8月盆


景気が低迷しているので、高くても例年並み、それよりも安く販売したいというのが今年の小売店の8月盆の予定だった。
6月下旬から「8月盆は前進開花で、需要期の8日過ぎには少なくなる」との産地情報があった。間際になると価格は急騰し、結局小売店の希望販売価格にかなわない。だから早く仕入れて、ストックしておくようにとお願いしたが、ほとんどの小売店は競争激化で鮮度重視が売り負けない絶対条件と、間際に仕入れてきた。昨年までは専門店も量販店も同じ時期に仕入れてくるのだから、前は安く間際に高い。泣いたのは小売店であったが、今年は違った様相を呈してきた。卸売会社の姿勢によって異なるが、価格の差を買い取りや相対値決めで自社や内緒だが産地に泣いてもらうといったやり方を取る所が出てきた。
相対は、ご存知のとおり来年1月の通常国会で通った後、アカウンタビリティーを利かせることを条件に、99年4月から施行される。現状は、先取りで金額を決定してはならない。これをフライングしているところが目に付いたのが、今年の8月盆であった。力関係がバイヤーの方に移っていっている。バイングパワーをますます利かせようとしてくるであろう。青果はこれで歪んだ価格決定になってしまった。花も着実にこの後を追っている。ただし相対取引が正式に認められれば、軌道修正が十分可能になり、卸売会社は同じ土俵で競争できることになる。
もう一つ今年の8月盆に気づいた点は、産地の担当者の人数や考え方である。大県産地だと、絞って20社弱、経済連だと取引は50にも及ぶ場合もあろう。事前に仕向け先と量をプログラムして、相場の強弱によって動かすパーセンテージを決めているところは、卸売会社サイドから見て信頼がおける、コミュニケーションがよい産地と写るが、一応は決めていても、有名無実でアドリブで全て決めてしまうところもある。数は少ないが、大手の経済連や産地にもあり、同業他社に聞くと、異口同音に「このような産地は信頼が置けない」という。
卸売会社だけでなく、産地、系統、卸、仲卸、小売の役割を果たすためには、既にプロダクト・パイプラインを組み、固定的にパイプラインのような形で品物を流していかなければならない。イメージは治水工事がきちっとしてある川である。治水工事がプロダクト・パイプラインなのである。8月盆需要期前、量が溢れたときも、洪水に備えて工事が終わっているところは、安値ではあったものの、その中でもスムーズに荷が流れた。しかし、プロダクト・パイプラインの思想の無い産地の荷は、洪水になって溢れ、結局消費者も生産者も関係者全てが被害者となった。雨量を設定し、プロダクト・パイプラインを敷く。この事は花き業界の誰もが心して事前に十分準備しておかなければならないことなのである。




1998/08/10 磯村信夫