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2005年12月 9日

Vol 10. 茨城県 涸沼(ひぬま)ランドグループ

今回のウンチク隊は当室タケマサ兄さんと共に、大物揃いの鉢物生産者グループ「涸沼(ひぬま)ランドグループ」へ突撃!
早いものでもう今年もあと1ヶ月切ってしまいましたが、取材時にはポインセチア、シクラメンなど、クリスマス商戦に出撃体制の鉢花たちが圃場にひしめいていました。クリスマスシーズンには必須の鉢花たちですね。

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←この箱が涸沼ランドの目印です

温度の魔術師

さて、こちらは市村花卉園の市村正義さんのハウスです。見事にハウス全体が赤と緑のクリスマス一色!

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↑これは「イチバン」という品種。これぞポインセチアの王道!の形ですね。
「イチバンはあばれるから作りづらいんだよ?。」

今の時期のポインセチアは見事に完成形ですが、初めはどんな形なんですか?
「6?7月に苗が来るんだよ。5cmくらいかな。」
そんなちっちゃいものが半年でこんなに大きくなるんですね。
「5cmくらいーにカットした挿し芽をオアシスに挿して発根させた苗を買ってひとつひとつ植えるんだよ。生産者によっては発根していない挿し芽をそのまま使う人もいる。」

「ポインセチアは全てがしっかりパテント管理されている唯一の植物じゃないかな。」とタケマサ兄さん。


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←こちらは佐藤又ヱ門さんの「ウィンターローズ」。苞がバラの形をしています。

ポインセチアもいろいろな品種がありますね!
毎年鉢花も切花同様、毎年新品種がたくさん出ます。いろいろな苞の色・形があって一昔前に比べてポインセチアもほんとにバリエーション豊かになりましたね。
それでも、パテント管理がしっかりなされていて、ラベルやシールがしっかりついているので、お客さんに「この品種何?」ってなことが少ないのがポインセチアなんです。

ところで同じ品種でも個体差ってありますよね。涸沼ランドの「イチバン」って、他のところより苞(ほう)が大きいような気がするんですが?
「単純に苞(ほう)を大きくするにはハウスの温度を上げればいい。」
へ?そうなんですか!温度で大きさを調整するなんて初めて聞きました。

「大きくするには22℃くらいかな。ただし、温度が高いと苞が傷みやすくなるけどね。」
うーん、キズがついたら商品としては致命傷ですしね。なかなか調整が難しそうですね。
「普通は18℃。これが一番いい。タイミングもあるよ。仕上げの段階で温度を下げる人、暖房を焚く人と微妙に分かれる。これは生産者の好みもあるねー。」
こりゃ?温度の魔術師ですね。


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鉢花は切花と違って出荷時の姿がそのまま商品として最終消費者に届くというある種の恐ろしさ(?)があります。

ということは、生産者にとって仕立てが一番腕の見せどころ!ですね。
「植物は完成の形が明確にイメージしながら育てないと結果もきちんと出てこないね。」
おおお、名言ですね。

しかし?、イメージといっても…難しいですねぇ。好みだけで作っても、お客さんに支持されなければいけないわけですしね。
「仕立てにも、はやりすたりがあるよ。少し前は、赤い苞(ほう)が緑の葉が隠れるくらい大きいのが主流だったな。」と兄さん。
「今は赤と緑のバランスがいいものが売れるみたいだねぇ。」と市村さん。

ちなみに下の写真は佐藤又エ門さんのポインセチア。又エ門さんのは苞を大きめの仕立てになっております。同じ涸沼ランドでもそれぞれの個性とこだわりを大切にして出荷しています。

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↑こちらも立派な佐藤さんのポインセチア。右は又ヱ門さんです。


矮化剤の技

温度管理と並んで、ポインセチアの仕立てで重要なことは、矮化剤(わいかざい・丈を調整するお薬)とピンチ(切り戻し)のタイミングもあります。
「矮化(わいか)剤の使用方法は2種類あるんだよ。」
単純にかけりゃいいってもんじゃないんですね(←大雑把者)。


簡単にまとめますと、

・土壌灌中(かんちゅう)法・・・土の中に注ぐ方法
・葉茎散布法・・・葉っぱにかける方法

の2種類があるそうです。

土壌灌中法は、根っこから薬剤を吸い上げるので、株全体に効果が広がり、形が全体的に丸くなるそうです。
葉茎散布法は、上から水をかける要領で葉っぱにかけるため、薬剤がかからなかった奥にある葉や新しく伸びてきた芽が伸びてきて、株の形がフラットな感じになるそうです。

ちなみに市村さんは灌中法を使っていらっしゃいます。

↓矮化剤を使わなかった例            ↓矮化剤を使った例
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(ホームセンターでも矮化剤を売っていますが、使い方はプロでも難しいので、2年目以降は自然なポインセチアの草姿を楽しむようお勧めします。
一応「グリーンアドバイザー」取得しているよしだより)

矮化剤やピンチは量や時期を間違うと、ポインセチアのように商期が限られてくる商品は致命傷ですね。
「だから矮化剤の時期や量はデータをきちんととって毎年同じように作っている。もちろん、品種によって違ってくるし、毎年の天候にも左右されるからいつもうまくいくとは限らないけどね。」


鉢と鉢の間のとりかたも生産者によって違うそう。
「光が鉢全体に充分に当たっているものは横の葉が垂直に近い形に垂れているよ。」
ナルホド。
スリーブがついていると分からないですが、店頭で見る場合はぜひお確かめ下さい!


