ノルウェーの小売店


皆さん方もご存知のとおり、スイスとノルウェーが国民一人当りの花き消費金額が160ドルを超えている。(ノルウェーの旧植民地グリーンランドは、ノルウェーよりも多いと今回オスロで聞いた。)なぜ多いのか?
1つは国民性にあり、1つは冬が厳しい天候であること、3つめには庭付きの家が多いことにある。福祉国家であることは変わらないが、近所付き合いを良くし、何かと言うとすぐパーティーをする。今回町に行って久し振りに実感したのは、テレビや音楽を付けっぱなしにせず、物音を出さないということだ。もちろん長野オリンピックの最中だから、オスロ市内の花市場(6つの業者が相対取引している)では、ノルディック競技やジャンプを見ていたが、それ以外の場所ではほとんど音はない。スカンジナビアン航空の硝子張のショッピングセンターが市の中心部にあるが、若者向けの衣料品店も音を出さない。車や電車の音、フィヨルドで鳴くカモメ、人の歩く靴音がはっきりと聞こえる。こういう生活の中ではしみじみとした味わいが必然と高まる。小生は仕事柄声が大きいが、僕のように大声で話す人はいない。花店を見ると切花では国産品が多いのが目につく。真冬でもバラ、ガーベラ、チューリップはほとんど国産品だ。夏は輸入品に50%の関税をかけるが、冬は0。生産費では1/3エネルギー、1/3人件費、1/3資本コストという。これだけエネルギーをかけても花保ちの点やらで国産が好まれる。オリンピックでノルウェーの選手達が着ていたセーターは、まさにノルウェー人のメンタリティーを表している。全体的に大柄だが、バラでは日本人同様、あまり大きな輪を好まない。太くて立派なエクアドルのものが卸屋にあったが、国産のものから先に売れていた。バレンタインはあまり活発でなく、むしろ2月の第2日曜日の母の日が、もっとも花が売れる。一方鉢物(実は花鉢がノルウェーの花の消費を引き上げているのだ)では、2/3位のスペースを取って販売されている。日本でも温室にいくとベンチ栽培を見ることができるが、ちょうどこのベンチと同じ高さに棚を作り、下にビニールを敷いて鉢を並べている。それが良く売れているのだ。取引の慣行は、オランダのように1つ1つの仕事を細かく分け、経費を積み上げる方式ではない。オランダではご存知のとおり、セリだけなら4.5〜5%だが、伝票1行すなわち1品種1規格について8ギルダーとるし、輸入品は市場で水あげするから売値の5%、バケツ、台車貸賃なども別にかかる。ノルェーは日本と同様に卸の手数料は10%、仲卸は15%以上、その価格に載せて小売店に販売する。もちろん配達は別途負担になる。小売店は2.5倍で売るのが普通で、安い店で2倍くらい、粗利で4割を確保しようとしている。非常に一般的な売り方だが、鉢物の場合自国生産は無論のこと、デンマーク、オランダ、またこの時期アザレアがベルギーから入ってきている。値段は決して安いとは言えないが、品質を重んじ、長く楽しめることを要求するノルウェー人にとって少々値が張っても花保ちのいいものじゃないとダメということらしい。チェーン店も5店ほど見たが、いずれも日射量が不足する室内で作りこまれて慣らしをされた鉢ばかりが出回っていた。年間の売上が切6、鉢4位がノルウェーの一般的な数字らしい。
日本がノルウェーのようになっていくためには、アジア的喧騒から今少し落ち着いた生活を好むようになっていかなければならない。そのためには現在の経済改革を経て、高齢者が多くなっていく2005年くらいまで待たなければならないであろう。群れてワイワイガヤガヤが楽しいことである限り、花の消費は拡大しないようにも思われる。




1998/02/23 磯村信夫