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2011年7月25日

花の生産者は国際派

 先週はなでしこジャパンのワールドカップ優勝で持ちきりだったが、私は優勝の影にその日のうちに飛行機に乗り、しかもエコノミーで帰ってきたという金銭的に恵まれなかったことや決してちやほやされなかったことでの気持ちの強さというのが底辺にあったと思う。これからは一日で世界一になった者としての自覚と立ち振る舞いを期待する。
さて、サッカーはイギリス生まれで世界に広まったスポーツで、まさにグローバリゼーションの時代にふさわしいスポーツであるが、食文化はそうではない。もちろん寿司やラーメンが広く海外でも受け入れられているが、日本食全体で見れば僅かだ。だいたい食はその地にあったもので、むしろその国や地域独特のものと言える。関西の人たちは東京のうどんのつゆを真っ黒で透き通っていないのにびっくりする。キューカンバーは日本語ではキュウリだが、欧米で食べているキューカンバーと日本のキュウリは別物だ。パンプキンも我々が食べているカボチャではない。唐辛子も韓国人は日本の唐辛子は辛いと言う。韓国の唐辛子は甘くて辛いそうだ。日本が台風などの被害で不作になってレタスを輸入するとしても、アメリカのレタスはちょっと固すぎる。だから日本の品種を外国に持って行き、日本用に作るということが輸入するためには必要だ。確かにじゃがいもやたまねぎ、アスパラガスやトマトなど国際流通するものもある。だがそれは稀で、日本の野菜農家や果物農家は海外の消費動向や産地動向など知らなくても生産し続けることができる。
では花はどうであろうか。今のユリ類は江戸時代、日本からヨーロッパに渡って、ここ30年で品種改良の技術が進み、新品種がオランダから生み出されている。日本で作っているユリのほとんどはオランダの種苗会社が品種改良したもので球根も輸入している。チューリップもアイリスもそうなってきた。だからユリ生産者は韓国の生産動向や日本に向けた輸出動向をチェックしておかないと価格競争に巻き込まれることがある。菊を作っている人たちは、ライバル産地の韓国、台湾、中国、ベトナム、マレーシアの作付状況をチェックしておかなければならない。カーネーションは中国雲南省とベトナム、スリランカ、コロンビアの動向がわからずして、その時期にこの品種を作れるか、作って大丈夫か、もっと有利に売れる時期があるのではないかなどを考え、生産していく必要がある。ことほどさように切花では菊、バラ、カーネーション、蘭、ハモノは国際分業になりつつあるのだ。ここで花の生産者は信用できる海外の情報をしっかり持って、海外の産品と競争の上棲み分ける必要がある。それが野菜や果物の生産者と違うところで、花の生産者は国際派でならなければならないのである。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年6月13日

新たな目的は日本の花き文化の伝播

東日本大震災後、三月が過ぎた。
2008年のリーマンショック後、長期にわたる経済の停滞で私たちは変えなければならないと新しい政治を選び、2010年、今度は自らの手で停滞を打ち破り、新機軸を作り上げ、経済成長をしようと果敢に海外に出て行くもの、国内では整理統合のための合併などを積極的に行うようになった。そして2011年3月、日本の企業は「経済成長よもう一度」ではなく、「日本の復興として」自分の事業や生き方の再出発を考えるようになった。それは日本らしさを追求し、世界と比べてみて日本が優位なものを欧米の価値観でなく日本の価値観で推し進めようというものだ。

