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2011年12月20日

vol.89 栃木のバラ

「栃木県」で連想するものを挙げてください。

チチチチチチチチチッ←秒針の音

日光東照宮、宇都宮餃子、那須高原、鬼怒川温泉・・・

では花でいえば?


チチチチチチチチチッ


栃木県といったらバラです。バラ!

栃木県のバラについてある仲卸さんからの評。


「サイコーだね。
とりわけローテローゼのクオリティは全国有数と言って間違いない。
仕立ても立派だし、バランス、花保ち、全てにおいて素晴らしい。
他産地と比べても、同じ品種でどうしてここまで花持ちが違うのかと思うくらい違う」

絶賛!!!


大消費地東京までちょうど100km圏内という好適地にそんなにいいバラを作っている産地があるとは!

ここまで高く評価される秘密を探りにいざ出陣!


紅葉の東北道を駆け抜け―――
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向かう先は栃木県宇都宮市のヨコヤマ薔薇園さんと上三川町の斉藤武さん。
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栃木のバラの二大巨頭にお邪魔しました。
こちらのお二人が栃木県のバラのクオリティを牽引しているといっても過言ではないでしょう。


こちらがヨコヤマ薔薇園の横山陽一さん。

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前職「俳優」・・・ではありません。
なんだか岩城晃一と田村正和を合わせたようなスーパーダンディズムを感じます。


そんな横山さんに見とれていないで、ウンチク探検隊、いざ横山さんの圃場に潜入です!
シゴト、シゴト!


ジャジャーーーン!
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ワオワオ,WOW,WOW!w(*゚o゚*)w
元気な葉が青々と茂っています!

このようなイバラの道から身を守るために、横山さんがこちらのエプロンをご用意してくださいました。
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さすが横山さん!
用意周到!

ジャン!マグネットでカンタン装着ッ♪
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これがあれば、トゲが衣服に引っかからずこの通りスイスイ歩けます。

あれれ~。ずいぶんと枝がなぎ倒されていますが、これは正常な状態ですか?
ワザト?(・_・?)
一糸乱れぬラインダンスを見ているかのような光景ですが、これはどうして倒れているのでしょうか。

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アーチング栽培(用語レベル★)といってね、バラを生産する技術のひとつなんだよ」

とダンディズム横山さん。


アーチング栽培?「(゚ペ)ハニャ??


そうなんです。これは、バラの枝が伸びてきたところで思い切ってグニャッと曲げて
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葉から多くの光を取り込めるようにする方法です。
こうすることにより光合成が促進され、株に効率良く栄養を送り込むことができるのです。


グニャッと折っても、また中心部から新しい枝がまっすぐに伸びてきます。
この枝をベーサルシュート(basal shoot:用語レベル★★★)といい、そのうちの太くてしっかりした枝(=採花母枝用語レベル★★)を出荷用として育てるのです。


アーチのように茎を折り曲げて行くからアーチング栽培。
日本人が開発した画期的栽培方法のひとつhinomal.jpg(アッパレ!)で、現在のバラ栽培におけるスタンダードになっています。


倒された枝が日照量を確保して株に栄養を蓄える、残された採花母枝はその栄養を使って美しく生長する役割を持っているのです。


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バレーボールでいうと倒された枝がレシーバー兼セッターで、アタッカーに栄養というトスを上げる、そして残された枝がエースとして市場に出荷される・・・ということなんですね( ^ー゜)b

「そうそう、私は働き蜂と女王様だと思っているんだ」


分かりやすい例えです。

倒す枝と残す枝の判断はどのようにされているのでしょうか。

「1株のうち倒すのは3本以上なんだ。だからまず最初に出てきた3本は倒す


早く生まれた芽は倒される運命なのか~!! (+_+。) ガーン(悔)地道にガンバロ。


「3本倒してやっと株が充実してくるんだよ。

4本目からはその枝が製品に向いているかどうかで判断するんだ。もし曲がっていたら製品にはならないから倒す。

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スプレーバラの場合は、長さが60cmになった時点でツボミが3つ付いていなかったら倒す。
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あとは初蕾(はつらい=初めてツボミが付くこと)(用語レベル★)したときにツボミが曲がっていたり、葉に奇形があったりすると倒すんだ」


