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2009年6月 8日

長い目で見ること=信用

先週新潟市の大凧合戦を見に行った。日本の素晴らしさは何百年も続く行事が国中にあって、若い人たちが中心になって運営をしていて、それが地域の活気となっていることだ。経済上むずかしい時期であるが、地元の会社や商店の人、もちろん地元の新潟みらい農協もこぞって協賛し、会社の社長も若者たちに勤務中だろうとも手伝いをさせている。こういう地域活動や事業活動が日本の持ち味だ。長い目で見て仕事をするということは、あらゆる仕事が社会性を帯びてくる。取引先や自分だけでなく、社会にとってこの仕事は有意義なものなのかを問うことになる。そして店主はやりがいを再確認し、従業員と一緒にさらに一所懸命仕事に打ち込む。商人も商人道を身に付けることになる。

しかし近頃、社会に迷惑をかける恥ずかしい商いがあるのが残念だ。業績が思うようにいかなかったり、個人としてお金に困ったりすると、社会に反することをやったり、目先のことだけで判断したりすることが多くなりがちだが、それは気をつけなければならない。ときによって多少事業を縮小してでも大凧合戦のように長く仕事を続けることを考える。不易な価値があり、大凧合戦も事業も時代に合わせていく。チャンスと見れば拡大する。時の風に吹かれて生きるのだ。


今時代は一つの節目で、人間の活動は地球の自己浄化能力を上回る程になってしまった。だから我々は二酸化炭素の排出を削減しようとしている。私はCO2マーケットについて甚だ懐疑的な目で見ている。誰がCO2を計って、だれがその測定値をオーソライズしたのか。大田花き花の生活研究所でもカーボンオフセットプランツを販売している。何ヶ月もこの植物の炭酸ガスを酸素に変える力を測定した。測定した上で販売しているが、これも一定の条件の下にである。甚だCO2マーケットやカーボンマイルに胡散臭さを感じていたら、先週朗報が入ってきた。OECDで環境へのインパクトに対する計測のワーキンググループを作ることになったそうだ。待ちに待った基準が出来、ようやく共通のものさしができる可能性が出て来たのだ。商売が先行していて誰もが納得する基準がないのはおかしなことだが、一刻も早く基準を創り、広めてほしい。これができれば日本の農林業多面的な環境価値が計れるようになる。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年6月 1日

新しい日本 内需産業の農業

ここのところの梅雨のような天候で、品傷みが多く出ている。寒暖差もあったので、切花・鉢物とも植物の体力は万全というわけには行かない。だから生産者や産地によって、例年の品質と異なるので注意が必要だ。

週末にかけて、2010年以降の農業政策案がいくつか発表された。私は、農業は日本にとって必要不可欠な基幹産業であると考えているし、今後アジアの諸国とともに生きていく中で、日本のものつくりの源流である日本農業のポテンシャルを深く信ずるものだ。なぜここで農業について語っているかというと、日本の産業構造や消費構造を変える必要があると判断しているからだ。向こう10年かけて、基礎固めをしていく必要があると考えている。それはこういう理由だ。4月?3月期の上場会社の決算が発表された。2009年1?3月期は年率になおすと15%あまりのGDPマイナスであった。しかし新聞紙上で発表されている通り、輸出企業の在庫調整は終盤を迎えており、むしろ内需の設備投資と個人消費が落ち込んだ結果だと言える。輸出企業は中国とアジアに輸出先を求めているが、肝心なのは設備が過剰で設備投資が減っただけでなく、失業率が上がり5%にまでなっていることだ。すなわち需要を内需型に変えていかないと、もう日本国が2002年以前の経済規模になっていくことすら難しくなっているという事実である。そうするといかなる産業がこの国を引っ張っていくのだろうか。内需の中でどんな需要があるのだろうか。「お互い様」でつながりを大切にし、日本の組織の特徴である助け合うことに価値を置く、日本の持続的な繁栄はどこにあるのだろうか。

