花の先物


もう10年程前、大田市場花き部建設の際、プランの最終チェックのためにヨーロッパからアメリカまでの主だった市場を見学した。
野菜、花だけでなく、魚の市場も見たし、中古車や家具、住宅、穀物等、時間をかけて丹念に見た。最も長く逗留していたのがシカゴであった。現物先物ができるようにしようと考えたのがその時である。当社のコンピュータはNKKにお願いし、先物もできるようにとシステム構築されている。土曜日の日経新聞夕刊によると、横浜生糸取引所で菊類の先物をこの秋から始めるべく農林水産省に申請するという。なぜ花からなのか解らないが、実体を知るプロとしてはなかなか難しいように思う。リスクヘッジしたい気持ちはある。しかし、今年の3月の彼岸も、プロである「太陽の花」の職員、沖縄経済連の職員が畑を視察、その情報を基に我々と協議した価格と結果は随分と開いてしまった。結局そこまで長雨の被害が大きかったということであろう。プロ同士がこれだけ観て絶対の数量と予定していた品質(今回の場合は下位等級品があまりにも多い)これをどのように予測するのか。契約である予約相対は大幅に欠品した。渥美半島の物でさえ(ここは契約取引志向が強いが)、必ずしも約束は果たせず欠品する。こんな状況で先物がうてるのか?花は天気によって数量が変化するだけでなく、咲き具合によって品質が大幅に変わってくる。この咲き過ぎや、輸送途中の病虫害の発生など、どのようにリスク回避していくのか不明な点はあまりにも多いし、小売店は柔軟で菊が高ければ金魚草、カラー、ストックを使うし、予算内でお客さんを喜ばせる手立てを知っている。“大量生産大量販売”これが社会的に先物取引をする価値を産むものと思う。どんな花好きでも、せいぜい1週間に1回しか買わない。食べ物なら1日3回買い替える。このような中で社会的に花の先物をする機運が熟したといえるのか心配である。我社は現物取引をする卸売市場として、決して先物取引に反対するのではなく、それが機能するに相応しい花き業界になっているのが心配なだけである。始めるからには成功して欲しいと思う。




1998/04/13 磯村信夫