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2012年1月12日

vol.90 ハートファーム(群馬県)

噂によると、初期投資がかかることから新規参入の障壁が高く、敬遠されがちな鉢物コチョウランの生産に、近頃あえて取り組まれた生産者があるという。

その名をハートファーム

むむ・・・・?
その評判は如何に?


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ハートファームさんのヘヴィーユーザーである大田花き買参人Aさんに伺ってみると・・・

「花の並びがいいんだよね。全部上を向いている。
形もとても使いやすいんだ」
とおっしゃいます。


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またヘヴィーユーザーBさん(同じく大田花き買参人さん)は・・・

「非常に仕立てがしっかりしていて、他の産地さんに比べて固く仕上がっているよ。
支柱にもこだわりがあるようで輸送中にグラグラ揺れることがないから、お客様の元にも信頼の商品を届けることができる。

1輪1輪が大きく並びもきれいだし、背も高い。ボリュームがあるんだよ。
しかもツボミの数にもこだわっているみたいで、どこをとっても安心の商品なんだ。
私たちのお客様にもハートファームさんのリピーターがいらっしゃるくらいなんだよ。
エンドユーザーの声をハートファームさんにフィードバックすると、すぐに反映されたものを出荷してきてくれるんだよ」


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はたまたヘヴィーユーザーCさん(大田市場内の仲卸さん)は・・・

「肉厚で大輪!花の並びも良いし保ちも良い!
見た目もボリュームがあって品質が揃っているから売りやすいんだよね~。それから、木札を立てるための輪があってね。これが便利でお客様にも評判がいいんだ!

しかもグッドデザイン賞とったでしょ。すごいよね。うちはハートファームさんをメインで売っているよ。
大ファン❤❤❤」


ぬぁんと並々ならぬ高評価!!

新規参入されたハートファームさんがこんなにも高評価と信頼を得るなんて、どういうことでしょうか。

え?しかもなんて??Cさん、今グッドデザイン賞とおっしゃいましたか??(゚ロ゚;)エェッ!?

そうなんです。なんと2011年にこの花き業界で誰もが狙うグッドデザイン賞を受賞されたのです!

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※グッドデザイン賞とは?
1957年に通商産業省によって設立された「グッドデザイン選定制度」を継承し、1998年より公益財団法人日本デザイン振興会が主催する日本で唯一の総合的なデザイン評価制度。


なんと花でグッドデザイン賞??
花の姿をカッコ良く仕立てて受賞されたってことか?
う~ん、わからない(+_+)

新規参入でありながら高評価・・・だいたいコチョウラン生産て難しいんじゃない??高級品だし・・・おまけにグッドデザイン賞ってどういうこと??と頭が混乱しかけているかもしれないみ・な・さ・ま!


お待たせいたしました。ウン探の出撃です!
ε=ε=ε=(^∇^)ノ  イザ!


じゃじゃーん。やってきたのは群馬県邑楽(おうら)郡大泉町。
出ました“鶴舞う形の群馬県!”ウン探読者の皆様にはもうおなじみ(?)のこのフレーズ。

tsurumau.jpg←上毛カルタの「つ」

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周りを人口40万人級の市に囲まれながらも、いずれの市にも合併せず、人口27,000人ながら孤奮闘する邑楽郡。


ここ位置するハートファームこと三洋ハートエコロジーさんはただのコチョウランの生産企業ではありません。
(「ハートファーム」が出荷名で「三洋ハートエコロジー」が企業名です)

三洋ハートエコロジーさんは三洋電機の特例子会社(※)。

※特例子会社
「従業員に占める障がい者比率が20%以上」など一定の条件を満たす子会社のこと。障がい者雇用促進法により特例子会社の従業員を、親会社の障がい者雇用率の計算に含めることができる。
従業員54名以上を雇用する会社は障がいを持っている従業員を全体の1.8%以上雇うことが義務付けられている。


グッドデザイン賞として評価されたのは、コチョウラン生産の腕前や仕立てデザインではなく、そのビジネスのしくみ構築なのです。


うーん、仕組み作りがグッドデザインてなんだかピンときません「(゚ペ)?
ご案内くださったのは、
三洋ハートエコロジー群馬事業所の所長の堀野友作(ほりの・ゆうさく)さん
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御社がグッドデザイン賞を受賞された理由はどのようなことでしょうか。


