世の中変わった


今年は暖冬のせいか、スキー場に雪が少なく、太平洋岸で雪や雨が多い。昭和59年のような豪雪にはならないだろうが、3月までは思わぬ雪を覚悟しておいた方がよい。そうなると花も入荷量は多くないのに相場が出ない、いわゆるデフレが進行するとも考えておいたほうがよい。

マクロ的には消費財のデフレが止まっていない。しかし、消費者は質の時代に入っているので、消費者が欲しいものを提供している花屋さんは質を一段階上げてデフレを防いでいる。特に街の従来型の小売店のうち、売上を落としていないところでは品揃えや接客のときに「もうおばあさんはいない」を前提にしている。おばあさんが全ての面で若々しさを追求しているからだ。
昨年の春頃から、おしゃれをしても手や首など年齢が出てしまう場所に重点的にエステを施したり、上手に隠したりする化粧品や洋服が売れている。今流行のマイクロダイエットも40歳代後半から50歳代に向けた販売が最も伸びているという。このような状況なので仏様の花や鉢物・苗物なども、主なお客様が50歳代や60歳代だとしても美しくありたい、若々しくありたいという人に向けて新しさを出す品揃えをしている。これが伝統的な花小売店の売上をキープしている所以だ。
しかし、卸売市場協会全体を見ると、伝統的な一輪菊や小菊が売れないと、売上を伸ばすことが出来ないことがわかる。この理由の一つが富の分配や好み・嗜好においても地域間格差が目立つようになってきたこと(地方の消費不振は一企業の努力を超えている。行政のてこ入れが欠かせないと個人的には思う)である。2つ目は仕事花需要のシェアが高まっていること。そしてもう一つ考えられるのは、店頭売りの分野では店主であるお父さんが仕入れをしているため、消費者の欲しい物を品揃えしているとは限らないという点である。家族を見ると娘と息子、そしてお母さんは時代についていっているが、お父さんはほとんど浮世離れしていて、今どんなファッションがはやっているのか、癒し系商品ならどんな音楽や温泉地などの人気があるのかがわからないのではないか。自分はほとんど着た切すずめで、花だけ時代に合わせて、或いは時代の先端を行かせようとしても無理である。お父さんが仕入れから外れればもう少し店は時代を捉えたものとなるはずである。
しかし、そうなったら困るのは消費者の欲しいものを品揃えできない卸売会社だ。その時期の死に筋のものであっても、相場が下がればついつい買ってしまうのがお父さんで、逆に売れ筋だと分かっていても相場が高ければ、それを買わずに代用品を買ってしまうのもお父さんだからだ。
消費者は欲しいものしかいらない。もう代用品はいらないのだ。それなのにお父さんが仕入れをしてくれているから日本中の花市場は売れ筋でないものを扱っていても売上が作れる。徐々にデフレで単価が下がってきて、経営はなかなか難しいが、生産者に出荷してもらえばまだこのまま経営を存続させることができるかもしれない。しかし、存続の前提は消費者の声を的確に反映させているとは言えないお父さんが仕入れをしていることと、人口5千人に1軒の割合で存在する花の専門店が今後とも営業を続けているという条件である。

2003年から小売店は廃棄ロス削減に取り組み始めた。その理由は経営に危機感が出てきたからだ。存続が難しいとは言わないが、上手く経営しないと赤字になってしまう。販売計画を立ててから仕入れ計画を立てる。在庫を持たなくなったので、入荷量によってかなり相場が乱高下する。このことはブラックジョークで「花の一番の消費者は小売店だ」とも言っていた、廃棄ロスをあまり考えない小売店の姿はない。このジョークが通用しなくなってしまった。
花の専門小売店がコンビニと同じだけの対象人口になっている。コンビニは3千種もの商品を扱う一方、花屋さんが取り扱うのは花だけだ。大の花好きとて一週間に1回しか花を買わない。しかしコンビニは毎日でも買いに行くものがある。ここを十二分に意識し、地元の消費者のため、小売店に対し売れ筋商品の提供で支援していく、このお役立ちができれば、卸売市場も地域社会において欠かせない存在となり、結果として小売店の信頼と安心が芽生え膨らむ。




2004/01/19 磯村信夫