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2007年11月27日
vol.47 千葉県 鈴木正之(シード会)
今回は房総半島の南端部に位置し、温暖な気候にはぐくまれて、稲作、酪農、そして花き栽培が盛んな町“丸山町”を訪ねました。
丸山町は昨年、安房郡富浦町、富山町、三芳村、白浜町、千倉町、和田町の6町1村と共に合併して“南房総市”となりました。
町のあちこちには、丸山町固有の農業文化のシンボルとして街づくりの一環で作られた“風車”を見ることができます。
そして訪れたのはダイヤモンドリリーの育種家である鈴木正之さんのハウス。
品種改良を重ねること25年のベテランで、大田花きへは昔からご出荷いただいており、長ーいお付き合いです。
みんな親しみを込めて『正之さん』とお呼びしているので、ココでもそのように書かせていただきます。
?キラキラハウス?
早速、ハウスに入るとキラキラと輝く沢山の花に迎えられて感激しました!
見てください、このツヤ!まるでラメを吹き掛けたみたいです!
そんな輝く花を手にして、「ダイヤモンドリリーと言われるからには、光ってないとダメだと思って作ってるんだよ。」と正之さん。
やはり、ダイヤモンドリリーを育種する上でのポイントは艶なんですね!
さらに、「脳天ハゲはダメね。」
…その意味とは?
フォーメーションが悪く、天井が空いてしまっているもの。
確かに見栄えが良くないです。
だから、育種する上でのポイントはフォーメーション!
ただし、キュッと花が集まってボール状になっていると、全体の見た目はいいのですが、「花弁が重なり合っていると一つ一つの花の良さ見えない。だから花房の長さはある程度はあった方がいいんだよ。」との事。
絶妙なバランスが必要なのです!
その他、選別で排除されるのは、白系で葯(やく=おしべの意味)が黒いもの!
花が白いのに葯が黒だと変に目立ってしまい、見た目が良くないからだそうです。
「自分は趣味で品種改良しているわけではないので、見た目の良さだけでなくて、99%いい子が出るのを選んでるの。」
つまり、切花生産に向く“開花率の良い品種”を作ることを目的とされているわけです。
そんなネリネの原種は“プディカ”ですが、必ずと言っていいほど白地の花にピンク色の筋があり、花弁の先がクリクリとねじれているのが特徴です。
だから、「こういうのは原種に近いということなんだよ。」と教えてくださいました。
さらに、「今見れば、大して変わり映えしない色合いだけど、底白のピンクが好きなんだよ。
コレができた時はうれしかったー。」と当時を振り返っていました。
しかし、ブライダル需要で引き合いの強い白は、「蕾で白でも、咲いてから芯の部分にピンクが入ってしまうと、イメージが違うと言われちゃうんだよね…。」とポツリ。
花が開いてみないと芯部に色が付いているかどうかは分からないので、コレだけの個体を持っていると、出荷の時の選別も難しいようです。
さらに、「いい品種を絞り込んでも、それを増やすのには3年以上かかるんだよ。」と正之さん。
早いスピードで移り変わる需要に合わせた育種をする事の難しさを感じました。
?Nerine collection?
20万球、1万個体ぐらいあるというハウスには、様々な花形のダイヤモンドリリーを見ることができました。
和風な雰囲気を持つ花、花火のような咲き方、星のような花形、スモーキーな色合いなどなど、こんなにも沢山の種類があることに驚かされました!
?正之さんへの質問コーナー?
なんでキラキラしているの?
『表皮細胞のデコボコによって、凹凸の高さが高ければ高いほど光って見えるんだよ!
蝶の羽も一緒!』
ぜひ、近くでじっくりと花弁を観察してみてください。
八重咲きって一般的に流行してますが、ダイヤモンドリリーの八重咲きはあるんですか?
『多弁化しているのはあるよ。普通は6弁だけど10弁あったりするの。
でも綺麗じゃないじゃないから自分は作ろうと思わないね。』
どういう色合いを目指して育種しているのですか?
