!

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まさに第4の色Σ(゚口゚;

しかも、この品種は巷で有名なAKB48のおねーちゃんがある日池田さんの圃場を訪れて、「私の名前を付けてください!」ということになり、命名された"マリヤンヌパープル"

なんだか仮想物語のような流れですが、現実のお話。事実は小説より奇なり・・・ですね!

"鈴木まりや"さんという方だったそうで、ニックネームを「マリヤンヌ」というそうです。まりやさんは、今上海のAKBでご活躍中だとか。いーまーい~ずこぉ~♪(「荒城の月」風)

 

しかし、この品種はまだ固定しているところで、すぐ出荷とはなりません。

オキシの品種固定は誕生から10年かかると池田さんはおっしゃいますので、マリヤンヌパーポーのデビューはまだまだ当分先となります。とはいえ、日々花に従事する私たちに将来の楽しみと夢を提供してくださっていますね。

 

 ところで、オキシペタルムの魅力の一つがこの花の中心部分、それぞれの品種が持つ色のコントラストが美しい~(≧∇≦)!

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ん?でもなんでしょ?中心を囲む王冠ぽい部分?!

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これは副花冠(ふくかかん)という部分で、雄しべの一部が変形したものです。その中にスカイツリーのようにそびえ立つのが雌ずい(しずい)、つまりめしべのこと

ん?では本当の雄しべは?

P6040089.jpg「雄しべは中の方にあり外からは見えないんだ。そこに花粉塊が付いていて、蜂が来たときにしたに押し込んだりして受粉するんだよ。人工的に授粉する場合は、筆を使うんだよ」

 

変わり枝を見つけたらそこから10年。オキシの育種はなにしろ気の長い道のりです。時間もかかるし、一度始めたら止められないというのが、池田さんがオキシに30年傾注している理由の一つでもあるかもしれません。ウン探も30年続いて、池田さんの新品種をまたいろいろとご紹介したいですね。

  

池田さんのオキシは、花弁が固く、花付きが良く、花持ちも良いのが特徴です。

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↑切れ目なく連なる花が美しいですね。

花つきの良さ、透き通るような白、品の良さ、ブライダルで使ったら1輪は小さいながら断然目を引きますね。

 

色によっても全く性質が異なるという池田さん。

それは純粋に遺伝子レベルの品種特性なのですが、例えばピンクとブルーの品種は、形は似ていても「人と猿くらい違う!」のだとか。

なるほど、池田さんは性質を知り尽くしている分、私たちには似ているように思える部分も、全く違うことが分かるのかもしれません。西洋の人からしたら、見た目では日本人と近隣アジア人の区別がつかないというのと同じでしょうかね?

 

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私たちとは遺伝子レベルで全く異なるその猿に悪さをされて、池田さんは頭を痛めています。実はサルだけではなく、シカやイノシシなど強敵揃い。

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みなさんアレをご覧ください!LOOK UP!!

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補修されたハウスの天井。なんとサルが飛び込んで来た跡なんだそうで、飛び込んできてハウスが損傷したことがこれまでに5回もあるのだとか。ほんとサル相手に損害賠償請求したいくらいですね!

 

 P6040076.jpg池田さん、ところでオキシの良い水揚げ方法を教えてもらえませんか?(ケッコウナヤム・・・)

「オキシは切り口から白い樹液が出てくるからね、生ける前にそれを流しきった方が長持ちするよ。

一般家庭では切り口を20秒水に浸けて樹液を洗い流せば大丈夫。湯揚げの必要もない。基本的には出荷前に産地で水が上がるように処理しているからね。

今は品種改良されて、以前のオキシとは全然水揚げも花持ちも違うんだ。いわゆるブルースターと言われていた時代とは姿が似ていても、植物としてのポテンシャルは全く違う

 

お~!オキシの世界に改革が起こったということですね。

池田さんとしては、今後オキシの育種の方向性をどのように進めていきたいと思われますか?

「一般家庭用の鉢物になる品種創出を目指す!」

 なんと頼もしい、将来はオキシの新しいマーケットが生まれそうですv(≧∇≦)v

みなさん、みなみ信州から出荷されるオキシに大注目ですよ~!

JAみなみ信州からの月別オキシ出荷推移(大田花き取扱;2010-2012年)

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★アストランティア

またまた難しい名前の花と思われたかもしれませんが、こちらの花のことです。

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見たことある方もない方も、今回のうんちく探検隊で覚えちゃってください!

 

名前はラテン語のアストラ(astra=星weather31.jpg)からきています。その名の通り星のように放射状に光を放つ形をしていらっしゃるではありませんか!

 星の意味から命名された草花はたまに見かけますね。

SK.bmp例えばステルン・クーゲル。ステルンが「星」で、ドイツ語の「星の球」という意味。五角形が集まりひとつの球を形成しています。

 

キク科のアスターもasterも同様です。aster.jpg

 花と星というのは、古来から人々が夢や希望を抱く対象となっていたという点において、何か共通するものがあるのかもしれません。

 

さて、本題に戻りますが、その人々の憧れの的アストランティアを栽培するのが、こちらの坂井貞敏さん・美加子さんご夫妻。

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鋭いウン探読者の皆様なら、お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。 普通のアストランティアより少し色が濃く見えませんか?

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 この品種は坂井さんが自ら選抜されたもので、みなみ信州のオリジナル商品なのです!

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 その名も「みなみレッド」。

写真↑の上がみなみレッドで、下がみなさんがよく見るアストランティアに近い色だと思います。

坂井さんのところでも淡い品種を栽培していましたが、突然変異で濃い品種が生まれ、引き寄せられるように花に近づいて行ったといいます。

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 「それを株ごと引き抜いて、鉢に植え替えて、大切に増やすんだ」

という坂井さん。色ばかりでなく、輪も大きく、どれもその直系は4cm近くあります。

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取材中も休みなく働かれる美加子さんの手を拝見すると・・・

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なんと"アストランティア・タコ"ができているではありませんか!?

↑中指の関節に2個!わかりますか?

でも、どうして手にタコができるのでしょうか。

「こうやってね、手で採花していくのよ。

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そうするとね、だんだんここの皮膚が硬くなって、タコができちゃうの」うふふ^^

P6040038.jpgその口調から、美加子さんは掛け値なくアストランティアに対して愛情を注いでいる様子が良く伝わってきます。 

美加子さんは「アストランティアは形が可愛いだけでなく、散らないし、花粉も落ちない便利な花でもあります。色々なシーンに使ってください」と話します。

 みなみレッドは5-6月を中心に出荷されます。

大田花きでの取扱は以下の通り。(2010-2012年実績)

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★フサスグリ

そして今回、最後の品目、フサスグリ。

こちらは圃場のみご覧ください。こんな風に高い標高の平らな場所で作っているのですね。

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今年の作柄はまずまず。

実付きもなかなかよろしゅうござんしょ!葉も小粒できれいです。

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フサスグリへの要望などございましたら、是非忌憚ないご意見をお寄せ下さい♪

 大田花きでの取扱は以下の通りです。

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★集荷所と清水芳実(しみず・よしみ)部会長

こちらがみなみ信州の集荷所です。

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広いみなみ信州(なんてたって香川県と同じくらいの面積ですから!)では、このような集荷所がいくつかあり、まず生産者さんたちはここに自らの商品を持ち込む、もしくは農協のトラックが生産者さんの商品を集めて回り、集荷されます。

↓生産者さん自ら持ち込む様子

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 ↓生産者さんのところに集荷に回ってきて到着したトラック

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集荷所に届けられた商品をチェックをしているのは、ベテラン選手の佐々木さん。

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「ダリアは全量検品します。

きれいだなと思って見るのではなく、何かあるかもしれないと注意しながら、丁寧にチェックします」

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どのようなところを見るのですか?

「虫などは付いていないか、花傷みはないか、規格に合っているか(ボリューム・長さ)、添付された伝票と申告内容があっているかなどをチェックします。

長さが合っていない場合には市場への送り状の内容を修正したり、虫付きなどがあれば取り除いて入り数を変えたりします」

口調は優しい佐々木さんですが、お仕事は真剣そのもの!ちょっとしたシミや虫付きも見逃しません。

DSC05030.jpg←例えばこの白い"かまくら"という品種。

右側の花弁に黒いポツポツがあるのがわかるでしょうか。佐々木さんは針でつついたようなこのようなシミも見逃すことなく、規格外としてはじかれます。

ここでの選別もみなみ信州のブランド維持に一役買っているわけですね。05055.jpg

 

DSC05028.jpg佐々木さんのプロチェックをパスした商品は、行先を清水さんの采配によって決められ、全国の卸売市場に出荷されます。

 

 

 

どれどれ、大田花きはあるかな~・・・・・

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ありました、ありました!写真左はダリアの久保田直人さん(前編にて紹介)と右側がオキシの池田さんの商品です。

大田花きにご出荷くださりありがとうございますm(_ _)m

  

こちらはみなみ信州の花き部会を取りまとめる部会長の清水芳実さん。清水さんご自身はダリアとリンゴを栽培されています。

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みなみ信州の花き部会の部会長をされていて、大変なことは?

「なんてったって570軒近い部会員がいるからね、顔と名前が一致しない人がたくさんいる。部会長の任期は2年で、私は今1年たったところだから、全員と会ったわけではないし、一度くらい会っても覚えるのは難しいよね。

それから、花も200品目以上作っているから、この花の顔と名前を覚えるのがまた大変なんだよ」

 

花も1年中出荷されているわけではありませんからそうですよね。大きい部会だけに、人も花も覚えるのが大変ということですね。

 「生産者さんの高齢化が問題だったけど、こちらは後継者も出てきて明るい兆し

今年は6億を目指し、将来的には8億円の部会になっていきたいと思うよ」

 

出ました「8億円宣言!」w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)w オォォーーー!!

もうこれは必達ですね。

 

◆清水部会長より消費者の皆さまへ一言

「JAみなみ信州の花を知って、どんどん使ってください。みなみ信州にご注文いただければ、品目もたいていのものは揃います」

 これは頼りになります。みなさん、是非みなみ信州の花を使ってください。

  

◆急斜面を活用した農耕地

標高900メートル付近まで上がってきたところで、ふと目の前に開けた急斜面・・・よく見ればなんとここでも花を作っているではありませんか!?

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 「ヒペリカムとシュウメイギク、栗の木の木陰でアジサイ、ワラビなど、こういうところで70歳代、80歳代の人たちが花生産をしているんだよ」

と説明してくださる塩澤さん。

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ワラビも作っていらっしゃるんですね。 

「ここはマツタケの名産地でたくさん採れるんだけど、ワラビを乾燥させて、マツタケを出荷するときに箱の下に敷くんだ」

みなみ信州はいろいろ収穫できていいところですね。

 

それにしてもこの傾斜!P6040113.jpg

あたくしのフォトテク(写真の技術)ではなかなか伝わらないのではないと思うので、どのくらいのきつい傾斜か、試しにJAみなみ信州にこの4月に入社したピチピチの22歳、中島香奈さんにこの傾斜にトライしてもらっちゃいましょう!

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 ほら!この傾斜を登るのに、苦闘されている様子が伝わりますか?

ピチピチガールの中島さんがこれほど苦戦するほど本当に急斜面なのです!70-80歳代の方たちがその傾斜を克服してこの地で農業を営んでいらっしゃるとは・・・!

この急斜面を克服する工夫はいたるところに。

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P6040123.jpgトロッコレール

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 それにしても、この渡し板・・・幅25cmくらいのこんな細いところをご高齢のおじーちゃま、おばーちゃまたちが渡って日々農作業をされていらっしゃると思うと、心配でなりなりません。くれぐれもお気を付けて!

 

SZW.jpg「猫の額のような狭い場所も、更には急斜面であっても、こうやって農耕地にして 活用することができるんだ」

 

570軒近いみなみ信州の生産者さんは、大規模に花生産されているばかりではなく、傾斜のある小さな面積も花き生産のために耕している方もいらっしゃいます。耕地面積の大小、環境の有利・不利にかかわらず、意欲的に農業に取り組み、鋭利生産されているのです!

 

そしてなんと、この功績が称えられ、2013年3月、全国でも花き部会は初の日本農業賞(NHK、JA全中などの主催)で大賞を受賞されたのです!

こちらが栄誉ある農業大賞カップ

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JAみなみ信州といえば、前編で述べた通り元々はオキシペタルムの産地でしたが、オキシ自体はバラやキクほど消費の多いものではありません。つまり、花だけでそれほど稼げるものではありませんでしたが、生産の主軸をダリアに据え、且つ施設栽培を利用して周年栽培を確立することで、生産金額を劇的に増やすことに成功しました。

 

また、みなみ信州の広大なエリアと標高差を生かした200品目以上の供給を拡大、結果的に長野の産業を盛り上げ、国内に多い山間部を有効活用するビジネスモデルをも作り上げたわけですね。

 

部会発足当初は3.6億円だった販売金額は2011年には5.4億に飛躍。まさに戦略に基づいたみなみ信州の躍進があったわけです。

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さらには猫の額ほどの土地でも花作りを可能にし、おじーちゃま、おばーちゃまたちが生き甲斐をもって、元気に農業に励んでくれるようにした

なんと言ってもこの功績が大きいのです。

 

 

平成25年厚生労働省発表の都道府県別寿命ランキングを見ると、長野県の寿命は男女ともにぬぁんと堂々第1位!

そのくらいご高齢のみなさまがお元気でいらっしゃるということですね。

元気が先か、やり甲斐が先かわかりませんが、もしかしたら花き生産という農業でみなさまの生き甲斐を作ったことも、本年発表で男女ともに1位に輝いたことに貢献しているのかもしれません。

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そして、彼らの燃える花魂に火を点けたのがチャッカマン塩澤さんなのです。 

プラス部会全体の団結力と実行力なしではこのような名誉ある賞はもらえません。この賞を受賞したことが、また生産意欲向上に繋がり、みなみ信州の大車輪は大きく前進しているのです。

日本の花き産地としてピリリと辛い、そして大きな存在感を誇るJAみなみ信州なのでした。

  

◆JAみなみ信州の格言  「日本農業賞受賞おめでとう記念」バージョン

・ダリアは電照栽培を使い、周年出荷を確立すべし。全国唯一の産地になる!

・ダリアの土は団粒構造がベスト!ダリアは土が作る!んだども、土はオラたちが作る!

・ダリアとの出会いは神様の贈り物。歯を食いしばって頑張れば、きっといい出会いがある!

・傾斜のきつい山間地も有効活用すべし!農作物は花がいいね!

・JAみなみ信州をJAみなみ信州たらしめているのは、地の利と技術とやる気とネットワーク

 おじーちゃま、おばーちゃまから20代の若手選手まで、みんな「明るく楽しい花生産」に取り組んでいます!

花作りの生き甲斐が生産者に活力を与え(・・・かどうか定かではありませんが、願わくばYES!)、長野県は全国1位の長寿県という実績を誇ります! 

 

◆ホットなニュース

rinia.gifちょうどみなみ信州に取材に伺った6月3日、14年後の2027年に開通予定のリニアのモデルがお目見えしたとニュースになっていました。このリニア、正式名称を「リニア中央新幹線 LO(エルゼロ)系」といい、東京から大阪間を時速500キロの猛スピードで結ぶ夢の特急網です。 

そんなハイパー特急リニアが、なんと飯田に停車しみなみ信州の管内を横断するようになるのです!東京-名古屋間が40分だというので、飯田へは東京から30分程度で着いてしまうということでしょうか(驚)!

 

今回は飯田まで新宿から高速バスで4時間かけてお邪魔しました。人口約10万人の飯田市、みなみ信州の管内では17万人の商圏でありながら、住民のみなさんにとっては県外へのアクセスは大変不便なものでした。

ところが14年後には東京への日帰り出張をも実現してしまう夢のリニアなのです!

開通するころには飯田の産業もインフラも大きく様変わりすることでしょう。

全国一の長寿県にありながら、国内でも随一の成長株、みなみ信州!

これはもうみなみ信州の発展に目が離せません!