バラの場合、この小葉3枚か5枚か7枚で1枚の葉を形成します。

↓これで1枚の葉。

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採花母枝の下に行くほど1枚を構成する小葉の数が多く7枚、上に行くにつれて5枚、3枚となっていきます。


バラたちが最も快適と感じる温度は24-25度、
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最低でも18度、たとえ真冬の夜でもこの温度を下回ってしまうときれいに発色しなくなってしまいます。

DSC04820.jpg(品種名:タージマハル)



あら?こちらの大きなボトルのようなものは何でしょう??

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「酸素だよ」


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酸素?(゚ペ)?

光合成のための二酸化炭素ならわかりますが、どうして酸素が必要なのですか?


「この酸素は潅水する水の中に入れるものなんだ。

植物の根も呼吸しているから、有機物を分解してエネルギーを得るときに酸素がいるんだけど、酸素飽和度が下がるとミトコンドリアで酸素を消費して、●∀й☆ΘΛ†Π・・・・」


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ガラガラガラガラ(←シャッターの閉まる音)
ううぅぅ・・・・わがんねぇ(+_+;)チーン!

ココで一度、植物の根が持つ働きについておさらいとまとめをしてみましょう。

植物の根が持つ働きは一般的に3つあります。


① 植物を支える
② 栄養を吸収して上半身に送る
③ ②のために働くエネルギーを作り出す


③をするためには「空気」「水」「養分」の3大要素が不可欠です。

上半身の葉で光合成をして作られたでんぷんが根に送られ、根は自分で取り入れた酸素と送られたでんぷんとを結合してエネルギーを作り出すのです。

これが植物が持つパワーの源というわけです。このときにもちろん3大要素のいずれも欠けてはいけないわけですが、酸素が欠乏すると苦しい~~~~~!と窒息して元気がなくなったり、根腐れを起こしたりするのです。


なるほど!
つまり植物の元気の源を作り出すには光合成をするときの二酸化炭素だけではなく、根から吸収する酸素も必要だというわけですね!( ^―゜)b


「そうそう、ところが夏は酸素が不足しがちなんだ。
気温が高くなると酸素の飽和度が下がるから酸素が不足するんだ」


暑くなると次の2つの理由から酸素の吸収率が下がります。

① バラが活動しやすい適切な気温というのがあり、暑くなると
「うわ、あっちーのぉ(;´д`)  あンまり動きたくねーだ」
と根の活動が弱まる

② 気温が上がると水中に溶ける酸素量(=溶存酸素量;用語レベル★★★)が下がる


「そういうときにいつもと同じように水をやっているだけでは、根が十分な酸素を吸収できずに植物の根の元気がなくなってきてしまうんだ。これも研究しながらなんだけど、そう思って水に酸素を送り込むようにしているんだよ」


そういうか! ('-'*)(,_,*)('-'*)(,_,*) ウンウン


「金魚を育てるときも水槽の中に酸素のブクブクを入れるでしょ。それと同じ原理だよ」


一方でもちろん光合成のための二酸化炭素は必要。
日の出直前の2時間程度、施設の中に二酸化炭素が充満するようこのように発生装置を使っています。
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二酸化炭素発生装置の形っていろいろあるんですね。


話が少し前後しましすが、こちらは斉藤武さんの圃場にある装置です。

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このように写真を撮っただけではわかりにくいのですが、実はボーボーに(!)二酸化炭素が出ています。
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二酸化炭素濃度はどのくらいなのでしょうか?

「今は・・・312ppmですね」
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これは高いのでしょうか、低いのでしょうか?