『トルコの覆輪が流行ったでしょ!初めはそれを目指したの。でも最初はぼかしみたくなっちゃたり、できるまで時間がかかったよ。
今は晩性種で、12月のクリスマス時期に出せるイイ赤が作りたいんだよね。』
クリスマスに艶やかな赤いダイヤモンドリリーがあったらステキですよね!
楽しみにしています!!
正之さんの出荷は単一品種でなく、同じ色合いをミックスしていますが、なぜですか?
『人と同じ事をするのはイヤだから、品種を絞った大量生産はしたくないのよ!
同じ白でも皆それぞれに個性があるから、その顔を活かしてほしいなぁ』
との事でした。
?ダイヤモンドリリーについての豆知識 基礎知識?
南アフリカ原産のヒガンバナ科ネリネ属の球根植物のネリネ。
花びらに光が当たると宝石のように輝くことからダイヤモンドリリーという名前になったようだということは知られていますが、ここでは 正之さんから伺った とっておきの豆知識をご紹介します。
6本あるおしべの内、3本が先に伸びて花粉が熟します!
そして残りの3つは危機分散の為、後から熟すのです。
おしべが異様に伸びている個体があるのは、受粉していないからです!
受粉できないと、開花しながら子孫を残そうと受粉しやすいように伸びていくという事です。
理科の授業でも教えてもらえないウンチク!
人に教えてあげたら、『へぇー、スゴイ!』とうならせる事ができそうです。
?花の美術館での展示会?
10月30日(火)?11月11日(日)まで、千葉市 花の美術館において『ネリネ展』が開催され、正之さんの育種品種 約100種類が展示されました。
光輝く花弁に驚かれてたり、カメラを向けるお客様の姿が多く見られました。
ダイヤモンドリリーの魅力をみんなに知ってもらおうという思いから、このような展示会の開催が実現したそうです。
鈴木正之さんからお花屋さんへのメッセージ
『花屋さんが望んでるものも分かるけど、それを用意するには時間がかかります。
育種のスピードは追いつかないんです。
希望されるものを出したい気持ちはあるけど間に合わないから、白でも少しピンクが混じってるのもミックスしてるんだよね。
バリエーションの豊かさがダイヤモンドリリーの魅力だから、そこをご理解いただきたいです。』
残念ながら今期の出荷は終了となりますが、来期に期待してください!!
鈴木正之さんの格言
育種のポイントは、花の艶、フォーメーション、そしてバランスが鍵!
作りたい性質を持つ個体を選び、種から育てて開花するまでには多くの年数を要しています!
品種を絞った大量生産はしません!
正之さんが生み出す多数の花の個性を活かすべし!もしかしたら一度しか出会えないかもしれません。
日本人の感性を注ぎ込み世界に通用する品種作りを目指しています!
2007年11月 5日
vol.46 秋田国際ダリア園
ダリアと言えば、10年前は小・中輪の品種が殆どで、色幅も狭く、仏花のイメージが強い花でした。
さらに、オランダから入ってきたダリアはその当時、高価で貴重だったため、盗難から守る目的で、「球根に毒があるから食べてはならない!」との噂が流れていました。
そのことが、人々を一層ダリアから遠ざけてしまったようで、決して人気のある花とは言えませんでした。
しかし、ヨーロッパでの大輪花ブームが日本へ波及すると同時に、一躍 脚光を浴びることとなりました。
これまでにない驚くほど大きな花と花色の豊富さは、日本人の心に強烈なインパクトを与えました。
そして、今や大輪花のシンボル的存在として、昔のイメージをすっかり刷新しています!
今回はそんなダリアの普及と球根の存命、新たな品種開発に取り組んでいる秋田国際ダリア園の園長を訪ねました。
?ダリアにの普及に心血を注ぐ男!?
ここでは、切り花の営利栽培を目的とする生産者にも球根を販売しているため、球根養成のための広?い圃場を備えています。
そこで最近では観光客だけでなく、ダリアを栽培する生産者の方も いち早く新品種情報を収集しようと、ココを訪れるようになっています。
圃場は足元が悪いため長靴に履き替えて、私達も いざ出発!
