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2016年10月24日

農業関連改革は本気だ

 先週の金曜日、自民党本部で農林水産業骨太方針策定PTの会議が開催された。花き生産協会が出席するにあたり、小泉進次郎委員長の要請で、花き流通事情説明のため小生も出席してきた。会議の中で、平将明衆議院議員が「商社不要論と同様に、卸売市場不要論があるが、市場は重要であると思っている。政府はどのようにお考えか、ここではっきり考えを伺いたい」と質問があったが、小生には詰問に聞こえた。これに対して、農水省の礒崎副大臣より「卸売市場は大切な機関である。但し、今後は法改正も含め、時代に合わせた改革が必要である」とのご発言があった。22日の日本農業新聞では、この平議員の記事と米卸・神明の藤尾社長の発言の記事があったが、卸売市場のやるべきこともまさに一緒で、消費者に近い分だけ、卸売市場として物流加工や製品加工を行う。そして、商品開発等を行っていくことが必要である。

 当日は、米・製粉・卸売市場の三つの業界が呼ばれていたが、いずれも大手企業の日清製粉を除き、大きくて中堅、殆どが中小零細会社の業界である。これを、生活者と生産者の為、大規模小売店と普通の価格交渉が出来るだけの規模にし、需要を増やす為に海外にも輸出出来るような人材や施設等を有する仲立ち業になる必要がある。会議は、その為に国は指導をしていくべきはないかという、踏み込んだ見解が漂う雰囲気であった。実際の発言はその場ではそこまでなかったが、日本の人口動態や、特に、農業生産の実態を見た時、今やらなければ、この国の農業は壊滅するという危機感をひしひしと感じた次第である。

 かつての農商務省は、経済学者マルサスの思想を受け継いだものであったが、現在のオランダの、経産省の中に農業があるという考え方が、現代の先進国の主流な考え方になってきている。懐かしさや、変わらぬことへの安心感。これをベースに、農業関係の生産から流通は、規制や補助金で守られてきた。これを、ファーマーズマーケットや道の駅等の、肌と肌の触れ合いといった"ぬくもり産業"は残すものの、一方には、ビジネスベースで成長しうる産業として、仕事のやり方とルール作りを行えるよう、国は舵を切った。

 読者の皆様方に生鮮食料品花き産業を担う方がいらっしゃれば、今迄のように繰り返し行うことの幸せは、次の体制や仕事のやり方が確立されるまで、しばらくお預けして頂きたい。今日から、もっと生産性を上げる、取り組み方を変える、また、無駄を排除し、必要なもの、儲かりそうなものに投資をする。ここに頭と時間を使って仕事をしてもらうようにお願いする次第である。まず、過去の安住、楽しかった繰り返しの日々を捨てるところから出発して貰わなければならない。

投稿者 磯村信夫 : 12:39

2016年10月 3日

状況を知り、己の仕事を明確化する

 来月の11月、米国や中国に押されてか、EUは環境保全の新ラウンド・パリ協定を批准する方針だ。いよいよ、地球全体の環境保全を各国で手分けして取り組んでいく。地球の人口はみるみる増えていき、既に70億人を超えている。しかも、そのうちの半分以上が都市部で生活をしているわけだから、各国が責任を持って環境保全をしていかなければならない。現在のインドの都市部、それよりもややましだと言われる中国都市部の、PM2.5による実害は目に余る。どこの国でも避けなければ、何の為の人類の進化だったのか、何の為のその国の国民の人生なのか、豊かさの実感は消え失せて、危険すら感じてしまう段階なのである。天気がおかしい日本。国民の幸せを考え、日本も早く具体的な施策を打ち出すべきである。

 このような状況の中において、花とみどり、そして、ミネラルやビタミン等の野菜・果物が、人類社会で担う役割は、健全な精神と肉体においてますます重要になっている。供給も消費も天候の影響を受けやすく、しかも、腐りやすい生鮮食料品花き業界は、スピーディーに生活者に届けるため、世界の流通拠点である各国の卸売市場が中心となって、日夜休むことなく活動している。