みなみ信州の花からも目を離さないでください(≧∇≦) !

 

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<写真・文責>:ikuko naito@花研

 

2012年11月21日

vol.98 奥 隆善 氏(チョコレートコスモス)後編

前回の続きで、育種家の奥隆善さん後編です。

さて、ここでハボタンも少しだけご紹介いたします。奥さんはこれから旬を迎えるハボタンも育種、生産されています。
↓ハボタンの圃場
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大田花き営業担当のYモトによると、奥さんのハボタンは、こんな感じなんだと↓
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ナヌ??(・_・*)(*・_・)(*~^~)/??
全然わからん。ハボタンてこんな形だったっけ?
スプレー状に頭がたくさん付いていて、根も付いているってこと?(上も下もスプレー??)

「そうなんですよ」
とYモト。
これはただならぬ気配・・・

こちらが、奥さん的スペシャルハボタンの圃場。
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摘心をして、スプレーに仕立てています。
しかもこれだけきれいに高さも頭のサイズも揃って、巻きも美しい@@@
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「ハボタンをスプレーに仕立てるのはとても難しいんだ」と奥さん

Yモトに聞いても、現時点で奥さん以外にあれほどきれいなスプレー仕立てができる人はいないんじゃないかといいます。

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「普通のハボタンよりも栽培に2カ月長くかかるよ。その分、虫や病気のリスクも上がるし、台風対策もしなくちゃいけないし、コストがかかる割には製品率が低いからね、大変だよ。そして技術は意外とローテクなんだ。でも、できるだけ手間がかけずに製品率を高めるような技術を確立したんだ」


どうのようにやっていらっしゃるんですか?


「チッチッチ。それは言えないな」ヒミツ(o′З`)b☆


これは、ウンチク探検隊の切り込み術を以ってしても、スプレー仕立てにする秘密は門外不出と教えていただけませんでした・・・(+_+)チーン!修行が足りん!


では別のことを教えていただきましょう。
どうして根付きでご出荷されるのでしょうか。何か意味があるのでしょうか?

「① 日持ちが良い
② 気持ちが良い
③ 縁起が良い」

なるほど“良い”ことが三拍子揃いましたね。
効率も良いのですか?

「効率は悪いかな(笑)。
気を付けて慎重に抜かないといけないしね。
でもお正月は縁起物が大切。効率は関係ナシ!」

なるほど、あくまでもユーザー目線を離れない奥さんのポリシーは、何を作るにしてもぶれることがありません。

そしてハボタンの圃場でも見つけました!「外側が大きくなる」現象。
端の株が一回り大きくなっているのが、写真からご覧いただけると思います。
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この露地の場合は、そこだけ土質が砂地になっていて、水はけが良い分、生長も早くなってしまうのだそうです。それも「泥に交じって土質を研究し尽くしてわかったこと」。

輪サイズも測ってみると、直径が異なります。
↓圃場の中の方は、仕上がりの直径10cm程度。
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ところが、“外側”の直径は、なんと15-6cmにもなるのです。
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直径が小さい物の方がキュッと締まって、巻きも多い。しかし、外側はだら~ん、びよ~んと・・・(あ、失礼)・・・ってほどでもありませんが、プロが見ればわかるくらいの違いではありますが、巻きが甘く、全体的に大きくなってしまっているのです。
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「だから“外側の商品”は極力大田花きには出荷しない

ありがとうございます!


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話をチョコモスに戻しまして、みなさんが不思議に思っていらっしゃるであろうチョコモスの色についてご説明したいと思います。

101b.jpgチョコモスはなぜこんな色をしているの?

チョコモスの色はアントシアニンとカロチノイド
からできます。
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「アントシアニンは紫外線と酸素で誘導されるんだよ」

なるほど。奥さんの施設に張ってあるフィルムは、紫外線を透過するものなんだそうです。
同じ透明のフィルムに見えても、紫外線を通すものと通さないものとがあるのだとか。
施設内で作れば、昼夜の温度差も大きくなり、よく丈が伸びる上に、紫外線も着色に十分な強さを吸収することができるので、その分品質の良い物ができるのです。


101b.jpg増殖は?

チョコモスは挿し芽で殖やします。

「放っておいたら、生き残れない」と奥さん。

チョコモスは自然に殖えない品種です。美しい一面のコスモス畑はご覧になったことがあると思いますが、チョコモスは放っておいてもあのようにならないわけです。

なぜでしょう。

「自家不和合性が高く、・・・つまりチョコモス同士では、タネもできない。

野生のチョコモスは絶滅したとされている。チョコモスは園芸界のトキかパンダみたいなものなんだ」

それを人の手によって命を繋いで、生活者の皆さまが楽しめるようにする。 
そこにひとつのチョコモスのワンダーがあるのです!
この世のチョコモスはすべからく人の手によって種の保存が図られたもの。
種で殖やせるようになるのが次世代チョコモス育成の課題だと奥さんは言います。

こちらは奥さんの作業場。
あちらで作業をしていらっしゃるのは、奥さんの奥さんですか?
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「母です~」(*^-^*)


あ、お母様でいらっしゃいましたか。これまた失礼いたしました。
あまりにも若々しくハツラツとされていたものですから^_^;
奥さんのお母様で奥泰子(おく・やすこ)さんです。


泰子さんの主なお仕事は、こちらの出荷場で品質チェックと選別、梱包をすることです。
25本ずつ束にして、50本1ケースでご出荷いただいています。
しかし、奥さんはいつも26本と、1本多く入れていただいています。
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「保険だよ。お客様に迷惑かけちゃうといけないから」

なるほど、奥さん親子ならではのお心遣い。


アラ?なんだか出荷場の中を見ていると、不思議がたくさん!
まず1つはすんごい数の軍手、軍手、軍手!!!アッチ見ても、コッチ見ても!
一体、何人の従業員様がいらっしゃるのでしょうか。
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「私と母だけだよ。アルバイトもなし」

え!?
じゃあ、この軍手は何にご利用されているのですか?

「使い捨てなんだ。ウィルスとか入らないように、使い捨てにしているんだよ。

古くなるまで使っていては衛生面が保てない。
これらの軍手は手を守るためではなく、植物を守るための物なんだ。
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使い捨てなのに、洗濯して干してあるのはどうしてですか?

「私が捨てると、父が拾ってきて、自分の趣味の園芸に使うんだよ・・・(笑)」

だからなんですね。奥さんが使う時はいつも新品を下ろします。
ハサミも圃場で使うものはさておき、親株に使うものは、1回1回必ず消毒をするそうです。
大きなトラブルを未然防ぐこと。これが大切。ウィルスとかの病気は一見わからないけど、ある日突然ドカーンとやってくるんだ。

例えばタバコにもウィルスがあるって知ってる?」

タバコですか?すみません、勉強不足で・・・(+_+)トホホ

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「乾いたタバコにも、タバコモザイクウィルスという、とても感染力が強いウィルスがいるんだ。
モザイク病という植物の病気を引き起こすウィルスだよ。

だから、スモーカーは圃場にも作業場にも立ち入り厳禁にしている。たとえお客様でもご遠慮いただいているんだよ」

いがっだぁ~、ウン探はノン・スモーカーです♪
その時にタバコを吸っていなくても、入場厳禁。なぜならスモーカーの手には、既にウィルスが付いているからです。
特に苗を管理したり、親株がある圃場は、一つ一つの作業でコマメに消毒をするのだそうです。
軍手といい、この徹底ぶりは奥さんのプロ意識の賜物!


この秘密の小部屋は何でしょうか。
作業場の奥でドア越しのぽわ~んと光る幻想的なスペースを見つけました。
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なにやらフラスコ苗らしきものがたくさん置いてあります。よもや・・・
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「私のバイテク室だよ」

やはりッ!さすがバイテク修了した奥さんだけあります!個人でバイテク室を所有している方は初めて拝見いたしました。

「培養(=殖やすこと)をしたり、バクテリアのあるなしをチェックしたり。時間も忘れて、夜な夜なここにこもって組織培養などの仕事をするんだ」

バクテリアが付いていたものと付いていないものをシャーレーでチェックすると、こんな感じ。

ギョ(@_@;)↓バクテリアが付いていた場合     ↓付いていない場合
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奥さんはこのくらい繊細に、一つ一つの苗が正常な状態であるかどうかをチェックしているのです。


その姿はこういう感じ。
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このようにして、新品種の開発や無菌の質の良い親を培養しているのです。

うわぁ~、ココ一帯だけ突然理系な感じ。
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この大きいタンクは「高温高圧滅菌機」
キッチンにある圧力鍋と同じ。これで煮物作るとおいしいんですよht17.jpg
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こちらは、マグネティックスターラーといって、マドラーのような棒やオタマジャクシを使わなくても、中身をグルグル撹拌できる秘密兵器。マグネットでこれがクルクル回ることで撹拌される。
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すんごいバリエーションに富んだピペット群!
“ピペット”という音自体が懐かしいなぁ。
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「ピペットもそれぞれに名前があって、これがコマゴメピペット、これがメスピペット、これがパスツールピペット、★Θ▲×Σピペット・・・」

あぁ、もうい~です。。。(+_+)ムズカシ


とまあ、ネット上のこのコーナーにご紹介させていただくには多いくらいの情報量、しかしアタクシのノートの中に眠らせておくにはもったいないくらいのオモシロ・ストーリーなのですが、ざっくばらんな性格代表のアタクシにえいやーとまとめさせていただければ、奥さんのチョコモスをスペシャル品質たらしめているのは・・・

“ひたむきな情熱と、この上なく緻密な仕事”です。

軍手やハサミの取り扱い一つとっても然り!


たとえば、この日、外国から仕入れた苗をプラグ苗用のトレイに入れる作業をしていました。
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その作業たるや、動きに無駄がなく、美しく、丁寧だけど素早く、この器用そうな手先ですいすいと仕事を片付けていくのです。
なんだかもう、犬で言う“腹をご主人様に見せて何でも言うこと聞いちゃいます”と言っているかのごとく、土も苗も意思を持った生き物のように、奥さんの思う通りに動いていくのです。
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そして、それほど能力のある奥さんが、例えば大企業でスター選手として活躍するでもなく、或いは独立されて大規模経営するでもなく、なぜこのようなスタイルで営まれているのか、・・・ま、愚問かもしれませんが、聞いてみました。

「自己責任でやれば、言い訳をしなくて済む。
また経営は、規模ではなく質を向上させたい」

というポリシーがあるからなのです。

このような独立心の強い奥さんがこの伊賀の里に生まれたのか・・・ということですが、これはあくまでも一探検隊員としての見解にすぎませんが、
“ココが伊賀の里であるから”だと思っています。


つまり、この辺りの忍者の里と呼ばれるところは、奥さんから教えていただいた通り、元々は土着の豪族が治める土地でした。しかし、朝廷や幕府などの国家勢力が山を越えて攻めてくるわけです。

そこで、豪族たちは「我らが土地だ!」と武装して、敵が山を越える前にゲリラ戦や奇襲戦で応戦していたのではないかと思います。応戦する際には山を目に見えぬ速さでシャカシャカと走り回っていたでしょうし、相手を罠にかけようと山に穴を落とし穴を掘ったりして様々な仕掛けを施したことでしょう。

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この辺りに忍者の里と言われる所が多いのは、このような武装した土着の豪族が元だったのではないかと思いました。
マンガのハットリ君のような「はっとトリック」のような忍術はどこまで本当か定かではありませんが、元々はそのような武装した土着の豪族から、忍者と呼ばれる人たちが生まれたのではないでしょうか。
また、奥さんのような独立心旺盛な方がこの地に生まれたのは、国家勢力に迎合することを潔しとしない、この辺りの里山気質を反映してのことではないかなと。

中でも伊賀忍者は、野草を薬草にすることを研究したそうです。つまり、伊賀忍者の末裔は薬屋さん。
奥さんの研究熱心なところも、この土地の気質を反映しているのかもしれません。

仕事の緻密さもひたむきな姿勢もまた、奥家のDNAとこのお土地柄が色濃く反映された結果ではないかという思いを馳せながら、帰路に就くウンチク探検隊でした。
推測が違っていたらすみません。


ところが「僕の祖先は忍者ではなく武士です」と。
なるほど、奥さんのご自宅は武家作り。脇の小道は、まるで帯刀した武士が、威風堂々歩く姿が見えてきそうです。
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101b.jpgそもそも、どうしてチョコモス?

奥さんはどのようにしてチョコモスに出会い、育種人生を懸けるまでになったのでしょうか。

「腐れ縁だよ」

あ、今、4,000字くらいのストーリーを“腐れ縁”の3文字で片付けようとしましたね(-ε-)

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「うん、まあ簡単に言うとね、最初の出会いは学生の時に見たカタログだったんだけど、写真も不鮮明だし、妙に黒いし、フェイクだろうと思っていたんだ。だけどアルバイトをしていたお花屋さんで仕入れた実物を見てみると、本当に黒くてかわいくて、本物のチョコレートのような香りがあった。
 ↓
そこで、試験管の中で挿し芽をしてみたら、うまくいった。
 ↓
殖やしていたら、研究室の教授にチョコモスは「野生の条件下では絶滅したものだ」と教えもらった。
人工的に殖やそうとしなければ、生き残れない品種だってこと。“自家不和合性”が強く、花粉が付いても、種ができないんだ。でも、チョコモスでもあっちとこっちの品種だったら、受精できるのではないかと教授が背中を押してくれた。
 ↓
別の准教授に「キバナコスモスを育ててみない?」と勧められて、チョコモスの隣に植えた。
 ↓
するとある日、子房が膨らんでいてね。“もしかして、タネできた?”って思った。
 ↓
でも結局枯れて、タネは採れなかった。胚珠培養(※)ならいけるかも!?と思ってやってみたら、うまくいったんだ。

※胚珠培養
異なる品種の間で交配すると、受精はしても胚(=エンブリオ、人間でいうところの胎児)が発達しにくい場合がある。そのようなケースにおいて胚珠を人工培地に移して培養する方法。子房ができれば、そこから胚珠を取り出すのは比較的容易。


でも“チョコモスの子供ができた!”と研究室で報告したら、“大丈夫、何か間違いだよ”と皆に一蹴された(笑)。
 ↓
そこで花を咲かせてみたら、見たこともない赤い花だった。
虫がキバナコスモスと受粉してくれていた。虫はチョコモスだろうが、キバナだろうが関係なく花粉を運んでくれる。
チョコモスとキバナコスモスとを隣に植えさせてもらったことが運命だった」
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それ以来、奥さんのチョコモスに対する飽くなき探求が続いているというわけです。

「チョコモスの件でメキシコの大学の先生のところにお話しを伺いに行ったり、今度はその先生がココ伊賀の里まで遊びに来てくれたりしたこともあったよ。
コスモスを通じてインターナショナルな付き合いが始まったんだ」

花は言語を越えて、人と人とを結び付ける。・・・奥さん語録④


あ、ちょっと待ってください!
お話を伺っている間に・・・あれれ~???!!!∑(゚ロ゚!)
奥さん!一斉にチョコモスの元気がなくなってきちゃいました!
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大丈夫ですか、この状況?
水不足?
それとも寒くなったから?どうしよ、どうしよッ??(汗)アワワ

「チョコモスは夜になると寝るんだよ。

たまに“首が曲がっているから”と返品になったりするんだけど、それはチョコモスの性質なんだ。太陽が上がればまたピンとする。

チョコモスの首が曲がってきたら、夜になった証拠。一緒寝てください」

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chocomos.jpg奥さん語録集

“外側”の商品は極力出荷しない・・・特に大田花きには、よく選別して出荷していただいています。奥さんのチョコモスは信頼の印!

花生産はP-Q-S!・・・Price(価格)、Quality(品質)、Style(形態、流通面)をお客様の求めるものにシフトせよ!

泥の気持ちは泥になってみないと分からない・・・農業を始める時は、泥まみれになってでもその土地の地形や地質を徹底的に調べるべし!土質のみならず、全てに対する飽くなき探求心が必要!

