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2011年9月22日

vol.87 JA会津みなみ(福島県)

福島地図.jpg前回に引き続き福島県を訪れました!

今回は福島県南会津です。

晴天に恵まれ、空気がきれいなおかげで空も植物も家々も道もくっきり色濃く見え、周囲は山々に囲まれたとても美しい場所でした。

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お話を伺ったのはJA会津みなみに出荷している3軒の生産者さんです。


まず室井豊一さんのもとを訪れさせていただきました。
選花をしている現場は真っ白なカラーがたくさん。

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ラッピングなしでもこのカラーを束ねて持っただけで、持った人を120%引き立てるような美しさです。

また、選花をする台の端に花びら2枚のカラーたちが。
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白ウサギの耳みたいでこれもまたきれいだと思ったのですが実はこれは奇形で、株から最初に花が出てくる時に気温が高いことが原因です。また、高温により白のカラーに若干のピンクが入ってしまうこともあるようです。


次に室井さんの花作りはどのようなものなのでしょう。かつて南会津町を流れる水無川(みずなしがわ)周辺は石ころだらけの川原だったそうです。

そこに昭和44年からの開拓パイロット事業で川原の上に土を30cmの高さ分敷き詰められました。そこで植物を植えることができるようになり、桑やブドウなどを栽培し始めました。
しかし、養蚕の衰退で桑畑が荒廃したり、ブドウは取り入れた品種が南会津の地の環境条件と適さず、うまく実をつけなかったりとうまくいきませんでした。室井さんもこれまで葉タバコ、畜産、アスパラガス、グラジオラスといろんな生産に携わってきましたが、いつもどうしたらこの地で農業ができるかをずっと試行錯誤してきました。30cmの深さの土で生産できるもの。。。それもちゃんと利益が出て、地域の産業として根付く農業でなければならず、どんなに質の良いものを1本2本作ることができたとしても、経営として成り立たなくては意味がないと熱く語ります。また、それを考え続けるのがライフワークだというところに揺るぎない芯を感じ、心にしみるものがありました。
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自分の農業だけではなく地域の農業を活性させるところまで見ていらっしゃるのが溢れるバイタリティーの秘訣でしょうか。現在は生産の8~9割がカラーで、連作障害を防ぐためにヒマワリ、ケイトウ、スターチスなども作られています。そもそものカラーとの出会いは、会津の西部地区でカラー作りをやめる方がいるとJAから知らせがあり、カラーの持つ気品や、株が増え続ける球根の性質などに魅力を感じ、それをならやってみようと球根を買い取ったところから始まりました。やめる方の畑に行って鍬(くわ)で球根を掘り起こしたそうです。

また、カラーは気温がマイナスになると土の中では球根が溶けてしまいます。土の中でも越冬できる品種もありますが多くは毎年冬前に掘り起こして予冷庫に入れます。

1-1.jpg球根はこの農業用の黒いコンテナに入れてから予冷庫の中に収められます。このコンテナが500個分ほどできるそうです!入りきらなかった分は農協の予冷庫を使います。室井さん個人の予冷庫は設定温度を冬場5℃に設定しており、除湿機を予冷庫内に入れ湿度管理も行いますが、除湿機の運転により設定温度が多少高くなるので温度・湿度管理に気をつけ確実な越冬を行います。


そして、カラー作りで室井さんが大切にしているのが、できる限り球根と地力(ちりょく : 土地が作物を生育させることのできる能力)で育てることです。元々この土地の水はけが良いこと、気候が涼しいことによりカラーにとってはとても環境が良く、自然の力だけで美しいカラーが作れます。肥料は使っても植物にとって優しいミネラル系の肥料を使用しています。
チッソ系の強い肥料を使うと見かけが大きく丈の長い花を作れますが、茎が軟弱で日持ちも悪くなるので、それは本意ではないから使用されていません。

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このような小さな粒のミネラル系の肥料が畝沿いに蒔かれていました。
また雑草も肥料として活かします。土から抜いた後も畝間に置いて緑肥(育った植物をそのまま畑にすきこんで肥料にすること)として用います。


生産から流通までの安全性などを第三者目線で総合的に評価するMPSという認証があります。生産者向けMPS認証の中に農薬や肥料などによる環境負荷をAからCまでランク付けする評価基準があり、室井さんは最も環境に対して負担をかけていないAの評価を得ています。
決してMPSを取るために頑張ったわけではなく、自然の力を大切にし、生産に取り組んできた結果として取れたと語るのはとてもかっこいい。
触らせて頂きましたがカラーの茎はとてもしゃんとして固い。細胞が密に詰まっているのが分かるというか。
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形はウェーブがなく、花の口が少し反り返っているものが理想です。
1-4.jpg写真で言うと左の方が理想的です。