 10月2日、南米コロンビアで52年続いた政府と反政府ゲリラ組織との、和平合意を問う国民投票が行われたが、残念ながら僅差で和平合意とはならなかった。コロンビアの第二の都市・メデジンは、麻薬生産が有名だった。そこで、麻薬を撲滅する為にコロンビアからアメリカに入る花の関税をゼロにした結果、花の大産地になったのだ。メデジンの草花やボコタ周辺のカーネーション農場では、夫が反政府ゲリラ組織と戦い、未亡人となった人が優先的に働いた。そこには保育施設もあり、コロンビア政府の支援もあった。今回の国民投票では内戦終結が成されなかったが、今後の大統領の交渉で和平が取り結ばれれば、国民一本化で共に国の発展に向けて協力することで、さらなる花き業界の発展にも期待が持てるだろう。

 今年は、ブリクジット(イギリスのEU離脱)、ウクライナ問題等により、イギリス・ロシアでコロンビアの花の価格低迷が目立っていた。こういったことも、一枚板になったコロンビア業者間の情報共有化によって、オランダのように花きの戦略的輸出が行われ、価格は安定するだろう。

 日本は、近い所に1億2千万人もの生活者を抱え、しかも、平均年収で3万ドル以上ある世界第三の経済大国である。こういう恵まれた状況であった為、生鮮食料品花き業界は、内だけを向いたマーケティングでも食べていけた。しかし、気付いてみると、花の場合、カーネーションの苗にしても、ユリ他の球根にしても、もう自給自足ではなくなっている。もう一度、この地球の中で日本の花き業界はどうしていけば良いか。種苗から小売りまでの業界人は一定の方向性を示し、それを共有していく必要がある。パリ協定や、今日のコロンビアでの国民投票は、少なからず日本の花き業界に影響を与える。日本の花き業界で各社の仕事の内容の入れ替えと、優先順位を考える機会となっている。

投稿者 磯村信夫 : 16:36

2016年7月25日

ポスト・グローバリズム

 夜間、作業をしている社員によると、大田市場花き部にも、どこからか車が何台もやって来て、日本でも配信が始まった「ポケモンGO」でポケモンを探している人達がいたという。これはグローバリゼーションの一つだが、明らかに、ポスト・グローバリズムである「民族国家主義」の時代が始まっている。その対応をどうすれば良いのか、外交も経済も困惑している。新しい時代の秩序を作っていく段階に入っているのだ。

 花き卸売市場では、出荷量が少なくなり、また、延べ買参人数(花屋さんの一月でのトータル買い出し回数)も、葬儀の縮小や不要不急の消費を手控える個人消費不振で減っている為、第一四半期の4月~6月の売上も減ってしまったと見るのが一般的なところである。この個人消費の不振は、当然、世界経済の影響を受けたものだ。昨日、中国の四川省・成都で開催された20か国財務大臣・中央銀行総裁会会議では、"全体で協力しよう"という文言だけでなく、"個別にも政策を進めていこう"と、全体と個が並列されたメッセージを打ち出していた。また、ラオスのASEAN会議では、ASEANとして南シナ海問題で中国政府の主権と開発を否定したオランダのハーグ仲裁裁判所の判決を支持し、「中国NO!」という声明を出すことが出来なかった。これらは、イギリスのEU離脱で時代が「民族国家主義」に戻り、そこから新たな秩序を作っていこうとする文脈が顕在化したとみるべきであろうと判断される。

 2008年のリーマンショックの際、経済の拡大はグローバリゼーションによって進んだが、破局した経済の立て直しは、結局、全て各国の能力に委ねられた。このことから、グローバリゼーションは必ずしもその国の国民を幸せにするのではない、ということが明確になった。それは、EUのギリシャに対する裁定をみても分かる通りである。さらに、グローバル化を進めることが、必ずしも政治的に安定することではないことは、今月行われた参院選において、TPP問題に関心が高い東北で、秋田県を除き自民党が敗れたことでも分かるだろう。

 一民族一国家であればその国が安定することを、「エスニック・ナショナリズム」という。ロシアとウクライナの問題や、その前のユーゴスラビア連邦の崩壊をみれば、そのことが頷けるだろう。これを前提に、経済をグローバル化させることが必要だ。今起きているドル安・元安、ポンド安・ユーロ安、結局円高の通貨安競争ではない。その国の安定を第一にした経済のグローバル化だ。それが、その国の政治の安定化に繋がる。世界は民族国家と国際経済の問題を明確に分け、新しい秩序を作っていく段階に入った。これが不透明なので、投資や消費が手控えられている。

