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2008年7月 7日

花ファッション委員会

日本フラワーデザイナー協会の中に花ファッション委員会が去年設立され、新しいムーブメントが起きている。「色と形、本物だから匂いがある」が大切なポイントで、フラワーアレンジメントの世界にも、その時代にもっともふさわしい生活のデザインを日本から世界に発信しようというものだ。現に新しい花の品種は「日本で評価されたものは売れる」となっている。だから世界の様々な分野の種苗会社は新品種を日本に売り込む。それほど日本の消費者の目は高く、フラワーデザイナーや花店の感性と技巧は光るものがある。

来年の2009年春・夏のトレンドはテーマが「粋(いき)・佇(たたずまい)」、コンセプトは「エコロジー、循環」、キーワードは「光、風、水、空、人」。以上が形、あるいは作品が訴えかけるもの。そしてトレンドカラーは「グリーン、イエロー」である。「和」が世界の大きなテーマとなって続いているので、さらにこの「和」を私たち日本人はこのように今年は捉えて表現していますと世界に発表する。今年2月のドイツ・エッセンのIPMでも、日本フラワーデザイナー協会の花ファッショントレンドに乗った作品は注目の的となった。花のプロとしてこれからも目が離せないのは花ファッション委員会の動きである。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年6月30日

プレッシャーが未来を作る

毎月、最終の日曜日早朝に五木寛之氏の「わが人生の歌がたり」というラジオ番組があり、楽しみにしていてそれを聞くために日曜日なのに3時50分に起きる。昨日、ラジオの中で五木氏は自分の人生と日本の戦後の復興を重ね合わせて語っていた。私自身も同じ思いで、近頃は日本人らしさが失われたような物騒な事件が多く、日本は大丈夫なのかと思わず思ってしまうことがある。

私事だが、30そこそこの息子に話を聞くと、アメリカのMBAを出た日本の青年に二種類あるという。明治維新をやり遂げたのだから必ず日本はよみがえると考えて、日本のため働こうとする者。何も変わらない政治姿勢や国の構造などに愛想を尽かし、かっこよく言うと地球人として、本音はある意味では自分の富を考え海外で働く者とがいるという。私のように団塊の世代近くに生まれた人間からすると、日本を見限る日本人がいるとは大変ショックなことだった。

ここ1?2年の日本の経済界を見ていて、悲観的にならざるをえないと思っていたら、花きも果物やデパートと同じ様にしんどい局面が昨年の10月くらいから始まって、特に第1四半期の3ヶ月はずるずると落ち込んできた。しかしここに来て悪材料は折込済み、確かに油代の値上がりや肥料の値上がり、身の回り関連物資の値上がりと、生産・消費に渡って更なる困難が続くが、花き業界においては底をついた感があり、あとは鍋底を這う状態であると思われる。

さて、自分の属する業界も日本の世情もこのようにパッとしないとなると、本当に日本あるいは我が花き産業は今後どのようになるのだろうと暗い気持ちになっていく人も多かろうと思う。見通しの暗さから、イタリア人じゃないが“It’s a show time”として浮世を明るく生きていくというのも、我々成熟国家の国民が身につけなければならない性分だが、「日はまた昇る」で有名なビル・エモット氏は近著『アジア三国志』でこのように日本の未来を我々に語る。中国やインドはじめ、アジアが経済発展の中心となっていくことは、このコラムをお読みの皆様も異論のないことだろう。そのアジアの中で大国といわれる国には、日本、中国、インドがあり、今後ともお互いをライバル視しながらも、経済交流を更に強め発展してゆく。ビル・エモット氏は19世紀のイギリス、フランス、プロセイン、オーストリー、ロシアの競争と発展の仕方を例にとって、アジア三強の今後を映し出す。またエモット氏は中曽根政権から、特に橋本政権以降、改革されてきた日本の社会システムはバブル経済崩壊の中でほとんど目立つことはなかったが、今後金融機関も会社も財務状況が改善され、外にはアジアのライバル、内には少子高齢化、多額の国債・地方債を解決しなければならない状況下に置かれているから、主体的に生きていく、あるいは切羽詰って問題を解決して乗り切っていこうとする事業体が多数出てきて、手足を縛る規制は相当に少なくなっているから、十二分に今後やる気のある事業体や個人が活躍していけるのではないか、そういった企業がいくつも出て、日本が更に発展するのではないかとその可能性について語っている。必要は発明の母、あるいはピンチはチャンスということを我々にエモット氏は語っている。外需を当てにした企業だけでなく、日本の消費者を対象にした業界すべてに可能性があると言っている。閉塞感から抜け出すヨーロッパやアメリカで使ってきた手法をまだ日本はほとんど使っていない。