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冬場は骨の折れるハウスの除雪、また翌春に向けて栽培結果の分析を行います。その年の気象条件と採花の始まり、ピーク、終わりの状況を捉えておくと翌年以降の栽培から出荷計画に活かすことができます。このように毎年のデータを蓄積することによって生産や出荷作業の計画の目処が立ち、予定していたことと3日間以内のずれで抑えられると言います。春から秋まで長い期間作り続けているのに3日間だけの誤差で収まるのは驚きです。今までの栽培結果をこうして分析するのも楽しいとおっしゃいます。
とても元気な産地さんだという印象が残りました。


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続いて所変わって部会長の室井和之さんを訪れました。
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ちょうどカラーを選花しているところでした。どんな基準で選花しているのか聞いたところ、「花屋さんが嫌がるものは出さない」ということでした。
例えば軟腐病(細菌により茎、またひどい場合には球根まで溶けてしまう病気)にかかっていないもの、また形が整っているものをしっかり選びます。


また選花をしている室井和之さんのお隣では奥さんも出荷作業をされており、お願いしてテープで茎を巻きつけるところをゆっくりやっていただきました。透き通るような美しいカラーが傷つかないよう、1本1本器用に束ねて専用の機械で上下2ヶ所束を巻きつけます。2-1.jpg2-2.jpg

そして室井さんの場合、カラーの球根はすべて冬前に掘り上げてしまい、冷蔵設備のない小屋の中でもみ殻の中に埋め込むことで越冬させます。
なぜもみ殻なのかというと、室井さんはカラーだけでなく出荷量の多いもの、少ないもの合わせて8種ほど(カスミソウ、ダリア、マリーゴールドなど)の品目を育てていらっしゃるのに加え、稲、豆、そばも栽培なさっており、秋の収穫時にはとても忙しい。その時期が終わってカラーの球根の越冬準備をするとなると、球根にとって良くない環境になってしまい、冬まであまり時間がありません。

水気があると腐りの元になるため掘り上げたものを乾かす必要があるのですが、予冷庫を使うとなると長く乾燥させてから入れることになりますが、もみ殻を使う方法なら数日干しただけで後はもみ殻の中に入れておけば越冬できます。
というわけでもみ殻を使われています。

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もみ殻の中は冬でも7~8℃で安定して保たれていて、球根たちは根も茎も付いた状態で入れられます。茎は球根から3cmほど付いています。
多少の水分はもみ殻が吸い取ってくれるそうですが、以前、茎を今の3cmほど残した状態よりもっと長く付けたままもみ殻に入れた時もあったようです。その時はもみ殻が水分を吸収しきれなかったため球根が溶けてしまったそうです。そこで今の3cmくらいに落ち着きました。若干の長さの違いが大きく左右するのですね。
球根は上に重ならないように平らに並べ、その上にもみ殻を敷き、またその上に球根を並べまたその上にもみ殻を敷くといった繰り返しがなされます。つまりサンドイッチ状態です。


除雪機を使って球根にもみ殻のふとんを被せます。
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なるほど除雪機にはこうした使い方も!


圃場ではカラーは施設栽培ものと露地ものがありました。施設の中は真っ白なカラー(クリスタルブラッシュ)が元気良く咲いています。また、露地のカラーはピンクやオレンジといった色ものが咲いていました。


驚いたのが発色の良さです!夏場出荷のカラーは露地でしっかり日光を当たった方がで施設で育てるより発色の良い花ができるのです。


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非常に濃い。ピンクにしてもオレンジにしてもこんなに濃いカラーたちは初めて見ました。


また、こちらはダリアです。人の身長より高い!
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こちらの黒蝶という品種は大人の手のひらを広げたくらい大きいです!
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ダリアは頂芽優勢(ちょうがゆうせい)の植物です。芽が出て茎が伸びていく過程で、てっぺんの芽(頂芽)、及びその茎(主茎 : しゅけい)が最もすくすくと育ちます。
2-11.jpg根元を見ると主茎が切られていました!


理由は丈の長い花を作るためでした。主茎は花芽をたくさんつけ、育ちも旺盛ですが短いところで枝分かれし長さが取れないそうです。一方茎の側方から出ている側枝(そくし)は枝分かれせず長く伸びるので丈の長いダリアを作ることができます。
というわけで主茎の根元で切って側枝に栄養が行くように工夫をなされているのですね。
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また、ハウスの中は虫が少ない。
ハウスの上にUVカット加工の遮光幕を被せているので、遮光と紫外線のカットによりスリップスなどの虫が寄りつくのを少なく抑えられています。今年も秋の収穫時は忙しいと思いますが頑張ってください。