では花き業界の震災後の目的と生き様とは何かである。日本の花き伝統文化に則った新しい花の使い方、作りである。一般には日本は環境と安全、健康が結果として他国と比べ優れていた。それは国土の7%で稲を作り、たんぱく源を魚に求めた。四季がはっきりしているので、それぞれの素材にこだわり、静かな折り目正しい生活をする。仏像を見ても左右が少し非対称であるところに美を見出し、エントロピーをかけがえのない美として崇め、味わう。その美意識に裏づけられた行動はさっぱりしているが情緒がある。自然を見ていると限られた空間の中で、その者の能力において精一杯生きている。よく言われるように、自然の掟である競争、適者生存の棲み分け、そして食物連鎖の一番上の動物も、森であれば一番上の高木も我慢している。我慢せずに自分の思うようにしてしまえば、食べる餌がなくなり、木の足元にも陽が入りすぎてしまい地表や土の中を壊して根から充分な養分を吸収できない。競争、共生、我慢は自然界で生きていくための掟である。

このことを前提に日本らしさを前面に出した日本の産業界の新しい姿があるはずだ。縦長の日本列島は、桜前線や回遊魚と同じようにいつの時期ならどこのものが良いというようになって、交換市場が発達していった。人間が長い間関わって作り上げてきた園芸植物である花きは日本古来の天然の花きとは違う。しかしそこには神仏習合の花きとして、華道の素材として、審美眼にたえてきた生命あるものの美しさがある。これを素材の美だけでなく、活け花された、フラワーアレンジされた、また庭としての美を我々日本の花き業界は供給する。種苗から小売店まで震災後新しい日本流の花き産業を作るため、もう一度華道、日本のフラワーアレンジ、日本の庭を学び、その伝統を生かした花鉢や苗物、切花類を開発・生産・流通させていく。絶えず念頭に置くのは、日本人の美意識に則った花の生産流通。これで花き業界を盛り上げていくことだ。少子高齢化ゆえ、必ずしも消費金額は増えないかもしれない。経済を一義にするのではなく、文化を伝えることを一義にしようというのが震災後の花き業界の目的である。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年6月 6日

震災で結婚しだした?

いよいよ蒸し蒸ししてきた。暑くなると大田市場花き部の節電目標昨年比15%マイナスが気になるところ。節電でセリ場上の中央通路の電気も消し、定温庫の空調も荷物を入れる1時間前から入れ始めるようにし、20度未満を保てるのなら消すという作業をしている。開設者の東京都からは、「花き部は順調に節電15%マイナスをしているので、夏場も今の行動を続けてくれれば大丈夫です」と言われている。この調子で少し暑いががんばってやっていくということになる。

このたびの大震災で、葬儀は遺族だけの都合で直葬するといった葬儀が少なくなっているそうだ。つながりを大切にするようになって、普通の葬儀をする。供花もローコストにするために芳名板でやりますというところもあるが、芳名版で済ませていた葬儀社も元に戻って篭花を出すところが一般的になってきた。省略した葬儀が行くところまで行って、揺り戻しの形で良識あるものになりつつあると思う。
結婚式も同様で、震災の影響からかとにかく結婚する人が多いそうだ。昨日はお台場で定点観測したが、中国人や韓国人の旅行者は少ないが、日本の人たちはほとんど元に戻ったと言って差し支えない。そして先ほど言ったように、増えたのが結婚式だ。お台場の日航ホテルは東京では1位2位を争う人気の場所だし、アクアシティにあるレストランウェディングの場所も大人気だ。昨日も結構繁盛しており、結婚して婚姻届を出すだけの人もいれば、きちんと式を挙げる人もいる。とにかく震災の影響か急に結婚しだしたのである。ゴールデンウィーク前までのアバランチェ(白バラ)の安値は終わり、ようやく需給バランスが取れるようになったと昨日お台場を散策していて実感した。

