再度コンテンツビジネス


 すっかりネットワーク社会になって、コンテンツの良し悪しが問題にされるようになってきた。その影には、一生に一度しかないかけがえのない時間の価値が、人々の暮らしにとって欠かせないものであることに気付いたためである。

「時間をどのように有意義に使うか?」を考えると、結局コンテンツの優れているものを選択し、使ったり、サービスを受けたりせざるを得ない。時間価値から今年のバレンタインデーは、インターネット花屋さんが去年の何十倍も利用されたようである。しかし数多いインターネット花屋さんの中で、花と、納期などのサービスを加味すると、特定の花店だけが突出して伸びたということである。Proflowersと、1-800-flowersがそれである。

「花はコンテンツビジネス」とのキーワードで、ヨーロッパと北アメリカの花き消費は低迷から脱し、成長を重ねている。89年のベルリンの壁崩壊後、ヨーロッパの花きマーケットにはアフリカ勢、北アメリカのマーケットには中南米勢が大挙して押し寄せ、供給過剰となって単価が下落していった。規制緩和で経済も混乱期であったため、新規事業開拓は不可能な状態で閉塞感が漂っていた。それを打開したのが業界挙げて「花はコンテンツビジネス」という認識の基、マニアや準マニアのヘビーユーザーの人達に焦点を絞って、小売から流通、生産、種苗まで一丸となってマーケティングしたのである。

本屋に行く人は、既に家に本がある人。CDを買いに行く人は、家にCDがたくさんある人。花を欲しがる人は、花を贈ったり、家に花とみどりがたくさんある人。これが「花はコンテンツビジネス」と言われる所以だが、このヘビーユーザー向けに新しいものや新しいサービスを供給していこうと努力し始めたのが、今の欧米花き業界の成長に繋がっている。

消費者が花を買う時、様々な心配や不安を持っている。花の小売店に対して、花の品質に対して、花の納期に対してなどなどである。この不安を取り除き、消費者の立場に立って仕事を組み立てる。ヘビーユーザーは花の良さを既に知っているから、値段が安いことは条件の一つだが、あくまでも価値と価格のバランスの中で、割安かどうかを推し量る。このようにして生産地が選ばれ、品種が選ばれ、業者が選ばれていったのである。生産地や流通会社の規模の大きさについて、コンテンツビジネスでは問題にしない。法人の大小など問題にしないのだ。大切なことは、消費者が付き合うに足るだけの品質とサービスを兼ね備えた内容を、その流通業者は、その産地や種苗会社は供給してくれるのか?という一点なのである。

このような規模の大小を問題にしないコンテンツビジネスに花き産業が位置するということで、ユニリバーはケニアの花の大プランテーションを売り渡した。機械に置換えられない限り花き産業でも規模の経済にメリットが出しにくいのだ。そのことにユニリバーは思い至り、人件費が安くても人手が必要な分野から撤退したのだ。このことは、装置産業であるキノコ生産と、花き生産を比較してみれば良く解る。東京証券取引所と大田花き所有の花き取引所を比較してみれば良く解る。それは生きていてガサばる製品を扱っているからだ。(種苗はその点、スケールメリットを出しやすい唯一の業種である。)

花は見るものゆえ、マスプロダクション、マス流通には一定の上限があるのである。云わんや現在の日本の経済下では、花好きの人達、日常的に花との生活をしている人達に、花を買ってもらう以外に方策はないのだから、何か新しい品種やサービスをしなければ、花き業界の所得は覚束ない。消費者価値を業界の唯一の価値として、花き業界のビジネスモデルを早急に組替えなければならない。


2000/02/14 磯村信夫