黒とベルベット赤の街、ニューヨーク


プラダとグッチが流行を引っ張るニューヨークの5番街50丁目辺りから、多くの新しい海外ブティックが出店し始めたマディソン街を見ていると、ここ10年黒の主流は変わらず、全体に渋い色調のものが多く、アンティークなデザインがトレンドのようである。高級ショッピング街の花店は、いずれも深紅と濃い緑を取り合わせ、ディスプレイしている。もっとも行ったのがバレンタインデー前ということもあろうが、より濃い色が中心であったのだろう。町角にある韓国系の食料品店の花は、2年前と比べても数段品質が上がっている。特にエクアドルからのバラは大変良く、レッドサンドラやブラックマジックは絶品ともいえる品物が並んでいた。ブロードウェイ90丁目から100丁目の間にあるそれぞれの花問屋は、為替の関係もありオランダのものを以前に比べ多く扱っていた。大西洋を渡るのに6時間、アメリカ大陸横断に5時間かかるから、ここニューヨークは南米の花とオランダからの花が主流になってきている。それから目についたのは、ボケ、レンギョウなどの花付き花木が出回り始めていたことである。メトロポリタン美術館の大きなフラワーアレンジメントのディスプレイは、ニューヨーク名物と言っても良いものだが、そこでも今までは遠目からは美しくても近くで見ると雑な感じがしたものだが、今回は非常に細部まで行き届いたディスプレイになっていた。アマリリスのレッドライオンよりもっと濃い赤とグリーンの取り合わせ。そして枝物を使い、まさにアメリカ、特にニューヨークの消費レベルが一段階上がっていることを如実に感じさせた。景気の良さのなせる技なのであろうが、ここまで砥ぎすまされた感覚をアメリカで見るとは正直言って驚いた。どちらかというと、日本に入ってくるアメリカのものは例えばファッションでも明るい感じが多いが、ニューヨークやボストン、フィラデルフィアに代表される東部の中心地では、プラダやグッチに見られる色調のものが花でも確固たる地位を占め、それが世界へと飛び火して行く。




1998/02/16 磯村信夫