「簡単に言うとね、
“障がいを持つ社員が主役になれる事業をデザインした”ということなんだ。


その結果、
バラつきの少ない高品質な胡蝶蘭の通年出荷体制を構築したことと、

高品質の商品を通年で出荷できる体制を作ったという成果まで含め評価されて受賞したんだ」

そう、三洋ハートエコロジーさんは主に知的障がいを持つ人を雇い、ビジネスの戦力としている企業なのです。雇用人数およそ50人。


一般的に知的障がいを持つ社員の雇用に困難があると言われる点は以下のような理由によります。
① 成長に一定の時間がかかる

② 技術の習得に時間がかかる、変化の対応に課題がある


それを季節環境の変動で大きく左右されやすい農業の生産分野でどのようにクリアしたのでしょうか。
なにしろ今までウン探が伺った優良産地の皆様は口を揃えて、

農業は毎年違う。昨年と同じことをしていたのでは絶対にうまくいかない。
一生勉強だよ・・・。植物をよく観察してチョットした変化に気づき、柔軟に対応することが必要」

とおっしゃいます。
そのような特性のある農業において、一般的に変化の対応に課題があるとされる状況でどのようにビジネスをデザインしたのでしょうか。

ではこれらの秘密を探りにいざ圃場へ!
(う~ん、今回のウン探はなんだかいつもと違うぞ!)


こちらがハートファームさんの圃場です。
どこに秘密が隠されているのでしょうか。
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「このビジネスが成功した背景には、業務を細分化したことにあるんだ。

例えば、コチョウランの苗から出荷までの工程が3段階あるとするよね。
1. 栽培管理
2. 仕立て
3. 出荷作業

普通の生産者さんは、1を1-2人、2を1人、3を1人、あるいは1から3をぜ~んぶを1人でやるとする。

でも、当社は1の栽培管理の中の業務をさらに細分化して、その一つ一つの業務に一人の担当者を付けるんだ」

ココでコチョウランの苗導入から出荷までの業務フローの紹介です( ^―゜)b

【業務フロー】
1. 栽培管理
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2. 仕立て
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3. 出荷作業
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例えば「水遣り」では「蛇口に目印を付け、1箇所に何秒間水やりを行う」など細かく決めています。
ピンクの一連の流れの中で、色の濃い部分はパートさん、それ以外はすべて障がいを持つ社員の方が受け持っています

こちらは②仕立て作業のうち、底板入れをしているところです。
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このように発泡スチロールを細かく刻み・・・
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鉢の底にギュッギュッと敷き詰めます。
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敷き詰めた発泡スチロールを鉢に押しつけるように潰しながら鉢底に固定していきます。
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そして最後に鉢穴をふさがないようにドリルで穴を開ける。
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コチョウランを解体したことのある方はご存知かもしれませんが、コチョウランの鉢底には多くの場合3-4cm角のキューブ状にカットされた発泡スチロールが入っています。

しかーしッ!

ウン探はここでハートファームさんのチョット差が付くココが違う!ところを見つけてしまいました!( ^ー゜)b

よろしいですか、もう一度申し上げます。「通常はコチョウランの鉢底には3-4cmの角状発泡スチロールがゴロゴロと入っています」

・・・ところが、ハートファームさんの鉢底は発砲スチロールの空気を抜くように底面に押し付け固定し、逆さにしても落ちないくらいまでギュウギュウに敷き詰めるのです。もうこうなると発泡スチロール自身は陶器鉢の一部と勘違いするでしょう。

どうしてここまでしっかりと貼り付けるように潰すのでしょうか。


「支柱とか木札とか立てたりするのに、この方がしっかり固定されるでしょ」
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なっるほどぉ~。
発泡スチロールの上にコチョウランの株を入れ、その上に支柱など色々挿すので、輸送中にグラグラと倒れることのないよう、しっかりと土台を作っているわけです。品質優先。決して妥協はしません。

このように、出荷までの作業を細分化し、1人の人が同じ作業を何度も何度も繰り返すことにより、誰でもそうであるように作業を覚えるのも早くなるし、失敗からの学習能力も高くなるのです。三洋ハートエコロジーさんの場合は知的障がいを持つ方が多いのですが、そのような方たちの力をうまく引き出せる方法といえます。


「“職人芸から分業へ”作業を単純化することで、仕事を覚えるのも早くなる。熟練度が早い分、作業も早くできるようになるんだ。いわゆるセル型の逆ね」


セル生産方式とは、1人、もしくは少人数で製品の完成までを行う生産方式。ライン生産方式と比べると、1人が受け持つ仕事の範囲が広いのが特徴です。

つまり、ハートファームは難しい農業生産の分野で、その作業を細かく分業化したライン生産方式にデザインしたことが大きな功績に繋がったのです。


それではチョット社員さんにインタビューしてみましょう!

