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2016年8月15日

世界基準で仕事をする

 8月14日(日)の日本農業新聞の一面に、奈良県農研センターの実験の記事が掲載されていた。菊の挿し芽を46度の湯に3分間漬けて殺菌し圃場に植え付けを行ったところ、植え付け1ヶ月後の白さび病発生率が1割以下に抑えられたという。昨年の11月に実施され、植え付け21日後、34日後の無処理のモノと比べた結果だ。11月だから、20度位が白さび病の適温だと聞くから、この研究結果は大変素晴らしいものである。

 卸売市場では、商品にサビやボトがあると単価が極端に下がる。しかし、日本のよさは花の卸売市場が沢山あることで、サビの程度のよって、仏様の花は白さび病のある菊でも良いという人もいるが、いけばなの伝統のある日本では、花はもちろん、葉も良くないと商品価値が下がってしまう。葉っぱの品質が上がるということは、生産者の手取りを増やすことに繋がる。日本では、生産地からそんなに遠くない場所(国内)で、菊を好きな生活者が沢山いる。しかし、海外の産地であるオランダやマレーシア、ベトナム、南アフリカやコロンビア等では、輸出出来ないと花を作っても収入が殆ど無くなる。もう20年以上前のことだが、オランダのウェストランド地域で菊の生産が盛んになり始めた頃、視察した農場の担当者へ「さびが出始まったらどうするのか」と聞いたところ、「輸出出来ないので、出荷前にハウス一面、全て焼却します」という答えが返ってきた。その時、小生が温室で見たのは、ほんの少しのサビで、日本ではちょうど夏だったが、国産のサビのついた菊が市場へ出荷されていることに比べたら、今見ている温室の中の菊を全て捨てるというのは、なんと徹底した仕事をするのだろうと驚いた。彼らの仕事に対する取組みに頭が下がる思いであったし、日本の生産者は、例え菊にサビがあってもお金に代わるという有り難さを強く感じた次第である。この経験の他にも、コロンビアが日本にカーネーションを輸出し始めた時や、マレーシアからSP菊の出荷が始まった時等、それぞれ現地の農場を視察すると、オランダと同様、彼らの品質に対する覚悟の際立った強さを感じたものだ。

 日本も、生鮮食料品花きを輸出しようとしている。その為には、海外の世界標準になっているその国の植物検疫に受かり、その国の生活者に受け入れられる花持ちと規格を提示し続けなければならない。輸出というと、世界一の品質の日本の花とか、新しい花の色や品種に目をとらわれがちだが、決してそれだけではない。14日(日)の日本経済新聞に掲載されているが、農業分野では、知的財産の保護が甘く、アジア地域では日本の模倣品が横行している。日本が苦労して作った品種がこっそり作られていて、同じ名前であったり、名前だけ変えて販売されていたり、パテント料を払わず育成されている花きや青果が多くあるのだ。TPP締結国に義務付けられている、植物の新品種を保護するユポフ条約だけでなく、産地名ブランドによる特産化を謳い、名前を使用させないのも大切な方法だろう。

 日本の農業者、或いは、農業関係者は、国内だけに目を向けてやってきたので、世界の荒波に揉まれても十二分にやっていけるだけの施策を打たなければならない。そして、農業や農産物流通等、あらゆることに対しルール化している世界標準を最低限の基準とし、環境に優しい、社会の健康をクリエイトする生鮮食料品花き業界を目指して行かなければならない。

 今、最も気が重いことは、神棚に中国産の作り榊が多く供えられていることである。少なくとも小売店で、国産・中国産と選べるよう表示してもらう努力を、我々、花き卸売市場はやっていくべきだ。まず、輸出・種苗まで含めた世界標準に配慮が行き届き、「守り守らせる」業界へ。そして、日本の生活者に世界標準の姿をお知らせする。これを、これから急ぎやっていかなければならないと思っている。

投稿者 磯村信夫 : 2016年8月15日 15:43

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