参考までに↓大田花きの会議室に置いてある二酸化炭素濃度測定器です。
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12月某日の午前中の二酸化炭素濃度は540ppmを示しています。


自然界で二酸化炭素濃度はだいたい350-400ppmくらい、
人の少ないオフィスや会議室などで500-600ppmくらい。
そこに人が入ると800-900ppm。

このときに1,000ppmを超えると会議や授業をするにも集中力がなくなると言われます。
数人が密室にいるだけですぐに1,000ppmくらいには到達してしまうので、闊達なディスカッションをするためには、本当はこの二酸化炭素濃度が見える化されるといいですね。

また2,000ppmを超えると不快感を感じたり、眠気を感じたりする人が出てきます。
3,000ppmを超えると頭痛を訴える人も出てくるというレベルになってきます。


と、少し話が飛んでしまいましたが、植物の光合成が促される施設園芸などの環境においては、空気中の二酸化炭素は吸収され値が低くなりがちなので、このように炭酸ガスを発生させているのです。




この網はなんでしょうか?夏休みの昆虫採集用??
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「チョウチョ採りだよ」


やはり!珍しく当たった??


「夏休み用ではないけどね^_^;

たくさんいるわけではないけど、チョウチョとかガはどうしても施設の中に入ってきちゃうでしょ。それを放置しておくと、卵を生みつけて大量発生しちゃうんだ。

薬でやっつける人もいるけど、うちは気づいたときに一匹ずつ人海戦術で対処する」


さすが横山さん!こうして使用する農薬を少しでも減らそうと努力をされているのです。


MPS※(用語レベル★★)も導入直後にいち早くご取得され、もちろん評価は文句なしのAです。


※Milieu Programma Sierlteelt オランダ語で「花き産業総合認証」の略。花きの生産流通において環境負荷低減に配慮したり、品質管理を行う企業・個人に対し認証するシステム。世界約30カ国が加盟、日本へは2007年に導入された。

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「評価はBでもCでもよかったんだけどね。参加することに意義があると思っていたから」


圃場内の戸棚もこんなにきれい!
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しっかり整理をされています。仕事は整理整頓から。




圃場心臓部へ


「ここは生産圃場の心臓部ね」

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圃場の心臓?
どういうことでしょうか。ドキドキ❤

「今は生産管理は殆どが機械化されているからね、ここでバラにとっての最適な環境をコントロールしているんだよ。」

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肥料と水を混ぜて潅水したり、気温や湿度を調整したり。

バラの管理は次の3つを適切に行うと収量がアップするといわれています。
① 温度
② 湿度
③ 炭酸ガス濃度

①が適切に調整できないと・・・
(温度が低すぎる場合は)ローテローゼなどの赤い品種は黒ずんでしまいますし、温度が高すぎると輪が小さく、また色褪せてしまいます。

②が適切に調整できないと・・・
灰色カビ病などの病気が蔓延してしまいます∑(゜◇゜;) ドキッ!

③が適切に調整できないと・・・
つまり二酸化炭素濃度が低すぎてしまった場合ですが、うまく光合成ができず、植物が栄養を蓄えることができません。


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うわぁ!∑(゜◇゜;)
ほんとに心臓のようにガチンドクッ、ガチンドクッと脈を打ってポンプが溶液を送り出している!
鼓動のような音にポンプの動き、これはまさに圃場の心臓です。

「この音を聞いていれば、機械の調子が悪いかどうかが分かるんだ」


なるほど、この音は体調管理のバロメーターというわけですね。

あらら~ン、こちらのニャー様は横山さんの愛猫ちゃまですか?

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「ネズミ捕りなんだmouse.jpg


ヘビとかネズミって結構出没して、農作物に害を及ぼすんだよ。
特にネズミなんかはこのパイプをかじっていたずらすると、
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養液が途中で漏れて苗のところまで辿り着かなくなったりする。

以前は薬やなんとかホイホイみたいのも仕掛けてみたけど、ダメだったんだよ。20年前から猫を飼い始めて以来、ネズミもヘビもいなくなったよ。

ネコがニャーと鳴くだけで全然違う。
これをニャオ効果(用語レベル???)っていうんだ」


にゃんと、ニャオ効果、絶大なり!