私自身は株主総会が終わり、開設者の東京都と監督官庁の農林水産省にご挨拶にうかがった。一昔前なら、中央卸売市場の運営会社である大田花きが福岡に卸売市場ではない九州大田花きを作って営業するということは考えられないことである。行政指導があったろう。コンプライアンスとダブルチェックを行うことを条件に、今まで業界の中は甘く、しかも閉ざされた産業界から、より開かれたものに日本は既に変わっていっている。産地偽装のうなぎや牛肉の基本的な問題はJAS法の曖昧さを指摘する声がある。これもJAS法は改善されていくことだろう。このようにより良い方向に日本社会が向かっているということを自覚すべきである。もちろん花き業界も現在の仕事の難しさはまだまだ続くが、確実に次の未来へ向かっていると思われる。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年6月23日

大田花きの株主総会

フラワーオブザイヤー2008春にユリオリエンタルのスイートメモリーが選ばれた。ピンクの八重種で花は小ぶり。今までのキャラ立ち(キャラクターが立っている、個性的)のものから、エレガントで優しい雰囲気をもつ花が一番人気となった。なにか時代が動いているのであろうか。

21日の土曜日、第20回株式会社大田花きの株主総会が開催された。大田花きの株主総会は質問がいくつもあり、出席いただいた株主の皆様方へ会社の方針を私から直接お話し、株主の皆様にご理解を賜わるまたとないチャンスとなっている。今回の株主総会は第20期事業報告等についての説明の他、買収防衛策について二つの議案をお諮りし、新取締役の承認をお願いするといった三つの決議議案があった。

質問の中で手数料自由化や規制緩和についてどう対処するかとの質問があり、現在日本列島に花の欲しい人があればどこでもお届けできるよう、日本全国におよそ150の卸売市場と200の仲卸、そして2万4000の花・植木小売業者があり、スピーディーに過不足なくお届けすることが出来る今の流通システムは今後とも大切にしていかなければならないと考えている。今、各流通業者の営業利益率は決して高くなく、手数料率が0.5%でも下がったら営業が立ち行かなくなるところが出る。行政府は提出された希望の手数料率を受理する際、その会社の財務体質を良く調べ、無理のないものであると判断したとき、その料率を認める。2009年4月から第一回目は3年間で2012年3月末までとし、二回目からは2年毎に申し出で、財務体質を条件に承認するという形になる。そうすれば自分の存続しうる利益を確保しながら各社は営業を続けていくことになる。大田花きにおいては、花の生活研究所からはじまる花のサプライチェーンをより効率的にすべく、自前の組織や意見を一にする方たちと協業していく所存だと、こう方針をお話した。

買収防衛策については、東京証券取引所が今後上場するにあたり、議決権なしの株式を公開するとした考えを見習い、日本で最大のせり取引所を運営する会社としてより偏りがなく、どこの産地もどんな種苗会社の品種であろうとも、今まで通り適正に評価されるよう、30%以上を取得する株主が出てきたとき、社外取締役で構成する第三者機関を作り、株主の立場で30%以上の買収を認めるかどうか判断をしてもらうこととした。

また大田花きは8名の取締役のうち6名が社外の役員で、取締役会で決定された方針を執行役が実行することになっている。今期は卸売市場流通のエキスパート2人と、花の育種・種苗、そして世界の花の産地と種苗業界に詳しい方。商社マンとしてその中でも農産物の流通やら世界の権力機構、国の動向などに詳しい方。また会計士でありながら税理士でもあり、会計上の知識だけでなく考え方が現実的な方、そして弁護士で法務に詳しい方と多様な陣容が整った。今日から実質新しい執行体制で会社が運営されている。

