新しい規範


皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

昨日、何気なしにラジオをつけたら、NHK第2で川瀬敏郎氏が日本の文化について講演をしていらっしゃいました。花人として日本文化を体現なさるおひとりとして尊敬している私は、声を聞いてすぐ彼とわかり、思わず引き込まれて最後まで聞きました。日本人の心のあり方は分母を自然にし、分子を人として生きていく、或いは表しているとおっしゃっていました。川瀬氏自身も分母に自然を、分子に日本人の越し方や日本の美意識を花で具現化されていらっしゃいます。

私のライフワークのひとつとして、小林秀雄があり、まとまった時間があると読み返しています。昨夏に再読した彼の著書である『本居宣長』を、この正月にも気に入った個所だけぱらぱらと読みましたが、昨晩はそのラジオを聞いてまた思い出し、反芻して休みました。
私自身は花の卸売会社の経営者として仕事人生を過ごしておりますので、日本人の持っている究極の美意識については、川瀬氏と全く同感であります。同時に科学技術を取り込み、大量規格生産された花が日本の美の規範に則していないかというと、決してそのようには思えないのであります。日本に限定することなく、世界のそれぞれの国で過ごす人々の美意識や倫理規範には、科学技術によってもたらされた基準が否応なく影響を及ぼしているとの考えるのです。
人は長い間、自然に自分を合わせ、そして社会の中で健やかに生きていけることをよしとしました。ですから、それに適合する行動規範や「美」を生み出してきました。しかし、科学技術は、自然を自分のもとに引き寄せてきたのです。これは偉大な人類の賜物であります。我々は飽食暖衣、便利になりすぎてしまったことをありがたさよりも、むしろ恐ろしいことだと感じてしまうことが多いものですが、人々はスポーツクラブのマシンで運動能力の衰えを回復させながらも、自然との対話を重視するようになりました。これを具体的に新たな規範にしたものが京都議定書などであります。
科学技術の粋を集めて生産されたこの花を消費者にお届けすることは、贈答用花や整理整頓の行き届いた生活空間の中での飾りつけなどを通じ、現代社会の中で科学技術と共に生きていく規範を作っていくことにつながると私は思っています。

文明開化後の日本を訪れた西欧人が「ガーデンアイランド」としてこの国を称えましたが「昔は良かった」と現代を否定したくはありません。現代社会において健全な日常生活を送っていくためには、科学技術を取り込んだ工業製品や農産物を賞味していくための新しい倫理基準や行動規範が上で欠かせないと考えています。花のある暮らしは現代人にとって、生活する態度の一つとして規範となりうるものと私は信じています。




2003/01/06 磯村信夫