花は言語を越えて、人と人とを結び付ける・・・すヴぁらすぃ!(≧∇≦)

湖は生きている・・・農業はその土地の歴史を知ることに始まる。Explore Japan!


chocomos.jpgチョコモスを小売店頭であまり見かけたことのない方へ

チョコモスはこの時期よくウェディングブーケなどによく使われます。
“え?赤黒いのが?”と思われるかもしれませんが、この時期のウェディングブーケで“シックな秋”と“大人なニュアンス”を演出するのに、チョコモスの品の良さがピカイチなのです。
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(写真ご提供:pianta様)


chocomos.jpg奥さんから消費者の皆さまへひとこと


・ チョコモスは鮮度保持剤を必ず使ってください。
  そうすれば決して日持ちの短い品目ではありません。

・ 夜は首を曲げて寝るので、枯れたと思って驚かずに、一緒に寝てください。

・ 伊賀の里から情熱を込めて作られたチョコモスを是非使ってください。


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超おまけ的 伊賀の里雑学のススメ☆☆☆

そしてここは何と松尾芭蕉生誕の地でもあるのです。
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ここが芭蕉の生家。正保元(1644)年、次男としてこの家に生まれたそうです。

そしてその隣が奥さんが生まれた病院!昭和52(1977)年、奥家のご長男として生まれました。
只今、花嫁さんを大募集中です。奥さんのところにお嫁に行ったら、きっと幸せになれますよ。
丸1日お世話になったウン探が保証しますht17.jpg

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<写真・文責>:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg

2012年11月20日

vol.98 奥 隆善 氏(チョコレートコスモス)前編

は~い!みなさん、お久しぶりでございます(≧∇≦)!
今回は、近年人気急上昇のチョコレートコスモスを特集しちゃいます!
しかも、取材先はチョコレートコスモスの育種からやってしまうという三重県の奥隆善(おく・たかよし)さんです!


“あ!その人知ってる!”とか、“どこかで見たことあるなぁ~”という方は、なかなか冴えていますね。なんと奥さんはNHK番組の『趣味の園芸』などにもご登場される業界の有名人なのです!若きホープなのです。

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さすが、撮影慣れしていらっしゃるのか、
そのスマイルは爽やか~ン≧(´▽`)≦
この爽やか奥さんがどのような思いでチョコレートコスモスを育種、生産されていらっしゃるのか、その秘密に迫ります!


その前にチョコっと一言、チョコレートコスモスは長い名前なので、流通に携わる人の間では略して「チョコス」とか「チョコス」などと呼ばれます。
仮にここでは「チョコモス」と呼ばせて頂きたいと思いますので、宜しくお願いしモス!!

さて、その奥さんのチョコモスですが、現在市場ではどのような評価を得ているのでしょうか。大田花きの営業担当S藤(イニシャルトークの必要ないんだけど^_^;)に聞いてみました。

「ピンと立つんですよッ!茎の下の方を持つと、こうやって、ピンッて」(ゼスチャー付き)
なるほど、イメージ的にはとても細い茎なのに、背筋を伸ばして自立しちゃうんですね。


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「それから買参人さんに“チョコモスいかがですか?”とご紹介させていただくと、
“え~、欲しいけど、奥さんのじゃないといやだぁ~ht17.jpg”って言われたりするんですよ~☆ウフ
ピンと立つ茎、胸がキュンとする輪サイズと色載り、奥さんのチョコモスはピカイチですね」

S藤からかなりの高評価!
antiquered.jpg(品種:アンティークレッド)
ウン探のスイッチが入りましたモチベーションUP☆いざ出陣です!


やってきましたのは三重県伊賀市。
そう、伊賀と甲賀の伊賀です。ニンニン!!
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ここは周囲を山に囲まれた伊賀の里。
あの山の4087.jpg向こうが甲賀の里
近くには信楽(しがらき)が。タヌキの信楽焼で有名ですね。

そしてこの先が4088.jpg柳生の里
おっと、柳生十兵衛の柳生の里ですかぁ?あの全盛期の千葉真一が扮する柳生十兵衛??

キャーッ!懐かしい~(≧∇≦)って、あまりいうと年代がばれるのでホドホドにしつつ、
「そう、この辺りは全部忍者の隠れ里だよ」
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と今回の主役兼ナビゲーターの奥隆善さん登場!


「●賀とつくのはその昔、忍者が住んでいたところなんだ。

でも伊賀は忍者云々の前に、地方豪族が住んでいたところ。忍者の里というよりは、土着の豪族の土地なんだよ。古墳もたくさんある。前方後円墳もいくつかあるよ。畑にしちゃってるけどね」

(; ゚ ロ゚)ギョッ!えッ?前方後円墳、つまり古代の御墓の上で何か作っちゃってるってことですか?
いいんですか?そんなことッ??(・_・;)_・;) ナントッ!!

「いいも何も、ダメって言われる前からそうしているんだよね。だから今更ダメッて言えない。
石室が残っているのに、前方後円墳の“円”側で果樹を作って“方”で野菜を作ってたりね(笑)。
これがまたよくできちゃんうだよ、土がいいから。」

土がいい・・・?

「この辺は大昔、琵琶湖の底だったんだよ」

び、琵琶湖っ??
琵琶湖って2つあるんでしたっけ?「琵琶湖1」「琵琶湖2」とか?
滋賀県にある琵琶湖はドッチなんだろ?あっちが本家の「琵琶湖1」かな。
あれ、ココ何県でしたっけ?あ、三重県か。「琵琶湖1」まで何キロあるんだろ。あー、もう全然ワケわかんなくなってきました。

奥さん、琵琶湖って、あの琵琶湖ですか?滋賀県の?

「そうだよ。湖って移動するんだ」

えッ∑(゜◇゜;)

そ、そんな。学校では誰も教えてくれませんでした。(多分)
奥さんのお話によると、“湖は生きている”
琵琶湖の誕生はおよそ400万年前。バイカル湖、カスピ海に次いで古い世界有数の古代湖なんだそうです。もともとはココ伊賀に生まれ、それが地殻変動で北に移動して、現在の琵琶湖になったということです。

なんて物知りな方なんだ。(T_T)感動

「湖の底に土だったから、粘土質なんだよ。だからたいていの物は締まってよくできる。

ただ、さっきの“古墳”ていうのは、粘土質の土に黒ぼくという肥沃な土を盛り上げて築かれているみたいで、とても排水が良かったりするんだけど、排水の悪い粘土質だと育ちにくい植物にも向いているということなんだ」

なるほど、粘土質ということは、近くの信楽で焼き物の技術が発達したのもその影響があるのですかね。

さて、この辺りのことを少し知ったところで、こちらが奥さんの圃場です。
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奥さんの育種生産に関するこだわりの要素は、「日月火水木金土」に象徴されます。
曜日とは関係ないのですが、なぜかハマりました。ですから、これに沿ってご説明したいと思います( ^―゜)b


101b.jpgまずはから。
潅水について。株元にパイプを通して潅水します。
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「でも1週間に1回くらいかな。それ以上やると、よく丈は伸びるけど、茎が柔らかくなってしまうんだ」


なるほど、この通り、水をやった直後でも土の表面は乾いています。
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「施設内でも外側の畝を見てごらん。そっちの方が全体的に背が高いでしょ」

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あ、ほんとだ!どうしてですか?

「雨が降ると、どうしても外から水が入ったり、地面に浸み込んだ水を吸い込んで、丈が伸びやすくなるんだ。早く育って丈は採れるけど、茎が柔らかい。
このような外側の商品は極力大田花きには出さず、場合によっては廃棄したりするよ

なるほど~!
水のやりすぎは厳禁!意図していなくても、自然に水を吸って育ってしまう“外側の商品”は、茎が柔らかいだけでなく、日持ちにも影響してくるそうです。
大田花きには施設の中央のものからご出荷いただいています。
S藤が言っていた細くてもピンッと立つ茎の秘密は、1つここにありました。
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“外側の商品”は極力大田花きには出荷しない・・・奥さん語録①

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株の育て方です。


ピンチをして生かす花芽を考えたり、バランスを整えたりするのですか?

「ピンチはしていないよ。
ピンチをする必要のないものを育種段階で作っていくんだ。」

つまり、育てやすい品種を育種するというわけですね。

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そして“花はPrice-Quality-Style”という奥さん。
Price(価格)小売に合った価格で提供する。また提供できるよう、生産コストを管理する。

Quality(品質)=お客様が求める品質になるよう作り方をシフトする。自分が求める最高を目指すのではなくて、お客様が求めるものであることが重要。

Style(形態、流通面における要素)=流通のための箱、形態、作業効率、梱包時刻や出荷時間など、どのようなスタイルを採るのが最適かを考える。

これらの点のそれぞれを追求してチョコモスを生産する。持続可能な農業生産を行うには、これが大切な要素だと奥さんは言います。

花はP-Q-S・・・奥さん語録②

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ところで奥さん、千葉大大学院をご卒業されたということですが、何を専攻されていらしたのですか?

植物細胞工学だよ。
英語でPlant Cell Biotechnology(プラント・セル・バイオテクノロジー)だから、略してバイテクって言われたりするんだ」

へー、ザイテクですか。

「ザイテクじゃないよぉ。バ・イ・テ・ク
財テクなんてやり方全然わからないよ。お金には縁がない」

円には縁がないんですか・・・。(デタデタ^_^;)

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「ここで農業を始めたときは、大学院を出たばかりでお金ないし、実家は農家じゃないし、農機具も揃っていないし、施設もない。ゼロからだったよ」

就農資金も十分にない状態でどのように始められたのですか?

「水田の土地だけは少し持っていたからね、そこを耕して露地で始めたんだ。
アサガオ、ケイトウ、エリンジウム、モルセラ、ミント、カラー、グラジオラス、麦ナデシコ、フウセンカズラなどなど、色々やったよ」


奥さんは、現在切り花ではチョコモスとハボタン、ナズナをご出荷くださっています。
この3つに辿り着いた理由は何ですか?

「まず一つは育種をしたかった」

バイテクを修められたわけですから。

「だけど一般的に“育種は10年不採算”と言われるほど収益性は見込めない分野。だから一方で何かを生産しなくてはならない。

自分の持っている水田で露地でこの気候でできるものは何かって考えて、色々やってみて、その結果だったんだよ」

伊賀は三重県ですから、ひょっとしたらみなさんは暖地性の気候というイメージを持たれるかもしれませんが、奥さんによると実は内陸性で結構寒いといいます。春の到来は遅く、冬は早い。この気候と限られた資金と持ち合わせた土地という条件で、トライアンドエラーを繰り返して今の奥さんがあるのです。

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この辺りは先述のように粘土質(伊賀古層)で、関東ローム層とは異なり花崗岩に水や空気が入りながら風化したものなのだそうです。

う~ん、さっきも粘土質で何でも締まってできるとおっしゃっていましたが、粘土質だとなぜ何でも締まってできるのでしょうか。σ(゚・゚*)ンート・・・

「砂地っていうのはサラサラしているから、水はけがいい分、肥料の持ちも悪い。

粘土質はその逆で、肥料や水の持ちが良く、また根が伸びるのに力が必要な分、ゆっくり根が発達する。時間をかけて生長するから、株ががっちりと固く生長するんだ。

でも、伊賀の土が他と違う分、同じ花や野菜でも育てる品種が違ってくるし、使う農機具も異なってくる。
種まきひとつから伊賀地方に合った育て方をしないと、本やテレビで紹介している一律の方法ではうまくいかないことがある」

なるほど~、伊賀には伊賀の農業があるわけですね。この土地だけの最適農業が。

そこで奥さんは「伊賀農業の伝道師」として、地元のケーブルテレビにレギュラー出演されたり、地元の公民館で園芸教室をされたりして、伊賀農業の啓蒙活動を行っています。

「少なくとも失敗しなければ園芸は楽しいはずでしょ。だからその地域に合った農業を提唱して、楽しい園芸を伝えていきたい。
延いては消費アップに繋がるわけだから。各地域でそういう最適農業を伝授できる人がいるといいなと思うよ」

ヌァント素晴らしいスピリット!


「それに粘土質って言っても、何でも一辺倒じゃないんだ。
砂利採取なんかで土を移動させてる場所もあるから、同じ水田の中でも土は違ったりするんだよ。

だから、最初は雨が降ったら長靴を履いて、泥まみれになってこの水田の土の性質はどうなっていて、どこに水が溜まって、どこにどんな畝立てをしたらいいのかなど、徹底的に調べたよ。泥の気持ちは泥になってみないと分からないからね」
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蓋し、名言!!(≧∇≦)
普通は泥になれんもんなぁ。そもそも泥になろうとも思わんて。この名言が出るっちゅうことは、それだけご苦労されて土質を研究し尽くしたということやろな。

「この施設は農業高校で非常勤講師などをやって、コツコツとお金を貯めてやっと建てたんだよ。最初から良い施設があったら徹底的に土質を調べるところまではやらなかっただろうね」
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もう、奥さんに脱帽です。


実際、チョコモスの場合は、どのような土が適しているのですか?

「少しアルカリ性の土がいいね。だから少量の石灰を入れて、ミネラルを供給する。そうすることで固くしっかりしたものができる。

しかし、何よりも堆肥を中心に混ぜることが重要なんだ。堆肥を入れることにより、植物の生長に必要なアンモニア態窒素を絶えず必要な分だけを供給することができるんだ。
しかも株の勢いが保たれるし、老化しにくい」

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つまり、堆肥を入れることでアンチエイジングの秘薬のようなものが手に入るってことですね!
アタシもほしぃーーー!


「でも化学肥料も使うよ。
有機農法の良いところと化学肥料や近代農法の良い所を組み合わせているんだ」


ところで何の堆肥ですか?
「伊賀牛の牛糞と・・・(なんて高級そうな響き≧∇≦!)豚糞と伊勢赤鶏の鶏糞のミックスだよ」
うわぁ!地元の高級そうな響きの畜産ブランドのミックスによって最適な土が作られているわけです。


泥の気持ちは泥になってみないと分からない・・・奥さん語録その③

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太陽ですね。
露地で作っていると太陽の光が強すぎて、品質が頑丈になりすぎてしまうといいます。

「だから、施設の中でフィルム一枚通した光がベスト!もっとも細くて美しい姿をしていながら丈夫なものができる。
それからコスモスは短日(たんじつ)植物※、しかも“量的短日植物”といって、少しでも日が弱いと“日が短くなった”と感じて早く花を咲かせる。だから、フィルム1枚くらいがあるとちょうどいいってことなんだよ※」

※短日植物:ザックリ説明すると、日が短くなってくると花芽を付ける植物のこと。しかし、本当は夜の長さを感じて花を咲かせるようになるので、“長夜植物”というのが正解。
量的短日植物:これに対し、“質的短日植物”というのがあり、絶対値として●時間暗くしないと花芽が付かないという植物のこと。ポインセチアなどがこれに当たる。


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月の巡りに合わせて、毎年同じようなタイミングで植え付け作業をしていきます。

「植え付けるサイクルは大切」という奥さんは、毎月第何週に何をするという作業スケジュールは最初から決まっているのだといいます。
これを忠実に実践していくところが当たり前のように見えて、とても大切なことなのです。


101b.jpgそして最後に

これは冬の暖房・・・と思ったみなさん!イヤイヤ
それも確かにあります。出荷を急ぐために、暖房をジャンジャカ使えば、その分収量もスピードも上がりますが、茎は柔らかくなってしまいます。

いかに暖房を使うかというのも大切なポイントではありますが、ここでは「火」を奥さんの情熱に喩えたいと思います。


GF.jpg元を辿れば、幼いころは金魚のブリーダーになりたかったという奥さん。それが小学校5年生の時に、園芸好きのお祖父さまからもらったハボタンの種をきっかけに植物の道にハマって行きます。
これはまさに隔世遺伝!

