新しい説得


日本中で産業の如何にかかわらず伸びているところとそうでないところが出てきている。伸びているところは、実際にその商品を使ってみた時、「なるほど素晴らしい」と感じ、人伝えに評判が良くなった店やら会社だが、今はそればかりではない。何といってもマスメディアにのる。テレビは無論のこと、どんなマイナーな雑誌にでもちょっと紹介され、評判がいいと書かれた店や会社が繁盛しているのが新しい傾向だ。これは恐ろしいことである。
私生活で両親が共稼ぎ、子供はテレビを見たりラジオを聞いたり雑誌を読んだり、あるいはインターネットを見たりと、メディアを通して学習する。いつのまにかそのメディアが正しいものと思ってしまう。所詮メディアで話題になるのは突飛なことが多い。自動車の方が数段危険なのに、飛行機事故がニュースで映し出されるから、飛行機が恐ろしいということになってしまう。特にテレビドラマの主人公は生産年齢であるにもかかわらず、場面はいつも私生活ばかりで働いていない。こんなことが日常有り得るはずがないのに、ドラマ、あるいは映画でもそうだが、遊んでいる人ばかり映る。
「私の行きつけの店」もそうで、本当に経験してみて(行って食べてみて)素晴らしいという店はそんなにない。そんな時、ミシュランのような評定機関がにほんにもあればいいのにと思う。
さて今度はサービスやものを提供するサイドからいうと、地域のコミュニティー誌や何等かのメディアに一度は自分の店や産地を紹介しておくことが必要だ。そうすれば理知では「何言ってやがるんだ。」と思われても、感情では「そうだ、素晴らしい店に違いない。」ということになる。特に現代は、先に言ったとおり若者は感覚的にものを捉え、深く思索することを得意としないので(現代は子供から年寄りまで忙しすぎる。例えば新幹線を使って浮かせた時間を、さらに新幹線のスピードで他のことをしようとする。)誰が言ったという口コミではなく、マスメディアを信じるようになってしまっている。弊社の鈴木が4月5日付の大田週報の中で紹介している店は、皆そんなカラクリで繁盛しているのである。


1997/04/07 磯村信夫