こちらは馬場悟(ばば・さとる)さん。
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コチラで働いて何年になりますか?
「5-6年くらいです」

今はどのような作業をされているのですか?
「出てきた芽を誘導するための支柱を1鉢ずつ挿しています」


「挿す」と言ってもただ挿せばいいというものではありません、もちろん。 
大きな葉の中にこっそりと出てきた新芽を見つけて、その隣に沿わせるように、但しミズゴケに挿すだけでは支柱が倒れてしまうので倒れないようにギュッと深いところまで、その時に根を傷つけてはいけないので、根に当たらないよう十分注意しなければなりません。
長い芽については支柱を挿して、赤い洗濯バサミ(といっても専用のもの)で固定していきます。
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良く拝見していると・・・どれどれc(゚.゚*)
1つ7秒くらいで済ませてしまう素早さ!
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1日でなんと1,300-1,400鉢くらいは作業をやってしまうそうです!スッ、スバヤイΣ(゜◇゜;)
この手つきは熟練の技!


このお仕事をしていて何が大変ですか?
「芽をうっかり折ってしまったりするので、折らないように気を付けて、慎重に丁寧に作業を進めていく必要があります。
ほかにもやることも多いので結構忙しいですね」

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うっかり芽を折ってしまったらどうするのですか?・・・アタシなら知らんぷりダナ(-.-)


「報告します。」
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うわっ!素晴らしい。会社員の鏡です!!
アクシデントのときの対処方法もきちんと周知徹底されて、何かあったときは農場長(後ほど登場)に報告するようになっているのです。


このお仕事をやっていて楽しいと感じることはありますか。

「楽しいというか、地道な作業なのでコツコツとやっています」


確かに分業化した業務を何度も繰り返し行うわけですから、とても地道な作業ですよね。
では仕事以外では楽しいと感じることは何でしょうか?好きな芸能人とかいらっしゃるんですか?

「AKB48です!」

キャハ(≧∇≦) 実はアタシもケッコウ・・・!!
何の歌が好きですか?

「ヘビーローテーション!」


あ、ところでこの作業にもローテーションはあるのですか?c(゚.゚*)

「あるよ!ヘビーじゃないけど」

とすかさず堀野さん。


「ローテーションをしてできるところを増やしていくんだ。それが一人一人のスキルアップに繋がる」

なるほど、地道な繰り返しの作業の中でも個人のスキルアップと成長を促しているわけですね。


ところで、さきほどから圃場を拝見していると目を引くこれらの木工製品は何でしょうか。
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治具(じぐ)っていうんだ」


じ、治具???(・◇・ )ナンダロ?


治具とは加工や組み立ての際に方法を指示、誘導するための器具の総称です。
もともとは英単語のjig(ジグ=装置)からきたものでこれに漢字を当てられました。
この治具がまたハートファームさんで大活躍のスーパーツールなのです。


例えば・・・
コチョウランのカーブを決めるこの角度。このためには角度を作る支柱が必要です。
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支柱がなければ、コチョウランはまっすぐ上に伸びてしまいます。
これを「誘引」といって、花芽が伸びる前にこの支柱を挿しておきます。これに合わせて伸びていく花芽をうまくカーブさせていくと、ゴージャスなコチョウランができあがるので、コチョウランの相棒とも言うべき必須アイテム。
出来上がったコチョウランがかっこいいかどうかもこの誘引する支柱のでき具合にかかっているといっても過言ではありません。
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ここハートファームさんにおいてはカーブが出来上がった支柱を仕入れて挿すのではなく、大量カーブ製造マシンのような特別な機械にやってもらうわけでもなく、自分たちでカーブさせて支柱を作るのです。
ところが、誰がやっても100本曲げて100本同じ角度にするなんて神業、できるものではありません。。。よね?フツウ。
しかしこの治具が可能にしてしまうのです!しかも複数の人が何百本やっても丸っきり同じ角度に!
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だから、難しいとされるコチョウランの仕立てもこの通り!
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きれいに揃った角度で見事なほどに並んでいます。
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スポンジは花が正面に向くよう揃えているものです。
これがヘヴィーユーザーさんたちが絶賛していた「花の向きが揃っている」ワケだったのですね。
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スーパー治具は、複雑な作業のため人によって差が出てしまうような作業を、誰でも均一にできるようにする秘具だったのです。