生産者と小売店が今までにない困難に立ち向かっていらっしゃるとき、どのようにすれば花き産業は持続的発展が出来るかどうか、弊社は少しでもお役に立ちたいとこれからも努力いたしますので、引き続きご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年6月16日

安値の原因調査

昨日は京橋と日本橋では日枝神社のお祭りがあり、銀座通りは久しぶりに日本の伝統の香りがした。前日、「築地魚河岸三代目」の映画を見たところだったので、時間軸が大変長くなってしまって、昨日の目的である次なる仮説の検証に思考回路がなかなか働かなかった。その仮説というのは、4月から菊類が安い。特に仏様の花の売れ行きが鈍っているという。その理由に後期高齢者の健康保険問題がある。負担がいくらになるのか。年金生活者だけでなく、現役で働いていらっしゃる中小企業のオーナーも不安で消費が鈍っているのではないか。これが花の価格が安い理由ではないか。もう一つの原因は昨年秋から、特に昨年末から今年になって、40歳代、50歳代の子どもや各種ローンにお金のかかる世代の支出が、旅行などを中心に急速にしぼんでいる。それでそれが実際花にもあらわれているのではないか。60歳を中心とした人たちは花をコンスタントにいつも通り買っているが、しかし40歳代、50歳代が買い渋っているのではないか。それが花の相場の下げにつながっているのではないか。

昨日、新橋から日本橋、八重洲、丸の内と半日かけて探索をした。私が想像していたよりも実際ものを買っていない。花ももちろんだが、衣料品から化粧品、爪、あらゆるものが色とデザインにこだわって個性を打ち出している。多様化で、靴にしてもとんがっている靴、丸い靴も並んでいる。ミュールも、夏だから当然サンダルもある。しかし今ひとつ消費に結び付いていない。今買わなければならない今後流行する形は多様化でそれと似たようなものをもう持っている。一消費者として、そのようにあらゆるものが私の目には映る。プランタンの花売り場や銀座三越の食器売り場、生活雑貨売り場なども同様、この花のあしらいは斬新だと感じても、今ここで買わなければ後悔するという気を起こさせる品物が少ない。もちろん努力している。しかし店頭売りという一分野での話だが、花もさらに形と色にこだわっていかないといけないと思うが、しかしどの店がそれを引っ張って行ってくれるのかが、特に40歳代、50歳代にとって大切である。40歳代、50歳代の消費手控えが花き業界の相場の安値につながっているのか、70歳代の仏様の花が菊類の安値、そして菊は三分の一を占めているからそれが全体の価格安へつながっているのか。昨日の時点では明らかに40歳代、50歳代の消費の手控えが相場安の原因となっていると判断した。

帰りに池上の母のところに寄り、歩いて自宅まで帰る道すがら、本門寺で仏様の花を見たが、本門寺のように由緒あるお寺のお墓は墓石が縦長だから伝統的な仏花が似合うが、しかし供えてある花を見ると、スプレー菊を中心に供えているところ、菊を大切に入れているところ、菊をまるっきり使わないところもあり、ここでも多様化がすすんでいる。花店では70歳代の仏様用の花も多様性をもって作っていくことが必要だと思う。

最後に店売りの売れ具合は天気が第一だと言うことをお忘れなく。次に景気なので、景気の花き業界に対する影響は、足元ではこのような形になっています。天気が続けば消費は活発化する。これが花の一つの特性だと思う。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年6月 9日

国内消費をどうするか供給を考える

オランダと連絡を取り合っていると、ガソリン代が1リットルあたり1ユーロ50セントもするという。1ユーロを160円で換算すると、240円だ。為替のマジックだろうが、それにしてもガソリン代は大変高い。日本の生産者と話していると、燃料代や資材の高騰、運賃の値上がりで売上高営業利益率が1.5%?2%落ち込んだという。これを頭に入れて、我々は力売しなければならない。しかし消費者に買ってもらえなければ、花を生産したり流通させたりする意味がないわけだから、プライシングに気をつけながら、生産者がきちんと商売になるようにしたいと思う。