そのタネをまいて出てきた芽を見た瞬間、奥隆善少年は、
illust311_thumb.gif「美しい!」*(о☯‿☯о)*キラキラ

と思い、植物へのスイッチが入ったといいます。

中学生になってからは、短日植物のアサガオを題材にして、“日が短くなったのを感じるセンサーは植物体のどこにあるのか、本葉ではなく双葉にもそのセンサーは備えてあるのか”を自ら研究するため、本葉が伸びてきてはちぎって・・・という実験をしていたといいます。
アタシャ、チューガクでなにやっとったかな。スゴイナ

それで、双葉だけでも開花したのでしょうか。
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「したよ。奇形だったけどね」

その感動は現在に至っても忘れることなく、心の中に秘められた植物に対する情熱は、表に現れた温厚な笑顔に反して、とても熱いものがあると感じました。


伊賀には伊賀の農業がある。それぞれの地域で、それぞれのやり方がある。テレビや雑誌などで紹介されるやり方と同じやり方をしていたのでは、うまくいかなくなって園芸離れを起こしてしまうと、自ら地元の園芸伝道師を買って出る気概と熱意。金儲け主義に走らず、強いポリシーで地元で育種と生産をコツコツ続けながら、ひたむきに植物を愛するピュアな心。
もうこれは、ウン探は“恐れ入りました”と頭を下げるしかありませんでした。

☆後編に続く・・・
後編はハボタンや奥さんとチョコモスの出会いなどについても語ってもらっちゃいます!
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<写真・文責>:ikuko naito@花研

2012年7月16日

vol.96 ワイルドプランツ吉村(長崎県)

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ウンたん、長崎に初上陸ぅ~!!

♪あぁ~、長崎はわぁ~あ~あ~、今日もぉ~、あめぇ~~~だったぁ・・・♬♫
(若い世代の方、わからなかったらスミマセン!)

ほんまに雨ですわillust1036_thumb.gif

それも半端ない。分厚い雲が立ち込めて、お天道様はどこへやら。


長崎ではちょうど田植えが終わったところ。
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ここ数週間続く大豪雨で農作物への被害は深刻。
これからお邪魔する産地さんは大丈夫かな~と思いを巡らせつつ・・・。


さてみなさん、長崎で有名な場所といえば??


島原の乱の島原に普賢岳で有名な雲仙、干拓で有名な諫早、江戸時代唯一の貿易地出島(既に埋め立てられていますが)、オランダの町を再現した魅惑のハウステンボス、核兵器の根絶と世界平和を祈る平和公園などなど。


自分の出身地でも居住地でもないのに、これほどいくつもを知っている県もそういくつもないでしょう。
・・・もしかして、長崎県て有名??


長崎県出身の有名人・・・若林豪、美輪明宏さん(なぜか美輪さんだけ“さん”付け)、立花隆、役所広司、前川清ぃ~、草野仁君、村上龍、蛭子能収、さだまさし、福山雅治、長与千種(ぅわ!ナツカシ!女子プロレスラーです)、力道山、大仁田厚も長崎、オリンピック直前!体操選手の内村航平などなど・・・
いや~、結構いらっしゃいますね~。しかも大物揃い~!!


長崎県の現在の人口は140万人であるにもかかわらず、これだけの偉人を輩出してきたとは、まさに“小さな大国”!欧州におけるオランダのようだ!


全国で最も海岸線がぶっちぎりに長いのも長崎。
え?面積は全国第37位なのに??


長崎県には多くのミラコー(←ミラクル)がありそうです!

そして花き業界では、この方をなくして長崎県は語れません!長崎といえばなんといっても
ワイルドプランツ吉村さんでーす!


長崎県は佐世保市から季節の草花を生産出荷してくださっています。

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↑これを見ると海岸線の長さ全国第1位も納得です。


こちらがプロデュースマネージャーの吉村圭さん。う~ん、ワイルドプランツだけに黒いTシャツの袖をまくりあげる姿が“ワイルドだぜ~”!
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この肩書はつまり新しい物を作り出して、みなさんにご提案していくというポリシーの表れですね。

吉村さんといえば草花作りの敏腕プレーヤー!品目はアスターからマトリカリア、ヒペリカム、ベロニカ、ケイトウ、ワレモコウと多岐にわたり、品種数にして140種類にも上ります。
2011年4月から2012年3月に大田花きに出荷していただいた品目だけでもこ~んなに!

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しかも、さらにこの中で「ソノタノクサバナ」にはベロニカやワレモコウ、ハボタン、スモークグラス、ルドベキア、トウガラシなどなど何品目にも分かれていますので、全体として40-50品目を常に作付していることになります。


その栽培面積たるや、施設6,000坪、露地8,000坪。

これってどんだけ?(@_@;)


施設と露地を足して14,000坪。
これはちょうど東京ドームと同じくらいの広さになります。

商品は季節により変わりますが、現在はアマランサスやワレモコウなど、早速秋に向けた商材展開が始まっています。

こちらはアマランサスの圃場。
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amaranthushanging.jpg←写真撮影:吉村圭さん


ホットチリ(赤)、ホットビスケット(茶色)などハンギングタイプも合わせ6品種を栽培。
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栽培の特徴は何でしょうか。


「茎を太く作らないこと。その方が美しいし、デザイナーさんも使いやすいでしょ」

そうなんです。茎が細い方がほかの花材と合わせたときに束ねやすいし、立ち姿も美しいのです。
デザイナーさんや小売店さんの御苦労まで見通したかのような心配りはさすがです。
吉村さんのアマランサスは最も太いところでもボールペンより細いくらいです。
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「細くするためには、一番軸をピンチするんだ。
ピンチする分栽培日数は長くなるけどね。通常60日で出荷というものも90日くらいかけて栽培するよ」


なるほど、主軸をバチッと切ってしまえば、次に出てくる側枝になりますから細くなりますね。
P7030500.jpg←主軸をピンチした跡


収穫してきたアマランサスは、出荷場にて手で下葉を取ります。
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出荷目前のアマランサスは、細い足も揃ってこんなにキレイ!↓
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下葉を取る理由は主に2つ。
① 葉からの蒸散が抑えられる分、花持ちが良くなる。

② 小売店さんの手間が省ける。すぐ使える。

また、手で取るのは、機械では傷が付くからという理由によります。あくまでもユーザー目線を離れません。


こちらはワレモコウ。こちらの品種も吉村さんのオリジナル品種。
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「日本でこの“ピンク色のワレモコウ”の品種を作っているのは私だけだよ」
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なんと、ワレモコウもオリジナル品種ですか。
しかもピンク色。ワレモコウといえば、本来は深い赤紫色で、秋を象徴するアイテムの一つですが、ピンクであればもう少し早い段階で使えますね。

なぜそのような品種をお持ちなのですか?育種されたのでしょうか??

「某大手の薬品会社から譲り受けたんだ」

や、薬品会社???(゚_。)?(。_゚)?ハニャ??
どうして薬品会社から苗をもらう受けるのでしょうか。

「ワレモコウは漢方薬にも使われるでしょ」

あ!なるほどぉd(^-^)!
ワレモコウの根はタンニンやサポニンを多く含むらしく、生薬や漢方薬に使われるのです!
品種によっては若い葉を食用に使うものもあるのだとか。
アンテナも高いし、色々な方面にコネクションをお持ちですね~。


ワレモコウ生産のポイントは?

「一般的には主軸をピンチしたら側枝が出てどんどん枝ぶりがよくなっていくイメージだけど、ワレモコウのような宿根系は芽かきをしても枝ぶりはあまり変わらないんだ。

つまり本来の株のエネルギーが枝の出来を左右する。だから、土をしっかり作り込んで、株を充実させたらあとは放任主義さ」


放任主義だなんて、さすがワイルドプランツ、ワイルドだぜ~。


ところで、今「土を作り込んで」っておっしゃいましたか?
やはり吉村さんのところでも土作りにこだわっていらっしゃるのですね。


102u.jpg吉村さんの土作り  ~減農薬栽培~

吉村さんは有機肥料を使った栽培に取り組んでいます。

有機肥料とは鶏糞や菜種カス、魚粉、骨粉、大豆かす、米ぬかなどの有機物から作られる肥料のことです。これらを土とを混ぜて10-20日発酵させて吉村さん流ワイルドソイル(←ウン探が勝手に命名しました)のできあがりです♪

このこだわりのワイルドソイルを年に2回しっかり作り込むのが、吉村さん流農業の基本中の基本。


「土中のバクテリアがゆっくりと時間をかけて分解した栄養分だけを、ゆっくりと根が吸収するんだ。
いわゆる“遅効性肥料”(ちこうせいひりょう)といってね、ゆっくりと栽培する分、よく締まった苗ができるんだよ。」


へ~、有機肥料を使って時間をかけてゆっくり栽培すると丈夫な苗ができるんですね。

「有機肥料を使うから、ウチは土壌消毒もしない。この20年間したことないよ」
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有機肥料を使うと土壌消毒をしなくてもいい理由はなんですか?σ(゚・゚*)


「土壌消毒は雑菌を殺すためのものだけど分解に必要なバクテリアまで殺してしまう。
そうすると有機肥料が分解されなくなっちゃう。
つまり土壌消毒をすると結局は化学肥料を使ったり農薬を使ったりしなくちゃいけなくなるんだ」

なるほどそうすると、ワイルド吉村さんのポリシーに反しますね。


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「野原や草原の花は100年土壌消毒しなくても毎年きれいに咲くでしょ。
連作障害は化学肥料を使うから生まれる。
植物は好きなものだけ吸い上げ、嫌いなものは残す。だからその植物が必要な栄養素が土壌に残っていないから、同じ品目を作れなくなる。
連作障害をなくすために違う品目を栽培するでしょ」

作る品目を変えるのはそういう理由からなのですね。

「このような微生物農法をしているとね、川の水や雨水が栄養になるんだ。
雨水は天水(あまみず)”というほど栄養豊富。リン酸やカリなどの多くの植物の育成に欠かせないミネラルを含んでいる。

雨上がりに見る山の緑は深くてきれいでしょ。あれは雨水を吸うことによってミネラルを補給できるからなんだよ」


お~!!なるほど!!w|゚ロ゚|w そういうことだったのか!


「こうしてゆっくり育てると細胞の構成がしっかりして、大雨で冠水しても大丈夫な植物体になるんだ。華奢に見えるけど芯は強い。雨にも流されない」

なんだか一般的な社会人のことをおっしゃっているようにも聞こえますが、そういう人はどこでも頼られますよね。

そういえば、梅雨入りしてからここ2,3週間長崎では大雨警報が出たり大変ですが、圃場は大丈夫ですか?
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「大丈夫。施設の中までは水はなかなか入らないし、露地は水はけがいい。大きい被害は全くないよ」

さすがワイルド吉村さんが育てる花たちも、何のこれしきと頑張る野生児に極めて近いワイルドプランツであった。


102u.jpgワイルドプランツの日本一繊細な染め技術

吉村さんといえば、草花の生産のみならず、その高い染め技術を持っていることでも有名です。

ワイルドプランツ吉村さんで有名な染めアイテムといえば、このマトリカリアのタマゴピンク。
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(写真ご提供:吉村圭さん)


そのかわいらしさに心を躍らせた方もいらっしゃるのでは?
あまりの自然さと完成度の高さに、実は染めていることに気づかれなかった方も少なくないでしょう。(実はアタシクシモ・・・^_^;)


現在は流通期ではないので、実物を見ることはできませんが、いつもはここで染色作業をしています。
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「染料は60種類近く持っているけど、色の配合はその日の天気や植物の吸水度合いによっても異なる。日本の切り花染色の技術は成熟していない


という吉村さん。
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「木綿と絹の染め方が異なるように、例えばマトリカリアとカラーの染め方も異なるんだ。

品目によっても違うし、その日の温度、湿度、風のあり/なしというような気象条件も大きく影響してくる。
追い水(染色液を吸わせた後の吸水)をどのくらい吸わせるかなども全く違う。

ひとつ一つ工夫しないと消費者の人に満足してもらえる染め品目はできないんじゃないかと思う」


染めの技術は「吸わせる」だけではなく、上からスプレーをかける方法もあります。


「スプレーもただかけるだけじゃダメなんだよね。
中心をあーしてこーして、その周りをこう吹きかけて・・・という技術がいるんだ。染めはまだまだ将来に対して可能性を秘めているから、これからも良く研究していきたいと思う」


染色ノウハウの詳細は吉村さんのトップシークレット!"d(-x・)チッチッチ


吉村さんはこの繊細、且つ多岐にわたる高度な技術で、マトリカリアのみならず、カラーやフウセントウワタ、ハボタンなども染めて出荷されます。
calladied.jpg habotandied.jpg(写真ご提供:吉村圭さん)



このようなワイルドプランツ吉村さんがここ長崎に誕生したきっかけは何だったのでしょうか。いくら有名な吉村さんでも、その裏話までご存知の方は少ないのでは??( ̄皿 ̄) イヒヒ


実は圭さんのお祖父さまが戦後すぐ佐世保で花を作り始めたことに端を発します。

戦後すぐ・・・ですか(゚ペ)?
戦時中といえば花を作っている人は非難の対象になりかねなかった時代。
それが終わってすぐに花を作ろうという気運があったとは思えないのですが、なぜ花だったのでしょう。

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「実を言うと、祖父は消防署員だったんだ」

これまたナント。その消防署員だった方が花とどのように接点を持たれたのでしょうか。


「ある日、どこぞのおばーちゃんがリヤカーで花を売っていてね。

佐世保は米軍基地で有名でしょ。米国では花文化が日本より先に成熟していたからね、米兵がそのリヤカーおばーちゃんのところに花を買いに来たんだって。

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まだほかに誰も花を作っていなかった時代、そのおばーちゃんのリヤカーの花はあっという間にザル満杯のお金に変わったらしいよ」


あ、そうか、佐世保は米軍基地があるのですね。
そのおばーちゃんはどこから花を仕入れたのか、なかなかいいところに目を付けましたね。

「そう、あの頃は1ドル270円くらいだった」
※1945-1973年までは戦後の固定相場制。
1945年9月には1ドル=15円、その後インフレにより1947年3月に1ドル=50円、1948年7月に1ドル=270円、1949年には1ドル=360円になる。


「米兵はよく花も使うし、金銭感覚も当時の日本人とは違うしね。
祖父ちゃんはすぐに消防署員を辞めて花生産を始めたんだ。そりゃもう米兵相手に荒稼ぎ!
3か月で3年分を稼ぐ勢いだったらしいよ」

∑(゜◇゜;) ギョ!!

それからというもの、花作りは素晴らしい職業だ!ということで、佐世保で吉村一族のみなさまは花生産に従事するようになったそうです。


圭さんも昔から花作りに憧れていらしたのですか?


「そうだね、小学校6年生の時の卒業文集に、
将来の夢は“日本一の花作りになる”って書いたよ」φ(・ェ・o)~カキカキ


おっと、これはドラマチック❤
幼い頃からの夢を実現されたなんて、なんと素敵なお話。

「そしてずっと花作りになるための生き方をしてきた」

高校、大学でも花作りになるために勉強を積み重ね、花生産一筋に走ってきたといいます。

しかし、圭さんはそのような自分を「花を愛していない」と客観的に見ます。
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「草花に対する愛が強すぎると目が曇る。世間のいう親バカと同様。
かわいすぎてどれもこれも好きで取っておきたくなるから、本当の育種ができなくなってしまう。
私は“好きだけど愛してはいない”


蓋し名言!
育種は「愛が全て」ではないのだー!

圭さんは次々と生まれる珍種を「商品として見て」、取捨選択することを忘れません。

このように圭さんの磨かれた審美眼で新しい品種を商品として出荷したものは100品種以上にも及びます。そのうち種苗登録も30-40品種はしているのだとか。


作出した商品がマーケットで受けるかどうかはどのように判断しますか?

「自分の目で見て良いと思ったものは流行るよ。
自分の感性を信じて紹介すると、お花屋さんが付いてきてくれる」


育種が得意で、新しい品種を次々と世に輩出する圭さんでも、“新しいものであることよりもっと重要なことがある”といいます。

それは日持ち


「日持ちを最重要視している。
品種の取捨選択はむしろこれに特化しているといっても過言ではない。

育種の段階で日持ちのするものを選ぶこと、そして栽培技術でそれをさらに改善する」

なるほど、①長持ちする品種を選ぶこと

②栽培技術でさらに長持ちするよう改善すること

この2つがポイントですね。
栽培技術で長持ちするようにとはどういうことですか??

