花き業界の仕事の一つ


 来年の1月の省庁再編で、新しい予算採りをしなければならないためであろうか、このところ土日でも霞ヶ関で電気が点いている部屋がある。文藝春秋の7月号に、新農業基本法について座談会形式で解りやすく説明されているが、消費者の立場に立った日本農業について、法律の枠組に取り込まれていることを知った。どちらかというと、生産者、行政だけと思われていた農基法に、新たな1ページが加わったことを知って、勉強不足だったこともあるが、たいへん嬉しく、熱いものを感じた。

生産者は無論のこと、消費者のために日本農業をいかにして活性化させるか、また農業の環境保全などの効能をいかに加味するか。昨年の11月にオランダのワイガニンゲンで開催された、WTOシアトル会議前の花と野菜の事前調整会議に出席した折、このことを深く考える機会を持った。

日本は北海道から沖縄列島まで入れると、その長さはサンフランシスコからメキシコまでとなる。しかも海洋と大陸に挟まれ、2000m級の山が真中に背骨のように連なっている。船をやっている人ならわかるのだが、日本の周りは気象が荒荒しく、日本から出ていくのも入ってくるのも、なかなか大変だ。

このような中で農業を営むとなると、生産性という面からだけでは努力しても限界がある。最も植物工場で光源となっているランプを、従来の1/5程の価格にまでイノベーションによって下げることができたので、かなり世界レベルまで近づいてきているが、それも減農薬などの安心の付加価値を乗せないと、商売ベースに乗り難い。だから日本では直接農業者に所得補填をするというEU諸国の考え方を採っていくことは、しごく自然な方向である。がしかし、出す方も受ける方も正当な理由がないと、「農業だから」という、かっての保護政策の観点からの助成と、国民に誤解されかねない。カロリーベースで現在40%の自給率を、2010年に45%に引き上げようというのだから、これはすごく高い努力目標である。技術革新を適切に行うだけでなく、メーカーまで含めた加工食品の人達と共に、日本農業を考える時期となってきている。

米からの転作として有望視されている花、軟弱野菜、果菜類の価格が軒並み下落し、新農基法の目標へ向けての出端をくじかれている。青果、花き業界ともそれぞれ理由はあろうが、再度国民生活を見据えた日本農業のあり方、美しい国「日本」の国土のあり方などを、新農基法に沿って創り上げていく努力をしていくことが、業界の責任の一つであることを、本年は自覚する年であると言えよう。


2000/06/12 磯村信夫