話題として聞いてください。結婚式を仏教式で挙げる人はあまり多くない。しかし花の仕事をしている我々にとって、仏教の結婚式はなかなかすばらしいものだ。新郎が5本の花を仏様に供え、新婦が2本の花を仏様に供えて、夫婦であることを誓い、仏様から祝福してもらい功徳を得るというものだ。
それはこのような故事からだ。釈尊の前世の時代に燃燈仏様がいらっしゃって、この世に功徳を与えていらっしゃった。王様は自分で燃燈仏様に花を捧げ、功徳を独り占めしようとして、国の花をすべて持って来るよう指令を出した。とある青年が自分もぜひとも花を捧げて功徳を得たいとしたが花がない。ちょうど王様のところに7本の花を持っていこうとしている少女に出会う。青年は王様の命令だから出来ないと断る少女に全財産を渡し、5本の花を分けてもらう。それを燃燈仏に捧げる。青年からその話しを聞いた少女も2本の花を捧げて功徳を得た。そして輪廻で後世にあらわれたのがシッダールタ王子と隣国のヤショダラ姫だ。そしてシッダールタは釈尊になる。それが行華(あんげ)の逸話だ。
とにかく震災後、冠婚葬祭は変わってきている。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年5月23日

復興に歩み出す

先週の18日水曜日、社団法人日本花き卸売市場協会の第52回通常総会が愛知県犬山市で行われた。東北からは福島花きさんにも出席いただき、元気な顔を見せていただいて我々もホッとした。そしてその引き締まった顔から決意のほどを感じた。

21日土曜日の日経新聞の朝刊に、都内のホテルの4月の客室稼働率の記事が載っていたが、国内の一流ホテルでも40%を切り、推測はしていたものの経営の大変さを思うとぞっとした。どうやら努力をすれば損益分岐点を上回るかもしれないと私自身が現場で思うようになったのは、ゴールデンウィークの直前からである。昨日の日曜日も午後から雨との予報だったが、お昼までは良い天気で、ホテルにも繁華街にも人が良く出ていた。ようやく戻りつつあるが、割安やセールじゃないと気持ちも財布も緩めないようである。

21日土曜日、政府の復興構想会議が行われた。財源をどうするかで話し合われたのだが、私見では消費税しかあるまいと考えている。ただ政治がポピュリズムに走って、復興財源の目的税化としては良いのだが、復興財源を確保できた後にも今後は福祉目的などと言い出さないようにさせなければならない。高齢化社会とは年寄りが多いわけだから、年寄りも自らが税負担をし、重すぎる若者の税負担を軽減させていかなければならない。また国際競争をしている企業の税負担も国際水準レベルまで引き下げるべきであろう。日本は消費税の導入につき、もう一度税の公平性の概念から税制改革をこの期に行うべきである。花の付加価値税はヨーロッパでは15~20%のところが多い。それでも普通に消費されているのは、それぞれの国民は税についてよく説明を聞き、判断をしたからである。国によっては将来の国民生活のために、内閣を投げ打って財政再建に備えたところもあった。私自身は現内閣にそれを期待している。

もう一つ、昨日卸売市場としてすばらしい活動だと思われた事業があった。それは築地市場で「市場まつり」ならぬ水産、野菜・果物の安全PR特売イベントが行われたことである。日曜日の休市を利用し、都民に築地市場が日ごろ取り扱っている被災地域の海産物、農産物を、安全安心をPRしながら販売した。産地から来てもらい、卸、仲卸が一緒になって、科学データに基づいた安全性をPRすることによって風評被害をまぬがれる。本来市場がやるべきことを築地は先頭になって行った。風評被害をなくすため、なんとなく触らぬ神に祟りなしで敬遠してしまうことを阻止するため、プロの我々が見立て、そして「科学的にも安全が証明された魚や野菜、果物は絶対大丈夫」、これを消費者に強く訴えるのは築地市場の開設者である地方自治体と卸、仲卸の役目である。この運動が早く日本中の卸売市場に広まってもらいたい。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年5月16日

拈華微笑(ねんげみしょう)