環境が救世主になるわけではない。これはむしろ当たり前のことで、「足るを知る」から始めていく。この国で必要なのは、高齢化するわけだから、介護だけでなく年をとっても生きている喜びを実感できる有償無償の働く場としての地域社会や医療施設、文化施設そして家族との絆を応援するもの。街や家のインフラを整えていくこと、国内外で楽しめる旅行など、富国有徳の国家にふさわしい国に作り変えていく政策の中でそれらをサービスする産業が育っていく。国を挙げて、観光立国にすることによって、そこの国のそこの地域の第一次産業は地元の名物として、旅行者に楽しみを与え、地域に誇りをもたらす。フランスに行ってフランス国以外の食材の料理を出されて我々は喜ぶだろうか。

農業は現在、パナソニックより売上は少なく、8兆4000億円の産業だ。酪農・畜産が1位で2兆6000億円、野菜が2兆円あまり、3位が米で1兆8000億円といわれている。まず日本中どこでも米を作ってきたので、主食である米の問題に農政は取り組む。最も大切なことだ。ついでマーケティングのセンスを活かし、新たな価値創造が可能な果菜類、軟弱野菜、花・果物などを国の基幹的な農業にしていく。バイオテクノロジー、育種の力から、生産、出荷の技術、また製品までやろうとすれば、農業者は自らやることができる。そういった農業をこの国の基幹産業の一つにしていくのだ。これが今、我々が目線を合わせて目標を一にすることだ。その中で、生産者と消費者を思い、卸売市場であれば自分の役割を時代とともに変えていけばよい。今は不透明だといわれているが、決して不透明ではない。ただ今回の不況が通り過ぎたら、また元の通りになるといった甘い考えは持てないということだ。内需を盛んにしていく。ではどんな産業がというと、新たに活性化させていくのが外国からいっぱい観光客に来てもらうよう治安を維持し、フレンドリーなコミュニケーション力を高め、観光業界を発展させること、国内の人たちもいっぱい旅行するから地域の名産を作り、地域を挙げておもてなしすること、それに合わせた一次産業や旅館産業、交通インフラなどを充実させることだ。日本のように同一国主が長い間統治している伝統に根ざした国はあるまい。そこで我々日本の売りとは何なのか。それを地域や国の位置で目線合わせするのが今で、これを持てば持つほど日本の進路が、花き産業の進路が定まり、そこに向け我々は日々努力し、新しい花き産業を構築しようとするだろう。振り子はこう揺れだした。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年5月25日

魅力ある花の小売店の品揃え

急激に需要の落ち込んだ高額商品である住宅、自動車、大型テレビも各国政府の経済政策によって最悪期を脱したかのような消費マインドが一方にある。一方には、昨年の10月から続く営業不振で、雇用情勢は更に厳しくなり、7月ボーナスが払えないと思い悩んでいる中小企業が大変多いと言われていて、景気は先2年間、最悪の状況が続くと考えている人が多い。昨年、自動車の販売が急速に落ち込んだとき、トヨタは部長職以上の社員に車の買い替えを促した。その後、パナソニックも役職者に10万円以上の自社製品を買うように言った。花もご他聞にもれず、昨年は10%減、また今年もそのような有様だから、これをどうするか花の消費活動について同業者組合でも社内でも話し合ってきた。消費宣伝は欠かせないが、やっぱり大切なのは自ら花を買い、家庭に花を飾る。「まず隗より始めよ」をやることであろう。トヨタやパナソニックのように買おう。今まで以上に自社と取引のある小売店の店頭で花を買うことにした。少なくとも私はそのように家内に命じ、した。正直言って、「これっぽっちでこの値段か」と当初は思っていたが、そのうち小売価格にも慣れてきた。