植物の本来あるべき姿に育てるということなんだ。
これが人の感性で自然に最もきれいと感じる姿だと思う。

肥満体で育てた豪華だけが取り柄の花とは違う。無理に大きく育てているから、ストレスも大きいし、体力もない。ほんと肥満体そのもの。

私が目指しているのは、“丈夫な細マッチョheart05-008.gif”」


丈夫な細マッチョ・・・植物にとって最も良い姿だといいます。

「通常肥満体にするには、土の肥料として窒素を多く入れる。
でも植物が持つ組織体の細胞数は同じわけでしょ。細胞分裂の回数は同じなのだから。
それを大きく肥満体にするということは、細胞壁がぶよぶよに厚くなるんだ。豪華に作られた花は茎も太い場合が多いでしょ。

一方、窒素も少なめにして、長い時間をかけて緩やかに育てる。そうすると茎の固い締まったものができる。

水揚げの際は毛細管現象で細い方がよく上がる。花持ちは細マッチョの方が断然良いんだ」


なるほど、栽培で花持ちを改善するとはそういうことですね。
マトリカリアも触ってみると非常に芯がしっかりしています!
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「それぞれの花にベストの大きさがある。
無理に大きくすると花にストレスがかかるんだ。ストレスのかかった花は長持ちしない」

商品の良し悪しはどこで見分ければいいのでしょうか。

「葉の色を見るのがポイントだよ。
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葉が黒々としているのは養分(窒素)が多すぎる証拠。一見ボリュームがあって分かりにくいかもしれないけど、草花の葉はグリーンが淡いくらいが自然」

そんな圭さんは、“何回生まれ変わっても花を作っているんじゃないかな”といいます。

「う~ん、強いて別のことをするとしたらバーテンダーとか、人と接する仕事じゃないかな」

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バ、バーテンダーーーー!!!
既にその雰囲気ありますね、ワイルド圭さん。


今後どのような花生産をしていきますか?

「花は自分を表現するツールの一つ。
“吉村さんらしいね”といわれる花を作っていきたい。

親父から代替わりした10年くらい前に、“花が変わりましたね”って言われたんだ。嬉しかった。
もちろん品目も変わっているんだけど、“イメージが違う”って言われた」

ちなみにこちらが泣く子も黙る業界の重鎮で、圭さんのお父上、吉村人志さん。
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圭さんはどのようなイメージで作っているのですか?

「草花は本来野原で風に揺られているものでしょ。
だから、風に揺れたりそよいだりする優しい雰囲気を残しながら、尚且つデザイナーさんたちが使いやすいよう芯がしっかりしているもの


なるほど野原に自然に立つ柔らかさと人が使う利便性とを同時に実現する花ですね。


「そういう“イメージを形にしていく”ことが私たちの仕事。

そして業界の若手が元気いっぱい花を作れる業界にしていきたい。これこそが私の任務だと思っている」

ワイルドプランツ吉村のワイルド圭さんは、できるだけ農薬を減らした有機栽培で、持続可能な農業とユーザーのことを考えつつ、フラワープロデューサーという立場で絶えず新しい物を提案し、消費の底上げと花の価値向上のため、花持ちを第一優先に考える。

業界全体を底上げしていくという気概に満ちた熱い方なのでした。
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102u.jpgワイルドプランツ吉村のワイルド圭さんの格言

・  こだわりは土!有機肥料を使った吉村流ワイルドソイルを研究すべし!

・  目指すは細マッチョ!
植物の本来の姿を作り出す。これが長持ちする美しい花の条件。
遅効性肥料を使いゆっくりと育て、細いながらも丈夫な草花を作るべし。
足元が細ければ、美しいばかりでなく、毛細管現象で水揚げも抜群◎good!!

・  育種家としての目を曇らせることなかれ!花は好きでも愛してはいけない。
親バカになるべからず。自分の感性を信じて取捨選択を重ねるべし!

・  日本の花き染色技術はまだまだ発展途上。 圭さんの研究し尽くされた染色技術を見習うべし!でも細かい方法はナイショ×ナイショ( ^―゜)b



102u.jpg小売店の皆さまへひとこと

・ 必ず良く日持ちのするものを仕入れてください。
短命の花を仕入れるなら、その性質を理解して消費者の皆さまに説明してください。

・ 毎年、母の日にはカーネーションの仕入れトラブルの話の話を聞きますが、小売店さんはもっと花を見る目を養ってください。
カーネーションなら、①葉の筋、②茎、③花首を見ればいつ採花されたものかだいたいわかります。

買ってみたら花がほとんど持たなかった・・・では花離れの消費者を増やすだけです。
直接消費者の方との接点を持つ小売店さんの力をお借りして、もっと花の需要を伸ばしたいと思っています。

102u.jpg消費者の皆さまへひとこと

是非、その花の裏にあるストーリーに興味を持っていただけると嬉しいですね。
その開発秘話や由来など、おもしろいストーリーが秘められていることがあります。

■□■お・ま・け♪■□■

うわ~!長崎の空港に降り立つと、真っ先に目に入るのが、巨大な長崎ちゃんぽん!
・・・のオブジェ。
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ちゃんぽんにトビウオが飛んでるぅ~・・・ってなんで??


本場の長崎ちゃんぽんには、トビウオが載ってるものなのか??
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試しに注文してみると・・・
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載ってない・・・(-ε-)

じゃーなんで??

トビウオのことを長崎では「あご」というらしく、漁業が盛んな長崎では「あご」もまた特産品の一つ。

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長崎の本場のちゃんぽんは、この「あご」でダシを取ることがよくあるのだとか。

これを「あごだし」といい、このオブジェではそれを表現するために、トップにトビウオを飛ばせたということなんだそうです。
ナットク!(゚ー゚)(。_。)ウンウン


何気にベンチもカステラだったりする・・・。
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空港はまさにザ・ナガサキ!
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マーケティングのためにお土産も含めよくコーディネートされています。
さすが、“観光で行きたい都道府県 人気トップ10”にランクインするだけあります。

雰囲気ありますね~。↓長崎の空に響き渡る天主堂の鐘が聞こえてきそうです!
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最後に、このたびの九州地区の大雨で被害に遭われた方々に謹んでお見舞い申し上げますとともに、1日も早い天候の回復を心よりお祈り申し上げます。


<写真・文責>:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


2012年4月25日

vol.92 佐瀬農園 (千葉県)

なぜウンチク探検隊を90回以上も重ねながら、トルコギキョウ育種の大家佐瀬農園さんになぜ行かないのかと長い間疑問を持っていらした方もいらっしゃるのでしょう。

それはご存知の通り、星の巡りあわせといいますか、人との出会いにはタイミングというものが重要だからということです。

なにせトルコギキョウ界の重鎮ですから、もちろんだーいぶ昔から佐瀬農園にお伺いせねば!と思ってはおりましたが、ウンタン8年目にして今回佐瀬農園さんの星とウンタンの星が出合いましたので、満を持して取材に臨みたいと思います。

いざ!
ウンタン史上“初の東京ゲートブリッジ”。
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本日晴天につき、歩行者がたくさん!
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今や世界一高いタワーとしてギネスにも認定されたスカイツリーも良く見えて、散策日和じゃ。
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大田市場から葛西方面まで短時間で、且つ無料で行けてしまう喜びを初めて享受しました!
我ら湾岸族には大変有難いインフラが完成したというわけです。
なんて考えているうちに、あっという間に千葉県入り。

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両側を満開の桜に迎えられ、やってきたのは東金(とうがね)市

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その名の通り、関東圏のに位置し、その太平洋を臨む海岸は色に輝く・・・カナ
そう。ここはあの「九十九里浜」。
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「想ひー出ぇの~、くゥ・じゅ・ウ・く・り・はまぁあ~♪♬」と歌が聞こえてきそうですが(昭和生まれだから?)、ゲートブリッジのおかげで予定より30分早く着いたので、「想い出の九十九里浜」の鼻歌を歌いながら九十九里浜を歩き、・・・ちなみに時間帯的に“夕陽は泣いて”いませんでしたが・・・春のまだひんやりとした太平洋の風を感じたところで、気を引き締めて佐瀬農園へGO!


九十九里浜からたった4km内陸のところでトルコギキョウの育種と生産をされているのが、佐瀬農園の佐瀬昇さんと奥様のとし子さん
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この辺りも大昔は海だったようで、佐瀬さんの敷地内は砂地&白い貝殻の破片がまだ残っています。
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佐瀬さんの栽培施設は佐瀬家の広い敷地の中にあります。
この東金地域は温暖な気候に恵まれ、古くから農業・商業等の産業を中心に発展してきました。また大消費地東京まで60kmという立地条件にも恵まれ、青果物の生産のみならず、園芸産業も切り花、鉢物問わず盛んです。


農業中心の世帯が多い中、佐瀬さんにおいても例外ではなく、ご両親は野菜を作っていらっしゃいました。佐瀬さんご自身もその後を継ぐこと以外の選択肢は全く頭の中になかったといいます。

☆★☆佐瀬さんとトルコギキョウとの出会い~育種にハマルまで
就農当初に作っていたものは“ナス”nasu.jpg
ところが1970年代、当時20代前半だった佐瀬さんは野菜を作り続けながらも・・・

「もう日本人は腹いっぱいだべな。もはや野菜ムリだよなー」

と思っていたといいます。


当時、特に野菜は「量の力」が強く、時代の流れからも共選や組合など組織の威力には敵うまいと感じていました。そこで地域の人たちを集めて共選で出荷していましたが、それでも全国で圧倒的な力を持つ大きな出荷団体には到底太刀打ちできない。このままではキツイ。。。(+_+)

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「何かねっぺなー・・・」
(↑訳:「(野菜のほかに)なにか作るものないかなー」)


・・・と頬杖をついて考えていたかどうかは分かりませんが、そう思っているところに県の試験場の先生に花の生産を勧められました。

それが花と佐瀬さんとの出会い。最初に手掛けたのはなんとカスミソウ。1980年代、カスミソウは花を使うときにマストアイテムとして重宝され、空前絶後の人気を誇りました。

しかーし、1年でカスミは撤収!(←潔いですね~)
というのも、ちょうどその時にトルコギキョウの覆輪(ふくりん)タイプ(※)が世の中に一斉デビューし、注目を浴びたという、トルコギキョウ市場史の中では劇的な出来事が起きたのです。


そのときに試験場の先生が「トルコ、いいかも!」( ^―゜)b
と言ったので、「じゃ、やってみっか」と軽~い気持ちで始めてみたのが佐瀬さんがトルコギキョウを手がけたきっかけでした。


illust70_thumb.gif用語解説その①  「覆輪タイプ」

その字の如く「輪を覆っている」タイプのことで、このように花弁の先が縁取られたタイプのことをいいます。
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トルコを知る上では必須単語です!

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「カスミは、もはやどこでも作っているから、トルコが面白いかもと徒に作ってみたんだ。
ホンモノなんて見たことなかったのにね

え??∑(゜◇゜;) ナヌッ!?
ホンモノを見たことがなかったって??


「トルコギキョウは世間に出たばかりのときでね、一般の人の認知度は極めて低かったし、私も写真では見たことがあったけど、実物を見たことなかったんだ」


ホンモノを見たことがなくても、素早く生産に取り組む佐瀬さんの高い行動力(高動力と書くのか?)を示しています。


「最初の1回だけ種苗会社からプラグ苗(※)を買ってね。その後はずっと現在に至るまで、全量できた花からタネを採って栽培しているんだ

えーーーーっ!∑(゜◇゜;) と驚かれたみなさま、そうです。それが佐瀬さんの生業なのです。

通常の生産者さんは、種苗会社からプラグ苗を買って育てます。
しかし、佐瀬さんの場合は、育種のために咲いた花からタネを採り、出荷用も合わせ全量タネから育てているのです。


illust70_thumb.gif用語解説その②  「プラグ苗」
プラスチックなどでできた多穴トレーにタネをまいて移植できるまでに育てた苗のこと。電気のコンセントに差すプラグのように簡単に差せる(定植できる)ことからその名が付いた。


タネから育てることを実生(みしょう)といいますが、どのような特徴があるのでしょうか・・・?

だいぶざっくりと申し上げますと、出来上がりに個体差が出やすくなります、ハイ。
プラグ苗から育て場合は、既にその子の性質が決まっていますので、比較的個体ごとの差が小さい。あの子もこの子も同じ性質と見た目の子ができるわけですね。差が小さいから同じ環境で育てると、全てが同じように収穫でき、安定生産に繋がるわけです。
同じものを大量に生産できる、つまり市場流通に向いているわけです。


一方、実生で育てると、あの子とこの子の差が出やすい。つまり、変異が出やすいということなのです。そして生産も不安定になる。


「トルコギキョウの苗で有名なサカタのタネさんやタキイ種苗さんなどからF1(エフワン※)の良い品種の苗を買えば、個体差もなく生産も安定するんだ。

だけど試験場の先生に“タネ採ってみれば?”と言われてね」


illust70_thumb.gif用語解説その③  「F1」(エフワン)
花き業界でF1といえば、“フィリアル・ワン(Filial 1=First Filial Generation)”を指し、「第1世代」を意味する。

異なる性質を持つ植物を掛け合わせてできた雑種第1世代のことで、一般には両親よりも優れた形質になることが多いのが特徴。しかし、その優れたF1からタネを採っても同じ姿にはならない。
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「6割くらいしか出荷できないときもあったよ」
と佐瀬さん。

つまり、タネを採ってもあの子とこの子の差が大きく、同じ姿になりにくいので、ひとつの箱に入れて市場に出荷できないわけです。6割を出荷して、残りの4割の中に気に入った変異があれば、そのタネをとってまた撒いて殖やして、またその中から良いものを選んでタネを撒いて殖やして・・・の繰り返し。

作業に膨大な時間と労力がかかっても、これを一言で「選抜を重ねる」と言います。

佐瀬さんのトルコはまさに“選抜×選抜選手権”に生き残ったスーパー選手たち。これを通称“サセ・トルコ”といいます。(佐瀬さんに断りもせずに、市場では勝手にそう呼ばせていただいております)
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育種とはこのように品種を固定していくという、とても時間がかり地道で根気のいる作業なのです。

出荷率も低くなるし、時間もかかる。どうして、佐瀬さんはこのような地道な育種をしているのでしょうか。

「私は子供のころからハトが好きで、昔はハトの交配をしていたんだよ

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は、ハ、ハ・トッ??(´゚д゚`)ポカーン

ハトってあの「鳩」ですか?パタパタと飛ぶ??パタパタパタッ


「そう、そう。あのハト。
ハトが好きで教科書じゃなくてハトの本をカバンに入れていたんだ」

ナヌッ??佐瀬さん、ただ者ではなさそうな臭いがしてきました・・・(・ω・)クンクン


「小学校3年生のときからハトを飼い始めてね、大人になって自由に使えるお金が増えたら、ハトの交配で人生勝負しようと思っていたんだよ。それが大人になると勝手が違ってきて、農業に従事したわけなんだけどね。

だから先生にタネを採ってみたらと言われた時には、“待ってました(≧∇≦)!!”とばかりに始めたよ。何の抵抗もなく、今に至るまで楽しくね!