震災後、2ヶ月経って花の良い話がたくさん出てきた。仙台では水も出なかったから、とあるお花屋さんは道行く人に「良かったらもらってください」と花をプレゼントした。水戸では7割以上の墓石が倒れて墓参りどころではなかったけれど、とあるお花屋さんは「花が大好きだというお客さんに、『結婚式もなくなったのでこれも持って行って下さい』と花を差し上げたら、どうしてもその分のお金も置いていくとお客さんは聞かないのです。そんなこんなで少し押し問答していくと、両方とも泣き出してしまい困ったことがありました。それも1人だけではなくて、何人ものお客さんが『花屋さんが開いていて良かった』、『買わせてもらえてありがたい』と涙ながらに言うのです」と話していた。また「謝恩会がなくなってそれ用に用意していた花がロスになりました。でも学校から『小額だけどいつもの予算より多めに持ってきてください』と卒業式用の花をプラスしてくれたこともありました」との話もあった。

皆さんもTVで東北の被災地でけなげに咲いたサクラの映像や皇后陛下が最後まで大切にお持ちになったラッパズイセンの花束、母の日に白いカーネーションを仮設テントの花屋さんで買う若い女性など、言葉にはできない胸のうちを花が伝えている映像をご覧になったことでしょう。

この間、初めて知ったのだが、このような逸話があり、それは仏教界で、特に禅では今でも伝承されているそうだ。それは"拈華微笑(ねんげみしょう)"という話だ。釈尊はいつものように講話をしていたとき、そこにあった金色の花"金波羅華(こんぱらげ)"を無言で手にかざした。大衆も弟子たちも怪訝そうな顔をしていたが、ただ一人迦葉(かしょう)はにっこり微笑んで、釈尊の心からの教えを心で受け止めた。薬師であれば本願が「おん ころころ せんだり まとうぎ そわか」と言葉にするが、無言での教えが花にはある。坐禅することをすすめる人が多いが、花はまさに座禅する「無」と一体化する。座禅しなくとも静かで穏やかな心を湧き出してくれる。

私は大森に住んでいるが、若いお父さんが上の子の手を、若いお母さんはベビーカーを押しながら駅ビルの花屋さんで花を選んでいる姿を週末によく目にする。確実に若い人たちの家庭に花が根付いてきていることを一個人として私は大変うれしく思っている。
"拈華微笑"。ハッとする虜になるほどの今の美をもたらしてくれる花は、誰もが忙しい現代の私たちの心にとって欠かせないものであると言えるだろう。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年5月 2日

消費戻る

ゴールデンウィークに入り、関東地方はようやく人出が戻ってきた。需給ギャップはあるものの、繁華街に人が溢れ、安近短の温泉地やリゾートホテルなど割引セールもあってか、久しぶりの賑わいを見せている。節電にも慣れて、暗くて何か怖いという場所が少なくなってきた。これも消費回復につながっている。

4月の花の小売店の業績を見てみると、冠婚葬祭の通称「仕事屋」は苦戦を強いられた。特に結婚式は自粛でキャンセルが多く、半分にも満たないところが多かった。葬儀も近年家族葬に近い規模の葬儀が多くなり、今年に入ってようやくつながりを大切にした人の尊厳をもった100人以上の規模の儀式に振り子は戻ってきていたが、大震災以降、4月は内々でと規模は縮小した。売上は例年並かやや落ちるものの、利益率が上がり決して悪くなかったというのが店売りを主体にした小売店である。切花も鉢物も例年よりやや悪かった程度で、少なくても利益で見た場合、昨年より改善している。卸、仲卸では当初の予定通り売上で80%台だったところが多い。各社とも目標は70~80%であったから、いずれも目標を達成し関東地方では思いのほか消費の回復は早いと見て良い。

それにしても、昨年まではゴールデンウィーク中に結婚式をすると出席していただく方に迷惑だと考えて控えたものだが、今年は4月29日からゴールデンウィーク中にかけての結婚式がある。3月、4月と出来なかったから、そこに入れているという人が多いのだろうか。母の日前なのに結婚式で使われる花が相場を引っ張っている。それとこれは案の定だが、お墓参りに行く人が多く、仏花が良く売れている。オーソドックスな菊を中心にした仏花はもちろんのこと、季節の花やバラやユリなども含めた多様な花が使われていて、普通の花束なのか仏花なのかほとんどわからなくなっている。