これも天敵を使った一種のIPM農法※(用語レベル★★)ですね。


※IPM農法=ntegrated est Management(総合的有害生物管理)の略で、天敵を使って生産の邪魔ををする害虫たちをやっつける方法。農薬を使って退治するよりも環境や人体に優しい方法とされる。


大変ご活躍のニャー様のお名前は?見た目もゴージャスだし、よく働くし、ダンディーな横山さんちのニャー様だし、さぞかし高貴な響きの名前だったりするんやろにゃ~・・・ドラクロワとか?ダ・ヴィンチとか?はたまたシャルルとか?そんな感じ?


「ピーマン」


・・・(゜.゜)



こちらは出荷準備中!
跡継ぎのご子息貴一(きいち)さんは働き者!

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わーいっ!(^o^)丿
やった、やった♪ OTA行きの荷物をご準備くださっています。ありがとうございます。


あらら?チョットチョット、出荷箱の中のこちらは何ですか?なにかの仕掛けでしょうか?


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ワンダム
??と書いてありますが、マンダムでもなく、アスワンハイダムの略でもなく??
・・・いったい何のことでしょうか??(゚_。)?(。_゚)?


「出荷するときにここの袋に水を入れるんだけど、このワンダムをセットすると箱を横にしても水がこぼれない」


なるほど~。そんな素晴らしい仕組みがあるんですね。どのような仕掛けになっているのでしょうか・・・?


このビニールの部分に水を入れて・・・フムフム
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足元にペーパータオルを巻いたバラを入れる!と。
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それから口をふさいでワンダムにセットすると・・・
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ほらこの通り!

立てればこの通りバラの足元をしっかり保水、
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横にしてもこのダムで水が流れ出るのをこのダムでしっかりとブロックしているのです。
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また市場流通においても、横にしてローラーに流して自動分荷機に投入してもノープロブレム!

立てておいた箱をうっかり倒してしまっても、もちろん水が漏れて商品が傷むこともありません。

「水が漏れたっていう事故はほとんどないね」
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なんと!すばらしい!ワンダホー!ヽ(‘ ∇‘ )ノ


「そうでしょ。ワンダフルなダムだから略してワンダムって付けたんだ。

水が止まる不思議なダムでもあるから不思議の“ワンダー”ともかけてあるんだよ」


これはなんと横山さんが開発したもので、特許をご取得されています。

この紫色の帯のようなものは何ですか?
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「ひもで商品を固定するときに、商品が傷つかないように保護しているんだ」

でもどうして紫色?(゚ー゚?)(。_。?)


「色の効果だよ。緑色が映えるように反対色の紫を使うんだ」


なるほど~。補色効果ですね。反対色(=補色)を組み合わせることによってお互いの色を引き立てる相乗効果を狙った作戦ですね!

そういえば、スーパーに売られているチンゲンサイやホウレンソウなどの葉物野菜はよく紫色のテープで巻いてあったりしますね。

ウン探行きつけのスーパー(そんなのあるのか?)を覗いてみると、ホラこんなに。

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↑写真だと少し青く写ってしまうのですが、本当は紫色。

あっちもこっちもグリーン系の野菜はことごとく紫色のテープで巻いてあるか、パッケージの印刷の字が紫だったりします!

あのテープの色にはそういう意味があったのかぁ(゚∇゚)ナットク!
補色効果、偉大なり!


足元もこのとおり通りきれいに脱葉(だっぱ=余分な葉を取り除くこと)(用語レベル★)され、さすが横山さんの性格や商品ポリシーを反映しています。まさに神は細部に宿る・・・!という感じです。

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常にお客様の目線に立つ横山さんのクオリティは1993年にドイツのシュツットガルトの園芸博覧会でも認められた世界品質です。
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横山さんがバラ生産で最も大切にしていることは何ですか?


