「サプライサイドだけで農業問題を捉えてはならない」という民意


大森近辺には町工場ばかりでなく、ニコン殿やパイオニア殿、リコー殿など大企業に育った会社も多い。私は会社を経営するようになってから、その中のひとつであるリコー殿をベンチマーキングしてきた。1983年リコーの社長になった浜田氏(現会長)は既に日本が成熟社会になった年、いわゆる「業革」を社内で推し進めた。足りない物などない。そのような成熟社会でどのようにすれば買っていただけるか。現場主義に徹した「お役立ち」の仕事を発見しなければならなかった。今で言うソリューションビジネスである。そしてもうひとつ、自分で考え行動する社員の育成を本格化させた。生活者が気分で物を買うことから分かるとおり、企業でもスピードの時代となったからだった。臨済の「随處作主立處皆真」の頭を取って「随處作主」を徹底させた。今、日本の不況は人材不況とも言われている。それは幸せボケで人に頼りすぎ、自ら改革が出来る人が少ないとされるからだ。最近では一円株式会社でそうでもないことが証明されつつあるが、今後日本人は自分を構造改革し、良くなっていくものと思われる。少なくともそのように時代のベクトルが向いてきた。

さて、リコーの会長浜田氏が、本日の日経新聞で子供たちの農業体験をさせるNPO「農村自然塾」の塾長の立場で農業問題を語っていた。人として生きていく上で、自然の中でよく遊び、恐さや畏敬を持つことや農業体験を通じ共生感やありがたさや責任を知ることは今後の日本人にとって必要不可欠なものであると言っていた。

今、ラジオやインターネットで農業の面白さを訴え、それが話題になっている。そのときに必ず前提条件のようなものとしていわれているのが「プロでも難しいから素人が農業で生活できるわけがない」ということだ。確かにそうだが、それでも最近では日本農業に対する一般社会の呼びかけがかなり浸透しつつあり、その分理解を得られるようになりつつある。田舎から出てきた人たちが都会に住み着きそろそろ三世代目になっている。私は四世代目だが、農業にかかわる仕事をしているので、農業従事者の大変さは多少なりとも分かるが、知らない人の割合が多い。希望退職で地方に移住したり、外国に移住したりして始めて農業や農村部に関わりを持ち理解をし始めている。
昨日農村部に移住した友人たちが久し振りにうちに集まった。彼らとは一同にカネというものさしで人やモノを推し測ってきたことの偏りに気付いたという。そういえばみんな良い顔になったなと思った。




2003/11/24 磯村信夫