オランダのとある友人とまたアメリカのマイアミの友人と連絡を取り合っていたのは、次のような仮説をどう思うかアドバイスをもらうためである。小生まで含め三人は、このような点でまず意見が一致している。現在の食料品高や石油はじめ鉱物資源の値上がりは、アメリカ・ヨーロッパが必要以上にバイオエタノール燃料の生産振興、補助金支給をしたため。そして次に産油国はドル決済で、ユーロに対しドルが弱くなるとその分ニューヨークやシカゴの先物取引所で石油や他の希少金属類が上がる傾向になっていること。貿易黒字国である中国や日本など、そして石油産油国などの国々はお金がたまり、低金利で過剰流動性を持っているから、投機筋は実需に裏付けされていると言われている石油やコモディティーに資金を向け、高値をあおる格好となっている。これら3つの因果律で意見が一致している。

これを確認した上でディスカッションしたのだが、2人はこの高値相場は2年以内に収束すると、1人は異常に高くならないがOECDが5月29日に発表した通り、食料品は向こう10年で3?4割高くなることは認めざるを得ないと言う。3人が詳しく知りえる、アジア地域、アフリカ地域、南アメリカ地域の花の生産動向を見ると、アフリカではタンザニア・エチオピアの一部、南アメリカではチリ・ブラジルの一部、アジアでは中国の一部を除いて新規の面積拡大は既に止まり、既存のところは縮小を計画したり、現に縮小を余儀なくされたりしているところがいくつもある。

小生から「今後の食料品高で花の生産はここ1?2年はもう増えないと見て良いか」との質問に「増えない」で3者は一致した。国内の生産はというと、天然ガスを使っているオランダやデンマークなど、そして21世紀になってもう一度花の大規模栽培が行なわれてきたカルフォルニア州は生産面積で横ばい。日本は海外と比べてみると一戸あたりの面積が小さく、それぞれの生産者も採算が悪化しており、5?10%出荷量が落ちるのではないかと予測される。

今期の第1四半期である4?6月が前年度と最も違う点は、一輪菊が安いことだ。葬祭の飾り付けの洋風化もあるが、それよりももっと大きいのが白の一輪菊の大産地が燃料高で過去にない出荷パターンとなっており、花き業界人が経験してきた相場見通しが大幅に狂ってしまい、結局景気動向を反映して安値になっている点だ。足元では緊急の出荷調整とまた今後の生産計画段階での国内主力産地の出荷量の適正化を計る以外にないが、原油高が更に進むとなると12月?4月までの菊・バラ・カーネーション・鉢物類の作型が大幅に狂ってくることもリスクとして覚悟しておかなければならない。これは日本の花き事情を知るアメリカ人とオランダ人の意見だが、小生もそう思う。日本の農業者の場合、目標は赤字にならず事業を存続し、後継者を育成することにあり、決して利益を得るために花作りをしている訳ではない。そうなると、今後の対策としてこの考え方はどうだろうか。花作りを4つのカテゴリーに分けて、収入の得方を考えるべきではないかと思う。1つは地元の道の駅やファーマ?ズマーケット、あるいは農協の直売所などで花や苗を販売する生産者。自分で持ち込んで、場所代などで10?15%手数料を払う。次にもう少し広く地元の卸売市場にも出す、あるいは拠点的な直売所に出す生産者。3番目には道州制に基づいた地域の拠点的な市場に出荷する生産者。最後に政令都市や大消費地に出荷していく生産者や産地。この4種類に分けて、出荷先や販売先から逆算して花き生産の有り様を考えなければならないのではないか。現在、日本国内で増えているのは規模の小さい、あるいはお母さん方が取り組んでいる地産地消型の花作りだ。直売所での価格設定が安すぎる場合が多い。裾物だからこの値段でということが多いのは解かる。この値段を見た地域の小売店はもっと安くしなければいけないと安売り競争になってしまっている。また花屋さんが成り立たなくなっている時期や地域もある。しかし今はこの山を越えないと4つの類別の生産者が活躍することが出来ず、日本農業の新しい形も生まれない。産業としての農業、自分で作り自分で消費することの延長線上の農業、それぞれに合った農産物流通にきちんと分けて、農業を再生するまたとないきっかけが今だと、私はアメリカ人とオランダ人とのディスカッションで強く感じた。農業に対する更なる理解を日本国民に促す絶好のチャンスが訪れたので、生産者と販売、それに合わせた流通業者の役割など新たに定義しなおして、農業分野でも21世紀に通用する農業の有り様を再構築していきたいと思う。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年6月 2日