原発が気がかりだが、消費は戻りつつあり、あとは震災後の共通の目標である「これから100年もつサプライチェーンを再構築する」に向かって花き業界は進むだけだ。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年4月25日

震災から産地名を記すようになってきた

首都圏に戻ってくる行楽地からの車の渋滞が昨日の日曜日から始まった。ETCの休日1,000円もおしまいになるし、消費することも後ろめたくないし、ゴールデンウィークを前にしていよいよ普段の生活が始まったと見て良いだろう。花の相場も株式で言うところの「上げ100日下げ3日」の通り、3日の市で下がったものが4月から3ヶ月かけてもとの相場に戻ろうとしている。外国人が戻って来なければ、一流のホテルやレストランは元に戻ったとは言えないだろうから、政府の福島原発問題終息宣言から1年以降になって外国人が戻ってくると花の市況も堅調になっていくだろう。

さて余震が続く中だが、ゴールデンウィークを前に消費生活は次のステップへと進んできた。震災以来、電力不足も相まって、エコと節約の2つのトレンドは以前よりも強くなったと実感する。エコについて言えば、4月の中旬までは放射能問題から野菜苗の相場が安くて困っていた。しかし原発問題後1ヶ月過ぎ、首都圏ではようやく子どもたちが外で遊ぶ姿を見るようになってから、野菜苗が売れ始まった。省エネ商品の代表であるゴーヤなど、日陰を作り室温を下げようとするつる性野菜苗の人気はさらに強くなってきている。エコ、省エネとグリーンや野菜苗などが珍重されている。

節約の方は花には間際買いになってあらわれている。この頁でも繰り返し言っている通り、高付加価値品はあまり注目されず、新潮流だがオーソドックスな花型や色、そして品種が売れ筋だ。店頭では売れ筋プラス間際買いとなってあらわれている。母の日に向けたカーネーションやアジサイ、カラーの鉢、切花でもカーネーションやバラを中心に、ようやく量がまとまり、日中の陽気も初夏を思わせるようになって、母の日のムードが盛り上がってきた。母の日の前の5月1日のスズランも端午の節句のハナショウブも堅調市況で、カーネーションの切花は品質の良いコロンビア産が不作であることもあって、花持ちの良い国産の産地に買いが集まってきている。東日本大震災から品種名と値段はもちろんのこと、県名だけでなく産地名もきちんと書くところが増えてきており、消費者は選びやすくなってきている。花はアレンジや花束にしてしまうので産地名の表示はむずかしいが、単品で売っているときは消費者の関心事である県名や産地名を野菜と同じように表示していくこの習慣が今回の震災によって定着してきたことは悦ばしいことである。まだ値段と品種名だけで、県名や産地名を表示していない小売店はぜひ産地名や荷主名を明記してお客さんに買ってもらうようにしてほしい。お客さんがその県の出身だったとき、必ず買ってくれるというのが今までの私の経験だ。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年4月11日

震災後1ヶ月で小売店の重要性を思い知る

先週の木曜日7日の夜半前、大きな地震が東北でまたあった。それにより東日本の花き業界は復興の出鼻がくじかれた格好になった。東北地方の花き流通のハブは仙台であったが、言われていたとおり1ヵ月後にまた地震があった。津波はなかったものの東北各県で停電をし、新幹線が不通となった。東北では金曜日花の取引が出来なかった市場もあり、それを今日の11日月曜日持ち越して取引をしている。東北各県の卸売市場は物流の拠点を仙台と東京羽田周辺の荷受所に置いている。スマトラ沖の地震では3ヶ月目にもマグニチュード7.0以上の地震があったというので、6月までの間、再度大地震があることを想定し、営業活動を行っていく必要がある。

