消費離れ


一ヶ月振りに恵比寿のスポーツクラブにスカッシュをしに行った。
今では立場上全くのプライベートの時を除いて、少なくとも靴を履いているが、学生時代はほとんど一年中ゴム草履で過ごしていた。電車に乗ると、若い人達の間では男はゴム草履か雪駄、女の子はサンダルかポックリのスタイルが目についた。我が家の息子もこの頃ほとんど雪駄を履いているが、なるほど世の中は物離れで、一昨年からのストッキングを履かない“生足”から始まる傾向が加速度化して、いよいよ物離れをしていると感じられた。
そんな思いで恵比寿ガーデンプレイスの三越を覗くと、確かに「選択的消費(ゆとりや楽しさを買う消費)」を主たる購買動機にする消費者が増えたせいか、彼女達や彼らに合わせた商品レイアウトや品揃えが目を惹く。そのものを買って何をするか、ゆったり時間を過ごすような行動ができるか。ここに焦点を合わせたグッズがこざっぱりと陳列されていた。色はオレンジ、黄色、萌黄色、もちろんブルーや黒もあったが、おしゃれな要素の中に、色使いと隙のないデザイン(ダボッとしたものよりもキチッとしたシルエット)が潜在的に好まれてきているように感じた。雪駄やポックリは、温故知新で若者にとって目新しさもあるのだろうが、それよりもたくさんの人々の知恵が形となって現れた機能美に目覚めてきたのであろう。
家に帰ってこのような話をしながらCNNを見ていると、ヨーロッパでは日本と同様の傾向があることがわかった。日本の小売業は、ちょうどバブルの時期に淘汰を繰り返した欧米の小売業に比べ、10年間遅れている。しかし、消費者にとってこのタイムラグは5年から3年である。ますます成熟化したアメリカの大手小売業の日本進出が加速化する昨今、日本の小売業はどのような切り口で我々にものを売ろうとしているのか。生き残り戦略が見物である。


1997/06/16 磯村信夫