しかし困るのは、困るというより不満なのが品揃えだ。花の種類もそうだが、枝物や葉物は圧倒的に足りない。レモンリーフや利休草ばかりでは、そのうち飽きる。とあるホームセンターの花売場はプロのフラワーデザイナーが好んで買いに行くほどの店で、関東ナンバー1の花売場ではないかと言われている。そこまで行かずとも、その時期に最もおすすめできる花を各種週代わりで置いてほしいのだ。そのためにはせりで仕入れをするだけでは無理だ。店の大きさにもよるが、せり+仲卸。これで品揃えをしてもらいたい。仲卸からなら1把から仕入れできるので、走りのものも、旬のものも品揃えができる。地域によって、売れ筋が異なるのは花の小売店だ。また業態によっても品揃えは異なる。となると、ホームユースのものであっても、仕入れソースは卸+仲卸。とりわけ、自分の店を魅力的にしてくれる仲卸の力に頼るべきだろうと思う。卸はリテールサポートにおいて仲卸より劣る。ロットは卸だが、きめの細かいのは仲卸なのである。卸、仲卸を併用している小売店が今最も魅力度が高い小売店である。多彩は仲卸を利用する中に生まれる。その意味で直接取引は荷が偏り、値段はともかく品揃えで競争力を失う。なにやら地域に根ざしたスーパーマーケットの競争力がGMSより高いのと同じ理由になってしまったが、小売店に仲卸をもっと使うように声を大にして言いたい。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年5月18日

2008年度決算概要

ここのところで株主総会があり、地方市場や仲卸の決算を見ることがよくある。幸いなことに、私のよく知る会社はわずかでも黒字決算で終わったが、配当までは覚束ないというところも中にはある。営業利益率で1%確保できなかったところがほとんどで、卸売市場にあっては需要減で単価安。業績不振のスピードが速く、経費削減策が後手にまわってしまったことによる営業利益減である。仲卸は仕入れて売る再販業者だから、卸売市場よりもこのような縮小均衡とデフレの中では経営がしやすい。人気のものなら多少高くても仕入れれば不良在庫にならない。欲を出しすぎると廃棄ロスが出て収益を圧迫する。卸の場合は収入が相場で変動する。経費は固定費がほとんどだ。仲卸は、経費は固定費がほとんどだが、仕入れ費用は相場によって変動するが、売価の変動幅は仕入れの変動幅より少なくさせることができる。そこで利益が出しやすい。小売商の場合は売価は定価がほとんどだから、仕入れ経費が変動するだけだ。その仕入れ経費の変動も大体がデフレ基調だから安くなる。店売りが落ち込んだとすると仕入数量を減らす。皆が減らそうとするから荷が余り、今までよりも仕入単価が下がる。こうやって小売商は苦しい中でも利益を確実に確保した。スクールをやっている花屋さんや花束加工業者も「荷主さんは大変だろうな」といいながら利益を出している。2008年度決算は種苗、生産、市場と川上が大変悪く、仲卸から下流の川下は今までと同じ運営はできないが、生き残っていける決算であった。今後経費を削減する、売り上げを伸ばす、需要に合わせて経費を弾力的に減らしたり増やしたりする。この3つしか利益を出す方法はない。今年、来年は少なくとも、人によっては再来年まで困難な状況が続くとしているので、どのようにその時々の状況に対処していくか、この三つの手法を使って、泳ぎきっていくことが必要だ。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年5月11日

2009年母の日

土日と暑かったがお天気にも恵まれ、小売店は「高額商品が売れにくかった」「カーネーションが売れ残った」などの傾向もあったが、まあまあというところが多い。まあまあというのは前年をクリアしたところもあり、悪いといえども2割以上悪かったところはあまりない。しかし、みどりの日から母の日に至るまでの荷動きでは、雨で売り損なったとする小売店がほとんどだ。雨で売り損なったと感じるのは、5月6日(水)から8日(金)まで、日本の花の相場を決める三大都市圏がいずれも強い雨続きだったことによる。小売店は雨の中でも週末の母の日、お天気が良かったのでほっと一息というところであろうが、生産者と卸・仲卸は安値に泣いた。