なんと!∑(゜◇゜;)


「まだまだあるよ!」と堀野さん。

例えば その2・・・
むむム?何を作っていらっしゃるのでしょうか。
何の迷いもなく1本のまっすぐなワイヤーを、スイスイと巧みに且つ華麗に治具を動かして折り曲げています。
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コチラが完成品。
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何のツールが想像できますか?このようなワイヤー、コチョウランの製品に使っていましたっけ??
(アタクシは答えを教えていただくまで分かりませんでした^_^;ナハ)

正解はこちら↓
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そうです!なんとこちらはコチョウランの鉢に挿す木札を立てるためのサポートツールなのです!


もちろんこちらはハートファームさんならではのオリジナル商品。
これもお客様からのご要望にお応えしようという一心で作られたアイディア商品なのです。

なんてハートフル!(≧∇≦)

これにより、利用者は簡単に木札を立てることができ、なおかつ配達中、車の中でグラグラ揺られた挙げ句に倒れて花を傷つけることもなく、最後まで直立不動で最終のお客様の元に届けることができるのです。
お祝いに使われることがほとんどですから、木札が倒れたら縁起悪いし!
ヘヴィーユーザーCさんがおっしゃっていた「木札を立てるための輪」とはこのことだったのですね!


これまたなんとユーザー目線なアイディアなのでしょう。
あーほんと、ハートを感じる・・・hearts2.bmp


まだまだあります。

例えば その3・・・
こちらはただの机ではありません。
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ではなんでしょう??(゜.゜)??
ここでデモンストレーション!

すぐ後ろの棚に置かれていた段ボールを華麗に取り出し、速やかに広げ机の上に被せる。
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あっちを折って、こっちを折って、テープで留めて、机をクルッと回して、あっちとこっちを折り曲げて・・・
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鉢を固定する内箱をセットして・・・
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ハイッ、完成!
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コチラの治具は出荷用段ボールの組み立てツールだったのです!


こうして箱を組み立てるのも本来は一定のスペースが必要。以前は厳寒期でも外の広いスペースを使って組み立てていたそうですが、この治具の開発以来、清潔な施設の中で仕事に集中して行えるようになりました。

作業をする方ご自身が大きく移動するのではなく、箱をくるくる回すことによって、スペース使用も作業もグン↑と効率アップしたのです。しかも、この治具一台で大きい箱も小さい箱も両方簡単に組み立てられるんですよ!

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この天板を差し替えるだけで「大」仕様、「小」仕様といとも簡単に作り上げてしまうのです。
瞬きをしている間に、パパッと手早に!

その上、・・・ご覧ください・・・テープを納めるところやカッターを挿しておくところも作られており、現場が散らからないように、物がなくならないように、ひいてはそのことによって事故に繋がらないように、細部に至るまで心配りがされているのです。

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作業者の一挙手一投足が見えているかのようなこの配慮。
徹底的に作業をする人目線で作られています。これはもう作った方の優しい気持ちを感じずにはいられません。

一体どなたが作っていらっしゃるのでしょうか?

三洋電機のOBさんたちが自発的に作ってくれたものなんだ。
コチラから頼んでいるわけではないんだけど、作業現場を考えて“これがあったら便利なんじゃないかな”という一心で作ってきてくれるんだよ」

な、なんとOBさんたちによる愛情のこもった手作り治具だったとは!
なんと温かい(T_T)!!!(涙涙)


作られているのは治具のみならず、圃場内の整理整頓箱、梱包資材の収納ボックス、更に使いやすくなったエアーカッターなどなど。

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DSC02117.jpg←こちらは出荷時にコチョウランの花に被せる京半紙をかけておくものです。


良く見れば角はきちんと丸く面取りされています。
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使う人のことを考えて行き届いた配慮はOBの方々の心(ハート)を感じます。
あ、だから“ハートファーム”っていうのか?