 今、花き業界では、どう輸出を増やしていくかを検討している。世界から言えば、三周遅れどころか五周遅れかもしれない。しかし、将来に向けてやっておかねばならないことである。インバウンドの需要をしっかり満たす観光産業と農林水産業、地元の生鮮食料品花き業界、そして、これらの輸出は、新しい時代に入った日本の証として、我々が注力しなければならない事業である。

投稿者 磯村信夫 : 14:54

2016年4月18日

母の日までの新たな取り組み

 今朝、会社のパソコンを立ち上げると、海外の友人から熊本の大震災に対するお見舞いメールがいくつも入っていた。ここ20年で、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災があり、同業の卸売市場や仲卸、生産者や小売店に多大な影響を及ぼした。建物の被害だけでなく、震災がきっかけとなって資金繰りが悪化したり、取引先が細って倒産したり、廃業したりしたところが少なからずある。これまでもそうならないよう助力してきたつもりだが、今回は今までの経験を更に生かして、復興を助力していきたい。被害の全容はまだ分からないが、母の日に向けて出荷と販売が例年通り出来るようにしたい。そう友人達に返信した。

 昨日は父・民夫の23回忌で、本当に近しい人達に集まってもらった。先週、死について小生の考えをお伝えしたが、死には「個人の死」と「絆の死」がある。シニアの中年組である70歳代以上の方には、参加について無理をしないようにしてもらったが、50歳代からもっと若い曾孫にあたる人達には、出来るだけ参列してもらった。これが「絆の死」、「つながりの死」であり、法事を行う意味でもある。
 
 父といえば、アサヒビールのスーパードライを思い出す。1980年代、アサヒビールの国内シェアは10%を切るか切らないかという時代で、向島の本社からお昼休み等で社員が外に出る時、アサヒビールの社員であることが恥ずかしいと、会社の社章を外して外に出る位、社格が落ちに落ちた時があった。そこから、戦後の財閥解体前の、日本を代表する良い会社であった大日本麦酒の勢いを取り戻そうと、アサヒ生ビールで勝負に出た。そして、住友銀行から来て社長に就任した樋口廣太郎が、「鮮度が大切だ」と一定期間経った生ビールを処分させたのである。このこだわり、また、消費者は嘘をつかないという、消費者を信ずるアサヒビールの姿勢に、亡き父はいたく感心し、スーパードライばかり飲んでいた。社会人になって少しモノが見えてきた小生が「目隠しして飲んだら、どこのビールも一緒じゃないか」と言ったら、父は「そんなことはない。人は味が分かるのだ」と、こっぴどく叱られた。鮮度のこと、味の違いはその当時の小生には分からなかったが、関東で住友系のアサヒビールにあれだけ肩入れしていたのは、会社としてのアサヒビールの素晴らしさを想ってのことだろう。後になってそう思うようになった。そのアサヒビールで、献杯をした。

 法要が終わり、小生と同じ歳のご住職が「月日が経つのは早いものです。80歳にとって一年は1/80。60歳にとっては1/60、30歳にとっては1/30です」とおっしゃった。確かに、歳を取って一年は早く感じると、その時は得心した。しかし家に帰ってから「いや、時間は平等の筈ではないか」と疑問に感じた。歳を取っても、一日をしっかり刻んで生きて仕事をしているのであれば、惰性ではなく、新しいことをやっていけば、会社だけでなく、何歳になっても一個人としても成長できるし、その一年は十二分に長い一年になる。亡くなってから、その人の年月は悠久に入る。長かったり、あっという間だったりするのであろう。しかし、生きている個人の一日というのは、歳に関わらず、欠かせない一日であり、また、一年である。花き業界にとって今一番しなければならないのは、熊本・大分・九州地域のお取引先の元気な復興を願い、手伝う算段だ。まずは母の日を目がけてやっていこうではないか。

投稿者 磯村信夫 : 12:51

2016年1月11日

健康の青果だけでなく、花きで住環境を整える時代に舵を切った

 先週の9日(土)、(一社)帝国華道院主催『第89回全日本いけばなコンクール』の表彰式が、箱崎のロイヤルパークホテルで開催された。その懇談会で、各流派のお家元をはじめとする諸先生方に、今の切花チューリップは前処理をしているし、カスミソウも匂いを抑える処理をしているので、どちらも暖かい部屋に置いても間延びや匂いを気にせず使ってもらえるようになったことをお話しした。初めて聞いたという先生方が多く、市場や小売店が、産地それぞれが行っている改善努力を消費者へ情報提供出来ていないことを感じた。原産地表示まで含め、『この産地はこのような前処理をして花持ちを良くしています』といったような、業界人は知っていて当たり前のことを、消費者にも的確に伝えていかなければならない。