その原因を探ると、第一に雨が計4日も続いたこと。2番目に景気が悪くデフレになっていること。3番目に国産のカーネーションも多いのに、3月のお彼岸で売り損なったと感じている輸入商がコロンビア産や中国産をこれでもかと輸入して溢れたこと。4番目にJFTDやフラワーシップなどが商品の絞込みを行い、それに取り上げられなかった花が多くあって価格が下落したことであった。日本国内でカーネーションを作り始めて100年目で、今年は業界をあげてもう一度カーネーションを売ろうと意気込んでいたが、雨で園芸品や切花の商品回転率が下がり、推定1日半の在庫が滞留する形になって母の日用は切花の輸入カーネーションを中心に市況は下がった。

今日から初夏の商いとなる。花保ちや減農薬栽培など、時代にあった価値を前面に出しながら、新規性の高い花でこの不況を吹き飛ばしたい。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年5月 4日

2つのポケット

決算書が出来上がってきて銀行に見せると、「このままでは融資を継続できません」と昨年より一段と厳しい査定をされていると小売店が言う。プロパーの融資が難しくなって、保証協会付きじゃないと難しいと言う。この話を仲卸にすると、仲卸でも同様の答えが返ってきた。

会社にとって資金調達は方法が二つある。一つは世界では一般に商業銀行と言われている普通の銀行からお金を借りる。もう一つは社債を発行したり増資をしたりして、市中などから資金を集める。投資銀行と言われている証券会社を通じて広く市場から資金を集める。この二番目のやり方がリーマンショック以降実際に機能しなくなった。だから財務体質が磐石な大企業も、商業銀行からお金を借りている。そうなると当然、具合があまりよくない中小零細企業にお金を貸す銀行はほとんどなくなるわけだ。年度内に処理すべき減価償却をせず、表面上の黒字確保した会社に対し、出荷者である系統農協は銀行ほど厳しく見なかった。しかし本年、資金上立ち行かないところが出てくると思われる。ようやく黒字を確保しても体裁だけではだめで、合理化をして利益を出すことを忘れてはならない。

今ベストセラーになっているスズキ自動車の鈴木会長の「おれは中小企業のおやじ」の中に、「売上総利益と利益を一緒くたにすな」との話がある。鈴木会長が八百屋さんから聞いてそれを参考に考えたという。2つポケットの付いた前掛けをして商売をする。最初は左のポケットにお金を入れ、売って売って仕入代金の金額に達したら今度は右のポケットにお金を入れる。右のポケットだって純利益ではないが、しかしこの右のポケットからスズキは新しい投資をするということだ。ここを読んでいて、昔ヨークベニマルのまだ本当に立派なスーパーになる前、商売の仕組みを見たくて、郡山に見に行ったことを思い出した。売り場にはザルがいくつもぶら下がっていて、係の人が一定時間毎に売上代金を回収する。午後3時過ぎだったと思うが、回収してしばらくしてから学校の用務員さんが使うような鐘を責任者が鳴らす。それは「ネタ代が上がった。これから儲けだ。俺たちの給料や経費がここから支払われる。まだ荷は十分ある。やってやろうじゃないか。売れー」この鐘だった。とても活気があって、商売そのものを見ている感じだった。商売とはまさにそういうこと。ヨークベニマルはこうやって店長が勤まる多数の人たちが育っていった。ごっこではなくまさに自分で責任を持ってことにあたる。会社を経営できる人たちがここから育っていく。花き業界は甘い人たちが多い。今まで良かったからだ。だからここで仕事ごっこはやめて、真の仕事をすべき時が来ている。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年4月27日