ハートファームさんの圃場はこれらの温かい心を感じる治具などの木工製品によって支えられているといっても過言ではないでしょう。

これらの1つ1つに至るまで、お客様と作業をする人のために考え抜かれたアイディアグッズなのです。

圃場内の整理整頓も完璧!
「後で片付ければいいや!」ではなく、また気付けばすぐに掃除ができるようゴミが散らからないような仕組み作りがしてあり、その成果は至るところに!
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全く無駄がありません。
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それにしてもこのコチョウランという選択はどのようにして生まれたのでしょうか。
私たちは「ハートファームといえばコチョウラン」という現在の結果を当たり前のように受け止めてしまっていますが、ココに辿り着くまでにいろいろと大変な思いをされたのではないかとお察ししますが??

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「そこなんだよ。
1998年の設立当初は親会社が準備した“軽作業”中心で、元々とは観葉レンタルや除草、花壇苗の植栽などを行っていたんだ」

そのような業務からコチョウランの生産販売まで発展するとはすごいですね。
どのような経緯があってのことでしょうか。

堀野さんによると軽作業で始め、また当初はグループ企業や社員さんたちを主なお客様としていましたが、子会社の独立志向が強い企業文化の三洋電機グループにおいては、この三洋ハートエコロジーさんにおいても例外ではなく、「いや、ならぬ!外に売っていかねば!」と設立以来自社で業務を開拓してきました。

「特例子会社といえども赤字厳禁!」と強調する堀野さん。

満を持して2004年に600坪(150坪×4棟)の栽培施設を建設しました。

・・・600坪ってどのくらいでしょう??

「コチョウランでいえば年間50,000株。5本立ちの鉢でいけば10,000鉢の生産能力があるよ」

wow!!∑(゜◇゜;)

「最初はカトレアやファレノのミディなどを手掛けたりしていたんだ。大輪のコチョウランは敬遠していたんだよ。
最も高価な商品とされているし、それだけに品質を厳しく問われるし、新参者としての信頼獲得にも時間がかるでしょ。

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だけど、カトレアやミディがなかなかうまくいかなくてね。だからといって大きな施設もあるから無駄にするわけにもいかないし、生産を放り出すわけにもいかないし、前向きになにか作らなくてはいけない。そこで2008年に辿り着いたのが大輪コチョウランだったんだ」


今まで敬遠していたコチョウランに背水の陣で臨んだら、それが正解だったわけですね。
成功した理由は何でしょうか。他のランと違う点は?

その理由は次の通り。

① 適切な品種との出会い
高度な生産スキルがなくても大丈夫とされるV3というコチョウランの品種に出会えた。

② 業務の確保
V3の苗を月2回定期的に、1年を通して入荷する。(→サイクルが早い。失敗しても軌道修正しやすい→熟練度も早い)
このことにより周年、安定して同じ業務を一定量を確保できる

③ 変化が相対的に緩やか
季節変動・需要変化などが少ない

④ 業務の平準化が可能
業務ステージを分解することで、平易な業務に転換できる


このことにより、知的障がい者雇用に困難があると言われることをクリアし、高い品質をキープしながら通年出荷することができるのです。

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信用が大事だよね。
“いつ買っても同じ品質”と安心を提供することが信用に繋がる。

だからいつも80点ものを出荷することを心がけているんだ。たまに120点、たまに40点ではダメなんだ。
最高級ではなくても安定的に80点。信用獲得には時間がかかるけど、ビジネスの仕組み作りは往々にしてそうでしょ。時間をかけてでもコツコツと80点を積み重ねてあてにされる生産者になるんだ。


いくら特例子会社といっても株式会社だから収支責任を負っている。そのためにはまず品質・コスト・納期をしっかりしていかなくてはいけない。QCDね

Q=Quality
C=Cost
D=Delivery

そう!こうしたしっかりとしたディレクションがあるからこそ、三洋ハートエコロジーさんの事業はうまくいっているのです!

だからこそこのラベル!=信頼の証です(80点保証!)