トレードマークの赤い服と帽子を身に着けた園長の鷲沢氏は、「ほらっ、見れー!」 「これも いいっしょ!」 「『黒蝶』?そんなのたいしたことねぇー。いいのはまだまだあるぅ!」とズンズン歩みを進めながら、独特の秋田弁で自信作を紹介してくださいます。
「ええ白 見せてやるぅ!今年の新作『モスクワの冬』って言うんだぁ。」
「デザイナーが涙流して喜ぶようなの いっぱいあるぞぉー!」
「これは『新庄』。
あの野球選手の名前を優勝祝いに付けたんだー。」
「これ、横から見ると白く見えるべぇ。
『呉羽』って言うだ。何でかって言うと昔 呉羽丸に乗ってからだぁー。」
そうです、鷲沢氏は元 船乗りだったのです!
まだまだネタは尽きませんが、ここで 鷲沢幸治氏のプロフィールをご紹介します。
■秋田県 角館生まれ
■商船会社に入社し貨物・客船のエンジニアとしてアメリカ・ソ連をはじめ14カ国を航海し、その間にベトナム戦争を体験する。
■その後、秋田船川港のパイロット事務所に入社し、チーフエンジニアとして働く傍ら、独学でダリア栽培を始める。
■40歳で退職後、明治・大正・昭和にわたってブームを呼んだダリアの復興と、地域観光を目的とした秋田国際ダリア園をオープンし、現在に至る。
<若かりし頃の鷲沢氏>
■全国でダリアの栽培技術指導にも力を注いでおり、今や生産者の強い味方!!
■秋田国際ダリア園には、世界14カ国650品種、7千株、6万本があり、そのうち1/2が鷲沢氏作出の改良品種となっている。
秋田ダリア園は、雄物川(おものがわ)沿いで、且つ窪地にある為、霜も降りない好立地!!
花が満開になる秋は観光客で賑わっています。
※今年の開園期間は、11/4で終了しました。来年をお楽しみに♪
さてさて、現地レポートに戻ります。
圃場では蕾のうちに摘み取らなければならない芽摘みが間に合わないほど大量のダリアが植わっていました。
そこで、私達を案内をしながらも芽摘み作業で手は忙しく動いています。
咲き終わった花に「ごくろうさん!」と声をかけながら摘んで歩く鷲沢さんの後ろには、大輪の花が足跡のように落ちていました。
世界を渡る船乗りから、日本を代表するダリアの育種家へと華麗に転身し、世界に知られる存在となった鷲沢氏、いずれにせよ世界を股に掛ける男です!!
そして、2004年国際ダリアショー(国立フランス園芸協会主催)では、
鷲沢氏 作出の『虹』が外国部門グランプリに輝きました!!
中大輪で、白をメインに丸びを帯びた花弁の先端に向かって淡い紫色が加わるのが特徴です。
今後の育種の方向性を伺ったところ、
「ウチは男3人だから、もう1人女の子をつくりたい!」なんて冗談をおっしゃっていましたが、
10年に1度 オランダで開催される国際的な園芸市 フロリアードが次回は2012年に開催されます。
そこで皆が驚くような新作を発表したい!と密かな意欲を燃やしているようです。
これから生み出される新品種にも期待が大きく膨らみます!
?時代の潮流と共に?
ダリアの流通は数年前から周年化が進み、各地の生産者さんのおかげで、今では1年中楽しめる花となりました。
それでも、季咲きである秋の入荷量は多く、花持ちもよくなるこの季節のニーズが高いのが実情です。
ダリアブームの火付け役となった人気品種『黒蝶』は、世界的な潮流にピッタリとはまっていました。
そのキーワードは、
◇デコラティブ(装飾的な)
◇グラマラス
◇流行色の黒 と言えるでしょう。
また、秋と言えばブライダルシーズン!
今は“和婚ブーム”、つまり和装での挙式人気の高まりから、和花や濃い色合いの花も使われるようになりました。
しかも、大輪だから作業も非常に効率的でありながら、インパクトを与えることができる!
そんなニーズに『黒蝶』などの大輪ダリアはピッタリなのです!
もちろん、白系ダリアの人気も高まっています!