「OTAとか仲卸さんとか、買い手との交流や頂く情報を大切にしているよ。

作るのは黙々とやれば誰でもできるし、システム化することもできる。
だけどコミュニケーションによる情報提供は人だけが持つ力だから、これを意識してうまく情報収集できるようにしているんだ」


なるほど生産はシステム化して機械心臓に任せてあるわけですから、人にしかできないことをやるわけですね。



横山さんはそもそもどうしてバラ生産を始められたのですか?


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「うちの親は米中心の農家だったんだけどね、昭和45年から減反調整が始まって47-48年ころに花に取り組んだんだ」

その時取り組んだのは“ポットマム”(=鉢植えのキク)だったといいます。

「でも1年でバラに変更したよ。鉢植えだからポットに土が入っているでしょ。重いし、輸送のときも場所を取るし、花というよりも土を運んでいる感覚で採算も合わなくなっていったんだ」


その時に選んだのがバラというのはまたなぜでしょう?

「昔から人がやっていないことをやってみたいと思っていた。
へそ曲がりなんだよね(笑)。


栃木県ではバラを作っている人もまだいなかったしね。普及所の人からオランダのバラが売れているということを聞いてね、日本のマーケットでもきっとそうだろうと思って取り組んだんだ」


それで今の成功に結びつくわけですね。


「いやいや、成功しなかったよ。最初の10年はね。下積みだよ。
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病気も出たし、その時は土耕栽培で始めたんだけど、土の扱いが難しくてね。
堆肥の入れ替えも大変だし、大変だから量産できないし。

土が新しければバラもそれなりに良くできるけど、改植をしないとだんだん品質が悪くなってくる。


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新規参入してきた新人さんは私より良いものを作るし、自分の品質は思うようにならないし作業は大変だし・・・」トホホ

昨日今日始めた若手が、土が新しいというだけでご自身よりもちょっくらうまく作ってしまうわけですからね。
それはありゃりゃ(+_+)って思いますよね。
そこをどのようにクリアされたのですか?

「これを解決したのロックウール栽培(※後述)だったんだ。

ロックウールの生産が軌道に乗ってから」


「改植も管理も簡易化されたしね。

改植してリセットされたら必要なものだけを与えればいいわけだけだから、管理がマニュアル化できる。つまり特別な技術を持っている人じゃなくてもできるってことなんだ」


花きマーケットの難しさはなんですか?


品種選びが難しいと思う。

例えば栃木であればイチゴが有名だよね。何の品種か分かる?」


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と・ち・お・と・め( ^―゜)bですね?


「そう、栃木でイチゴを作るって言ったら、90%はとちおとめでOKなんだ。

トマトであれば桃太郎ね。

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これを90%作ればOK。ところが、花は1品種90%生産はありえないでしょ。やっていけないよね。


この品種選びというのが難しいポイントでもあり、花生産の醍醐味でもあると思う。


同じ農業だけど胃袋を満たす産業と心を満たす産業との違いだよね。
花生産はとりわけデリケートなものだと思っているよ。ブライダルにも使われるしね。
生産というのはサービス業の延長なんだ。」


なるほど、「生産と販売」というのではなく「販売(のため)の生産」ということですね。


「生産して、市場や消費者が評価してくれて初めて価値が出るもの。
もてなすものであったりとか、喜んでもらえる花を生産することが販売に繋がると思うんだ。
色、形、花保ち、香り、荷姿、細部に足るまで評価ポイントになるからやり甲斐がある仕事だよ」

なるほど、このようなポリシーがあるからこそ細部にまで配慮されたパッケージ、品質へのこだわりというものが生まれてくるのですね。

バラ生産40年、振り返って思うことは?

「ここまでしかできなかったかと思うこともあるね。
もっと大きなこともできたのかな・・・とも。
でも、息子にも引き継げたし。こんなものかな」

コチラが横山さんと奥様、ご子息の貴一さん。
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皆さんでポリシーを共有してこれからも高品質のバラをご出荷くださいます。



さて、こちらの菅原文太風ジェントルマンは斉藤武さん。(上三河町=宇都宮市のお隣)
ローテローゼのクオリティは日本一といっても異議を唱える人はいないでしょう。
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「ローテの斎藤武さん」と枕言葉になってしまっているくらいです。

そのような斉藤さんのバラ生産の根底に流れる哲学を探りにいざ潜入です!
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圃場を入るとするに目に入ったこの白いブロック。
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これは何ですか?