 さて、今年を占ういくつかの事象がマスコミで報じられている。まず、天候の話題、エルニーニョ現象である。エルニーニョ現象は現在、史上最大と言われており、今週は例年の寒さだそうだが、暖冬であることには変わりはない。天候異変が今年はこれからも続いてゆく。二つ目に景気だが、昨年の前半は、個人消費はしっかりしており、エコノミストが予測した通りの展開となった。しかし、年後半から食料品(生鮮食料品を含む)と中国産の衣料品等、買い物頻度の高い「食」と「衣」が値上がりし、いわゆる「体感物価」が上がって消費が控えられた。個人消費が振るわなくなったのである。花の場合、それに加えて暖冬の影響で、11、12月の安値市況展開となった。

 2015年の青果物は20世紀の単価水準となり、平成になって最も高い単価となった品目も多い。これは、天候異変による不作だけが原因ではなく、「健康」、「安心・安全」、「機能」を合言葉に、消費が確実なものになっていることを示している。花と同様、11月から現在まで、暖冬の影響で単価は失速気味だが、大きな傾向として、カット野菜まで含め、野菜の供給不足時に、原体価格が高値になっても、小売現場では家計に無理のない価格帯となる調達ルートが、2015年でおおよそ出来てきた。従って、青果の単価がこれ以上上がるのは難しいのではないかと思われる。一方、花の場合には、2015年の青果の高値につれて単価が上がった面もあるが、花の消費においては最悪期を脱しているので、小売価格を据え置いて、量を販売する時代になってきている。

 量を買ってもらうためには、一年間52週にフィットした花を提案しなければならず、その時々の天候に応じて若干修正を加える等、販売していこうとする花の品揃えと見せ方、価格を一にも二にも工夫しなければならない。ここ数年、青果物と同じ波長であった花の相場は、同じ地域で作られている農産物だから、天候の影響を受けて同じ流れの時もあろうが、20世紀の終わりから21世紀のはじめのように、青果物と別の動きをすることが予想される。それだけ、花きが農産物において主要地位を示しつつあることが、誰の目にもはっきりと映ってくる年になるといえるのではないか。

投稿者 磯村信夫 : 11:37

2015年9月28日

再生電力と生鮮品

 地方に行ってみると、太陽光発電のパネルが傾斜一面に設置され、こんなところでも再生エネルギーを創っているのかと驚く。かつては好ましく思っていたが、昨今の自然災害の猛威をTVで見るにつけ、再生エネルギーの太陽光パネルが、決して良い面だけがあるのではないと考えている。エネルギー政策は、基本的には可能な限り再生エネルギーを使用するのが好ましいが、自然に任せた太陽光、風力等の再生エネルギーは、原子力や火力発電のように絶えず一定の電気量を人間の意思で確保するというわけにはいかない。今後比率を高めていくには、蓄電をはじめ、いくつかの技術開発が必要だろう。緑の党が活躍するドイツでは、再生エネルギーと火力発電で自国の電力を賄う計画を立てている。再生エネルギーが供給過多の際は近隣の国へ買取価格を下げても売っているし、足りない時には近隣から買取る契約をして電力の一定量を確保している。日本は島国であり、ロシアや韓国、中国や台湾との電気のやり取りが出来ない為、原発まで含め、電力の問題は多面的に、より慎重に考えなければならない。再生エネルギーの問題も、水力発電まで含め、再度計画を練り直さなければならないと思う。

 再生エネルギーは、世界的にはその国の電力マーケットで値段が決まる。電力マーケットは生鮮食料品花きと同様で、保存が効かない、作るに天候、売るに天候だ。我々の生活を考えても、一日の中で活動時間、休んでいる時間、すっかり寝てしまって活動を停止する時間等、それぞれの時間帯によって電力の消費量は変わる。ここを明確に考えておかなければならない。電力マーケットの事を考えていると、市場の価格形成機能の重要性と、鮮度保持・保存の技術の大切さが分かってくる。鮮度を落とさず保存する定温庫の設置が、生鮮食料品花きには必要不可欠なのだ。そうなると、重装備の市場を運営するのは大変な投資コストになる。

