デフレ


3年前のことだが、オランダのセベコ(日本の全農のような役割の会社)と私の友人のケーシー・サーヒンが共同でスロバキアでメリクロン苗の生産を開始した。先日オランダの友人のフレッド・ケトラーとメールのやりとりをしていたら、旧共産圏の国々で花の生産が盛んになってきているという。以前は人件費が安く、良く教育された人達が多い旧共産圏にメリクロン苗などの生産を移していたが、ヨーロッパにおけるほかの花の生産は今では「裏庭現象」が中東からアフリカへ、アフリカから旧共産圏へと広がってきた。まだ出荷は本格化していないが、確実に製品生産量が増え、価格は今よりも下がっていくとフレッドは言う。今年のヨーロッパのクリスマス・新年の花の価格は、スペインやアイルランドなどの成長期にある国々では期待された通りの市況展開であったが、充分経済的に豊かな成熟国家の市況はイギリスを除き1割から2割下がった。不況のせいにする人がオランダでも多いということだが、フレッドはデフレに原因があるとみている。

そう言われたことが頭に残っており、新聞を見たり本屋に入ると時代は既に世界中デフレ経済になっているとの記事やそのことを訴える内容の本が多いことに気付く。今日の日経朝刊にマレーシアの国民車は中国で部品を作らせると言っているし、ホンダは中国からコピー商品がベトナムに大量に出回っていることに業を煮やし、自社の中国工場から従来の二分の一の価格でベトナムに出荷しコピーを退治しようという記事も載っている。加ト吉の好業績を見てもアジアの先進国の裏庭現象は現共産圏にあるらしく、日本も大変だがタイ・マレーシアなどのように人件費の安さが競争力と結び付いている国々は、その国の経済の発展に重大な影響を及ぼしている。

ベルリンの壁崩壊後10余年、実質的に世界は一つになりデフレの世界になった。今のベストセラーによると世界同時不況で、「世界中デフレ」となり「売り手に地獄、買い手に天国」の様相を花も呈している。日本は前世紀の最後の10年、国際化やデフレ対策を役所・事業会社・個人が怠ってきたので、今その抜本的な対応に迫られている。特に供給者側は淘汰の波に飲まれている。あまりにも苦しいのでインフレを要望する声が強いのは花き業界ばかりではない。しかし、デフレの世の中になってしまったことを携帯電話普及の事例に学び、模索するしかないのではないかというのが小生の見方である。売上ではなく利益が一つの指標になるし、個人生活では仕事以外の時間の使い方と充実感にその指標が移る。

効率や生産性を優先しなければ、組織は生きていけない。しかし、人により差が付く。会社により差が付く。このように「みんなで」方式でなくなると、疎外感が漂う。従って心の時代・趣味を持つ大切さの時代多様化の時代になる。だからこそ今後花は発展が期待される農産物であると確信している。中国の山東省や雲南省など優遇税制や適地からの切花の輸入が本格化するであろう2005年に備え、競争の中で国内生産者は新規性と中身の充実をモットーに生産力を増強しコスト競争力を高め、最終販売者である小売店が当てにしやすいよう計画生産と出荷予告をお願いする次第である。中国は殆どアメリカと同じ株式会社方式で農業生産や販売をするであろうから、スピーディな対応が競争力維持のためには欠かせない。是非とも意思決定スピードを高めていただくようお願いしたい。




2002/01/21 磯村信夫