白のシャクヤク

シャクヤクのシーズンは終盤になってきた。年々肥培管理が良くなり、あの大きな花を支える茎のつくりが上達して、満開になっても垂れ下がらないものが多い。日本の生産者の技術進歩はたいしたものだと敬服する。今年の白のシャクヤクは、もっと結婚式で多く使われるのかと思ったらその伸びは止まった。業界関係者に聞くと、「いいのですが、ちょうど良い時期に咲かせるそのタイミングがむずかしいのです。この時期にしかないのでできればシャクヤクを使いたいところですが、その納めるタイミングと開花のバランスのむずかしさ、どうしてもロスが出てしまうのです」と言う。

仕事は質(スペック)、単価、納期だが、事前に買って咲かせておく手間と納期のむずかしさがシャクヤクにあるのだと言う。それでは何に代わられたのか。アジサイの白に替わることが多いようだ。大量に必要な場合にはオランダから取るが、一定数量だったら切花のアジサイを周年化に近く作っている生産者もいらっしゃるし、この時期なら鉢物もあるから結婚式ではアジサイがシャクヤクの代わりになっているわけだ。

マイケル・ポーターの競合状態を示す4要素というと、新規参入、代替品、買い手の圧力、売り手の圧力の4つだが、どうしてもシャクヤクで結婚式をしたいという人以外は業者としてはアジサイをすすめてゆくようだ。

この競合状態と同じことが切花・鉢物・苗物を扱う花き卸売市場業界でも起きている。8年前は卸売市場流通の金額は6000億円あったが、今では市場間転送を除いて推定4000億円。2000億円少なくなった。1000億円分は新規参入で代替品でもある本物そっくりに作られた水や肥料いらずの観葉植物や蘭の鉢、造花のアレンジメントやプリザーブドフラワー。また他の1000億円が市場外流通。売り手である荷主との交渉から市場外流通が発生し、また買い手との交渉からこれも市場外流通と単価の下げ。

そこで今後だが、5月29日のOECDの発表によると、農産物価格は10年で3?4割高くなると言われている。よって花き生産は世界レベルでこれ以上増えてこない可能性がある。だから今まで先人たちが苦労して作ってきたサプライチェーンをしっかり守り、進化させていく必要がある。足元では、卸売市場は作り手と買い手にとって最も信頼のおける、安心して出荷・仕入ができる「場」でなければならない。その役割は規模経済を考えるか、地域の経済を考えるかは立地条件、規模によって異なる。いずれにせよ与えられたその卸売市場の使命を大小かかわりなく発揮されることを期待したい。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年5月26日

創業精神「時代に合わせる」

大田花きの前身である大森園芸市場は76年前に今の大森駅北口のところで開場した。日本ではじめての鉢物市場で、委託手数料は15%だった。大森園芸の本社は不休園という花専門の種苗商で、当時の花専門種苗商は戸越農園と不休園の2つであった。海外から種苗を輸入したり、育種を行なったりして、花の種苗を商っていた。作ったものをお金に換える、あるいは作った花を適切に配分する、その「場」である市場を祖父の磯村謙蔵は作ったわけだ。卸売市場は出荷、売買、支払いにルールがあり、いちいち取引先と交渉しなくても、取引の「場」市場に出荷すれば済む、買いに行けば済む、こういう便利な場所だった。それ以前は花を欲しがる消費者もそんなにいないし、小売店も少ない。作っている人も少ないから、作っている人が売りに行けばいいし、お花屋さんが荷主のところへ買いにいけばいい。しかし昭和7年頃から花き業界らしき規模になり、市場が必要になったのだろう。

