花き業界の取扱総額損益分岐点となる


先週の水曜日、親友が玉鬘のシテを演じた。僕は業務にかまけて1年に数回しか能を観ていないが、中学から大学までの10年間、能を習っていた杵柄で観賞眼が錆付いていないことが嬉しかった。若い頃には「幽玄」などというのは言葉上の知識だけであったが、彼の玉鬘を見て、精霊の昇華された美しさがこうまで人の心を動かすのか、言葉にするなら「幽玄」しかあるまいと感動した。花伝書にあるように、花は奥行きを持って咲く。

さて、10月に入り、下半期の景気動向が紙面を賑わわせている。3分の2の業界が良しとし、3分の1が悪しとしている。内需関連、とりわけ小売業は「雨」なので、一部の買参人を除いては未だ下降曲線にある。新しい花き業界の小売チャネルはインターネット関係の通販と、苦しみながら花を置き、顧客ニーズを吸い上げようとするスーパーセンターと食品スーパーだから、新規参入者が花の売上を伸ばしたとしても、既存の花店の売上を奪うだけで、パイの拡大に繋がる状況にはない。
従って既存店(専門店、並びにスーパーマーケットなど既に花を扱っている全ての所を指す)の売上は、5から10%落ちていくものと予測されるので、利益確保のため、相場の下落は止まらないと見た方がよいだろう。品目・品種によってもまちまちだが、良い物でも横這いか5%マイナスを考えておくべきであろう。

あらゆる産業にあって、損益分岐点はピーク時の売上の80%くらいだから、卸売市場を例にとれば、ピーク時で6,000億円あまり。そうなると4,800億が損益分岐点となっているから、赤字の卸売会社が増えていくことになる。同様に、生産・仲卸・小売業界も損益分岐点となっているから、花き業界全体としては苦しい状況が続いている。
しかし、景気の良い所というか、元気な小売は苦労しながらもますます元気になっていて、景気が復調したと言える所も増えてきているのも事実だ。調整局面での景気の良さというのはこういうものなのであろう。




2004/10/04 磯村信夫