総合の誤謬


 現在の不況は、野村総研のリチャード・クー氏が言うとおり、バランスシート調整不況である。所得、支出、投資、この3つが循環して金が巡っていけば景気は普通になる。しかし、今日本経済の構造改革と、バブルの精算を後送りしたために起きたバランスシート不況と一緒にやっているのだから、打つ手があらぬ方向に行くこともある。

与党は現在の不況をバランスシート不況であると見て、民間が資金を出さないので国が仕事を作り、資金をマーケットに供出している。野党でもバランスシート不況を認識しているところもあるが、総じて国の借金のことばかり言い始めているのが気にかかる。

今はともかく、多くの企業は負のリストラによって利益を出しているだけで、正のリストラ、即ち将来儲かりそうなところへの投資をIT関連以外にも積極的にしているとは言えないのである。花き業界もバランスシート不況を受けて、業務需要が冷え込んでいる。よって個人からお金をいただくべく、鉢物や苗物の売り場面積を拡張せざるを得ない。面積当たり、また従業員当たりの効率は切花がよろしいのだが、花持ちという点からすると、消費者にとって園芸物の方が割安なので、園芸のウェイトが必然高くなってきている。また、結婚式、葬式においても、それぞれレストランや式場などでやることが多くなり、今までの納品業者がそのまま使われるわけではなく、新たな納品業者が選定されたり、式場自ら花を活けたりすることが多くなっている。

アウトソージングと言われる一方、利益の面から花き業界でも垂直統合が進んでいる。これは利益重視の新たなリストラだ。常時お取引をいただいている約850軒の買参者の中で、前年を上回る売上や利益を出しているところが20%強ほどある。それらの繁盛店の共通点は、経営である。顧客志向、鮮度が良い...などである。しかし前年より売上や収益を落としているので、体制はかってのように成功者の真似をしようと努力をするよりも、むしろ内向きに収支を合わせようと縮小均衡気味となっている。打って出ない限り、収益維持が難しい昨今、ほとんどの花店が自らのバランスシートを調整しようとするばかりになっており、花き業界トータルからすると、総合の誤謬で今一つ景気が盛上がらない。しかし5月の母の日、昨日の父の日と、2つの物日でいずれも前年を上回っているところが多く、いよいよ花店は積極的に攻めに転じてくるものと思われる。今年の下半期を少し期待したい。それもこれも今年の衆議院選挙の結果がカギを握るであろう。

追伸:東京商工会議所の企業経営委員会で、「新世紀の躍進企業像を探る」のレポートがまとまりましたのでお知らせします。経営理念と社会貢献の上にロマンと情熱溢れるチャレンジャーのトップの基に、6つの戦略を取るべきだとしている。
戦略1 得意分野への集中特化
2 オリジナリティー、ハイクオリティーによる差別化
3 お客様第一
4 企業はヒト。経営者と従業員は一心同体
5 俊敏に動くスリムな組織
6 経験に根差した「安定のための法則」
以上が必要であるとしている。


2000/06/19 磯村信夫