ちょっと一息・・・

赤い写真ばっかりで目が疲れた方はこちらでお休め下さい♪
 
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↑「これはレモンスノー。この品種は売れるけど作りづらいんだよ?。根っこが弱くて暑さに弱いし育ちも遅い。」

いや?大変ですね、って箱をよく見たら「豊明」さん行きじゃないですかぁぁ?(泣)


市場に入社してまだまだ駆け出しのワタクシですが、それにしても鉢花って切花とまた違う見立ての難しさがありますよね。
「うちの息子も言うんだけどね、こっちの鉢と自分ちの鉢の値段の違いはなんなんだろう、ってね。」と市村さん。
「みんなどこの生産者のも見た目はよくなっているから一見では違いが分からないだろうね。
鉢花の値段の差は使いやすさの差。スリーブをとってみて、売ってみて、花屋さんでも初めて分かる。お客さんのところに行って保ちの差、これが品質の差、値段の差になる。」

鉢花は切花と違って店頭に置かれる時期も長いですし、もちろんお客さんのところでも長く楽しんでもらう商品です。一瞬の見た目で終わらない、保ちの差が長年の信頼につながるんですね。


地域ごとに一つ一つ

さて、こちらは長谷川さんのハウスです。
こちらもシクラメンの出荷で大忙しのところをお邪魔しました。

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シクラメンは一鉢一鉢丁寧にとり、出荷準備です。OH気の遠くなる作業・・・
「市場によって仕立てが違うのをいれているよ。たとえばかっちりとした形を好む市場、すこし長いのがよく売れる市場にはそういう仕立てのを入れる・・・とかね。」
花って地方、地域によって好みが違いますものね。ひとつひとつ把握して対応していただきありがとうございます!


涸沼ランドグループのはじまり

「はじまりはアジサイから。
鉢花は群馬の優秀な人が主流だったんだよな。自分達は後発組でよく真似をしたんだよ。でも、技術的にも向こうはどんどん先を行くし、こっちは追いつこうとがんばるんだけど、後発だから群馬と同じ形にはならないし、かなわない。」
ナルホド、そんな悩みがあったんですね。

「逆に愛知の渥美は手ごろでいいものを作ってるよね。そことターゲットがかぶってしまっても負けると思ったんだよね。『自分達はどうしたらいい?生き残るにはどの道を選択したらいい?』と模索した。相当飲みながら、ラーメン食べながら夜中過ぎまで語り合ってたね。あの頃は。たくさん語ってマトモに早く帰ったことがないね?。」
おおおぉ、アツいですね!!!

「で、考えたのがどうせつくるなら『目立つもの、豪華なもの』を作ろう、と。
そう思っている時期に『隅田の花火』という品種が出たんだよ。
これは作りづらい品種なんだけども、又エ門さんが今までの「隅田」とは違う仕立てのものを作った。『こんなにきれいなつくりは全然別物だ』、と言われたんだな。目立ったわけだ。
ここで作り方と目指すターゲットがぴったりはまった、それが最初のきっかけ。」

涸沼ランドのルーツはそこから考えに考え抜いた戦略と技術から成り立っているんですね。

「うちらのアジサイで『あそこまでやる必要はないんじゃないの??』という人もいるけど。今まで5F(一鉢に5つの花がつく)だったものが同じ鉢サイズで8?10Fで豪華に作ったからな。同業者では半分あきれてる人もいっぺなぁ。」
で、ポインセチアはというと、メンバーの中で一番長いのは市村さんだそうです。市村さんは3年シクラメン作ってそれからポインセチアの道へ。
「市村さん:ポインセチアは作りにくくてしかも400円くらいしかしない、という認識の中、無心にシクラメンの作り方で作ったらうまく形になった。それが17?18年前の話だね。」


涸沼ランドグループの柱であるアジサイは今はハウスの中です

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ちなみにこんな寒い中でもアジサイは花芽ができているんですよ!
「霜にあたったら一発で終わり。」花芽が固まらないうちだからやられてしまう。」と二重トンネルでしっかり防御です。来年が楽しみ♪


筆者の驕り!?

おっ、と市村さんのハウスで目にとまったこちらのポインセチア、かわいい?!
「これは今年のうちの自信作だよ。」と市村さん。
ホホホ、ウンチク隊の回を重ねるにつけ私の目も肥えてきましたかな?(自信)

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←市村さん今年の自信作「カルーセルピンク」


おまけ

「涸沼ランドグループ」の「涸沼」は実際にある沼の名前です。水戸市から南東約10kmの位置にあります。
「沼」といってもだいぶ広く(面積約9.4平方?)、海水と淡水が混ざったいわゆる「汽水湖」です。汽水湖で有名な島根県の宍道(しんじ)湖はシジミが有名ですが、今の時期の涸沼もなんと寒シジミが有名だとか!!しかも絶品とのウワサですぞ?。(今回は時間がなくて立ち寄れませんでしたが…)

また、釣り場、冬はバードウォッチングの場所としてもお勧めだそうです。新種のトンボ「ヒヌマイトトンボ」もいるロマンあふれる涸沼。

ドライブの目的地にぜひどうぞ!


(文責 よしだゆきえ)

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