価格が下がり続ければ需要は増えない

プライベートブランドだけではなく生鮮食料品で、昨年良かった野菜の価格までもが下がり始めた。スーパーで下げて売り始めたのだ。また旅行もかなり安くなってきた。マッサージもエステも学習塾に至るまでも値段が安くなって、新聞では「消費に刺激」というように需要を喚起するようなことを言っているが、実際はそうはならない。「高くなりそうだ」だとか、「買えなくなるかもしれない」とか、「手に入れるのが難しくなりそうなとき」に人々は買いたがるし買う。そこでマーケットは賑わう。下がり続けている限り、様子見をするし自分の相場観に合えば需要を先食いするだけだ。よって需要は今までより増えるというわけではない。それを私は1992年から特に1998年12月から大田市場でずっと見てきた。だからいかに価格を下げ続けることに危険が多いかということを嫌というほど知らされてきたのに、金融危機から転じた自動車、弱電消費不振、そして今やついにはサービスや生鮮食料品・花までデフレになっている。デフレで生き残るには結局他に真似のできないモノやサービスを提供すること、時代に合わせた価格で価値を訴求することが必要である。経済統計によると、定期預金にお金がたくさん集まっている。価格がどんどん下がるから、消費に踏ん切りが付かないので結局余剰資金となって普通預金のままではしょうがないから定期預金をするかとなる。その定期預金がすごい勢いで集まっている。すなわち消費者はお金がないわけではないのである。

2009年、2010年と消費不振で花もご他聞にもれず大変だ。だからまず各社は経費削減、原価管理を徹底する。しかしその中にあっても、新しい商品を世に問うことを忘れてはならないのだ。研究開発費にお金を使い、新しい花やサービスを作る。そこに一早い消費不振の打開の方策がある。前々回紹介した花屋さんは余剰金を上手に取り込んでいる。生き物で命に限りがあり、一定の期間で商品が回転する花き産業は4月15日以降、法人需要と冠婚葬祭需要が昨年に比べてもう一段小さくなって、価格が乱れた。それは陽気によって出荷物が増え、個人需要を取れず廃棄されたものが多かったためで、よく言われる消費不振というわけではないのである。個人の需要をターゲットに花保ちする花をいっぱいのボリュームで買ってもらう。「衝動買い」はなくなっているから「目的買い」をさせるDMや宣伝、売り場に次週の商品予告を書き、お知らせする。そして目的買いさせる。こういった店作りをしていくのが小売現場での我々の今期のやり方だ。リテールサポートはこれに尽きる。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年4月20日

苦境の一手

花き業界内の会合で、2月までは大変悲観的な見方をする人たちが多かったが、3月に入り4月の上旬まではどうやら売上高ベースで前年をクリアしているところが多くあり、なんとなくほっと一息。場合によれば、案じたより良い成果が残せるのではないかという楽観的な見通しを口にする人も出てきた。世間では確かに売れていない商品が多いが、売れている商品もあり、マスメディアの論調もいつの間にか明るい話題を探して報じようとしている。それゆえどちらかというと、花き業界では花のシーズンであることもあって、一時の悲観論一色がほとんどなくなりつつある。しかし実態はそれとは裏腹に業績は確実に落ちている。ここ3年間で見れば、最も良かった2007年を売上げで上回る週はほとんどない。そのときと異なるのは法人需要が少なくなってしまっていることだ。また生産原価および付帯費用も昨年上がったままで、下げていく交渉がなかなかうまくいかない。特に運賃は大手運輸会社が赤字決算だったことが示す通り、ただ単に運賃を下げてもらうことなど難しい。

さらに三つ目は生産者のモチベーションが下がっていること、小売店のモチベーションも同様に下がっていることである。母の日までは一般消費者は花と緑の季節と認識しているので荷動きは良いだろうが、その後どうするか対策を立てる必要がある。というのも、所得が下がっている中、国から支給された給付金の額を上回ったお金をゴールデンウィークや母の日で使い、花の需要は一段落。そのとき景気対策で新たに予算組みをした効果が例えアナウンス効果でも出てきたとしても、実体経済は縮小均衡しているのではないだろうか。