ロックウールだよ」


ロックンロールではなく、ロックウール(用語レベル★)です。くれぐれもお間違いのなきよう。

ロックウールとは玄武岩を砕いた上に焼いて作ったスポンジ状の人工培地です。

ロックウール栽培(用語レベル★)とはこれに苗木を植え、養分を含んだ水に浸けて栽培する方法です。
充分な養分を与えられると共に、根にも空気が行き渡りやすいので、生長が早いというメリットがあります。

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このロックウールを使うことによって、それまで土耕栽培だったバラ生産に革命が起きました。
改植も養分コントロールもロックウールのお陰でスイスイ。

斉藤さん、バラとの出会いは何かきっかけがあったのでしょうか。


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「大嫌いだったんだよぉ、農家がさぁ。サラリーマンに憧れてねぇ」


なッ∑(゜◇゜;)  ナント!農家が嫌いだった・・・なんて。
ストレートッ!!


「うちの親はイチゴをやっていたんだ。
昔から“農家の長男は家を継ぐものだ”という共通認識があって、親に言われなくてもやるもんだという暗黙の了解のうちに農業高校に進んだんだよ」


でも農家は嫌いだし、イチゴは絶対やらないと思っていた斎藤さんが選んだ道はなんとコチョウラン。

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え?コチョウラン?(._.)

バラじゃなかったんですか?


「そう。コチョウランを専攻したんだ。2年研修したのもコチョウランの生産だった。

でもいざやろうとしたときに初期投資が高くて少しためらいがあったんだよね。
そこで卒業する年に神奈川県の浜田バラ園さんに見学に行かせてもらったんだ」

浜田バラ園さんとは泣く子も黙る日本が誇る屈指のバラ生産者さんです。
小欄でもなんと第1回にお邪魔させていただいております。


「浜田さんのバラを見て“スゴイ!”と思ったことと鮮明に覚えているよ。

それまで切バラの圃場を見に行ったことがなくてね、壁のように両脇にドーンッ!と立つバラの株がすごく印象的だったんだ。

コチョウランと違って収穫までのサイクルも早いし、“すンげーなぁ、バラもよぉ”と思ってさ、ランからバラに切り替えることに決めたんだよ」

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ご自身でそう決めたとき、お父上は何とおっしゃったのですか?


「そんりゃもう大反対だよ。栃木県に花で成功している人はいねがったからね。

栃木で農業するっつったら、なんといってもイチゴかトマトなんだよ。それを花作るってったら、もう変わり者扱いだよ」

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その反対を押し切ってバラを作り始めたわけですね?


「あくまでも強引にね(笑)。
基本的には親と同じことをしたくない。

だから息子にも反対してほしかった。私と同じことをするのではなく、何か別のことをしてほしかったんだよ」


こちらがご子息の裕充(ひろみち)さん。斉藤さんの後継者です。

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あ!間違えたッ!ヤバ!(p・Д・;)アワワ・・・

こちらはお孫さんの“いしづかようと君”でした。
すみません。ウン探としたことが!

改めましてこちらがご子息の裕充さんです。

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↑もちろん左側の方ですよ♪
これは頼もしい!


「息子にはいつでも辞めていいよ。サラリーマンになれぇって言っているんさ」


斉藤さんご自身がやっていらしたことをご子息が継ぐということは、嬉しいことではないのでしょうか?


「自分で反対してやり始めた方が、途中で絶対ぶんなげねぇからいんだよ
その方が諦めないで最後までやるんさ」


“信念”ということでしょうか。


「私もバラを始めて6年はダメだったね。切れないし値段はとれないし、感激を覚えた浜田さんのバラのイメージには程遠かった」


今と何が違ったのでしょう?


