生花店のスタイルを極めた男の一周忌


月刊「はなみどり」でも取上げられた金木生花店のご主人、故金木和一さんの一周忌が今週の木曜日にある。
所用が有り出席出来ないので、昨日ご自宅にお伺いした。
大井町駅の20m手前にある金木生花店は、仏花を大切に扱い、一品一品の花の品質を吟味してお客様に提供している。通常、個人商店の花屋さんは卸売価格の倍で小売する。和一さんの商法は卸売価格の倍より少し安く値段をつける。それは和一さんが千葉県安房郡鋸南町の農家の長男として生まれ、生産者の気持ちを良く理解していたからだ。
普通の花屋さんはロスが出るので倍より少し高く売るが、金木さんは確実に品物を消費者に届ける為に自分の利益を圧縮し、十数%の粗利をお客様に還元することによって花の普及を計ってきたのだ。そして生産者の気持ちが解る分、品物は徹底的に吟味した。
現在店主となられた御子息は言う。「近所のお花屋さんはきれいにラッピングして3千円なら3千円の花束を商品としてお客様に買っていただいているんです。僕も大井町の駅周辺がすっかり近代的になって、町を通る層も若い人達が多くなってきましたからこの売り方をしようとも思うんですが、父はラッピングも大切だがもらった後に飾って長持ちすることに喜びがあるのだから品物を重視する、という考えでした。」
中高年の花好きは金木生花店で、若い人は大井町駅ビルの花屋さんで買っているらしい。2つを両立させることは大切だが、広さが6畳位しかない金木生花店は、今後も和一さんから譲り受けたこの方針を貫き通すという。
「でも駅前にイトーヨーカ堂がオープンしたら、客の流れと年代層が変わっていきます。そうするともう一工夫しなければならないかもしれません。」と若店主は言う。金木さんは大田区の上池台にも住宅付の店舗を持っているが、ご自宅は店から5分程の昔ながらの木造アパートである。
ご自宅にお邪魔した際、論語の中の一説を思い出した。
子曰く「その以すところを視、その由るところを観、その安んずるところを察すれば、人いずくんぞかくさんや」(外面に現れた行為も正しく、その動機も精神もまた正しいからと言っても、その安んじるところが飽食暖衣し気楽に暮らすというのではその人は誘惑によって悪を為すこともある。)
一年中黒足袋に雪駄姿の和一さんのご冥福と、金木生花店のご繁栄をお祈りいたします。


1997/01/20 磯村信夫