例えば失業率を例にとると、3%から5%に失業率が高まった。となると、100人に5人は普通の消費行動ができないから当然消費を落とす。そうすると前年比2%分だけGDPベースでマイナスになるから、トータルとしてモノが売れなくなった会社や業界は苦境に陥る。もうかなりスリム化してきたが、さらにスリム化するとなると当然人や賃金の問題に手をつけざるを得ない。こうしてまた消費がしぼむ。こういうサイクルが実は始まったばかりなのだ。日本では大手企業が工場の統廃合をリストラ策として発表し、実行している。だから桜が咲くころになって三大都市圏の相場が高く、地方の県庁所在地の相場が安くなっている。地方の場合は昨年の年末、派遣切りや工場の閉鎖話が出てきたときよりも実態はもう少し厳しくなっている。これを花き業界はどう見るかだ。縮小均衡の可能性はさらに高い。運賃は下がらない。コンビニが価格競争に入ったように、花も価格が安くなる。そんなときに生産者は持つのか、小売店は持つのか、愛想を尽かして辞めていくのか。

社会のインフラ商売である花市場の役どころを大田花きなりに判断し、このたび九州・福岡空港の脇で仕事をすることになった九州大田花きは花き流通会社として弊社なりの問題解決の手段として誕生した。
大田花きの花生産者に対する想いをシンボル化したのが吉武社長、消費者に対する想いをシンボル化したのが田中専務。この2人の取締役が困難の時代に九州から花き業界を活性化させてくれることを大田花きとして期待している。2010年下半期以降の景気回復後にいよいよ始まるアジア諸国とのFTA、EPA。そうなった状況下にあっても日本の花き産地は名実ともにアジアで最強の花き産地でなければならない。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年4月13日

100年に一度

100年に一度の経済危機だが、100年に一度の日本農業のチャンスだと私は考えている。三菱総研の植物工場研究会だけでなく、人材派遣大手パソナの農業独立支援や農業団体への人材派遣、あるいは渋谷ギャル社長の農(ノ)ギャルなど、今までにない社会現象が起きている。

昨日もしじみで名高い茨城県涸沼に行った。そこで枝物の名手鶴田さんのお孫さんに会って、お兄さんの方は「おじいさんの後を継いで農家をやりたい」、弟は「市場に勤めてせり人になりたい」とおじいさんの薫陶を受け、中学生になって方向性を決めている。

そういえば千葉のカーネーションの名手稲葉さんのお宅でも、お孫さんが後を継いで花をやっていて、大変良いものを出している。子どもではなく孫が継いでいく形もあるし、長野県のJA諏訪みどり農協では農協のハウスのリース事業で都会から新規就農者を募集し、すっかり一人前のカーネーション作りに育て上げ、その人数も増えて花き部会は成長している。北空知も同様で、私が知らないだけで、全国でこのような動きがあることだろう。

農業は新しい時代に入っており、国としてのリスク管理の中での食料確保や国土保全、そして消費者の身心にわたる健康など日本農業を再構築する今までにない戦略を打つときが来ている。補正予算にも前倒しをして新機軸の政策が色濃く映し出されているが、大切なのは実行力である。

あともう一つ、ここのところで新しい小売店が活躍し始めているので報告したい。一つは10坪以上の専門店業態の花売場を経営するデザイナーが花屋さんとなった会社で、フランスの会社とも提携をしている。まさにフランスの専門店のよさを店の中で醸し出している。しかしブランドのような超高級店ではない。フランス人がそうである通り、自分たちが見て良いと思ったものを提供している。そしてこの店の良いところはレイアウトまで含めた花のデザイン性がやわらかいがエスプリが効いている点だ。これが花をよく知るオシャレな人に受けている。

