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2011年12月19日

試飾(ししょく)

今年はいろいろあった。ユーロ圏の金融危機、東日本大震災、アラブの春、アメリカウォール街での格差是正デモ、日本の野田総理誕生。来年にはロシア、中国、アメリカの大統領や主席の選挙の年である。20年続いた安定期から時代は不安定な混乱期に移ってしまったと感じる昨今である。

日本の卸売市場業界でも第九次卸売市場整備方針「青果・水産の中央中核市場設定」から、中央市場を辞めて地方卸売市場になる動きが活発になっている。花はもともとそうだが、中央市場は例外的とも言えるほどで、地方市場が流通を担っていると言っても過言ではない。地方市場も公設市場と民営市場があり、卸売市場業界も混乱期であり、中央拠点市場の中央市場と公設地方市場、そして問屋として機能する民営地方市場の3パターンの方向が見えつつある。世界経済は2012年まで少なくとも混迷が続くと予測されているが、すでに今まで通りのやり方では売れない。

何か売れ行きがパッとしないと感じる花き小売業界の中にあって、さすがという店が2つある。
1つはセレクトショップ化した青山フラワーマーケットである。日本には百貨店は多かったがセレクトショップはなかった。駅ナカ立地の小売店でもセレクトショップと呼べる店は少なかった。これが衣料品を中心に出てきて消費者の心を捉えている。青山フラワーマーケットはセレクトショップ化した花店と言えるだろう。だから消費者の心を捉えて離さない。
もう一つはブルーミスト社のオランダ屋である。ここはなんと言っても販売促進にイノベーションがあった。お話をうかがうと社長の蓑口さんは東日本大震災の被災地の福島県いわき市に花で元気になってもらおうと花の配布を続けている。震災後、消費者は食料品の買い溜めに殺到し、花が見向きもされなかった半月以上の間、蓑口社長は「花を販売していて自分は本当によそ様の役に立っているのか、社会に役に立っているのか」と自信を失ったそうで、そこで出来ることとして被災地に花をもらってもらうことを考えた。蓑口社長は「花で勇気付けるというよりも、本当に自分は花屋をやっていていいのだろうかという気持ちでした」と言う。そして花を配布して、喜んでもらったその笑顔や涙から、蓑口社長は「花屋をやっていていいんだ」と心底思い自信が湧いてきて、「お客さんのためにも、なんと言っても生産者のためにももっといっぱい売らなくては自分が役立つことが出来ない」と思ったそうだ。そこでいわきでやってきたように、店が暇なときに1本ずつオランダ屋の包装紙に花を包んで花を配ることにした。寝ていてふっと浮かんだ言葉が試しに飾る「試飾(ししょく)」。蓑口社長は子どもの手を引いている若いお母さん、男性、花に興味がなさそうなお年寄りに配った。「"花を飾ってみてください"と言って花を渡すと、その人は"何よ"という顔をしたり、避けようとしたりするが、そのとき"試飾です"と言うのです。そうするとニッコリしてもらってくれます」と蓑口社長は言う。蓑口社長が言うのだから本当だ。かなりのパーセンテージで初めて花を買いに来てくれて、10月も11月も売上前年比は120~140%だったそうだ。
蓑口社長は僕に言う。「『試飾』を日本中の花屋さんがやってくれたら、それも普段から花を買ってくれない人に飾ってもらったら、たとえ1ヶ月に300円でも500円でも買ってもらえるようになったら良いと思います。うちの場合お客さんの平均年齢が65歳、花の仕事をやろうと思った15年以上も前はとにかく若い人に売るぞ、だから既存のお花屋さんに迷惑は掛けないぞという気概で花屋業に入ったのに、いつの間にか買ってくれる人にしか売っていませんでした。我々小売業がもっとがんばって新規の需要を開拓しないと。1ヶ月で300円でも500円でも花を買ってくれたら業界皆が良くなって商売も進むし、我々小売業の質も上がると思うのです。とにかく試飾。試しに飾ってください。これをぜひ全国の小売店にやってもらいたいのです」
というわけで今日のお話としたわけです。では小売の皆様、『試飾』を最も効果的な販売活動として実行をお願いします。「試飾です。」

投稿者 磯村信夫 : 2011年12月19日 00:00

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