希望的観測を排除する


新聞各紙には毎日のように景気感が上向いている旨の記事が出ている。景気が失速するときもそうだが、花の動きは遅れて出てくるので、いつ上向くのか楽しみなところである。

今まで男性衣料品の販売指数をひとつの参考にして花の景気感を占っていたが、この頃は男性も外観に気を配るようになって、この指標では花き業界を占えないと感じている。余談だが、今まで1つの会社に定年まで勤め上げることが一般的であったが、昨今、転職は珍しくなくなった。そのとき「できる男」として見てもらうために、身のこなしや外観を磨き、今まで女性がさらされてきた値踏みと同様の現象が男性にも起きている。昨年の伊勢丹の「男の新館」の改装オープンの成功とともに、どこの百貨店も30歳台から60歳台の衣料品や化粧品の販売に力を入れている。

さて、日本の花き業界は本年に入ってから、切花・鉢物とも2003年より平均価格が高く、2002年より低い。この傾向が定着しつつある。そして彼岸が過ぎ、関東地方では桜が咲いているというのに肌寒く、キク類を除き入荷減のためか、かつてないほど価格は堅調であった。水準として1997年ないし98年の水準に戻った10日間であった。

20世紀末と違う点をここで再度確認しておこう。それは団塊ジュニアの4分の3が既に結婚し、婚礼需要があまり望めないこと。収入がこの先下がることを前提にしている家庭が多いこと。葬儀を親族のみ、もしくはもっと簡単に済ませてしまうことも決して珍しくなくなってきていること。また年金の問題が国会で論議されているが、花のヘビーユーザーである60歳台、70歳台の裕福層が昨年の秋頃から消費を手控え始めていること。またこの傾向は今年も続くこと。そして業界では専門店の中でも後継者がいない花店は店をたたむところが多くなってきたこと、支店を出しているところはテナント代や従業員の人件費負担から、支店を閉めて元通り家族経営にしようとする人たちが増えていること。仲卸は卸売市場の規制緩和施策を来年に控え、財務体質を厳しく問われ始めていること。また金融監督庁の指導により、昨年の秋から貸し出しを緩めていた信用金庫や信用組合の不良債権問題が台頭してきており、お金を借りることが難しくなっている仲卸が多いこと。卸は求められる機能分化とともに地元密着型の買参人の仕入代理業を中心的な業務に据えない限り生きていけなくなっており、淘汰の時代を迎えていること。それに来年の規制緩和が拍車をかけ、統合圧力がさらに強まってきていること。産地は花を扱うことのメリット・デメリットを過去の実績から振り返り、中間流通の経済連・農協においてはスケールメリットを生かしにくい花きの取扱をどうするかリモデルを余儀なくされているということ。生産者においては多品種・少量の生産から、また商品のライフサイクルが短くなっていることから収益性が落ちており、その上卸売市場の要望によって、販売ロットが小さくなってコストがかさみ、それに鮮度保持流通でコスト増の懸念があること。概ね以上の点が世紀をまたいで戦後初めての調整局面に入っている花き業界の状況である。

こうして問題点を挙げてみると、成熟社会において皆が良くなるということは難しいことが分かる。扱う花にしても、行う作業サービスにしても何か特別なもの、言うなればプレミアムと感じさせるものを提供しなければならないし、消費者は所得が低くなっていくことを予測し消費活動を行っているので、機能をより前面に出したシンプルで割安な花や作業サービスを提供しなければならない。また財務的には、今までの内々の花き業界の競争から、卸売会社であれば世間一般の市場外流通業者と伍していかなければならないから、財務体質を健全化しなければならない。デフレ圧力は今後も続くから、景気好転とともに金利の上昇リスクも考え、よほどの計算がない限り2007年までは借金をしない経営をしていく必要がある。




2004/04/05 磯村信夫