もう一軒のとても元気な花店は、経営理念を掲げて、それを目標に仕事をしており、年次や月次の計画は具体的だし、天気による見切りのタイミングや在庫情報など、社長と店長のコミュニケーションは目を見張るものがある。店長は地方出身の若い人たちがほとんどで、若い女子店長も物日のときなど手を真っ黒にしていた。昔の花屋さんはよくこういうアクがついた真っ黒な手をしていた。家の近所のその店の店舗に行くと最後まで従業員はお年寄りの話しもきちんと聞いてあげている。質素と言うより粗末な本社。本社にある作業場や集出荷場はお世辞にも広いとか綺麗とはいえない。そこで各店長は朝揃い、夜は閉店後最後の従業員が戻ってくるまで社長は待つ。そうしているうちにいつの間にか10店舗を越えた。ここはよく売れる。ここのチェーンの中に雨が降っても売上が落ちない店が4店舗もある。信じられない販売力である。こういった注目される二つの小売り会社はやる気が開花したようにこの不況下で活躍している。この二社を思うとき、世間の目は節穴じゃないなと思い、ありがたく感じる。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2009年4月 6日

活気ある業界の一つの条件は人材

とある大手の仕事屋さんで現場を見ていたら、良い動きをしている社員がいるので「なかなかいい社員がいて頼もしいですね」と言うと、その社長は「彼のうちは花屋さんで後を継がないでこのまま務めると言っています。まぁうちは助かるけれど、ご両親からしたら継いでもらいたいでしょうね」ということがあった。

先日、懇意にしている千葉の生産者が、子どもを連れて訪ねてきた。私から「大学受験をする前に農業の大切さを教えたい」と息子さんを連れてもらった。息子さん本人は農業関係の大学に行かないという。お姉さんと同様、福祉の道に行きたいと言う。農業の大切さを懇々と説いたが、どうも独立独歩でやる仕事は嫌なようで、サラリーマン生活をしたいのかもしれないと思った。花屋さんの子弟にしても農業の後継者にしてもスポーツ選手と同じで、実力で生きていくこと、あるいは起業をしていくことを嫌う風潮がある。なんとなく易きに流されがちなのではないかと思う。

花き業界を見ると一代目が圧倒的に多い仲卸に人材が豊富だ。それは起業化し、小さくても自分で責任を取って生きていっているからだ。しかしいつの間にか花き業界でも未来を託すに足る素質のある人たちも次のような理由で牙を削がれてしまっているのではないかと思う。

1つは学校や会社の組織の平等化である。現実はパレートの法則通り、2割の人が8割の稼ぎをし、言われたことしかやらない人や言われたこともやらない8割の人が2割の富を稼ぎ出している。この有能な上の2割を「出る釘は叩かれる」で押し込めてしまい、育てなかったのではないか。2つ目は組織が大きくなりすぎ、内部調整にエネルギーを使い経営者的存在が育たなかったのではないか。20人の組織でも大企業病に陥っている会社もある。3つ目は学校や会社、農協の組織は機能組織のままでゴーンさんのいうクロスファンクションチームやアメリカの会社のように利益単位ごとのチーム、特に有名なのはP&Gのブランドごとの組織のように、利益単位の組織になっていないのではないか。

大田花きのことで恐縮だが、取扱高が全体の1割しかない鉢物は、利益単位の組織になっているので黒字である。それまでは機能別の品目としての組織であったため赤字であった。それが利益ユニットとしての組織に変えて、暇なときは社内の各部署に出稼ぎに行くなどして責任者は黒字化した。日本の組織は機能別の縦割組織だから稼ぐ組織に変えていく必要がある。この工夫は京セラのアメーバ経営などいくつか方式があるが、人を育てるという観点から言えば、部署横断プロジェクトチームと人事異動に尽きると思う。花き業界を広く見渡すと2代目、3代目、4代目が多い。いつの間にか仕事の野性を感じさせる人たちが少なくなっている。戦国時代の武将や豪族のような人材が多数輩出される風土を作らなければならない。業界の高年齢化とはマンネリ化とほとんど同じ意味だからだ。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

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