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「日本一デカいラベルです」

たしかに!
少なくともコチョウランにおいてはそうですし、ほかの鉢ものでもここまで大きいラベルは見たことがありません。

「広く多くの人の目につくことが信頼獲得の第一歩でしょ」

こちらのラベルもあります。最近作りました。
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コチョウランの生産者さんは顔が見えないことが多く、野菜などでは「私が作りました!」的によく写真が載っているのですが、確かにコチョウランの商品ではそういったものを見たことがありません。

個人名が付いたわけでもない「ハートファーム」という産地名で出荷すると、なおさらどのような人が作っているのか分からないからと、弊社社長磯村のアドバイスにより作成されました。

このモデルになっているのは↓ナント・・・!

DSC02061.jpg「わたしです」    ワオw(゚o゚*)w!!


農場長の丸山剛史(まるやま・たけし)さんです。
こちらの農場長兼モデルの丸山さんがこれまたキーパーソンとなっています。

「社員と休憩時間にはコミュニケーションをとったり、仕事では花に対する接し方を伝えるようにしています。
1株1株丁寧に扱うようにと。何度も繰り返し伝えて、できているかどうかをチェックするんです。気長に何度でも何度でも」

DSC02065.jpg←報告があったので、それに対する指示をしています。注意しているわけではありません。

丸山さんのような気の長さはどこの職場においても重宝することでしょう。

「わたしも時折大田花きに行くんですよ」

え?本当ですか?

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「セリの流れを見たり、他産地の商品品質をチェックしたり、何よりお客様とのコミュニケーションのためにね。


安定した品質で周年出荷する。個性的なものよりも、万人に受けるもの、お客様の使い勝手の良いものを供給するというのが私たちの商品コンセプトですから、そのために広くお客様の声を集めに行くんです」

丸山さんにとってコチョウランは商品というよりも、むしろ“コチョウランはお客様とコミュニケーションをとるための手段”といいます。そのくらいコミュニケーションを大切にしているということでしょう。






う~ん、でもまだどうしてもひとつわからないことが・・・(-"-;) ??

仕組みは作れても、栽培技術やノウハウはどのように伝授されているのでしょうか。
買参人の皆様に高評価をいただくだけの高品質はどのように生み出しているのでしょうか。
専門的な知識が必要なはずです。

どなたか技術指導している方がいらっしゃるのですか?


「アートグリーンさんにお願いしているんだよ」


アートグリーン㈱さん(本社:東京)といえばコチョウランの卸売販売の代名詞というくらい有名な会社です。コチョウランばかりでなく広くフラワービジネスを手掛ける業界の大企業です。

生産もマーケットを知り尽くしたコチョウランのプロともいえるアートグリーンさんに栽培指導をお願いしているのです。

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取材当日になんとアートグリーンの伊藤さんが圃場にいらしていました!
“もしかして、ウン探のためにいらしてくださったのかしらン??” ウフッდ(☣‿☣♥)ノ キラキラ★

「たまたまです」


あ、これはどうも勘違いして失礼いたしましたm(_ _)mスミマセン!


分業化して生産の仕組み作りをしたとしても、コチョウランは農産物であることに変わりありません。日々表情を変える生産物に対しどのように対処して、お客様のニーズにあった品質に高めていくのか、毎月こちらの圃場に赴いては指導されているのです。

ハートファームさんの生産の特徴は何ですか?

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伊藤さん「じっくり時間をかけて生産するということかな。
一般的には苗を入れてから5か月から5か月半かけて出荷する。人によっては4か月半くらいで開花させて出荷する人もいるんだけど、ハートファームさんは6か月半から7か月かけてじっくり栽培しているんだよ」


堀野さん「そのくらいじっくり時間をかけて、良いものを出荷するようこだわっているんだ。その方が大輪になる。
こだわりはシステムの構築だけでじゃないんだ」


なるほど、通常の生産よりさらにじっくり時間をかけることによって、ヘヴィーユーザーさんたちがおっしゃっていた肉厚・大輪・花保し良好の三拍子が揃ってくるのですね!