 日本は今、農林水産省をあげて水産、青果、花きの輸出を推奨している。日本の食文化、花飾りの文化に裏付けられたそれぞれの素材を輸出しようとしているのだ。日本では「こんなに品質の高いものは、こんなに量は、要らない」と少子高齢化社会の中で言われたとしても、世界は広い。日本の良いモノだったら欲しいという人たちは沢山いるに違いない。そこに輸出できれば、中小零細の業者が多いこの業界でも、良いモノを作り続けることが出来る。市場内の仲卸は生産者と卸と組んで、需要があって、物流が便利な国の仲卸や問屋さんへ、定期的に生鮮食料品花きを輸出できるとよい。鮮度の問題から少量でも週1回から3回の間で輸出するのが理想だ。その目的で今度、中央魚類、東京青果、大田花きの三社は、場内仲卸さんの仕事を作るべく、台湾の高雄で展示商談会を開く(東京都生鮮物輸出協議会)。やや規模の大きい卸がまず先陣を切り、プロモーションし、実際の商売は仲卸さんにやってもらうつもりだ。

 どうしたら鮮度を落とさず、日本の素晴らしい農水産物を届けることが出来るか。もう既に良いモノを作っている中小企業の農林漁業者が、今後とも質を落とさずに生産出荷し続けていくためには、消費量が少なくなる日本だけでは駄目で、今後発展していく国の消費者にも買ってもらう必要がある。そこが、日本一国内で完結しなければならない電力問題と異なる点である。

投稿者 磯村信夫 : 15:45

2015年9月21日

花の消費に直結する住宅政策

 遅れていた小菊類の出回りが多くて値を下げたものの、27日の日曜日がお月見なので「お彼岸の花束にススキを添えればロスは無し」と、彼岸用の花も順調に取引されている。

 今日は敬老の日だ。団塊の世代も65歳以上の高齢者になり、日本で四人に一人以上が高齢者となっている。私も昨日、孫から彼女の大好きなガーベラの花束を貰い、一日早い敬老の日となった。都市部にいると、高齢者の住まいや行動が否応なしに目につく。首都圏は、若い人たちの比率が他の地方よりも高いが、その実、田舎には長男が残り、二男や妹たちは都会に行った訳だから、高齢者の数は地方の何倍も多い。家の周りの居住空間を見てみると、家を建替えたり新たなマンションが出来ているのが目につく。そして、新築マンションのすぐ側に、今では住んでいるのが殆ど高齢者になってしまったマンションがあり、空き室が目立つ。大規模修繕をしているマンションは、空室をリフォームして売り出してはいるが、廃墟になりそうなマンション等もある。日本全体では、二人に一軒の割合で家があるにも関わらず、年間百万戸もの新築の住宅が出来上がる。新しいマンションが分譲されているが、20年も経つと資産価値は新築のおよそ三分の一以下になるのが普通だ。従って、駅から少し遠い所では売れ残りが出来ている。今後の都市計画をどうするのか。早く手を付けてもらいたいと思う。家だけを見ても、もうこのままでは日本は立ち行かない。何らかの改革が必要である。

 高齢化と人口減少で、コンパクトシティの動きが首都圏でも加速化してきている。若者世帯は、通勤時間や利便性の観点から都心に近い高層マンションに好んで住もうとしている。郊外の両親の家やマンションに住まずに街の中心に住んでいくスタイルだ。もちろん、首都圏だけでなく、日本中の県庁所在地もこういう動きをしているだろう。花屋さんにしても、ニコライ・バーグマンがCM出演している、三菱地所レジデンスのマンションのような、"こだわりの住まい"が出来れば花が売れるだろう。しかし、どこのスーパーでも置き花が売られている今日、古いマンションがある地域の商店街の花屋さんでは、高齢化や所得減から花が売れなくなってきており、店の品揃えや花の鮮度の点から見て、諦めていると感じてしまう花屋さんが多くなってきている。だが、三軒に一軒、あるいは、五軒に一軒程の比率で、駅周辺の花屋さんと十二分に競争できる位やる気のある花屋さんが必ずあって、スーパーの置き花で済ませられない、花をよく知っている消費者はそこで買っていく。後継者のあるなしで花屋さんのやる気を判断することが多いが、それだけでなく、花の専門店としてのプライドがあり、店頭売りを一生懸命やろうとする気構えがご主人や奥さんにあれば、お客さんは必ずついてきてくれる。それが、花の小売店という商売だろう。

