鮮度保持


ここのところ産地の方と話をしていると、鮮度保持についての質問をよく受ける。大変好ましいことである。国の花き対策室もバケツ輸送をひとつの手段として鮮度保持対策に向け、条件整備などを急いでいるが、花の生産消費大国としてまさに時局を捉えた施策である。大田市場では開場時地下に定温庫を設置した。セーターを脱ぐ気候になった時期から温度管理を始め、セーターを着るようになった時期に、機械を止めて鉢物置き場に使っている。定温庫を稼動させている時、保冷車で輸送された切花を定温庫に保管することを原則としているが、定温輸送されている花は全体の10%にも満たない。それゆえ、常温で運ばれたエチレンに弱い花は買参人に買われるまで定温庫で保管している。10年ほど前、まだ的確な運用が分からなかったとき、いくつかトラブルがあった。例えばトルコキキョウなど、定温庫に入れたあとに常温に晒すと、その温度差が7℃以上、湿度が70%以上ある場合花に水滴が付いてしまい、ボトが出やすくなる。バラも同様でティネケなどは同じようにボトが出てしまう。8月までのリンドウは問題なかったが、9月の彼岸期のリンドウは花腐れキンカク病が出てしまうなど多くのトラブルがあり、今は1階の荷捌所や物流棟を除湿したり空調したりしてできるだけ30℃以上にならないような設備にしている。また定温庫は外気温との差を5℃から10℃に設定し、より現実的な鮮度保持の運用としている。小売店の殆どがライトバンで仕入れに来ており、大口の買参人でも温度管理ができるトラックを使っているのは1割に満たない。だから、花にストレスを与えないように、常温に近いところで品温をできるだけ下げる運用をしている。

今、当社でバケツ輸送をお願いしているのはいずれも予約相対品である。買い手の要望により主に2つの異なる運用をしている。例えばバラの場合、もう一度店でしっかり水揚げをするので輸送中は下葉が水に浸からず、水はバクテリアが繁殖しない処理をしていればそれでよしとするもの。これは産地の出荷の手間が省けるというメリットがある。もう一つはその花店が水揚げをせずにそのまま販売したいとするもの。荷主さんに小売店で売れる状態にしてもらう。今の陽気だと葉を半分取る、刺も取ってもらう、輸送中の水は滅菌剤プラス栄養剤を入れてもらう等の必要がある。花屋さんの手間がかからないから手間賃分を価格に上乗せする。この2番目の要望が徐々に多くなってきている。

産地にこのことをお話すると、台車の積載効率がやトラックの積載効率が4割ほど落ちるので、運賃が今まで通りであれば手間代だけ高く買ってくれたらペイするが、運賃を値上げされたり、積めないからもう一台要車するとしたらその値段では合わないと言われる。また自分の作業場や農協の集出荷所、市場でのマテハン作業などは効率が5割から7割落ちるのでその分の経費も将来は見て欲しいと言われる。

このことをオランダの友人のケトラーに言ったら、そんなの当たり前と言われた。「オランダは産地の中に市場があり、日本は消費地に市場がある。日本は山ばかりだから都市部の土地は本当に高い。だから東京では市場もビルの中でやっているところが多いのだろう。バケツにしたら市場では全部台車輸送で導線を作り、少なくても今の3倍から5倍場所を広げる必要がある。それとオランダでもトラックで輸送できないところは、私たち仲卸が箱詰めするから、その手間を入れると2割から2割5分余分に経費がかかる。オランダの品物は価格競争力があるから、2割5分乗せても外国の取引先は買ってくれる。しかし、我々が買う時、いつもその分の経費を頭に入れて買おうとするから、結果として競争力のある品物を作る生産者しか利益を得られない。だから生産者は徹底的に価格競争力のある品種を絞り込んで同じ物をたくさん作ることになる。生産者は送り状に1ロット1行ずつ書くことになっている。市場は1行毎にセリや情報入力作業などの手間が発生するから余分に手数料を取る。そのため品種を絞り込みセリでは台車1台を1ロットとして競る。日本は小売店が市場で直接買う比率が高いので、どうしても多品種少量のものを取り引きする。こうなるとコストがかかるから日本のデフレの状態では結局生産者に益々しわ寄せがいくことになる。日本ではスカシユリやアルストロメリアなど当然前処理していなければならない花もまだ前処理が徹底しておらず、必要性の高いところから徹底して鮮度保持に取り組む必要がある。」

やらないよりやった方がよい。現時点で花き業界のアンカーである小売店の皆さんに鮮度保持の関心を持ってもらい、技術を身に付けてもらうことが最も大切であると思う。




2002/03/04 磯村信夫