そう話されるお二人の横で、地道に作業を続けられる社員の仁木聖史さん。

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何をされているのですか?
「鉢に挿すタグに印を付けています。
苗の種類によって印を付けているんです」

堀野さん「タグの色は入荷したタイミングによって色分けをし、3.5寸ロング(背が高い)の苗にはマジックで印をしているんだ。
こうやってロット管理をしているんだよ」
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あ、ほんとだ。苗によって挿してあるタグの色が違う。


「出荷までのリードタイムを管理することができるんだ。これがじっくり時間をかけて栽培できる秘訣でもある。

3.5寸ロングの株には力があるからね。さらにその株をじっくり育てることよって花保ちが良くなるんだ」


業務終了後には、丸山農場長兼モデルを中心にマネージメントに携わる方々と伊藤さんとでミーティングを行います。
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立って行うからといって5分で終わる形式ミーティングではありません!今日の反省と今後の生産に対する目線合わせなど、報告や意見、質問が出されに対する伊藤先生からの回答や丸山農場長兼モデルの方針決定など、運営に携わる皆さんが全てを把握し同じ認識で進めていくための大変重要なミーティングなのです。

このような日々の積み重ねがハートファームさんの品質を生み出していたのですね。

ヘヴィーユーザーのAさんに“ハートファームさんが障がいを持つ方の能力を生かす仕組みを作って出荷されているのをご存じでしたか?”と伺ってみました。すると・・・

「えッ!?∑(゜◇゜;)
全然知りませんでした・・・」

実はハートファームさんの商品を頻繁にご利用になっていても、そのことをご存じない方は結構いらっしゃるのです。品質に対するこだわりや完成度から、知る由もなかったといったところでしょうか。
ハートファームさんは決して障がい者雇用を前面に出して販売されているのではなく、あくまでもそのPRポイントは“ぶれない高品質”。社会品質・商品品質・市場品質においてお客様に支持されているのです( ^ー゜)b







2008年のリーマンショック以降、この花き業界でも法人需要が一気に落ち込み、とりわけ法人需要に支えられている要素の大きいコチョウランにはその売れ行きに大きな陰りを落としました。
そのような不安要素やリスクに対してはどのようにお考えでしょうか?

コチョウランには贈答用として選ばれる理由があると思うんだ。ほかの花にはない豪華さや華々しさとか、丈夫とか、手入れが簡単とか代品が利かないとか。
コチョウランはギフトの王道だから、何らかの時代背景があって一時的な顧客離れがあったとしても、私は悲観していないんだ」
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最終ゴールはどこにあると思いますか?

お客さまと従業員を大切にしながら、生産と販売は愚直に地道にコツコツと続けていくのみ。

どの企業にも大きく依存することなく、福祉としての意味合いだけではなく株式会社として継続的に収益を上げ本当の意味で自立する。赤字厳禁!農業のニューフロンティアになる。

走り続けるには環境の変化にも対応していかなくちゃならないし、多くのリスク要因に囲まれた中で株式会社としてきっちり収支を合わせていくというミッションを完遂するということかな。

そのためには、地道にコツコツやることくらいしかできないんだよね。
何か大きなことをドカーンとやろうとか、このビジネスで一発当てよう!とかそういうことはできない。マーケットを無視したフルラインナップ戦略とかプロダクトアウトとかでもなく、私たちは右往左往せずに1つのことを愚直に続けていく。むしろ愚直であることがアウトプット力に繋がると思っている

大切にしていることは何ですか?

「そうだねぇ、最終的には・・・ウーン


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笑顔だな。

お客様と仲間の笑顔。そして私たちは株式会社なのでステークホルダーの笑顔(*^-^*)ニンッ!

仕事は楽しいものだと思っているんだ。
私たちはふつう“職業選択の自由”があるでしょ。どういう職業を選択して、人生が楽しいかどうかっていうのも全て自分の責任だよね」

自由の中に生きているとそのことを忘れかけていましたが、そうでした。
私たちには職業選択の自由を持っていたのでした。今の自分は、自身でこれまでに選択を重ねてきたことの結果ですね。それはもちろん自分の責任おいてです。


「でも障がいという個性を持っているだけで職業選択の幅が一気に狭まって、楽しくあることすら制限がかかってしまうことがある。障がいを持っている人が選べる職域を広くして少しでも楽しく生活してほしいと思うんだ。


障がい者手帳を持っていても、自分の能力を最大限に生かせて、誰よりも楽しく仕事をしてほしい
また、こちらとしてはそのような機会を提供して、仲間のみんなが自分を成長させてもらえればいいなと思う。
お客様の笑顔が必要条件だとしたら、仲間の笑顔は十分条件!」

なるほど堀野さんと三洋さんの思いはホンモノです。親会社と三洋ハートエコロジーさんの社会に対する貢献度は大きいですよ!

堀野さんご自身は?