「やることやっていなかったんじゃないかな。やっている内容も甘かったんだよ。仕事をしていないっつうことだよね。
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バラの生産は手間をかけないとダメ。昔は理屈だけで行動が伴っていなかったんだ。今は手間をかけるようになってバラを見る時間が長くなったよ」


最初の6年のうちに辞めようとは思わなかったのですか?

「挫折しそうになったことはいくらでもあったよ。技術も追い付かないし、稼げないし。
でも女房の協力と意地だけでやってきたんだ。

好きでやれれば一番いいんだけど難しいね。今の仕事が好きかっていったら、好きと言えない。まだプロになっていねんじゃねぇ」

日々バラと向き合いながら40年、まだプロになっていないのではないかとご自身を客観的に見る斉藤さんは、本当に仕事に厳しい方です。
ご自身で決めたからこそ、その選択に最後まで責任を持ち、日本一のローテという賞賛を得ても尚、ご自身のバラに満足することなく更に上を目指しているのです。


入り(始めたきっかけ)が甘いと生産は続けていけない”と斉藤さんは断言します。
そのくらい生産は厳しく大変なものだということが斉藤さんの一言一言から伝わってきます。
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生産に欠かせない資質とは何でしょうか。


「観察力だろうね。鋭くないといけない」


どこを見ているのですか?


「まず立ち姿全体を見て、バランス、花の大きさ、茎の1本1本や葉の1枚1枚に至るまで。
そして次に触ってみる」


何かおかしいと思ったらどうするのですか?


「ロックウールのpH値とEC値(※)(用語レベル★★★)をすぐ測るんだ。これでね」
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※EC値=Electric Conductivity:電気伝導度
溶液の中に溶け込んでいるイオンの総量を示す値。単位はミリジーメンス(mS/cm)。
イオンの量が多いと電気が伝わるのに負荷がかかりEC値が高くなる。
ロックウールの養液栽培において、肥料分が多くなると電気が多く流れる性質があるので、肥料分のコントロールにEC値を目安にする。
この数値が高すぎると、養水分の吸収が悪くなり、延いては根の張りも悪くなり、植物が傷むことが懸念される。

なにやら体温計のようなものが出てきました。

これをロックウールに挿してpH値とECを計測します。

「それで肥料や水の量を調整して、正常値に戻す。
pH値は5.5-6.5、ECは2くらい。
それからまた立ち姿全体をよく見て、触っての繰り返し」


それでもきちんと直らないことはあるのですか?


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「あるよ。その時は私の頭が三角になっちゃう。

バラは何年経ってもわかんねぇな」


斉藤さんが10年後に目指すものは何ですか?

「浜田さんに近いイメージのバラを作れるようになったらいいと思うね。
まだ全然追い付いていないけど」

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増え続けるバラの輸入品について


2010年度のバラの輸入品率はおよそ20%。(数量ベース)

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大田花きの取り扱いの中でも輸入品率高く、葉物、スプレーギク、カーネーションに次ぐ第4位。

このような現実を横山さんはどのように見ていらっしゃるのでしょう。


「“脅威”は感じないよ。
ケニアやインド、アフリカの生産者には日本のエンドユーザーのことまでは分からないでしょ。

例えば外国の人にソバとうどんの違いが日本人ほどよく分かると思う?」

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うーん。。。c(゚.゚*)。。。わからないでしょう、恐らく。

よほどの日本フリークでない限りは、全て日本の麺類は全てジャパニーズ・ヌードル!で片付けられるだろうて。


「あるいは桃と梅、梅と桜の違いが分かると思う?」


まず無理ですね。そうか。


「でも日本人ならわかるよね。日本人には言葉を尽くさなくても分かり合える独特の感性とか世界観ていうのがあるでしょ。

日本のマーケットに出荷するには、この感性や価値観を分かっているということだけでも大きな強みだと思うんだ。

それにエンドユーザーの声を聞きたいときにはすぐに聞ける。エンドユーザーが近くにいるというのはこれも一つの大きな利点なんだよ」


輪(りん)が大きくてボリュームがあるだけが良い物ではありません。もちろんそれらも評価に値するのですが、日本人はそれ以外の多くの評価軸をたくさん持っているわけです。