 空き家は今後とも増える。これをどのように、今風の仏壇が置けて、お線香をあげても匂いが気にならないような住まいづくりに出来るか。住宅ローンで首が回らなくなるような生活をするのではなく、可処分所得を確保し、家族のサイズに合わせた、豊かな生活空間を確保できるだけの住まいと家賃を日本は作り上げなければならない。散歩をしながら、夜のマンションの明かりを見てつくづく思う次第である。

※2013年時点、日本の空き家率は13.5%、一番多い東京では81万7千戸、二番目の大阪で67万9千戸。首都圏の神奈川では48万7千戸、千葉と埼玉で35万戸以上に上る。このまま古い家を取り崩さないと仮定すると、20年後の2035年には、空き家率は32%にもなると言われている。
文春新書『2020年 マンション大崩壊』より

投稿者 磯村信夫 : 16:01

2015年9月 7日

人口減、少子化を前提に卸売市場の統合を考える

 9月の需要期であるお彼岸や敬老の日、お月見などの物日については、首都圏では荷はしっかりあり、8月盆で消費者の期待に応えられなかった分、早めに生産状況を消費者に伝え、安心して花を楽しんでもらえるようにしたい。農産物全般に言えることだが、第二四半期から価格もしっかりしてきて、サブプライムローン、リーマンショック、そして、3.11以降、低調に推移していた生鮮食料品花き市況も、ようやく堅調になってきた。

 花き産業では、国内生産減を海外の生産物で輸入商社を通じて補給してもらうという構図が崩れ、絶対量不足が誰の目にも明らかになってきた。国産では、特に鉢物類と露地の切花においてそれは大きい。出荷者は卸売会社を絞ることで物流コストを軽減、また、出荷先に定価で買い取ってもらうことで所得を上げようとしている。しかし、買取り取引の場合にはリスクがあることを考えておこう。世界には、日本やオランダのような卸売市場がない国が殆どだから、基本的に契約や買取りである。生産者は気ままに作るというわけにはいかない。買い手と運命共同体になるよう、買い手の意向を反映させなければならないし、次の作付けで契約が出来ない場合がある。こういうリスクを抱えながらやるのが契約取引だ。よって、ヨーロッパでは、卸売市場が介在した方が良いと生鮮食料品花きの分野においては考えられている。必ずしもセリ市場でなくて良いが、行政府のチェックの下、透明感のある取引を、生産者・消費者の為に行っているのである。現在、出荷量不足の生鮮食料品花きで、買取りこそ生産者の手取りを増やす方策として、その方向性を産地が探ろうとしている気持ちは分かるが、この比率を高め過ぎると、長期的にみて必ずしも生産者や消費者の為にはならない。

 では、長期的に見て、日本の生鮮食料品花き市場はどのように合併をしていけば良いか、という論拠についてお話したい。中国の一人っ子政策ではないが、日本でも国の政策により、現在三つの人口のピークがある。戦中の「生めよ増やせよ」の世代、戦後の団塊の世代、そして、その子どもたちである。女性がお子さんを生む年齢は、一般的には25歳~39歳までが多いので、その年代をとると、2010年~2040年までの30年で、子供を産む女性の年齢の人口が今より37.1%少なくなる。さらに、2010年~2060年では、55.1%少なくなる。国の政策で人口をいじると、5、60年は不自然な動きをするが、日本は今後50年、少し不自然な動きのまま人口が減ってゆくものと思われる。若い人達がその分少なくなるので、首都圏も当然、今ある「地方で育てて頂いた若い人たちを東京に送り出してくれる」といった余裕はなくなってゆく。どこの地方でも、地域での有効求人倍率は当然に高くなり、人口減にはなるが、地方都市も十二分に若い人が活躍している筈である。グローカルで地域は絶対に消滅しない。そうなると、地域の文化である食や花飾り等、独特のものを調達してプロ向けに販売する卸売市場が合併して残っていないといけない。