今の大田花きを見ても、卸売市場の仕事の本質は何も変わっていない。規模が大きくなったので、分業化・専門化しているから、花の生活研究所、商品開発室、種苗代理店のディーオーシーなどの力を借り、花は見るものゆえ差別化、定番商品は生産性を上げてコストリーダーシップ、超一流のホテルやレストラン向けにはオリジナルなプレミアム商品を提供する。やっていることは創業時と何ら変わることがない。同様に変わっていないのは、情報流、物流、商流、金流の4つの流れだ。これをルールに則ってマネッジしていくシステムは時代とともに変化しているが本質は変わらない。そうなると昨年までの75年間何をしてきたのかとなるが、もちろん時代に合わせてきた。18年前、日本で最初にセリをコンピュータシステムで行った。セリ下げで行った。卸売市場法が変わり、相対が正式な取引と認められたので、セリ前取引をインターネットで行った。売るのが難しくなって来たので、データマイニングを使い取引先にサプライチェーンを意識した知的サービスを行った。インターネットが社会インフラになったので、セリを在宅でも参加できる「在宅セリ」システムを開発し、好評を得ている。一言で言えばそうして生きてきたのだが、「今後どうするのか?」と聞かれたら、「時代に合わせていく」としか答えられない。今度洞爺湖サミットで環境問題と食料まで含む原料の値上がりにどう対処するかが話し合われるが、少し広く見て銀河系の中で我々は何を引き継いでゆくのか、どのような日本や日本人になるべきなのか、その中で大田花きができることは何なのか。社会の利益、ここに21世紀の日本や日本人は比重を置きながら仕事をする。

それにしても今年の5月は東京地方では観測史上最も雨の多い5月になるかもしれないが、創業時から変わらないのは「売るに天候、作るに天候」「花は三気商売、天気・景気・やる気」である。人の本質が変わらないのだから、商売だってそう簡単に変わってなるものか。文明が発達して、空間は人にとって狭くなったと言っているが、シンパシーがその分更に大切になっているということだ。ミャンマーの大災害や四川の大地震でどこまで我がことのように心を痛めることの出来る人材を作るか。そういう人たちを多数育て上げるということは、我々花にたずさわる一人一人の仕事ではないかと思う。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年5月19日

再生産価格

17日の土曜日、長野県伊那谷で伊那大田会があり、勉強会の後、懇親を深めた。今、大田会のメインテーマは温暖化で、出荷時期をどうするか、作る花をどうするかということが一つ。飯田市の会員は温暖化で地元の天候を長野県名古屋市などと冗談っぽく伝えている。そしてもう一つは材料費高でどのように再生産につなげるかであった。

原料費高の中で再生産価格をどうやって勝ち取るかはなかなか難しい問題だと言わざるを得ない。農業をしたり、花を作ったりするための原材料が高くなっているのは、外需が高まっているからで、決して内需が活発化したわけではない。内需はむしろ少子高齢化、人口減少で、さらに厳しくなっていく。土地の値上がりを見ても、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸の6大都市の土地の価格は上がっているが、他の地域はそうではない。上がっているところは、見返りが期待できると思っているところだろう。ではどのような見返りなのか。所得が一定水準以上の人がたくさんいる地域、人口があまり減少しないと考えられる地域。この二つであろう。それらの地域はプレミアム・ニッチか、自家用車でいえば500万円以上の車が良く売れる地域であり、差別化された新しい商品が良く売れる場所であり、コストリーダーシップ、コストパフォーマンスよく創られた商品が割安と感じさせることが出来たら、どこよりもたくさん売れる場所である。こういった6大都市の商業地は日本全国でも特異な存在で、政令都市まで含めると地価を見ている限り、二つの日本があると言えないこともないくらいである。