「私は実はこの仕事をする前はIT業界にいたんだ。新しい商品を世の中に出す仕事をしていてね。
だけどある日ふと向いている方向が違うと思って今の仕事に就いたんだよ」


前職のIT業界でもかなりご活躍だったと伺いましたが、堀野さんは以前の実績に固執することはありません。全く所長ぶったところがなく、従業員の皆さんにもとてもフレンドリーに話しかけます。
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「だってみんなの声を聞かせてほしいしさ。偉そうにしていたらみんなの声を吸い上げることはできないじゃない。
むしろチャラ男と呼んでほしいさ」

キョエーーーー∑(゜◇゜;) 堀野さんが目指していたものがチャラ男だったなんて!
いえいえ、あえてそのようなキャラクターづくりをされるからこそ、所長さんになられても尚、皆さんがきさくに堀野さんの周りに集まり、幅広くコミュニケーションを図っていらっしゃるのですね。
オープンマインドで誰とでもフレンドリーに接する堀野さんのご尽力あってこそのハートファームさん。

このような数々の地道な活動を積み重ねてきたからこそ、グッドデザイン賞受賞の際の主催者からのコメントはこの上ないものでした。
以下は主催者からの公式コメントです。

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「頭でっかち、コンセプト倒れになりがちな障がい者支援プロジェクトの中で、地に足がついた仕組みを構築している。
また花市場の中でコチョウランは様々なお祝やギフトに頻度高く、四季に左右されずに出て行く商品であり、テーマにこのコチョウランを選んだところに基本となるマーケティング能力を感じさせ、ビジネスとして成功する大きな要因となっていると思える。障がい者にとって本当の意味での支援システムとして評価できるという活動である」

まさに三洋ハートエコロジーさんの活動主旨を深く理解して、高く評価されたと言っていいでしょう。
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世界に冠たる電機メーカーならではの特長が随所に見られるビジネスモデルはさすがですね。


人生や企業の歴史はよく「」に喩えられます。

しかし、「みち」には色々あります。

三洋ハートエコロジーさんのビジネスモデルを「みち」に喩えるなら、一つ一つの作業を分解して繋げ出荷までの径(みち)を作り、これを繋げてその径の最後に商品のコチョウランたちは出発の途(みち)に就きます。
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このビジネスは、前人未到の未知(ミチ!)の世界を切り拓き、そこで働く人々がよりよく生きるための道(みち)を創造し、ひいては他業種においても進むべき路(みち)を指し示しているようにも思えます。

さまざまな「みち」を切り拓いたところに社会における大きな功績があると感じました。
グッドデザイン賞も納得の受賞。企業としての価値や存在意義に大きなものを感じます。

分業化された作業は線路の枕木のように径を作り、その上に敷かれたレールによって商品が旅立つ。
果てしなくどこまでも続くその先にあるものは・・・なんだか線路のイメージとも重なってしまいました。
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★ハートファームさんの格言!

・ 顧客目線で品質重視!
大輪・肉厚・花保ち良好の花に、揃った花向き、揺られても倒れない株。お客様の木札も倒れません!ハートファームの信頼も倒れないよう、いつも同じクオリティを提供します。

・ 職人芸から分業へ、セル生産方式からライン生産方式へ生産の仕組みを構築せよ!

・ ハートファームは、まさに心(ハート)の行き届いたファームであったhearts4.bmp
 圃場中どこに行っても、何を拝見しても、誰とお話をしていてもハートを感じます。

・ なんといっても治具と分業がハートファームをハートファームたらしめるキーワード!

・ 憲法第22条 「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転、および職業選択の自由を有する」!
  日本国民よ、自由を享受し、自らが活躍できる場を模索すべし!Live your life!です。

  三洋ハートエコロジーさんからのメッセージを感じます。




★堀野所長からお客様へひとこと

「本来のコチョウランの魅力を皆様にお伝えしていきたいと思っています。

経験不足なところもありますので、日々研鑽を積んでいきたいと思います」




★丸山農場長兼モデルからお客様へひとこと

「いつもありがとうございます。

1株1株愛情を込めて栽培していますので、末永く宜しくお願い致します」


★堀野所長から丸山農場長兼モデルへひとこと

「青春に過ちはつきもの!気合いを入れて過ちをしろ!」

ん??
あは~^_^; ここはあまり深入りしないようにしましょう。お二人のお話ということで。



<写真・文責:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


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