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お次は渡部善蔵さん。
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カスミソウをメインで栽培されています。
DSC09544.jpgもともとはリンドウの栽培をメインにしていましたが、花腐菌核病(はなぐされきんかくびょう : 菌により花に斑点が生じて花全体が茶色くなり茎を侵す病気)などの病害に悩まされていました。
そこで標高550mの南会津の涼しい地でカスミソウを作ったところ、うどんこ病(うどん粉をかけたように白くなる病気)などの病害もなくうまく栽培できたそうです。南会津の地は水はけがよいし、加えて気候が涼しくカスミソウに非常に適していたのです。
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JA会津みなみは平成23年6月にエコファーマーという環境にやさしい農業に取り組んでいる認証を取得しています。(エコファーマーとは、堆肥などを使った土作りと化学肥料・化学農薬の使用の低減を行っている農業者の愛称で、各県の知事が認定します。)
昔はカスミソウの農家はチッソやリン酸系の化学肥料を、ボリュームが出るようにとたくさん使ってきました。しかし、徐々に土のバランスが壊れていってしまったそうです。そこで、会津みなみの部会全体で改良が行われました。土壌診断を行ったり、普及部での分析をもとに、有機肥料を用いて土壌改良に取り組みました。土壌を改良するには2~3年もの期間がかかりました。


渡部さんは染めカスミソウも作っています。
息子の亮平さんが主に行っていて、前回ウンチク探検隊で訪れた昭和花き研究会の菅家さんに教わった経験があるそうです。
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季節にもよりますがピンク、ブルー、ラベンダーあたりが安定して人気があります。
染める時間は1時間~2時間ほどで天気、湿度によって大きく異なります。例えば夏場の乾燥した頃だと30分~1時間で早くも染まります。また、色はブルーだと80cmで1時間~1時間30分で染まるのがピンクだと2時間かかったりします。

染め時間を把握することは植物の呼吸を感じることでしょうから、とても繊細な花との向かい合いを日々されているのですね。
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さて圃場も訪ねました。
細かな工夫が見られました。畑の畝に敷いているシート(マルチと言います)は一般的に多い黒ではなく銀色を使用しています。銀色のおかげで光を反射させ茎の下の方にも光を当てることができるのです。
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それから、6月から11月までの出荷を安定して行いたいという考えから、苗から畑への植え付けの際には一週間ごとにずらしながら植えていくそうです。

これで苗の状態から7週間目です。DSC09554.jpg

まだ高さは10~15cmといったところでしょうか。12~13週目には採花できます。この頃には60~70cmになっているのだから急成長ですね。


夏は2番花が咲くころが採花目安です。
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どれが2番花か。
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上の写真の番号順に1番花から3番花までです。

また、この秋採花した後は、植えられている中の半分ほどの株を越冬させることになります。また春先にも採花するためです。冬場はハウスのビニールシートも取ってしまうので直接カスミソウの株に容赦なく寒い風や雪が降り積もることになります。
越冬なんてできるのかと思われますがほとんど雪腐れなどはないそうです!
「冬越しの株」、、、恐れ入りました。


では大変なことはどんなことでしょう。
花がまだまだ咲く段階までいかないときはハウスをビニールシートで被っておらず、鉄の枠組みがむき出しの状態です。カスミソウは雨に当たり過ぎると花が咲きにくい性質があるので、ある段階まで育つとハウスにシートを被せます。しかし、時期的に台風が来るのでシートが飛ばされる危険もあり、いつ被せるかタイミングを決めるのが難しいそうです。
また、性質が強いといっても病気が発生しないわけではないし、ネズミやコオロギ、カラスがカスミソウをかじってしまう被害もあります。日々の雑草を取る作業も体力のいる仕事です。
それらを経てこの粒の大きな美しい花ができあがっているのですね。
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カスミソウは地中海沿岸原産で、暑さに強いおかげで葉焼けもなく、一方雪の中で越冬もできてしまいます。おまけに染めることもできます。ふわふわとした優しい見ための花ですが、性質は非常にタフなんだということを強く感じました。

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今回3軒の生産者さんを訪ねましたが、どの生産者さんも
南会津の気候をよく把握していて、涼しくて水はけの良い土地に基いた花の栽培をしていました。


こんな手間暇がかかったきれいな花が大田花きに出荷されているのはありがたいことです。


大田花きでは先月8月8日~12日に中央通路のショーケースで展示が行われました。DSC09348.jpg

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最後に今回はJA会津みなみの星さんにご同行して頂きました。余談ではありますが上の写真のかわいい女の子たちが写ったJA会津みなみのポスターですが、その中の一人は星さんのお嬢様です。みんなほんとにいい笑顔です。自然の恵みと共に生き生き生活しているのが感じられます。


会津みなみの特徴は束共選といって、生産者の方で等級ごとにある程度分けられたものをJAでさらに束ごとに秀や優に選び抜き、市場へ出荷します。更に長さだけでなく重さの規定もあり品質が整っています。
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星さんはそのような集荷と選花作業、生産者への市況報告など非常にマルチにお仕事をなさっているのでした。
また冬にスキーができる山や、松茸が採れる山、春アスパラの美味しいことなどいろいろ教えて頂き、暖地にはない、涼しさを元にした会津田島の自然の魅力を感じました。


                                              (文責:Kadono Hiromi)

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