あなたは会社の命令にしたがって転勤しますか?



工業では国際分業が盛んになり、日本の貿易黒字は減りつづけている。
そして至上空前の低金利が据え置かれたままだ。
この3つの現象は我々日本人に次のようなことを示唆する。
まずこの現象はなぜ起きたか?
まず、GDPを押し上げるには2つの力が必要だ。一つは個人消費、二つ目に設備投資で
ある。日本は無類の買物好きで、物欲は先進国の中で最も高い国として有名だ。もう一つ
の設備投資が問題なのである。日本で設備投資するより、アジア、アメリカで工場を作っ
た方が採算が合うと考える企業が多くなってきた。
それはなぜかというと、もちろん土地や賃金の問題が大きいが、それだけではなく彼らが
実際良く働くのである。非常に良く働き、インセンティブ(動機付け)さえ怠らなければ
、生産性はかなり高い。
8月に日経新聞が公表したアンケートによると、なんと日本人は「会社の命令に従わず、
転勤を拒む」と答えた人の率が最も高く、アメリカのほぼ3倍であった。
タイや韓国は、会社の命令にしたがって単身赴任は当たり前と考える。アメリカでは奥さ
んも働いているケースが多く、両者が納得できる条件であれば喜んで命令に従う、として
いる。もちろん残業も同様である。あと一つ根本的に違うのは、女性の労働への取り組み
である。日本の女性はカワイイことが好きだが、いつのまにか自分自身に対する甘えを許
してしまっている人が多い。キャリアウーマンというとアメリカの女性を思わせるが、特
にこのアジアでは急に工業化したこともあり、お母さん達、奥さん達の力が外に向き、そ
のままキャリアとなって現れている。人口が多い上に男女同じ仕事を要求しても、それだ
け答えられる女性もいるのだから、実際には2倍の応募者がいることになり、日本のよう
にパートタイマーに甘んじたり、腰掛けで会社に居るのと訳が違っている。
日本は労働観が世界の中で大きくずれてしまった。いうなれば、日本の労働観は相変わら
ずバブルである。労働時間を短縮するためには生産性を上げるしかない。政府は一律40
時間にしろと言うが、そのためには日本人全般仕事技術の向上が必要になる。密度は少な
くともアメリカ並みにならなければならない。ドイツ人並みになれば、さらに時間短縮で
きる。
さて、花き業界は踊り場に留まること既に3年。この労働主観を少なくともオランダの園
芸業界並みにしなければならないだろう。
オランダの生産者は、労働省から土日休むように言われている。社員も土曜日には半どん
し(アルバイトとして費用計上)、午後は農場経営者も休む。しかし社員が来ない日曜日
には夫婦で働く。夕方市場に荷を持ち込んだり、夜9時から11時頃、市場から差向けら
れたトラックが集荷にくるので、荷積み作業を手伝う。そうして仕事を完結させる。
年は離れているが友人であるエリックは、フローラ市場でセリ以外の取引を担当している。
お客さんから呼び出されれば、もちろん土日もないし、仕事が終わって自宅でくつろいで
いる時間に電話がかかっても出かけて行く。朝5時に起きて、市場に行こうと一階に降り
ると、奥さん(といっても当時は同棲中)が温かい紅茶を煎れ、軽い朝食もテーブルにセ
ットしておいてくれる。
たまたま彼の家がそうであったのではなく、ヨーロッパの家庭あるいはアメリカでも、一
定の階層以上の家庭では、女性がダンナさんを送り出すのは普通の光景である。
もちろん奥さんの仕事が遅い時にはダンナが夕飯を作る、という役割分担がちゃんとでき
ている。我々日本人は、人の生き方、働き方、家庭生活まで含めて進化すると思っている。
その進化の意を考えると、楽になり、動物としての人間(すなわちエゴ)がむき出しにな
って行くことが進化だと勘違いしている。
人として生きて行くこと、これは会社との関係もしかり、自分の周りで最も困っている人
に仕事のレベルを合わせたり、実際の援助を惜しみなくすることではないだろうか。
これらのことをオランダ人、アメリカ人だけでなく、私は2人の子供のお守をしてくれた
ドイツ学園の高校生と彼らの家族から学んだのである。



1996/10/01 磯村信夫