つまり、“タネを採ってみたら?”という先生からの提案は“トルコを交配して、オリジナル品種を作ってみたら?”という「育種のススメ」だったわけです。


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まあそれにしてもハトからトルコギキョウって同じ交配でもずいぶん“飛ぶ”ような気がしますが・・・

「全く同じだよ(笑)。
ハトもいろんな種類がいて、自分が好きなあっちとこっちのハトを掛け合わせてみるわけだから。
私のトルコの交配の原点は子供の頃に夢中になったハトの交配にあるといっても過言ではないよ」


佐瀬さんがトルコのプラグ苗を購入したのは、後にも先にも導入当初の1回だけ。以降全てタネを採って実生で育てています。


他の人とは違う方法で栽培を始めた佐瀬さんでしたが、この実生栽培も順風満帆ではありません。


「バブルが崩壊して、少し遅れて花の業界全体が落ち込んでいったでしょ。

その時には花の生産者も減ったよね」

そうです、日本における花の消費の大きな流れとして、日本のGDPの成長とともに花の消費も徐々に伸び、1990年大阪で開催された花の万博(国際花と緑の博覧会)をきかっけに、花き産業は爆発的に進化。花の生産、消費の先進国として歩み始めます。

花の場合はバブル崩壊後、他業界よりレスポンスが遅れ、およそ10年後にピークを迎え、1998年に3,000億円(市場取り扱い金額、一般社団法人日本花き卸売市場協会所属市場の総計)ほどになります。


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(データ元:一般社団法人日本花き卸売市場協会)

ところが、上のグラフが示すように1999年から2000年にかけては取り扱い金額は急落。その後も業界の取り扱い金額は緩やかではありますが減少の一途を辿っています。


「’99年と2000年にはトルコギキョウは生産だけじゃなくて、個人育種家も随分撤退したよ。
いわゆる“冬の時代の到来”ってやつね。花生産を生業にしていても、トルコだけやめたりした人もいたからね」


そのような時代の流れの中、佐瀬さんはやめようとは思わなかったのですか?
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「なにせタネ採っちゃったからね~。
そのタネから今度はどんな花が咲くのか“また見てみたい”という気持ちが強くて、やめられなかったんだよ」


なるほど、すごい好奇心!育種家さんならではのやめられないサイクルですね!


「もうここまでくると病気だよね(笑)。
儲かるかどうかより、タネを採っては花を見たい、そのタネを採っては次の花を見たいの繰り返し。
やめることなんて一切考えたことなかった」

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奥様「本当に好きなんでしょうに、夜中に“ちょっと見てくる!”とふら~っと出て行って、2-3時間戻ってこないのよぉ~」

何をしに行かれるのですか?

佐瀬さん「夜に花が閉じないトルコを探しに行くんだ」


夜に閉じないトルコ・・・?「(゚ペ)ハニャ?

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そうなんです、皆さんご存じでしたか?トルコギキョウは本来夜になると花を閉じる昼咲き植物なのです。多くの植物が昼咲きですが、ご存知の通りサボテンの月下美人や一部スイレンの品種などは夜咲きになります。
(ウンタンスクリーンの前のみなさま、ご自身は昼咲き?夜咲き?どちらのタイプでしょうか?)


「消費者からの声で、閉じないトルコが欲しいって言われてね・・・」


なるほど、それで閉じない性質のものが咲いていたら、そのタネを採って殖やしていこうというわけで、あえて夜になってから圃場を見に行っていたわけですね!
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そのような品種は見つかりましたか?


「閉じない性質のものが見つかったわけじゃないんだけど、1株だけ八重のフリンジタイプのものを見つけてね。
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世の中はまだ一重が主流で覆輪が人気の絶頂だった。だけど八重を見て“これだ!”って思ったんだよ」


スタンダードは一重だった時期に、八重のフリンジタイプに可能性を見い出して拾い上げたのはなぜですか?

「自分が好きな形だったんだ。やっぱり自分が好きじゃないと気合が入らない。特にバブルがはじけて右肩下がりの状況下で、経済性第一で考えていたら捨てていたかもしれないよね。
お金になる・ならないは関係ナシで、ただ純粋に自分が好きな形だった。

しかも、八重だから一度開くとそのままロックされて、閉じなくなる


OH!なるほど!!
ふわふわのスカートを何重にもしてはいたらスカートはボワッと膨らんで閉じなくなりますね。それと同じことで、八重のフリル付きトルコが一度開花すると、夜になっても閉じなくなったわけですね。
佐瀬さんの感性にヒットし、なおかつフリンジが厚いから結果閉じないことがわかった。一まさに石二鳥的な品種を見つけたわけですね。

「自分の感性で選んだものを、いつか世間が共感してくれればラッキーくらいにしか思っていないけどね」
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そのように育種を進め、現在は何品種くらいあるのですか?

「12-13品種かな。
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昔は70-80品種くらいあったけどね。
でも今は各種苗会社さんがなんでも揃えているから、隙間がないんだ」


なるほど、色・形・サイズどれにおいても品種が豊富で、ニッチがないわけですね。

でも育種を繰り返していたら、増えていくばかりで10数品種ではすまないと思いますが、市場出荷しない品種はどうされるのですか?


「捨てる」


ギョッ∑(゜◇゜;)
でました、断捨離宣言!!

「種苗会社のカタログを見て、たくさん出てきたら捨てる。

だいたい新品種も3年経つと量がまとまって出てくる。私が生んだ品種もそうだけど、生産者さんが市場で買って交配して別の名前で出荷されたりするんだよね。茶系は特にそういうことが起こっている」

そうそう、佐瀬さんといえば、茶系のアンティークカラーの生みの親!
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今では一般的になり多品種を揃える茶系トルコも、そのオリジンは佐瀬さんの育種にあったのです。

最初に茶色が出た時に、捨てずに残そうと思ったのはなぜですか?


“佐瀬さん、きたねェ色のトルコねーがぁ?”とある仲卸さんに言われてね。

それから中間色とか変異の中にあったアンティークカラーに目を付けるようになったんだ。普通なら捨てるんだけどね。

一方で日本でも外国からの人が増えたでしょ。だから原色もぜってー必要だっていう確信があったんだ。

その両方のバランスを取りながら残していくんだよ」


なるほど、販売や消費のアドバイスに耳を傾けながらも、常に社会全体の動向にアンテナを張り自分で判断していく。ここに育種に比重を置く経営者としてのポリシーを見て取ることができます。

☆★☆トルコのタネ、見たことありますか?

ところでみなさん、トルコのタネを見たことありますか?
ケシの実のように小さいんですよ!

佐瀬さんがウンタン取材班に特別に(!)見せてくださいました。
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「このひと山で何万粒とある。
1ミリリットルで15,000-16,000粒くらいあるんだよ。

それをこういうマス目の入ったトレーに撒くんだ」
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え?∑(゜◇゜;)
もしかして、それを1粒ずつプラグ苗のトレーに撒くのですか?
しかも、この1マス、えんらいちっこいなーーーッ!
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「貴重なタネはそうだね。
ドの強いメガネをかけて、1-3粒ずつを取ってまくんだ」


1-3粒ずつってどうやって取るのですか?


「楊枝の先に水を付けて少し湿らせてから、タネを先端にくっつけるんだよ」

わおーーー・・・気が遠くなるような作業です。


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「でもそのほかの普通の品種は味の素のコショウを入れるビンに入れて、ゴマ塩をまくみたいにパラパラとまく


芽が出たら余分な芽は間引いて、2ヶ月後に定植します。


その芽が育って、ツボミができたら、交配はめしべが開く前につぼみをこうやってこじ開けて、早い段階でピンセットで授粉します。

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「ピンセットでつまむのがボクの楽しみ♪」


わー、だいぶマニア入ってます。


佐瀬さんの出荷品種はすべてこのようにして生まれた変異なのです。


「でもやりすぎるとご飯が食べられなくなっちゃう。生産は出荷のためのものだけど、育種は出荷に直結するものではないからね」

育種のコツはありますか?

“じっと我慢の子であった”。

慌てるとロクなことないよね。何かしらアクシデントに見舞われる。慌てずじっくりやっていれば、最後はお天道様に助けられる。

変異は神様からのプレゼントfuwafuwahert_jpg200.jpg
神様に“お前、やってみろ”って試されているんじゃないかと思うんだ。変異を見逃さずに、それを拾って可能性を追求する」
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なんだか“変異=夢の扉”という感じですね。
佐瀬さんはトルコの新品種に対して飽くなき追求を続けています。


☆★☆ネーミングの秘密

サセ・トルコファンの方でしたらご存知かもしれませんが、佐瀬さんが育種された品種の名前を見てみると・・・
貴公子・貴婦人・森の雫・雅(みやび)・楊貴妃・曙・・・と和名ばかりが採用されています。

大変センスがあって、トルコに詳しくない人でも一度聞けばすぐ覚えられるような良い名前ですね。
どなたがつけていらっしゃるのでしょうか。


「名前はぜんぶカーチャン」


DSC03092.jpgなるほど、納得です。
どうやったらそのようなセンスの良い名前を思いつくのですか?


「商品になるまで毎日その花を見ているから、いざネーミングのときになるとポン!と思い浮かぶのよ。」
ととし子さん。
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「でも決定は私ね」と佐瀬さん。
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はいはい、わかりました。みなさん、“決定”は佐瀬さんでーす( ^―゜)b
でもどうして和名にこだわるのですか?


日本人だから。
オレ、ヤなの、カタカナで書くの。カタカナ、イミワカンナイ。
英語嫌いだし^_^;

それから、色名を使わずに色を想像できる名前にするのが最も良いと思っているんだ。やむを得ず使うこともあるけど」


なるほど、ここにも育種家としての佐瀬さんのポリシーを見ることができます。

☆★☆ちょっとだけ生産について

理想的な花の付き方は、1苗から3つの花枝に分かれ、大輪の開花がほぼ同じ高さで3輪&ツボミが1-2輪付いている状態。これがサセ・トルコの黄金率です。
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トルコの花芽はこのように↓ジャンジャカ上がってくるので、
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1箇所から2本花芽が上がってきたら、1本は情け容赦なくピンチ!(これを「芽かき」といいます)
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残った花芽に力を集中させていきます↓
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そうすると残った花は切られた花の分まで生きようと大輪に開くのです。
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水は決して適量を超えることなく、少しずつ遣りながらゆっくりゆっくり育てます。
ここでも「じっと我慢」がキーワードなんですね。

「そうだね、例えば天候不順って言っても、ウチの上空だけが天候不順なわけじゃないでしょ。本州の天候はほぼ似たように変化しているのだから、自分だけが大変なわけじゃないと他産地に思いを馳せながら我慢して作るんだ」


「それから、ついつい水をやりたくなっちゃうんだけど、やりすぎないように我慢するの。

花弁の固い丈夫なトルコを作るには、水をぎりぎりまで切るといいのよ。
もうそれこそ、水が足りなくて首が少し垂れるくらいまで水を切るんです」と奥様。

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どうやら生産に詳しいのは、奥様のようです。


トルコギキョウは、北アメリカはテキサス州原産のリンドウ科。高温でたくさん水をやりながら過保護に育てると、どんどんどんどん伸びてしまい、節間も伸びて葉や花に“しまり”がなく、だらりとしたものができてしまいます。
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「節間はその花の人生を物語っているからね。
長かったり短かったりすると、それだけストレスがあったということだよね」

なるほど、みなさまトルコを買ったときは花にばかり見とれず、是非節間もチェックしてみてください。

☆★☆まさかの手抜き!?
え?もしかして抜いてる???
わおッ!切り花を根っこから抜いて収穫するなんて、初めて見ました!!コレ常識??
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そうなんです、トルコギキョウの場合はハサミで切って収穫する場合と、佐瀬さんのように引き抜く場合とがあります。(それぞれの生産者さんの選択です)
で、でもどうして抜いてしまうのですか?

「この方が楽だから」

トルコは1苗1採花が基本。1度切ったら、その苗は終了。

トルコギキョウの改植は毎年のこと。タネ、あるいは苗を植えて、芽が伸びて花が咲いて、一度収穫したら終わり。前回のエピデンドラムやバラなどのように株を充実させて、そこから上がった新芽を育てるということではありません。

トルコの採花は一度きり。花を切ったら、その苗ごと終了なのです。

遅かれ早かれ 結局は抜くのですから、後で抜く手間を考えたら、収穫しながら抜いてしまった方が効率的なのです。
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そんなわけで佐瀬さんのうちでは「手抜き」・・・いやいや、さぼる方の手抜きではありませんよ、「手で引っこ抜く」手抜きなのです。


☆★☆究極のサセ・トルコがあったら教えてください

佐瀬さん「受精しないトルコ」


ん?(゚ー゚*?)


「これを見てごらん。
通常は開花するとこうしてめしべも開いていつでも受粉できる状態になるでしょ。
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でもこれはめしべが開いていない。
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つまりこれは受精しないトルコなんだ」


受精しないトルコ・・・“子孫を残せない”ってことですよね?そのようなトルコに何かメリットはあるのですか?


「花保ちが良い」


そうなのです。受精しないトルコは花保ちが良くなります。なぜなら「植物は総じて受精すると命尽きるから」です。


植物は何でもそうですが、子孫を残すことを人生最大の使命としているので、受精が終わると“任務全う!”と死に向かっていくのです。

従って、受精しないトルコというのは、任務全うの瞬間がないので死に向かっていくのが遅い。
そりゃ枯れますよ、いつかは。でも、受精するトルコよりは寿命を延ばすことができるのです。

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「いつまでたっても開かないめしべのことを
変形雌ずい(しずい)っていうんだ。


自然界ではあり得ないことだよね。受粉できないということは子孫を残せないということだから、普通は絶滅する。
でもそのタイプの変異が出たときに、それを拾って選抜を重ねて固定したんだ」


子孫を残せないのにどうやって殖やすのですか?
「こうやってめしべをピンセットで開いて人工授粉をするんだ。
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風媒花でも虫媒花でもなく、人媒花ね!それでもタネの採取量は極めて少ない。

雌しべの開かないトルコを見たときには、そのWONDERも感じてほしいな」


佐瀬さんはこの「受精しないトルコ」について国内と米国にて特許を取得しました(平成20年)。植物の形質で特許を取得したのはなんと国内初だそうです。

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☆佐瀬さんにとってトルコギキョウとは?

佐瀬さん 「・・・」

と考えている間にすかさず奥様が、

「あなたの人生そのままじゃない。これらのトルコは主人そのものです」
と温かい口調で話されました。

数十年にわたり、毎日最も近いところでご主人とトルコギキョウを見つめていらっしゃる奥様だからこそ見えるものがあるのでしょう。その言葉には文字にする以上に深みがあります。

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佐瀬さん「そうだね、良い遊び道具に巡り合えたと思うよ。いわゆるシゴトのような大変さは感じない」


奥様「あなたにはぴったりだったわね。いまや家族の一員という感じ」

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そういうお二人の掛け合いに、永い間理解し合い、助け合いながらトルコに携わり、二人三脚というよりもトルコを含めた3人で育んできた愛情を感じました。

もしかしたら、佐瀬農園の運営は佐瀬・昇さん、とし子さん、トル子さんで成り立っているのかもしれません。


☆次の10年で目指すものはありますか?

「やっぱり珍しいものを作りたい

トルコはいっぱい名前があるけど、ふたを開けたらみんな同じ品種だったりするでしょ。でも、ふたを開けた瞬間に“あ、これは佐瀬農園のトルコだ”と分かるものを目指したい、そして消費者に喜んでもらえるもの。
諦めたらTHE ENDだよね。諦めずにコツコツと続けていくこと


消費者のところまで旅をするのだから、花保ちが良いことや輸送に耐えるものであることは当たり前。切り花として最低限の条件を満たした上で、とても変わったものを市場にデビューさせたい」


う~ん、今のトルコから更に進化して、変わったものってどんなものでしょうか・・・この先のトルコの進化形ってどこにあるのでしょうか?
もしかして、隠し玉があったりしますか?


「実はあるんだ(*^^)vニン!」

と写真を見せてくださいました。
なるほどぉ、これですか!素晴らしい!こんな花見たことありません。
一般の方ならこれがトルコだとは思わないでしょう。

どんな花かって?
現時点では門外不出なので、代わりにあたくしの気まぐれドローイングを披露いたしましょう。こちらでみなさまの豊かな想像を巡らせてくださいませ。
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う、うまい!うますぎる!実によく描けている!∑(゜◇゜;)
あー、バラシテしまった。まずい、佐瀬さん、絵がうますぎてごめんなさいm(_ _)m ホント??
ひとまずこちらは来年デビューの予定です。くれぐれもお見逃しなく!


image22.gif☆佐瀬農園の格言

・ 日本人はほぼ3年で飽きる。5年経ったら絶対飽きる!
  生産はタネを採るところから始めて、面白いものが生まれたら、消費者に提案すべし!