再生産価格を生産者が受け取るには、結論として自分の花を買ってくれる小売店が繁盛するよう支援をしなければならない。その地域でどこの花店よりも繁盛してもらうことが結局、自分の手取りの金額を高くするのだ。すなわち自分の品物のサプライチェーンを知り、出荷先の卸売会社と一緒になって、その自分のお得意先のために尽くすのだ。このサプライチェーンはインターネット上でパスワードを使って見ることが出来る。また、さらに分析的な情報、だれが本当の自分の重要顧客なのか、一番高く買ってくれる人、量をたくさん買ってくれる人は誰か、とさまざまな切り口から自分の顧客がどんな業態の花店で、年収いくらくらいの消費者をターゲットとしているのかを知ることが出来る。長い間かけて、自分が開拓してきたその小売店の業態に合わせて品目を選び、その小売店の競争力強化につながる品種や時期や相対単価を設定する。こうしてはじめて、好んで買ってもらい、再生産価格を自助努力で生み出すことが出来るのだ。生産者にとって難しい時代になったので、大田花きの場合まず「ここほれわんわん」に入会して、自分の役どころを見てください。その今の現実から考えましょうと上記のことを提案している。

ロスを出さない、失敗しない。そのための6Sを徹底するなど、基本に忠実に生きて、そして仕事だからお取引先に喜んでもらう。至って基本的なことを繰り返し行なうのが再生産価格を生み出す仕事である。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年4月28日

出口と同じくらい生産に重きが置かれる時代

何かをする前によく考えるということがとても大切な時代になってきた。消費者がめったなことではびっくりしないし、感動しない。我々自身が消費者の立場に立って、どこかへ行こうかと思い立っても、よく考えないと結局時間がもったいなかったと思ってしまう。消費者の立場に立って、どの花を・何月何日・どこの小売店を通じ・どういうプロモーションをして、世に出すかを前々から企画しコントロールする。しかし花は生き物でコントロールできない。生産者は作るに天候、消費者は買うに天候だから、場なりで取引する。予約では叡智でコントロールすること、短期では成り行きと2つがあいまって花は健全に流通される。青果・魚類も一緒だ。

会社というのはもともと足りないところに効率よく、物やサービスを提供するのが目的で作られたものだから、中国やベトナムで共産党が会社を作ったり、会社を認めたりすれば、どんどんとモノやサービスが提供されていく。こうして世界は21世紀デフレ基調になったのだが、発展途上国家の会社活動が盛んになって、いくつか世の中が変わってきた。一つは同じ会社でも重厚長大の産業はそんじょそこらで作るわけにはいかないから、ローマは一日にしてならずではないが、そのような会社が世界にそんなにない。日本はそのような会社が多くあり、重厚長大産業に属している会社は好業績で株価も高い。そうなのだ、余っているのは軽薄短小のものなのだ。100円ショップを見ればわかる。いかにちょっとしたモノとヒトが余っているかが。先ほど重厚長大産業が二次産業、三次産業でよいと言ったが、一次産業は押しなべて良い。石油だけでなく、長い間安値だった農産物が構造的に価格が上がり(もちろん金余りの21世紀は儲かりそうなところに投資がされる)、小麦やとうもろこし、米も国際価格が上がってきた。今度の洞爺湖サミットも環境問題に加えて、食糧について話し合われる。この第一次産業にスポットライトが当たっている今、花の供給について、今後どのように考えたら良いだろうか。21世紀は消費者起点で考えるの原則でいくと、日本の消費者は成熟国家の国民として見る目が厳しく、自分がこだわるもの以外を倹約する。花好きは新しい花やしっかり作り込んだ花などにはお金をどんと出すが、あまり関心のない人は価格である。これは何に付いても言えることだ。そうなると供給者である農家はよりコストダウンを行い、石油や資材の高騰などを自ら吸収できる経営努力を行なってほしい人が40?45%。この人たちがいわゆるコストリーダーシップと言われる人たちだ。そして作り込んで新品種を取り入れたり、企画や作付け、事前情報などを実際に正確に行うことによって信頼を得て差別化する人が40?45%。ここは若干値上がりさせても、消費者や小売店は付いてきてくれるだろう。あとの10?20%はいわゆるニッチで、この隙間狙いはプレミアムの本物を狙って最上級の花を届ける。価格ではない分野だから、利益率も高いし、買う方も満足すれば作る方も満足する。本年の国産の花き生産はこの3つのカテゴリに分けて、生産者や産地毎にやるべきことが変わってきている。輸入品まで含めても、第一番のカテゴリであるコストリーダーシップはとても重要だが、なかなかむずかしい。現在の環境下ではここの分野での淘汰を国内外ともに促すだろう。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

