96年花き相場を振り返る


10月1日からイントラネットを開始し、早くも2ヶ月。今年も大変お世話になりました。
今年の出来事を振り返ってみますと、1月はキク類特に白ギクの相場が低迷し、不安材料を持ちながら新しい年が明けました。
2月頃から景気の底上げ感が都心の花店を中心に少しずつ出てきて、洋花の中でも草物が堅調に推移してきました。
3月は卒業式とお彼岸、また結婚式に加え、庭いじりのシーズンとなります。卒業式では明らかに子供の数が少なくなり、団塊ジュニアが過ぎていった後の需要基盤が弱くなってきましたことを身を持って経験いたしました。お彼岸の立会いは、地方都市の農業者の所得マイナスと商店街からロードサイド店に人が集まったことが原因で、従来型の地方の花店が不安を感じていたこと、また、工場が東南アジアなどを主力にし、地方活力が今一つとなったため、大田の仲卸の転送力が弱まり、価格はここ3年で最も弱くなりました。しかし、世間ではジミ婚等が話題となる中、結婚式需要は安定しており、それに加えガーデニング(園芸をおしゃれに表す言葉)ブームで苗物を中心に週末の天気が優れなかったにもかかわらず、大変堅調でありました。
4月になって、キク類の相場も持ち直し、3年振りの4月の堅調相場となりました。
そして5月、JFTDの母の日取引件数が過去最高を記録するなど、カーネーション中心に大変しっかりした動きを見せました。しかし、母の日以降、遅れていた切花がどっと入荷したため、切花は1ヶ月に渡り低調。しかし園芸物、特に苗物はいよいよブーム到来ともいうべき相場を保っていました。葬儀関係の仕事需要は、葬儀費用の開示とともに低価格となり、また葬儀社が花店から取るマージンも30〜35%アップしたところも出てきて、キク一辺倒からトルコキキョウ、バラなどの洋花を使っていく飾り方がこの時期に定着しました。
7月、東京のお盆ではキク類が開花遅れで少なく、一輪ギク、小ギクとも歴史上初めての高値となりました。7月に小菊が100円以上していたわけですから、消費は冷え込んでいるものの、花き小売店の底力を見せ付けられました。
一転して8月、減反政策を受けて手のかからない小ギクがこれまた史上空前の出荷量となり、盆需要期の最中、運賃、ダンボール代も出ないほどの安値になりました。日本だけが夏場に物日があり、8月の盆に向けてキク類を生産したわけですが、ここまで価格が下がるとは誰も予想しませんでしたし、これだけ生産量が急増するとは思いませんでした。そんな中でも、同じ減反で作付けられたヒマワリは昨年の50%増から2倍の入荷がありましたが単価は昨年並と、トレンドに乗っている消費者ニーズのある花を作っていけば、かなりの数量増にも耐えられることを示していました。一方、園芸もの特に苗物でも嬉しい異変が起きました。
8月に入ると、鉢物の価格が安くなるのが今まででした。それが今年はやや少ないと単価を上げていくという市況展開になりました。盆休み中もそうで、園芸需要層の広がりを目の当たりにしました。
9月に入っても切花価格は低迷し、彼岸、月見とも8月の盆の価格に似た市況が仏花素材を中心に展開されました。しかし、敬老の日、あるいは結婚式に使われるトルコキキョウやバラ、デルフィニウムなどは堅調に推移し、仕事が早いなどの理由から業者の都合で使われてきたキク類から、消費者(特に若い人達)が美しいと感じる花でないと、一定量を越えた場合に安くなってしまうことが明確になってきました。鉢物では上半期の末に人事異動等が多く、コチョウランが過去数年無いほど動きました。
10月に入り、政府の公共投資によって景気の梃子入れがなされ、巡り巡って資金が花にも回ってきていましたが、都心の花店から消費にまた陰りが見え出したとの声をきくようになりました。今までは銘柄産地の3番目位まで堅調に推移してきましたが、それが2番目まで、ややもするとナンバーワンの銘柄しか値段が通らないということも出てきました。選挙の終わった後、結婚式の花の切花と苗物を除き、より一層高値が出にくくなってきました。10月は絶対量の不足とともに、一定の売上水準を保つことが出来ました。
11月に入ると消費軟弱に拍車がかかり、10月では量的に足りず割高であった下位等級品が潤沢になるとともに下がり始めてきました。バブル経済崩壊後、頭の価格は押さえられましたが、ホームユースで下位等級が割高となり、生産者の収入の目減りをある程度防げたわけですが、いよいよ質の良いものしか値段が通らなくなり、下位級品は昨年までの価格と比べて3割安から半値近くになってきました。
この傾向は12月も続き、せっかくホームユース用に中所の階級に合わせて数を生産する栽培が確立した矢先に、M以下ががたんと下がって消費実態と合わなくなってきていることが明確になりました。
このように消費は早いスピードで変化し、供給者の我々は対応がより難しくなってきました。一定レベル以上のものを作り、扱う。花保ちを重視するだけでなく、ボリュームも必要だということです。我々にとってより難しい状況となっていますが、他の商売と比べますと、まだまだ恵まれていると思われます。心配なのは、ここ7、8年で良い経験しかしてこなかった生産者や小売店のやる気の問題です。
1年を振り返ってみますと、花き産業は着実に成長し、品目によっては青年期から成熟期のはじめに差し掛かってきているということでしょう。
最後に、本年中は大変お世話になりましたこと、心より御礼申し上げます。
来年も変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。


1996/12/23 磯村信夫