花はコンテンツビジネス


 以前にもこのコラムでちょっと触れたが、私は花産業をコンテンツビジネスと捉えている。そして現在小売店の販売が鈍っているのも、衝動買いさせる商品や中身(コンテンツ)を説明するアカウンタビリティーが業界になかったことに起因すると考えているのだ。

コンテンツビジネスという言い回しは、ITが発達し、ネットワーク社会が出来あがるとともに言われるようになった言葉で、出版産業、音楽産業、映像ビジネスなどがコンテンツ産業の最たるものとしてあげられる。例えばレコード屋に行く人は、すでに数多くCDを持っている人である。本を買いに行く人は、ほとんどその部屋にとあるカテゴリーの雑誌や本が山積みされている。映画館に足を運ぶ人や、ビデオを借りる人は、映画好きな人である。

一般にヒトが生活をする時、脳の10%程しか使っていないから、後の90%は予備に備えている。ヒトの根本的欲求である食欲は、一日に丼10杯も食べられないが、知的興味などは一日に100杯食べても大丈夫である。これが情報というもので、同じ情報を食べるのなら中身の濃いものを食べるとヒトは感動する。

だからコンテンツビジネス界の供給者は、同じ所に留まっていると「な〜んだ、そんなもの。」とすぐに飽きられてしまうから、絶えず進化しなければならない。店頭に並べられている花は、本当に去年より今年進化しただろうか?確かに価格は安くなったが、これはマーケット確保や拡大のための一つの手段でしかない。ヒトがその店や産業から離れていくのは、①品質(コンテンツ)、②値段、③情からであるが、①の消費者に驚きを与えるコンテンツを、花き産業は供給しているとは言えないのではないか。

青果物で11月健闘したのは、トマトであった。トマト供給業者間で激しい競争が起こり、新品種が続々と登場してきた。割を食ったのはキュウリなどである。花でも、我が国が誇るすばらしい種苗会社サカタ殿、タキイ殿は、同じ品種名で毎年コンテンツを改良し、より生産者と消費者の便益を図っている。新品種を投入すること、これもコンテンツビジネスには欠かせないが、一年一年必ず進化させていくこの自働な努力こそ、花き産業がお客様を失わないために欠かせない要件であるということを、今年イヤと言うほど思い知らされた。

花き業界あげて、それぞれの役割分野で各ブレーヤーが自社の取扱品目のコンテンツ、サービスレベルを上げていくことが、競争を促し、それが消費者に訴求力と映り、花き産業が発展していくのである。




1999/12/06 磯村信夫