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横山さんはボリューム一本勝負ではなく、もっと精細なところで差別化しているのです。


「輸入品については、こっちでできないものを受け入れればいいと思っているんだ。

全体のパイの食い合いではなく、新しいものをどんどん提案してパイの大きさ広げてその中で棲み分けをしていくことが共存の道だと思っているんだよ」


斉藤さんも「バラは価値を決める構成要素が多く、許容範囲が広い」といいます。


花びらの形、色、輪のサイズ、香り、しなやかさ、展開するとともに変化していく表情。

バラはとても変化に富む花で価値基準が多様なので、輸入との差別化も有利なのです。



ヨコヤマ薔薇園、斉藤武さんの格言!

・ 初心貫徹。
  何を作るかは自分の選択。その選択の責任を全うし、生産を究めるべし!
  辞めたくなっても信念が支えてくれるでしょう。

  
・ 市場や生花店さんと絶えずコミュニケーションを取り、移りゆくマーケットのニーズをタイムリーにつかむべし!
  マーケットに近いところでの生産は大きなアドバンテージ。


・ 消費が日本人なら生産も日本人であれ!
  日本人の豊かで繊細な感性を理解できるのは日本人だからこそ。
  守備範囲が異なる海外品とはうまく棲み分けよう。
 


消費者の皆様へひとこと

<菅原文太チックな斉藤さんより>
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「私は皆様にリピートしてもらえるような花を作っていきたいと思っています。そのためには最後まで咲くバラをコンスタントに供給するようにしています。使ってもらえるかどうかは結果論。

皆様がご自宅で花を飾る場合には、その場所だけ配慮していただきたいと思います。エアコンの風が当たるところや直射日光が当たるところはせっかくの花の寿命を縮めてしまいますので、それだけは気を付けてください。
お花屋さんは延命剤を付けてあげてください」


<ダンディズム横山さんより>

「日本人男性は一般的にはシャイですが、奥様のお誕生日とか記念日とか是非バラを贈ってください。
バラの花保ちは限られていますが、バラ贈りの効果は長持ちします。費用対効果抜群です!」


横山さんのところは?


「毎日あげているから、効果は一生続くさ❤」

キャー(≧∇≦)!!!

なるほど、だからこそ(?)この風貌。

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ダンディやわ~゚・:,。(✿ฺ❂ฺ◡ฺ❂ฺ)゚・:,。 (←しつこい)

この横山さんが毎日奥様にバラをあげて効果絶大というのは説得力があります。


※文中の用語レベルはウン探が勝手に判断した用語の難易度です。

→基本中の基本!是非ここでマスターして♪

★★→花き業界常識の範囲内です。

★★★→ちょっとレベル高め? 頻出ではないが覚えておくといいかも。


■■■おまけ■■■
ところで・・・み・な・さ・ま♪
「バラ」の語源てご存知ですか?

なんと、バラはイバラの「イ」が抜け落ちてバラになったのだそうです。
イバラはトゲのある木の総称で「茨」「棘」「荊」などと書きます。


アバラではありませんよ。イバラです( ^ー゜)b   バラ


イバラのイが取れて花のバラ。
アバラのアが取れるとバラ肉のバラになります。
だいぶ微妙な違いではありますが、実際のモノは全く違いますのでくれぐれもご注意を!
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ということで、小欄の読者のみなさま、本年も1年大変お世話になりました。
蛇足半分の回が多いにもかかわらずこのコーナーが続いているのも、みなさまが支えてくださっているお陰です。
深く深く感謝申し上げます。ありがとうございます。

2012年もこのコーナーを楽しんでご覧いただけるよう精いっぱい取材してまいりますので、どうぞ引き続き宜しくお願い申し上げます。
また来年お会いしましょう。


I wish you a merry merry christmas and a happy new year!

See you next year!!!

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<写真・文責:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


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