 旧江戸時代の藩で一つの市場があるのか、あるいは、県で一つの市場があるのか。または、道州制にした際に、その地域で一つにするのか。どのような形にするにせよ、地域文化を継承し、地域のアイデンティティに即した花きや生鮮食料品を創って作って売る。その拠点の市場が必要となる。今後10年、2025年まで、東京オリンピック後の本格的な人口減と、少子化の未来を踏まえ、良い地域合併、良い大手市場との連携、花き市場と生鮮食料品市場との合併等、形態はいくつもある。大切なのは、収支が合う事、地域の文化、立地条件に根差していることである。

投稿者 磯村信夫 : 16:34

2015年5月 4日

中身の『品質』は物語だ、モノじゃない、コトだ

 今年のゴールデンウィークは初夏の陽気となり、ついこの間まで春だというのに寒かったのが嘘のようだ。上越では雪がしっかり残っていて、私はゴールデンウィーク中スキーを楽しんだ。当日は例年より暑く、若者たちは殆ど半袖でスキーやスノーボードを楽しんでいた。また、ウグイスも鳴いていて、毎年春スキーを楽しむ私としては、スキー場でウグイスの声を聞くのは初めてだった。

 暖かくなると、花持ちが気になる。母の日を目前に、切花も鉢物も流通上どのような鮮度保持管理をしたのかが重要になってくるが、本日は提案を二つしたい。一つ目は、仲卸・小売店での販売時に「この花をどこの誰が作ったか」を明示していくことだ。昨年、某大手ファーストフード店の食品事故問題が話題となったが、大手ともなると、「納品業者の責任だ」と言うだけでは済まされない。それと同様、大手の卸売市場、輸入商社も、外見だけではなく、中身の質をしっかりと見極めることが重要である。また、生産会社や個人の生産者も、中身の品質まで責任を負わなければならない。中小企業ではそこまで手が廻らないかもしれない。しかし、最終的に、仲卸・小売の店頭で、原産地や生産者名を出して売ることで、生産者と流通業者が明確にその品物に責任を持ち、消費者により安心して買って頂けるようにするべきである。大田の仲卸通りでも、バケツに入れて販売し、生産者名等の記載のないものがある。水が揚がっているので外観は良いが、中身はどうなのか。何日前の荷か、体力はあるのか。少し見ただけでは分からない。流通業者が誠実に明示をしていかないと消費者まで質の責任であるブランドが届かないのである。このことを、原産地や生産者名を明記することで届けていきたい。

 二つ目の提案として、輸送中の鮮度保持体制を整えることが挙げられる。もう五年も前のことだが、オランダからロシアのサンクトペテルブルグ、また、モスクワへトラックで鉢物輸送を行っている業者と、その荷を販売しているホールセラーに話を伺ったところ、トラックの温度設定は15 ℃で、荷主さんが市場に出荷した日から五日ないし一週間でサンクトペテルブルグに、十日ないし十二日でモスクワに到着するとのことだった。これだけの時間がかかっているのである。こうなると、多肉の花鉢であるカランコエの持ちは抜群だろうが、他の花鉢はテストしないと難しい。持ちが良いとされている鉢物の方が、消費者の花持ちへの期待が切花よりも大きい為、花持ち保証は難しいのだ。日本でも、母の日の需要期になるとカーネーションの鉢物が沢山出回る。出荷から消費者に届くまで何日間かかるのか、その間の温度管理や日照管理等、その鮮度保持体制を整えなければならない。

 切花の品質クレームの事例だが、二年前の母の日に、コロンビアからの切花カーネーションで大クレームが発生したコトがある。以前、日本の生産者でも、自分のストッカーでためておいて母の日前に一斉に出荷し、クレームになってしまったカーネーションの生産者がいた。国内生産者は母の日以外にも出荷するので信用と名前が大切。そんなに悪いことをする人はいないが、これがコロンビアからとなるとさらに疑心暗鬼になる。こう考えると、日頃から深い付き合いで信頼がおけ、その会社自体がブランド化している商社とのみ付き合わざる負えない。そうしなければ、こちらの暖簾も危ない。誰が作り、どういう鮮度保持管理をされているか、しっかりとした物語を背景に作られた商品を売らなければならない。少なくとも、流通上の鮮度保持に対して買参人にきちんと説明して切花も鉢物も販売する必要がある。そのコトが物日に対する市場・仲卸・小売の責任である。

