WTOを前にした農産物輸出入会議


 もうかれこれ3週間前になるが、プランツ&プロテクションと題する国際会議に出席した。34ヶ国から100名余りの出席者があり、オランダ農業の中心地であるワイガニンゲンで開催された。オランダから各国に打診があり、日本から農林水産省の出席が得られなかったので、オブザーバーとして私と、デンハーグの日本大使館職員が出席した。

国際会議らしく、オープニングセレモニーに本年度ハープでオレンジ候マーガレット女王から栄誉を称えられたスリナム系の若いオランダ女性の演奏と、大道芸人による獅子舞ならぬ「芋虫舞」から害虫になっていく様を演じたパフォーマンスで幕が開けた。国際会議は、おおよそ夫婦同伴で共に仲良くなることが目的の一つであるし、仕事に関連させつつもそれ以外の楽しみを提供することも主催者としての心がけである。

パフォーマンスが始まる前に、事前に配布されたステイトメントを読んでいたら、頭にガツンとくる論文が最初にあった。「農業製品はそもそも農業が始まって以来輸出入の産品である。」とし、その裏付けとして歴史的な背景が書かれていた。水・塩・砂糖・生糸・胡椒・ゴム等の有用植物などである。会議に臨む前は、日本人として当然のことのように日本農業の保護の立場をとっていたし、輸出入というと文化や文明に比類するものとして現在では工業製品やサービス業(含む金融)の程度にしか考えていなかった。

昼の休憩の時、中国からお見えの方に「“農産物は当然輸出入されてしかるべき”という前提をお持ちでこの会議に臨まれましたか?」と聞くと、彼も同様にヨーロッパ、アフリカ、そして南北アメリカからの出席者のように、それを当然のこととは考えていなかったと、正直に語った。まずここからズレが生じていた。まっこと日本は極東の島国で、農業だけは特別だとする意識、私の中ではほとんど無意識化していると自分を省みた。

さて、この会議で共々話合い、3日目の最終日、おおよそ次のような大会決議が採択された。
1.その国の消費者にとって、中長期的にも利益を与えることができるものであること。
2.地球環境、及びその輸入国の国土に対する環境保全が為されていること。
3.これらを前提に、グローバル経済の中で既に不要な規制は行わないようにすること。
4.害虫などはますます抵抗力をつけ、輸入国の環境に与える影響は大きくなることも考えられるので、地域別、気候帯別に国をグルーピングし、そこの中での交易については事前調査を基にできるだけ緩やかなものであること。
5.バイオテクノロジーに関することであったが、アメリカとEUの間で接点が見出せず、私個人はEUの見解に近いこともあり、ペンディング事項となった。

この会議で、国の発展段階がそれぞれ異なっており、特に旧東ヨーロッパ、アフリカ、中南米、南アジアなど、政治の課題が「食えるようにする」ことである国々が多いことを身をもって痛感した。しかし、これが花となると、日本の立場では輸入を断る訳にはいかない。先に採択したそれぞれの条件を満たしながらも、日本の花き生産者は国際競争の中で生きていかなければならないことを痛感した。


1999/11/22 磯村信夫