東日本の花の市況は日本農業新聞の日農INDEXで詳しく報じられている通りで、例年より市況が3割ほど安い状況が大震災後1ヶ月続いた。今後の市況予想は次の通り。昨年菊類が高く、他の品目も堅調市況となって小売店は利益を出すところまで行かなかったところが多い。よって本年は利益確保のため単価が下がっていく傾向の中での大震災であったので、この傾向にさらに拍車が掛かっている。しかも3月21日にこのページでお話をした通り、震災の影響により相場を引っ張る新品種などがさして注目されず、むしろ定番化した花に需要が集まる傾向が強い。(花そのものが直接生命とは関係ないものとして捉えられていて、その中でも必要だとされるものはいずれもスタンダードな花であり、その花の種類である。遊び心やイタズラ心が受け入れられにくい心理的な波長になっている。)そうなると消費者に対する新しい切り口が見つけられにくいので、リーマンショック以降続くデフレに花の市況は飲まれていく可能性が高い。(10%安の傾向が続いても収支を合わせられるようにすることが必要だと考えている)

3月11日の彼岸の需要期に東日本大震災が起き、今後の余震も2ヶ月続くことを覚悟しなければならない。また福島原発の影響も引き続き考えなければならないとすると、花き業界全体として当然に単価安の収益源を覚悟しておく必要がある。ではどうすれば需要減の単価安で日本の花の産地は踏ん張って、来期も花き農業を続けることが出来るか考えておく必要がある。

3月期の最大の経済的被害を被ったのは、お彼岸の花をお願いしている沖縄県と愛知県の菊生産者たちである。沖縄県の「太陽の花」と「JA沖縄」の二大生産団体は、今までのライバル関係を乗り越えて、地元花き生産者と内地の流通業者のために出荷調整を行うとともにハブ機能を明確化することによって出荷物流コストを下げ、農家負担を削減した。また実質赤字仕切となってしまう農家のための救済措置をスピーディーに行うことを決めている。まさに沖縄県にとっても有事と言えるこの2011年春の彼岸期、そしてゴールデンウィークや盆には墓参り需要が今までよりも大きくなると想定される中、ただ単にハブ機能だけでなく、パートナーとして価値観を共有できる、言うならば善意のサプライチェーンに出荷販売物流を組み替えていく。まさに「疾風に勁草を知る」であり、こういうときこそその会社が持っている機能と人格でこれから取り組むべきパートナーに荷を預けようとしている。仕事なので当然採算や収益を問題視するが、少なくとも全体最適で仕事をしているか、中長期の視点に立って今を生きているか、そのことが消費者や産地から我々流通業者に問われている。誰から買うのか、どこに出すのか。花き業界は10年前まで絶えず右肩上がりであったので、若い人たちが重要な仕事をしている。若気の至りでこの大震災を心に留めず、今までやってきた局地戦でしのぎを削り、競争に勝つこと、同業者を出し抜くことに勝利があると勘違いしている若い人たちがいるかもしれない。卸や仲卸や小売業の経営者は社員がこのような仕事の仕方をしていないかチェックして改めさせる必要がある。大切なことは今花を消費者に受け入れてもらうことである。復興のフェーズに入ったとき花店が仕事として成り立つように支援する。小売業者が花き業界を支えてくれなければ花き産業そのものが立ち行かない。このことが震災1ヶ月で強く感じられることである。

沖縄県の「太陽の花」、「JAおきなわ」の二大出荷団体がしているように生産者と消費者を想い、そして価値観を共有する流通業者と新たな取り組みを始める。混乱期である今、一から明日を作っていく気構えが大切なのである。繰り返すが、花き業界のアンカーである小売店にどうしても仕事として花き小売業を成り立たせてもらわなければならない。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年4月 4日