・ サセ・トルコは選抜に選抜を重ねたスーパープレイヤーたち。全て佐瀬農園のオリジナルスターなのです。

・ 育種も生産も“じっと我慢の子であった”!

・ 育種は楽しくてたまらない!でも生産とのバランスを取って、きっちりがっちり経営すべし。
  私はとにかくカーチャンに感謝です!

☆消費者のみなさまへひとこと

もっともっと花を楽しんでほしいな。
また、できるだけ楽しんでもらえるものを作りたいと思う。飾って喜んでもらえるのが一番嬉しいね。
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ご参考までに佐瀬さんの出荷期(2011年4月-2012年3月)
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※出荷量の波は年によって異なります。

image22.gif☆本日の最重要キーワード

「サセ・トルコ」
佐瀬昇さんが育種したトルコギキョウのこと。選抜に選抜を重ねた無二のオリジナル品種。トルコの領域を打破した画期的な品種ばかりで、デザイナーさんに愛されるのが特徴。
是非この機会に覚えてくださいませ~♪



<写真・文責>:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


2007年7月16日

vol.42 広島県 今井ナーセリー

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日本を代表するバラの育種家として知られる
今井ナーセリー。

数々のオリジナル品種を生み出す今井ナーセリー育種の
世界を見せていただくためにウンチク探検隊は
広島を訪れました!


?山頂にある野呂農場を目指して?



今井さんは3ヵ所のナーセリー(圃場)を持っています。
今回は瀬戸内海国立公園内の野呂山の頂上にある
野呂農場を見学させていただきました。
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曲がりくねる新緑の林道をグングンのぼって頂上を目指します。

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「向こうに見えるのが瀬戸内海!冬はカキが美味しいんですよ。」と今井さん。

農場がある山頂は標高790mだそうです。


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車を走らせて数十分、野呂農場に到着しました。
ハウス面積350坪、ここではバラと胡蝶蘭を栽培しています。さっそく出迎えてくださったのは農場長の日浦さん。よろしくお願いします!ハウスのバラのことは何でも知っている、たのもしい農場長です。

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さっそくハウスの中にお邪魔しました。



?育種のテーマ?



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今井ナーセリーで生み出されるバラたち・・特徴は何と言っても品種数の多さ。
日本のバラならではのオリジナリティを目指して、育種に取り組みます。

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交配親にするためのイングリッシュローズも、たくさん栽培しているんですね。
イングリッシュローズ特有のアンティークタッチな形や香りがとても魅力的なのは皆さんご存知の通り。 でも、はかなく散ってしまったり(そこがまた良し!とも言われますが)、流通量が少なかったり・・・といった点がお悩み。
そこで今井さん、育種家の出番です。

新しいバラを生み出すためには、まずは良い両親になるバラをそろえます。
今井さんはこれまでの育種の中で、優秀なバラを選抜してきました。
それは株が扱いやすい品種や花付きの良い品種、もちろん花持ちも良い品種・・・「生産者の味方!」と農場長の日浦さんも太鼓判を押すバラたち。

こうした”生産者の味方”ローズとイングリッシュローズを掛け合わせ、生まれたバラはこの通り・・・とても不思議!イングリッシュローズにそっくりな花型や香りを持ちながら、花持ちが良く、生産性にも優れています。

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「こういった新しいバラは、これからの流行だよね。」

・・・そうです、このあと今井さんの口から”こういった新しいバラ”の呼び名が発表されるなんて予想だにしていませんでした。
重大発表の前に、今少し多彩な今井ローズの世界をのぞいてみましょう。


?香りのバラ?



今井ナーセリーで生まれたバラには、イングリッシュローズの香りを持つものも多く見られます。こうした香りのバラを選別して保存することも今井さんの育種のテーマ。

今井さんのバラといえば、ブルーの香りミルラの香りを持つバラが多いようですが・・・「そうそう多いんですよ(笑)ダマスクやフルーティの香りのバラもこれから作りますよ」と今井さん。
ブルーやミルラ、ダマスク・・・バラの香りを知りたい方は
こちらをどうぞ!→http://www.otakaki.co.jp/development/fragrance/index.html

**ブルーの香りのバラ**

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ジュンウェーブ              ブルーカップアイ

どれも素晴らしく強香です。(商品開発室 調査済み)

**ミルラの香りのバラ**

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ラ・ジョコンダ               咲希
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フィアンセ                 フランソワ


?ネオ・アンティークローズがやって来る!?



「こういった新しいバラは、これからの流行だよね。
今年から”ネオ・アンティークローズ”シリーズを作ろうと思っているんですよ。」

ついに今井さんの口から聞くことが出来た、新しい育種のテーマ。
”ネオ・アンティーク”とは何なのか?探検隊も調べてみました。
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”ネオ・アンティーク”とは近年、注目のキーワードです。

デコラティブな装飾やアンティークな趣をほどよい匙加減で取り入れた新しいデザインとして、近年のインテリアや家具、ファッションにも取り入れられているので探してみては?


rose 38.jpg 面白いことに、花のトレンドもまた同じ傾向にあるようです。
オールドローズやイングリッシュローズならではのアンティークな風合いの花型と、香りの良さ。その両方を兼ね備えつつ、もっとたくさん長く楽しむ!を叶えてくれるバラ。それがネオ・アンティークローズです。 これから少しずつ選別して行く予定ですが、一体どんなバラが候補に上がっているのでしょうか? ネオアンティーク・ローズの候補を見せていただきました。

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「ペオニーピンク」
今井さんおすすめのネオ・アンティークローズ。
アンティークタッチなフォルムが人気の秘密!ミルラの香りがします。
「株が扱いやすくて、花つきも良い。生産性は抜群。」と
日浦さんもイチオシでした。



去る6月に、長崎ハウステンボスで開催されたイベント”ローズセレクション2007”。

今井さんや、国内の種苗会社から寄せられた全90品種ものバラの中から
人気投票を行ったところ、今井さんのオリジナル品種「ゴールデンベルタ」
第4位に入賞しました!
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数輪でも華やかなSPバラ「ゴールデンベルタ」は爽やかなレモンイエローとても涼しげ。黄色いバラは良く人目を引くのか、たくさんのお客様から好評でした。


黄色いバラといえば、父の日に贈るバラ。
日本ファーザーズ・デイ委員会の「父の日 黄色いリボンキャンペーン」にちなんで
黄色いバラを贈るという人が増えたのだそう。
父の日のプレゼントにとどまらず、なぜか黄色いバラというのは目に留まるのか
ピンクに続いて、人気は高め。
黄色は「好奇心」と「知性」をあらわす色、風水効果があるとも言われますね。
1?2本でも部屋を明るく見せてくれるし、パッと明るい黄色は目にポジティブな 刺激をもたらして元気をくれる気がする・・・そんな心理効果があるのも嬉しい。

?今井ナーセリーの格言?


?アンティークタッチな優雅さと香り、花持ちの良さを持つ新しいバラ。
 「ネオ・アンティークローズ」がこれからの主役!

?後世もずっと作り続けてもらえる日本のバラ、生産者の味方になるバラを生み出して行きます!



?おまけ * 名付けのヒミツ *?



新しいバラが生まれたら名付けは親の楽しみ、特権でもあり・・
いろいろ考えたくなるんでしょうね!
「う?ん、誰かの名前から取って名付けることが多いかな」と今井さん。
そのバラにちなんで身近な方の名前を付けているんだそうです。
たとえば市場にも流通している「トワカップ」に「トワクイーン」「トワユニークカップ」・・・
これは今井さん、もしかして・・?

「うちの孫の名前です!」

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噂の可愛いお孫さん、音羽(トワ)ちゃん!
はるばるハウスの中まで遊びに来てくれました。

(文責)三浦 彩

2006年6月27日

Vol.17 長野県 上伊那郡?飯田市 編

長野県産地訪問第2弾!今回はアルプスの山々に囲まれた上伊那郡?飯田市へ。
国道153号線沿いを南下して、4件の拘り産地を探索してきました!

?唐澤忠克…お花屋さんの味方です!?

  (長野県上伊那郡)
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唐澤さんのハーブMIXは“若草物語”、さらに月毎
旬のハーブ類をMIXして、例えば今月なら
“若草 水無月”といったネーミングが
つけられています。
きっと詩人のような方なんだろうなぁ、とお会いする
前から勝手に想像を膨らましておりました。


さて、さっそくハウスにお邪魔すると、ワイルドストロベリーがありました。
なんと、5年間 無農薬、水だけで育っているのだとか。
赤はこんもり盆栽のように、白は勢いよく!…と色で生育にも差があるんですね。
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「イングリッシュローズに襟のようにして組み合わせるとかわいいんだよねぇ」と唐澤さん。
でも実はみんな大好きだけど、その葉っぱが花束に使えるなんて想像しませんでしたよね。
「商品になりそうなもの探してて、イチゴの葉っぱと花を組合わせたらいいんじゃないかって、
すっげぇ苦労して見つけたのに、知り合いの女の子にハウス見せたら『わぁ?コレかわいい?!』
ってひと言。」
「女の子のかわいいものに対する感性、見つける力は違うよね、特に3枚葉って女心をくすぐる
みたいね。」

スゴイ!女心まで読んでます。
時にはコンビニで若い女の子が読むような雑誌を立ち読みするとか。
「初めは恥ずかしかったけど、ファッションとか流行してる化粧品の色使いとか勉強になるんだよ。」
そんなリサーチ活動によってヒントを得ているんですね。

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    利休草                 ブルースター                ヒマワリ


唐澤さんが研究熱心になる切っ掛けは、恵比寿にある花屋さんで売られていたブーケとの出会い。その可愛さとセンスの良さにイイモノの価値観が崩れるほどのショックを受けた事なのだとか。
そして、“誰が言ったからじゃなしに、自分の目で確かめて、信じたことを自分の納得いくようにやる!”というスタイルに行き着いたのです。
その為には月に一度は東京でお花屋さんを見て廻ったり、直接意見を聞いたりしているそうなん
です。
もしかしたら、あなたのお店にも???
研究熱心な唐澤さんの熱い思いが、話の節々から伝わってきました。

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それから、ワックスペーパーの秘密を聞いてみました。
すると、「例えばラムズイヤーがダンボールの茶色や新聞紙に包まれているより、この方が箱を開けたときのイメージが違うでしょ?」
「セリの一瞬でイメージを伝える、デザインをひらめかせるにはどうしたらよいのか?って考えたんだ」
そうしてグリーンを際立たせる落ち着いたトーンのワックスペーパーに至ったのです。
セリ場での見え方まで考えているなんて、感心するばかりの私達でした。


そしてなお、「これからも、モノを見る目、技術をつけていきたい」と意欲的!
座右の銘(?)は『いいものを高く作れるのは当たり前、いいものを安く作ってこそ職人のワザが活かせる』という日本の町工場の技術者の言葉だそうです。

お花屋さんの味方!唐澤さんの花をお試しあれ!

?田中一男…主役から脇役まで 幅広い品揃えが魅力!?

  (長野県上伊那郡?シード会)

最近、地元の村議会議員のお仕事が忙しい田中さん。村おこしの一環として地元産商品の開発も
手掛けていらっしゃいます。ちょうど訪問した日も地ビール作りの為、山に水を汲みに行ってらしたとか。
そんな田中さんの本業の(?)花を見せていただきました。
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                               ↑ずっと私達の足元をうろちょろしていた
                               人懐っこい猫ちゃんと伴に。
                               ちなみに猫の名前は仏語で黒を意味する「ネロ」
                               だそうです。
    
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クレマチスのハウスを見ていると…あれ?区画からはみ出してるインテグリフォリアの白を発見!
「コレは?」と尋ねてみると、「もう作ってないんだけどコレだけ残ってるんだよ」と。
そう言えば、インテグリF白ってピンクやブルーに比べると入荷量も少ないんですけど…。
貴重な存在ですよ。
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そして、シードも出荷されてます。
花が終わっちゃったらどれも一緒!と思いますが、
驚くことに色によって出来が違うらしいのです。
田中さんは「中でもブルーの方がきれいなシードに
なるんだよ」とおっしゃっていました。

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次にエリンジュームを見せていただきました。
紫外線に当たることでキレイに色付きます。
まだコレは変身途中、出荷される6月下旬には
色ものってますよ!

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マリーゴールド、アマランサス、チョコレートコスモスが
秋の出荷に向けて芽を出し始めていました。


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全て田中さんのセレクトかと思いきや、「コレは息子が始めたんだよ、
これからは息子に任せるから」と。
後継者不足でお悩みの生産者さんには羨ましい話ですね。
ハウスには他にもダリアの黒蝶・熱唱、ベッチーズブルー、
あじさい、ビバーナム、ギボシなど様々な品目が栽培されていました。
主役から脇役まで揃ってます。

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そして、「これが主力のハウスだよ」と案内されたのがカーネーションのハウス。
残念ながら、まだ花は見れませんでした…。
SPカーネの一重オレンジ、薄ピンク色の“クィーン”、濃いピンク色の“ピンクハート”などなど
沢山の品種がありました。

昭和48年から花作りを続ける田中さん。
減反政策が始まって、周辺にハウス団地ができた事がカーネーション栽培を始められた切っ掛け
だそうです。始まりはそうでも、長年花を作り続けてこられたのはなぜですか?と言う質問に
「う?ん」と考えた後、「やっぱり、花が好きだから!それが一番かな。」という答えが返ってきました。

穏やか?な雰囲気の田中さんが作る花々、これからは若い息子さんの意見も取り入れられて
何が出荷されてくるか注目です!

?小林淳一…年間通して安定品質のナデシコを!?

  (長野県上伊那)

ハウスの裏はすぐ山。2100坪という広大な面積でナデシコを栽培しています。
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                                     (只今 採花中)

パチン、パチンと軽快にはさみの音が響く採花風景を見ていたら、「市場の人に切って欲しいんだ」と
小林さんにはさみを渡されました。
「切っていいんですか?」と花をたどって足元を見ると、なんと茂っていて咲いた花がどの茎につながっているのか分からない…1本切るのにも時間がかかって大変な状態です。
慣れない内は翌朝になると剪定した周りの花がしおれていることもあるとか。
これは余計な茎まで傷つけてしまっている証拠なのです。
だから、『はさみを閉じた状態で差込み、上で花を摘んだ指の感覚でコレだ!っと思ったら切る』
と事も無げにやって見せてくださる小林さんでしたが…難しい!!!
そして、「パソコンをキーボード見ないで打つのと一緒。自分には真似できないけどね(笑)!」と。

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                            プロはよそを向いていても切れちゃいます。スゴイ!
                           「切るの楽しいの」と嬉しそうにご指導してくださいました。

こんなにカワイイ花達が咲いています♪
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それから「みんないい品物作る為に努力するけど、うちはいいもの作らない為に努力してるんだ」
と小林さん。私達の頭には???
どういうことかというと、ナデシコは一般的に1番花は立派に出来るけど、2番花はそのぶん貧弱な
出来になるのだそうです。
だから、1年中コレで売りたい!というスタイルには向かないのです。
そこで小林さんが考えたのが“立派な1番花を作らない=いいものを作らない” という事。
そうして冬も夏も同じボリュームの花ができるように工夫をされているのです。
根元が茂って見えないような作り方も、そんな工夫の表れだったのですね。
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足元にはもみ殻が敷き詰められていました。これにも秘密があるのでは?と尋ねてみるとこんなお話が聞けました。
「ナデシコはカーネーションに比べてデリケート!
だから同じ肥料を与えると根がやられてしまうほど弱いんだ。」
その為に化学肥料ではなく、ボカシ(動物性や植物性の肥料)を使用しているのだそうです。
ふすま(製麦時に出る小麦の皮くず)や、焼きぬかを混ぜたりして、とにかく根をいじめないように細心の注意が払われているのです。

↓道の駅ではこうして販売されていました。
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あえてダイアンサスではなく、ナデシコと呼んでいるのは、
『楚々としたもの作りたい!』という思いから。
「けれども、うちの花は細くてもしっかりしていて、花保ちがよいんだ」と小林さん。
自身をもってお奨めできるだけの工夫やプロの技を見ることができました。

2100坪の広大な面積で、ダイアンサスだけを生産している、というのは他の生産者に聞くと考えられないことのようですが、小林さんは 「とてつもないことらしいん」 と他人事のようにおっしゃっていました。

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                                  ↑こうした努力によって生まれた花は、
                                  数々の賞を取っていました。 

楚々とした雰囲気と丈夫な茎・花保ちを併せもつ小林さんの花を知るとナデシコのイメージが
変わるかもしれません。

?松山洋蘭園 松山彦志さん…存在感ある蘭の魅力を伝えたい?