投稿者 磯村信夫 : 15:33

2015年2月23日

少子高齢化を嘆かず、グローカル*に生きる

 昨日、東京の花き市場は連休だったので、湯沢の岩原スキー場でスキーを楽しんできた。そして、家に帰ってきて洗面台のフリージアを見たら、二番目の花まで綺麗に咲いていた。木曜日に家内が花屋さんで買ってきて、コップに活けてくれたのだと思うが、その時は、蕾でちょっと硬いなと思った。しかし、フラワーフードを入れていた所為もあるだろうが綺麗に咲いていて、香りも本当によく、見ているだけで清々しく、嬉しくなった。きっと、体力のあるフリージアだったのだろう。

 この旧正月に、様々なものを買い物してくださるアジア圏からのお客様、特に中国からの観光客がいらっしゃっているようで、新聞紙上での、その買い方や内容等の記事は大変面白い。スキー場でも、中国か韓国の方かは分からないが、正月休みでスキーを楽しみに来ている人がいた。多分、日本に来る前に教育を受けているのだと思うが、以前より割り込みは少なくなったし、列を作って順番に行動していた。しかし、湯沢駅では他の人の迷惑にならないように荷物を引っ張るとか、スキー用具を担ぐ等はしていない。自分が持ちやすいように持っているので「あの人、違う国の人だな」と思う。その視点から見ると、湯沢近辺のスキー場では、JRが経営している「ガーラ湯沢」だけが、日本語の他、英語、中国語、韓国語でアナウンスがある。しかし、駅のホームや掲示では英語と日本語だけの場合がある。まして、駅のホームで「黄色の線より内側を歩いてください」という係員の方は、日本語だけだ。昨日の湯沢駅の新幹線ホームでは、大きな荷物を持った人達で溢れかえっていた。案内をする係員の方は、最初は穏やかに、最後は怒った声で対応されていた。日本語だから伝わらなかったのかもしれない。このように、日本は既に国際化していて、外国の旅行者におもてなしの準備が出来ていない所があるのではないかと思われる。レストランや日本料理店で、料理の説明はしているが、活けて有る花の説明をしている所は稀だ。ホテルでも、活けこんだ人がフロアの人に、お客様に尋ねられたら応えられるよう、品目や産地を教えている所は一流のホテルしかない。

 日本は観光立国になることが出来ると思う。その為には、公共の場所や案内表示には、少なくとも日本語以外、英語と中国、韓国語が必要だ。そして、日本の特徴である、花きや生鮮食料品は、文化を反映した素材であるから、ぜひとも説明が必要だ。また、地方都市の素晴らしさは、中華圏の人達も大好きな筈だ。東京に来て、高層ビルなど、なにも中華圏の人達はびっくりしない。嬉しくなるのは、そのすぐ側の路地裏で、漬物桶や魚箱等で、園芸を楽しんでいる生活を発見した時だ。そこに日本の良さを見出す。従って、地方に行った時のその感激たるや大変なものだろう。ぜひともお買いもの旅行が中心の日本の観光ブームが終わったら、次に来る日本の地域独特の文化を楽しむ観光旅行に来てもらいたいと思う。

 地域の市場も、生産者と小売商と一緒になって頑張って、自分の地域の良さを引き出して欲しい。あらゆる産業がそうである通り、その場に留まるのではなく、前進させる。そうすれば、ここ2、3年で必ず消費が追い付いてくる。地元の人達による消費も、内外の観光客による消費も、必ずくる。湯沢の岩原スキー場では、スキーやスノーボーダー達の減少を嘆いてばかりはいられないと、利用者がリピーターになってくれるように、ゲレンデも、リフトも、宿も一体となって努力している。改善し、努力していることが分かるから、また、些細なことで気を配っていてくれることが分かるから、またそこへ行きたいと思う。そういった改善が、日本人は得意な筈だ。それを、花き業界のそれぞれの分野の中でやっていきたいと思った。

 今朝、顔を洗った時に見た洗面台のフリージアは、いい香りを出しながら、3輪目の花を咲かせていた。

*グローカル:グローバル+ローカルの造語。グローバル社会の中で、地域のアイデンティティを背負って生きること。

投稿者 磯村信夫 : 17:22

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