専門店と生産地を復活させる

昨日社員の結婚式があって出席したが、自粛の考え方もあろうが、何も華美な結婚式や披露宴をしているわけではなし、出席して本当に良かったと思った。改めて花の美しさに感動した。いつの間にか東日本大震災で私たちの気持ちもピンと張り詰めたものがあり、何か感覚が鋭くなっていて、花々はハッとする美しさで胸に焼き付いている。

さて、今期の日本の花き業界の目標の一つに、大震災で加速するに違いない花の小売専門店の減少に歯止めをかけること、花き生産の減少にストップをかけ花き生産農家の採算向上と後継者育成に力を入れることがある。阪神大震災の例では2年後、小資本の2割の小売店が復活しなかった。これを震災に遭われた東日本でいかに復活してもらい、今まで以上に活躍してもらうかである。花の小売専門店は地域文化の担い手としての役割がある。場合によっては料理よりも地域によって異なる場合があり、茨城県土浦近辺の例を出せば、結婚式のような七五三のお祝いと花飾りがある。このようなことは伝統的な花店しか出来ない。また花店は伝統を守るだけでなく、新しい花との生活の提案を行っており、日本の優秀な花き農家が時代に先駆けて提案する新しい花々を伝統の中にも取り入れて今を表現する。

花の小売店は専門店のほかにもあり、コンビニやカタログ販売、インターネット販売は花の買い物時間の節約の役割、スーパーの花は花代の節約の役割、ホームセンターの花はリビングから窓辺、玄関先から庭、それぞれに似合う花を販売する役割がある。花の専門店は八百屋さんや果物さんと違い、割烹やレストラン、食堂だ。品物を見極める目と腕が売り物で、だからどんなに小さくともやっていける。これが屋のついた商売でも花屋がどうしても市民社会に必要な訳で、職人もいれば芸術家もいる。この人たちを絶対に東日本大震災の後も復活させるのだ。産地も同様だ。福島県、茨城県、千葉県産は上質なものが多い。風評被害で野菜は半値以下になっているものも多いが、花については買参人はいたって冷静で、単価も他の県のものとほとんど変わりない。一部食品スーパーなど気にするところもあるが、セリ単価が他県産とほとんど変わらないところを見ても、全ての食品スーパーが買い控えているということはない。どのように販促していくかが今後のポイントとなるが、販促に注意したいのは輸出の時だ。輸出時に一言添えなければならないのではないかと考えている。
まず震災後1ヶ月で、日本中で何らかの震災の影響を受けているから、いくつかの仮説を立てて実行計画を立てる。ようやく普段の暮らしに戻りつつあり、いつの時点で旅行など市民のささやかな楽しみを追及しても後ろめたくないかの時期を探り、被災地を除き前年並みの花の消費水準と仮定したい。もし母の日以降も余暇、レジャーなどの支出を極端に控えるようであると、当然失業率が高まったり所得が下がったりしていくので、そのときには花の消費見込みの下方修正を余儀なくせざるを得ない。お金のことだけ言って恐縮だが、企業業績が急激に落ち込んでも給与が一定水準を保っている今のうちに、震災後一ヶ月経っても未だ復興に向けた活動すらできない多くの同胞がいることを片時も忘れることなく、しかし日本家族が普段の生活を送ってもらうことが必要である。国難であるから、7月のボーナスの金額に影響されるお中元は当然控えめとなるであろう。だがなんと言っても大切なのは、国難を思い、しかし慌てることなく一日一日充実した仕事生活と消費生活を送っていくことであろう。希望の朝を迎え、勤勉な昼を過ごし、感謝の夕べを迎える。そして自分の出来る限りの範囲で被災地の復興を手助けし、新しい日本の花き産業を作っていくことであろう。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2011年3月28日