その代表格が『白山』⇒⇒⇒
そして、『かまくら』といったです。
今回、久々に同行した宍戸隊長がナント、このダリアの仕掛け人でした。
そんな隊長のオススメ品種は、絞り咲きの名花 『ブリストルストライプ』(写真中央)、
そして、今年の新作『黒い稲妻』(写真右)
まだまだご紹介したいところですが、今後 期待できる品種はコノ後お見せします♪
?今後のオススメ品種?
ダリアは花の豪華さや優雅さをデザインに取り入れるべく装飾関係で多く利用されています。
しかし、これからはホームユースやギフトでのニーズも高まってくるのではないでしょうか?
今後 ダリアに求められるニーズは…
より長く楽しめるダリアを!
出荷期間の拡大と、日持ちのよいダリアの出荷が求められています。
ホームユースへの対応を考慮すると、ボール咲き品種は有望ではないでしょうか?
より個性的で使い勝手の良いダリアを!
赤、オレンジ、黒以外の品種バリエーションの充実が求められています。
また、『黒蝶』に次ぐ人気品種を仕掛ける必要があるのではないでしょうか?
ターゲットマーケティングの必要性あり!
春、秋のブライダルシーンに合わせた白やライトピンクの作付け、母の日に仕掛ける赤い品種、冬から春に売れるパステルカラーの品種、露芯し難い品種 etc が求められています!
そこで、今回見た新品種の中から切花に向いていて、今後 市場でも増えてくるであろうオススメ品種を、皆様に一足先にご紹介します!
ラララ 純愛の君 ミセスアイリーン マタドール
雪国 熱球 牧歌 ミッチャン
これらは、ほんの一部です!生産地では、沢山の新品種を導入しています。
これからの出荷に期待してください。
こうした新品種は、今後 以下の産地より出荷の予定です。
□秋田県 新あきた農協
□秋田県 秋田おばこ農協
□山形県 山形おきたま
□山形県 酒田市袖浦農協
□山形県 庄内みどり
□福島県 新ふくしま農協
□茨城県 竜ヶ崎花卉組合 山中誠
□埼玉県 藤波 幸夫
□千葉県 フルールセゾン
□長野県 みなみ信州農協
□岐阜県 飛騨農協
現在までに3戦品種を栽培するも、ウイルス病や退化によってその姿を失っていってしまうのは、球根の宿命と言わざるを得ません。
そのため鷲沢氏は、毎年100品種の新種改良に取り組み、ダリアの存命に努められているのです。
ダリアに関する基礎知識は、コチラをごらんください。
http://agsfan.com/
AGSでは、自然を暮らしの中に取り入れた新しいライフスタイルをテーマに、秋田国際ダリア園と提携関係のもと、球根の通信販売、HPにおいてダリアに関する多彩な情報提供を行っています。
秋田国際ダリア園の格言
大輪花ブームと共にダリアブームはまだまだ続く!
これからも、個性的な咲き方や色、絞り品種など私達を驚かせてくれるはず。
黒蝶に変わる新たなスターを作るのはアナタ次第!
ホームユース、ギフトニーズに応える為には、栽培から鮮度管理までのレベルアップが急務!ダリアの需要拡大に努めよう!
キャッチフレーズは、『花は文化 心の豊かさ 秋田国際ダリア園!』
?紅葉深まる秋田より?
観光客賑わうダリア園にも、まだまだ驚くような品種が沢山!
コチラは『迎春』。
手のひらより大きな花を咲かせます。
ずっと見ていると食われてしまいそうな雰囲気をかもし出している花もあります。
こちらは大きく成長した花。見上げながらの写真撮影です。
そんな大きな花も、こ?んな小さな球根から生まれるのです!
利益を追求するのではなく、純粋にダリアを愛し、その普及の為に人生を賭ける鷲沢氏は、自分のことより他人のことを思いやる本当に優しい方でした。
今回、たくさんの鷲沢語録を聞くことができましたが、最後にいつも口癖のようにおっしゃっている言葉をご紹介します。
『花は文化 心の豊かさ 押させてください車椅子』
園内には長靴とともに車椅子が…。
『背中に墓石 腹に欲 押してください車椅子』 ?おしまい?