生産性アップ


このごろ新聞を見ていると、株式投資の仕方も“値上がりよりも利回り”とデフレ下の定石を教える記事となってきた。デフレはいよいよ深刻になってきている。
昨日旧友とお茶を飲みながら、小一時間情報交換をした。その友人は、現在元気な町工場の3代目として活躍している。彼から聞いて愕然としたのは、この2、3年、国際技能オリンピックで日本は韓国や台湾に大差で負けていることである。獲得するメダル数も年々少なくなってきたと聞いた。フライスや旋盤、研磨、特殊鋳型など、大田区の町工場が継承してきた技術は、工場の数が少なくなってもまだ健全だと思っていたのに、職人の技術のレベルが確実に落ちているのだろうか。
彼は悔しそうに、「今のところ、実態を反映しているわけではないが、国際技能オリンピックに出ようという意欲がないから、メダル獲得数が少なくなるんだ」と言っていた。しかし、僕は彼に、「もしそうだとしても、将来は韓国の職人の方が優秀だと世界が認めるようになるということだね」と言うと、「残念だけれどもそうだ」と言った。韓国は李王朝時代が長かったから、儒教の影響で現場仕事を重要視しているとは言えなかった。それが今でも残る「両班(ヤンバン)思想」である。しかし大手企業の中でも、サムスンはその考えを頭首自ら打ち消したので、株式の時価総額が高い。そして、同じ儒教の影響から、技能を重要視してこなかった中国も韓国に刺激され、技能オリンピックで徐々に順位を上げてきているらしい。豊かさは、器用であることを、また人知れず技を芸術の領域まで高める意欲さえも阻害するのだろうか。

さて、2月15・16日にWTOの非公式閣僚会議が東京で開催される。先週大島農林水産大臣がワシントンでゼーリック米国通商代表とWTOの農業問題につき協議した。新聞が報じるところによると、ゼーリック氏は関税率を大幅に引き下げることを要求しているという。
もう30年以上も前だが、九州から北海道まで日本列島を車で縦断したことがある。そのとき、南から北まで田んぼばかりが目に付いた。今でも高速道路で東京から北上すると、田んぼが多い。それでも減反していると考えると何か胸を打つものがある。しかしながらもし、EUの代表でさえまだ日本の農業施策に対して「競争を排除しようとしている」と指摘するような状況であれば、米国ケアンズグループなどに対抗していくためにEUと共同歩調をとる作戦は難しくなり、日本が孤立してしまう可能性がある。また中国や韓国がとってきた農業施策と、日本のものとはあまりにもかけ離れ、国内事情を鑑みると両国と同調することは難しいはずだ。ところが、韓国とは2国間自由貿易協定を結ぼうとしている。それならまずは、EUと同調していくことが現実的ではないだろうか。

先日の新年会でお会いした常陸小川農協の沼田組合長が「今までは、不況だと農業が一定の失業者たちを吸収できましたが、現在はそういう状況ではありません」とおっしゃっていた。そういえば今では商店も失業者たちを吸収できない。交わした会話の結論として、産業の国内需要が縮小し、物や人が余っていることと、国内向け産業の労働生産性が世界の先進国と比較して低いことから、結局のところ、不良債権はなくならない。これは銀行でも農協でも同じだ。だから国内向けの産業も労働生産性を国際レベルまで上げていく必要がある。当然、今以上に具合が悪くなるところも出てくるであろうから、そのためのセーフティネットは大切な役割を果たしてくれるが、ここにきて否応なしにグローバリゼーションの対応を迫られるようになってきている。輸出をしない産業、国内向けの産業においても、生産性を更に高めていく必要がある。そして、実行した人や法人だけが、生き残れるのではというものであった。恐ろしい話だが、日本の職人の技術やWTOでの農業問題などを考えると、結局因果応報と見るのは自虐的な見方であろうか。




2003/01/13 磯村信夫