向こう三ヶ月の見通し

今週は第13週。2011年の早1/4を過ごしたことになる。大震災は第10週の3月11日金曜日であったが、花の価格が暴落したのはそれから1週間後、3月18日金曜日の彼岸の入りの日であった。大震災後、小売店ではホワイトデー用に用意した花が売れず、スーパー自体が被害を被ったため彼岸用の花束の大量のキャンセル、卒業式や謝恩会のキャンセルや結婚式の延期などがあり、花き業界自体も激震した。津波警報がようやく注意報に変わり解除され、船も着岸して荷が降ろせるようになったのが16日から。また原発事故で成田に着陸せず、他の飛行場を利用することになったヨーロッパやアジア系の航空会社もあり、船便(主に沖縄県の小菊と黄菊、台湾からの黄菊、中国からの白菊)と航空貨物(主にマレーシアからのスプレー菊とコロンビアと中国からのカーネ)は予定よりも遅れて18日(金)セリ日に東京に到着した。

彼岸の入りで荷を抱えているから、今日は売る日と決めているため仕入に来る買参人は少ない。出荷者としては木曜日は切花は休みだし、土曜日はもっと安くなるということで荷がまとまったトラック便、たまりにたまった船便、これもたまってしまった飛行機便を一時に金曜日の18日に上場することになった。一方、搬出に向けた物流は、飛行機便は東北・北海道はすべて地震の緊急物資を優先して使われ、高速道路は常磐道・東北道とも不通で被災地に出る道路は一度日本海側に出て、太平洋側へ回るルートしかない。しかもガソリン不足で、行ったは良いが帰れなくなる可能性があり、ほとんどのトラック会社が運休せざるを得ない状況であった。そうなると、一都三県、小さい首都圏といわれる東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県に荷物を吸収してもらう必要がある。しかし、千葉県は浦安や旭など被災地であるから、一都二県で荷を吸収してもらう必要があった。それはとても無理なので、18日暴落したわけだ。

計画停電もあり、小売大手チェーンでもスーパーマーケットのチェーンでも18日までの花の売上は30%くらい。ようやく19日からの3連休で、前年の半分くらい売上を戻したという。首都圏では甚大な被害が出た茨城県を除いてはこの比率の小売店が多かった。
暴落市況はプールの中に大きな石を投げ込まれたように日本全国に影響し、産地は21日の月曜日からの出荷はウェイトを東海・関西・中国・四国と九州に、関東・東北が消費しきれない分を乗せた。波が西に向かったので、今度は西の方が安くなり相場は西低東高になった。現時点ではもう少し首都圏もいけるのではないかと、より戻しの波になって波は東に向かっている。こういったことを2、3回繰り返して行き、母の日を終えて落ち着くというのがこの13週から予測できることではないかと思う。

原発の放射能問題と計画停電での対応があるので、被害が軽微な首都圏においても早く元通りになるとは思われない。この2つがなかった阪神大震災後のデパートの売上を参考にすると、神戸では3四半期売上は半分のままであったから、実際に被害が大きかった場所はそのようであろう。それよりももう少し軽かった場所で百貨店の売上は2四半期で半分であった。さらに軽微だった場所で1四半期は半分の売上だった。首都圏でもデパートは1四半期で半分の売上であろう。百貨店がそうだとしても花はどうだろう。出荷者・買参とも従来通りの市場に出荷したり仕入れしたりするとした場合、地域によってばらつきはあろうが、関東+新潟県・長野県・山梨県・静岡県の大首都圏で見た場合、取扱金額ベースで、4月で前年の50~60%、5月で60~70%、6月で70~80%ではないか。それに合わせて経営をしていかないと大きな赤字を作ってしまう可能性がある。こう見ておくのが良いのではないかと思っている。

まず原発問題の解決、次に計画停電の中での秩序ある生活と経済活動。この2つが市場協会首都圏支所管内の30市場の2011年度の健全な運営につながる必要条件である。早期解決を祈る。


P.S.
小売店で停電によりストッカーや冷蔵庫内の湿度が高くなり、バラやトルコギキョウにボトリチスが多く出て、被害を受けています。ドアを開けて外気温にならし、湿度管理の徹底をお願いします。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

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