2008年4月21日

花と緑のシーズンとソウル

丸の内でも大阪鶴見でも花のフェスティバルが開かれていて大好評だそうだが、私は家内と新緑の京都を週末楽しんだ。岡崎で第39回になる京都市花き振興協会などが主催の「花と緑の市民フェア」が行なわれていた。種苗、生産、卸売市場、小売、フラワーデザインとすべての団体が参加していて、それぞれの展示や諸活動を見るにつけ、思わずその美しさと運営の立派さに目をみはった。来場者はまさにお子様からお年寄りまで、老若男女を問わず、一般のお客様がこんなに楽しみにしており、市民が花と緑を生活の一部として取り入れていることに目をみはった。この層の厚さはなんだろう。文化の継承か。
先週は韓国にいたが、ソウルの南の江南は新しいソウルの町で、路も建物も広く大きく作られており、押しも押されもせぬ韓国経済のシンボルともいえる街である。ソウルは郊外まで入れてソウル首都圏と言っても良いが、その人口は韓国の半分以上の2,500万人おり、花の卸街は市公設の花市場以外に釜山行きなど長距離バスが出ているターミナル駅のところと、金浦の飛行場の側とで三つある。フラワーデザイン学校は2005年がピークで、その後生徒数が少なくなるとともに数は減った。日本もそうだが、韓国のいけないところはすぐお花屋さんやスクールも独立してやってしまう。だからなかなかお花屋さんもスクールも一定規模に達しない。もっとも何でも成長産業というものはそうかもしれない。それが成熟し、衰退がはじまってくると、まとまっていくのだろう。

韓国の花の産業で特徴的な点は二つある。一つは輸入切花が数パーセントくらいと本当に少ない点だ。その一番の理由は10年前1997年の通貨危機のときに輸入代金の支払いに支障をきたし、今でも韓国は世界の花の産地から信用を得るのが大変だ。二つ目は切花を飾る習慣は、20歳代?30歳代にしかない点だ。仏教国というよりキリスト教国であることや、北朝鮮との戦争などで日本より10年遅れてベビーブーマーたちがいるが、その人たちは祖国復興のために大忙しで花どころではなかった。イ・ミョンバク大統領の訪日を機に、FTAの締結目標年次などが話し合われることと思うが、韓国の財界人と話していると、「韓国から何をもって行くのかが問題なのです」と異口同音に言う。花を見ても、すばらしいバラやスプレー菊はあるが、鉢物にしてもプラザ合意のときに為替変動により日本から産地が移ったサボテン類の鉢物など、特定のものを除いて、何を日本に持ってくるかが問われている。

今、切花・鉢物の関税は24%で、これが輸入品の障害になっている。ソウルの卸売市場では韓国産でない外国の花は扱わない。農民に対する感情の問題から現在は扱えないとしている。将来は韓国で作っていないものなら輸入品で扱う動きはあるものの、農家感情からそれも無理ではないかと思う。輸入品はソウル市内の業者が扱い直接小売に卸し、中央市場では仲卸が扱うのみである。ソウルの若者は就職難だとは言え、日本人の初任給と何ら変わることはない。経済的に台北と並んで日本人と同じ生活をしているし、日本より格差社会であるので、新しい花のある生活の提案はかなりアッパークラスのソウル市民に魅力的である。一般論として企業は消費者の潜在需要を先回りして提案できないと生きていけないということがグローバル経済で当たり前だが、生活関連資材である花はホームファッションが本格的になってきたソウルの若者向けに価値ある商品と映るのではないかと思った。

京都の人たちの見せるためではない、ごく自然な花のある生活とソウルの花ビジネスは明らかに隔世の感ある。仏教国だと例え1人当たりのGDPが1万ドル近辺でも、こうは差がないのにと韓国との花でのお付き合いの仕方をあれこれ考えてみる。

投稿者 磯村信夫 : 00:00

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