今年の松・千両市


8日に松市、昨日15日に千両市が終わりましたので、今年の気配を報告いたします。

まず、松市は不景気を反映してか入荷量が前年より一割ほど少なかった。しかし、単価面では前年並に推移した。種類別に需要の動きからみると、若松・門松などスジ物は花束加工業者や専門店でもカテゴリーキラーが相場を引き上げた。根引き松は専門店が積極的に買いを入れていたが、需要は前年よりも弱くなっているようである。それが端的に現れたのが五葉松で、宮島・根岸とも前年に続いて低調に推移した。対照的に引き合いが強かったのは女松や蛇の目松などの優しいイメージの松である。スタイリッシュなものが良く売れる時勢を象徴していると言えるだろう。

昨日の千両市では、苔松・苔梅などの苔物もその時の景気を端的に反映する。5〜6年前までは1本10万円以上で取引されていたような苔松の大物も、今年は7〜8万円が頭であった。ホテルや料亭からの需要がなく大物が飾られる場がなくなっているのだろう。代わりにナタ切りのハリ苔は安いなりに底固い需要があった。「和」のブームで苔梅はもう少し活発に動くと思っていたが、全体的に小物には引き合いがあっても大物は売れないという状況であった。荷主さんに伺うと、松の生産を止める人もいれば、その畑を買って拡張する荷主さんもいらっしゃる。寡占化が進むということであろうか。

千両市でもっとも懸念されたことは10月初めの台風による塩害である。5年前にも塩害が発生したが、今年の被害はそれ以上だった。本場、茨城県波崎の産地では厳選して等階級を細かく分けて出荷してくださった。5年前と最も違うと思われたのは買参人の購入するときの意識である。BSE問題で消費者が牛肉を食べるのを控えたように、茨城県波崎や千葉県一宮が産地というだけで「買い」を控えようとする気持ちがセリ場にあったのかもしれない。また、品物をごまかして消費者に販売すると、後で手痛いしっぺ返しを受けるという意識から、値段ではなくとにかくまっとうなものを、という気持ちでセリに臨まれたようである。塩害を免れた品質の良いものは前年の2〜3割高、塩害を受けてしまったものは葉にほんの少し黒いシミが残っているだけで半値以下になってしまった。

塩害を受けたものについては、買参人の皆さまに説明し理解していただくようにお願いしていた。多少被害のあるものも、お客様に説明した上でお使いいただくようにお願いしていた。小生もテレビを通じて消費者に訴えかけたが、生産者の皆さまにはつらい結果となってしまった。消費者に対する説明責任と、農産物は工業製品と違って、同じ品質を維持することが非常に難しいということを納得していただく努力の必要性を痛感した一日だった。




2002/12/16 磯村信夫