   (長野県飯田市?シード会)

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訪問した日で出荷もひと段落、といった時期だった為、残念ながら花はあまり見られず…。
でも松山さんの拘りは伝わってきました!

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水遣りはこの管で足元から点滴のように与えています。
さらに、水不足にならないように上からもかけるのですが、花に水が当たってその日中に乾かないとシミになってしまうので、天気にも気を配りながらの作業なのです。

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松山さんのシンピの魅力、美しくしなるラインは松山さんの手によって作られていました。
重りをつけたりして自然に見えるように人為的に曲げていたのです。
「だけど立ち上がりは付けるよ、だって花屋さん困るでしょ」と
使い手の気持ちもしっかり考えていらっしゃいました。

そんな説明を聞いていると、突然ハウスの中にシャワーのような雨が降ってきました。
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細霧冷房(さいむれいぼう)です。
葉についた水滴が蒸発する時に空気中の熱を消費することで温度を下げる、という仕組みです。
でも「水を沢山必要とする夏場は、これが生命線となった!」と思わぬ効果も得られたようです。
さらに、「本来、半日陰を好むシンピジュームを直射で育てるには、葉の温度を上げないようにすることが大事なんだよ。
何でかと言うと、シンピは気孔の数が少ないからね。」と、植物についての基礎知識も勉強されているからこそ、植物の気持ちを汲み取り、作りにも自信が持てるですね。

そんな松山さんが作るのはシンピジュームだけではありません。
「採算を考えればシンピだけ作ってればいいけど、生きがいなんだ」というのが、少量多品種を誇る洋蘭類のハウス。
パフィオは2?3年に1度しか咲かないのです!
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洋蘭の魅力は「1輪の存在感」と語る
松山さん

こんなに個性豊かな表情をもつ蘭がいっぱいです。

右の松山さんが手にしている蘭も、ひげの長?いおじいさんのような趣きで個性的!


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これらの洋蘭は、松山さんのセレクトによりミックスでお届けしています。
シンピジュームのように安定して、計画的に切れるものではないので、
「あの時買ったアレがほしい」と注文しても、手に入るかどうかは分かりません。
でも、だからこそ“その貴重な花との出会いと、その時の感動を大事にしてほしい”と思わせる花
です。
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松山さん自信も、『届いた商品を見て、デザイナーの感性で飾って欲しい。
また、花を飾ることの楽しさを感じて欲しい。』そんな思いを抱きながら、箱詰め作業をされているのです。
「品質の違いは花屋さん、消費者のところに届いて初めて分かる。だから、作り方(土・水遣り・肥料)に拘りの気持ちを忘れずに、自分が感動した花をより多くの人に共感してほしい」
そんな思いで花作りをされてる素敵な松山さんご夫婦でした。

?おまけ?
(その1)
新たな感動を求めて松山さんも時折訪れるという隣町の“蘭ミュージアム・高森”では、
原種を中心とした珍しくて、神秘的な世界のランに出会えます。
 ホームページはこちらから→http://www.ran-museum.jp/

(その2)
松山さんの案内で、不思議な花が咲くという山へ行きました。
コレなんの花だか分かりますか?
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答えは、銀竜草(ギンリョウソウ ・ ギンレイソウ)です。
山地のやや湿り気がある腐植土の上に生息する腐生植物で、透明感のある白色を
しています。ほの白く光る感じがなんとも幻想的な雰囲気でした。


長野 上伊那?飯田市の格言



・カーネーションだけじゃない!魅力的な花が生み出される上伊那地域に注目すべし。
・花屋さんの使い勝手を考慮した、拘りのミックス花を使ってみるべし。

・自然なラインの美しさや、その花の持つ性質をデザインに活かすべし。

・荷姿にも生産者のメッセージが詰まっている!箱を開き、花に出会った時の感動を消費者に伝えるべし。


・こんな人が持ったら…、こんな花がメインだったら似合うかな?…と花束をイメージして作られるMIXハーブ など、唐澤さんの新しい発想で生み出される商品から目を離すべからず。

・多くは語らない控えめな人柄だが、流行をキャッチするのは人一倍早い!
 田中さんによって次々と作り出される時代に即した花々に注目すべし。

・楚々とした雰囲気に魅せられた小林さんが、創意工夫の末に生み出した細くても丈夫で、花保ち
抜群のナデシコをぜひ使ってみるべし。

・蘭の魅力は1輪の存在感!さらに、松山さんによる愛情が注がれて一段と美しいものに!
 その花に初めて出会った時の感動を大切にし、デザインに活かすべし。

(文責 中川美紀)

2006年6月21日

Vol.16 愛知県 I&Tクレマチスガーデン

出張! 産地ウンチク探検隊 

愛知県 I&Tクレマチスガーデン 『もっとクレマチスを!』


よく晴れた午後はすっかり初夏のここち。今年もクレマチスの季節になりました。
近頃の八重咲きブームでさらに加速したクレマチス人気。
一大ブームの予感を感じたウンチク探検隊は愛知県まで遠征、I&Tクレマチスガーデンを
取材してまいりました!愛知県といえども広し・・・クレマチスガーデンは愛知県稲沢市、
カラーやアルストロメリアでも有名な海部花きセンターにもほど近い場所に位置します。

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天気は快晴、ぬけるような青い空。
名古屋市から40分、どこまでも続く平坦な道を車で何時間走ったでしょうか。
きれいに舗装された道路は広々としているのに人っこ一人歩いていません。
コンビニの駐車場の広さまでも目にまぶしい。
静かでのどかな所です。
どうやらこの辺りは枝物の栽培地らしく、あちこちに枝物畑が見えました。


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あっ!見晴らしの良い平野に、何棟も連なる立派な鉄筋のハウスを発見。
今日の目的地I&Tクレマチスガーデンに到着しました。
ハウスの横で手を振って出迎えてくれたのは社長の石黒さん、初めまして!

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「よく来たね」と笑顔の石黒さん。穏やかな語り口調にひきこまれます。
あっ嬉しい、うちの会社のカレンダーを使ってくださってますよ。

石黒さんはサラリーマン時代から大好きなクレマチスをコツコツと研究、育ててきた
クレマチスの達人。
定年後はますますクレマチ切花ひとすじに、育種と普及につとめてきました。
流石、本当にたくさんのクレマチスハウスをお持ちです。
もちろん育種の企業ヒミツもあって、OKをいただいたハウスを密着取材する私たち。

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それでは早速ハウスを拝見させていただきましょう。こうやって圃場に足を踏み入れるときは
いつもちょっとドキドキします。クレマチスはどんな姿を見せてくれるのでしょうか。
ハウスの天井の高さも然ることながら圧巻な光景。
クレマチスってこんなに大きな背丈になるんですね!

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細い通り道の両側にそびえたつクレマチス。高さは2?3m近くあります。
ひらりと咲く大輪の白花の清々しいこと。大輪一重咲きのパテンス系をはじめ
今年一番人気の八重咲き「キリ・テ・カナワ」、純白が上品な「雪の粧(ゆきのよそおい)」が
顔をのぞかせてくれました。手の平よりも小さくほど良いサイズですが
さすがは八重、華やかに見えます。
八重咲きは、開花の後ちょっと花びらが落ちても形崩れしないから良いですね。

DSCF0806.jpg「雪の粧」
DSCF0795.jpg「キリ・テ・カナワ」まだ咲きかけ。

今にも咲きそうなキリ・テ・カナワ。花弁の裏側は白色で産毛がふんわり。
一重咲きのパテンス系品種とくらべると…見てください、このほっこりしたボリューム感。

「キリ・テ・カナワは茎が強いから切花向けだね、花もちも良いよ。」

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確かに細くてしっかりした茎、これならオアシスにシャキッとささりそう。
切花に向いているのはパテンス系の品種とのことです。

石黒さんはクレマチスを特に切花向けに普及させてきました。
切花に向く品種選びから、栽培過程でも脇芽を間引いたり…
本当に色々と手間がかかります。
「クレマチスを切花に?そんなクレイジーな!」
当時そう言われていたのが、今やクレマチスは大人気の切花に。
成果はちゃんと実るんですね。

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キリ・テ・カナワというオペラ歌手がいますが、その方にちなんだ
ネーミングなのかな?ニュージーランドのマオリ音楽を歌う人気の歌手です。

DSCF0820.jpg「キリ・テ・カナワ」咲いたよ。

石黒さんのクレマチスは、すべて支柱仕立て。支柱にツルをクルクル巻きつけている。
ネット仕立てだと、ツルがからまって取り外せなくなるからなんですね。
「クレマチスのツルはお隣さんとすぐ仲良しになっちゃうんだよ」
困っちゃうんだよ?と石黒さん。
一晩のうちにツルがあちこちと手をつないで、からまっちゃうらしい。
してみれば、クレマチスって本当に良く動く植物なんですね。

「長いツルの柔らかな動きが、一番の魅力だね」ズバリ語る石黒さん。

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一緒にくるり、仲良しクレマチス。

そう言われてみれば、クレマチスって立ち姿が美しい。
クレマチスのKlema(クレマ)をギリシャ語でつる、巻きヒゲという意味ならでは。
これがツル植物の魅力なのです。

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カッコイイクレマチスがある、と近頃、市場担当者の周囲でひそかに熱い
「花炎」という品種。その花炎にお目にかかることが、今回のミッションでもありました。
細く縮れた花弁は八重咲きで、鈍色の赤から緑へグラデーションが個性的な品種です。
んー、どう見ても玄人向け。

(花炎 写真 ?少々お待ちください。乞うご期待!?)

「花炎を今年の秋のスーパースターにしたい」と隊長。
石黒さん「いやいや、今年はキリ・テ・カナワだよ。花炎はまだこれから…」と
そんなやり取りも。秘蔵っ子は、じっくり、ゆっくり、ブームを待つのです。

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あでやかなパテンス系品種。クレマチスの色と形は和にも洋にもマッチしそう。
一年苗で、1株から10本ほどの花が採れます。

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「手間のかからない出荷がテーマ。
ハウスの外でも育てられるように色々試しているところだよ。」
やはり、これだけ立派なハウス設備を維持するのは大変ですよね。
今のところ、ハウスの中で育てるのは特に丈を伸ばして育てたい品種や
病害虫に弱い品種と白花の品種。でも、どうして白い品種なのかと言うと…?
「外だと酸性雨で花シミになっちゃうからね」と石黒さん。
酸性雨という言葉にドキリ、深刻な環境問題を垣間見てしまった。

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早速、ハウスの外で栽培中のクレマチスも見に行きました。

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そこで見つけた、奇妙な八重咲きカザグルマの一種。カザグルマという品種は日本の山野に
もともとあるクレマチスの原種です。
でもこれは奇妙なツルを伸ばして、なんと自分自身に巻きついて花首を折っている!
自然界で八重咲きとは、奇形なんだそう。ツルを自分に巻きつけようとするのは
正常なもとの葉っぱや茎に戻りたいという願望なのです。

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ようやっと顔を上げてクレマチスガーデンの周囲を見渡せば、広々と見晴らしの良いこと。
遠くの草原にヒバリがさえずっています。都会じゃめずらしい、白黒のツートンカラーの
野鳥カササギ(天然記念物)も見付けた。時おり「ケーン、ケーン」と聞こえるのは?
「ああ、このあたりは野生のキジがいるんだよ。」
そぅですか!…もう何がいても驚かないぞ、と。

ふたたびハウスの中へ。
香りがあるクレマチスに出会いました。来た来た、本日のサプライズ。
ウンチク産地にお邪魔すると、いつも何かしら新しい五感を体験するのですが
今日は初めてのクレマチスの香り。パウダリーなバイオレット(スミレ)に似た
あわーい優しい香りがするの。

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これがその「ワイドボーイ」という木立性の品種。さすがにこれまで一度も
かいだことの無い花の香りがします。芳香性をもつクレマチスは、木立性の
インテグリフォア系品種に多いそう。
「散りかけが一番良く香るんだ」と石黒さん。ふんふん、確かに十分開いた花ほど
香りが強いみたい。てことは、咲きかけが一番良く香るバラとは正反対なんだ。

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ヨーロッパではクレマチスを「旅人のよろこび」と呼ぶ。
それは道端や生垣に咲き、葉で木陰を作って旅人を休ませてくれるから。
石黒さんはクレマチスの木陰に何を思うのでしょう。

「40年以上、ちまちま研究しておったのよ」

もともとサラリーマンだった石黒さん。20代の頃から大好きなクレマチスを
少しずつ勉強しながら育ててきたといいます。

「もっと、もっとクレマチス。そう言いながら10年経っちゃった。」

大好きなもののことをいつも考える、追いかける、ビジョンを描く。
そうしたら何か大きな流れに乗って少しずつ近づいて
いつか、本当に叶ってしまうのでしょうか。

「切花をたっぷり普及させたら、いつか庭にクレマチスのグランドカバーを作ってみたいよ。」
まだまだ夢は尽きません。

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「クレマチスの育種はダメでもともと。でも、この子とこの子をかけ合わせたら良いかな?って。
毎朝ここに来るのが本当に楽しみなんだよ、今日はどんな新しい花が咲いているんだろうって…」
これだけ石黒さんに思われたら、咲くしかないでしょクレマチス!

石黒さんのお気に入りはテキセンシス系の「プリンセス・ダイアナ」。
ベル咲きのチェリーレッドがとてもキュートです。

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それにしてもダイアナさんは、空に向かって3mはあろうかという草丈。
上のほうは採花するのが大変そうだぁ。
そんなわけで、この草丈のまま出荷することも出来るとのこと。
テキセンシス好きな皆様、ご注文是非いかがですか?

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ババーンとそびえ立つ

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クレマチスの壁!


ここで問題。さて、これはなーんだ?!

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キューティクルつやつやの金髪、じゃありません。念のため。

このモシャモシャは、クレマチスの花が咲き終わって中心の部分が残ったもの。
ひとつの植物が育って花を咲かせて、実がなるまでに一体どれだけ姿カタチを
変えるんでしょうか。

クレマチスの株をひとつひとつ見ていると、ツルの動きの面白さも然ることながら
たまにドキッとするような葉っぱを見つけます。
小づくりなのに、上品な形をしているんです。実に繊細でキレイ。

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もうずっと利久草が人気ですが、つる性の葉ものとして
出荷されるのも間近かもしれません。

クレマチス百面相をご覧あれ!

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喋り出しそうなくらい表情ゆたかなクレマチの葉っぱたち。こうやって毎日、身振り手振りが
さかんだったら見ていても飽きないですよね?

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クレマチスの格言 ?自選、他選のクレマチズム?

その1、もっとクレマチスを!切花いっぱい普及させよう。


その2、散りざまに魅力あり…葉の姿、実の姿にも注目すべし!


その3、クレマチスの水揚げは切って30分間が勝負。たっぷり水を吸わせること。


その4、クレマチスはなるべくオアシスにさすべからず。
     クレマチの茎は空洞になっているので、オアシスが詰まって
     水上がりが悪くなりがち…!

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(文責 三浦 彩)

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