十字の連帯


 日本の社会や生活そのものが、巨大な調整メカニズム、そして再生メカニズムの中に投げ込まれ、今が産みの苦しみの最中である。ローコストオペレーションや差別化、あるいは狭い分野に限定して集中するなど、マイケル・ポーターが言う戦略を、同時進行しながら各社は凌ぎを削っている。しかしこのコラムを始めた頃、読者の皆様方にお知らした通り、成功の鍵は上記3つの努力を次なる連帯によって成し遂げることである。それは十字を切るかのように、まさに「横の連帯、縦の連帯」である。

同じ業界の中での合併や業務提携、これが横の連帯。縦の連帯は、種苗に始まり生産、流通を垂直に統合した連帯。これにより消費者価値を創造する。この十字の連帯により95年に規制緩和した国々は、10年間を経てその国の経済を引っ張るようになったし、5年遅れて出発したEUも、イタリアやドイツのように失業率は高止まりしていても、社会全体の体質は健康になっていた。

日本もこの横の連帯と縦の連帯を、それぞれ企業郡別に作り、お互いが激しい競争をしていく必要がある。しかし現状の農業・花き業界では、農協の合併は進んでいるとはいうものの、それ以外の分野での統廃合はまだ始まったばかりである。消費者・ユーザーに選ばれるため価値を作り出すという点から、一刻も早く十字の連帯を作らなければならない。

来年の4月から新市場法が施行される。商物分離も可能になり、ロジスティック・コストが市場流通でも2〜3割削減できる可能性が出てきた。その時、十字の連帯にひびが入らぬよう、各自は真義を重んじなければならない。また、ビジネスサイドからいうと、契約を重んじなければならない。我々農業・花き業界は、ビジネスを行っているという当たり前の認識を持つべきで、そこには甘えがあってはならない。

ここで思い起されるのはが、「ベイラントの自由」である。ベイラントは実在した人物で、1638年、オランダのスペインからの独立戦争の際、アムステルダムの商人ベイラントは敵国スペインに対しあらゆる種類の武器、弾薬を供給したという。その時、ホランド州の州都アムステルダム市は、裁判の結果ベイラントを無罪にしてしまう。ベイラントの言い分は「貿易は万人にとって自由でなければならず、戦争によって妨げられてはならない。我々アムステルダムの人間はどこでも貿易する権利がある。利益を求めるならば、もし“地獄に航海しろ”といわれても、私は自分の船の帆を焼く覚悟で行くであろう。」というものであった。スペインからの独立後、結局オランダは英国との戦いになり負けてしまうが、戦いのきっかけは、当時のイギリスはじめ欧州の国家にはオランダのこのような個人主義、あるいは州権主義が利己的なものと映り、国際的信用を失墜したからであった。現在もオランダ、そしてイギリスの子供達に「ベイラントの自由」は、利己的な商行為は信用を失わせるだけでなく、国家の存亡にも関わるということを教えている。

十字の連帯を組み、生き残りをかけた競争をする前に、組む法人や役員の人間性を見ておかなければならないのは言うまでもないことであろう。




1999/09/13 磯村信夫