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2012年2月17日

vol.91 四国のエピデンドラム 前編 ~中澤蘭園~

今、東京ドームでは世界ラン展の真っ最中!

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↑こういうの、“春蘭満”ていうのかな。。。


ウン探では前回コチョウランを取材したところではありますが、このラン展ブームに乗り、引き続きランの産地を探検したいと思います!


やってきたのは南国市!
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いかにも暖かそうな響きのところですが、日照がある分、放射冷却により南国市でも朝の気温は結構低い・・・取材当日空港でマイナス2度∑(゜◇゜;)
ヒエ~ッ
“南国”市なのにっっ??
南国市って一体ドコッ?


南国市とは高知県で、高知市の東隣にあります。

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ラン展は東京ドームですが、ここ南国市でドーム型のエピデンドラムとシンビジウム(こちらはドーム型ではありませんが)ご出荷下さっているのは
中澤蘭園の中澤速夫さん
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(奥はご子息の佑介さん)


早速、圃場拝見です!いざ、お邪魔しま~す!
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よくみるとフラワーネットを使っているんですね。
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「エピデンも鉢物の場合はワイヤーでタガをはめるでしょ。2段くらい。
切り花の場合はこのフラワーネットがタガ代わりになるんだ」
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なるほど、これがあれば花が倒れずまっすぐに立つのですね!

「そうそう、フラワーネットを使わずに水をたくさんやったら全部ベターーーーッと倒れてしまったことがあったけどね!」


フラワーネットが果たす役割は大きいのですね。


「エピデンは水が足りなくなると早く咲いた花からダメになるから、球状に仕上がらないんだよ」

そうなのです、みなさま!中澤さんのエピデンは大きな球状で出荷されることで、市場から高い評価を得ているのです。


普通のエピデンはこんな感じ↓
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合わせてあるゴッドセアナムの大きさと比べていただければ、およそどれほどの大きさかはイメージがつくかと思います。
花は上向きで、球状にはなっていません。

それに対し、切りのエピデンのカテゴリーを超えて、新しく中澤さんから提案されたのはまるで球を描くようなエピデン!

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「潅水が多すぎるとシミになっちゃうでしょ。この水やり加減が重要なんだ」

なるほど、大きなドーム型のエピデンを作るには水やりのさじ加減が一つポイントのようです。

「最初の1輪が咲いてから球状になるまではとても時間がかかるんだ。何週間も何か月も・・・!

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その間には病気が出るかもしれないし、花保ちが悪くて先に咲いた花は枯れてしまうかもしれない。さまざまなリスクを抱えながら球状になるまで管理する。

だから、生産者として“悪くなる前に早く出荷したい”と思うのは必然の心理なんだよ。その方がロス率も下がるわけだし。
そのリスクを考えながら回転率良く小輪や中輪で大量出荷するか、球状になるまで管理して大輪を出荷するかはそれぞれの生産者の考えや経営方針によるんだ」


なるほど、技術もさることながら、大輪の球状に作るかどうかは産地さんとしてのポリシーがあるのですね。
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エピデンは葉も幾何学模様のようでこれまた美しいという特徴がありますが、切るときに注意することはなにかありますか?

「出荷のために切るときは、少なくとも下葉2-3枚を残すんだ」

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どうしてですか??丸坊主にしちゃうとどうなるのですか?←愚問?


「植物は花を切っても葉で仕事しているからね。光合成するために葉を残しておかなくちゃいけないんだ。
そして栄養がバルブ(※)に蓄えられていく。
そうすると次に出てくる芽はとても元気で良質なんだ。
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球状にしたときに輪の大小は品種特性とバルブの力によるところが大きいからね」


※バルブとはエピデンの株を作る根元の部分です。

なるほど、丸坊主にしちゃうと光合成できなくなって、植物体の力がなくなるわけですね。
エピデンの足元をよく見ると、なにやら土でもロックウールでもなく木のチップのようなものを使っています。
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これをバーク(樹皮)と言い、松や杉、ヒノキなどが原料となっています。中澤さんがバークを使ってエピデンを栽培する理由は何でしょうか。


「作りやすいから。
なによりエピデンは着生ランだからね!」


出ました。ウン探、出る単、“着生ラン”!!!ニューワードです。ジャン!


ご説明いたしましょうillust2012_thumb.jpg

ランには地生ラン着生ランとがあります。


地生ランとは、その字の如く他の植物と同様に地面に生えるランを指します。野生の場合は多くは直射日光を避けた薄暗い樹木の足元などで生活しています。
シンビジウム(半地生のものもある)、パフィオ、ディサ、エビネ、シュンラン、シランなどがこれに当たります。
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これに対し、着生ランとは主に木の幹や枝、あるいは岩などに根を巡らせて体を固定して生活するランのことです。

DSC01714.jpg←これは鎌倉のお寺さんで撮影。なんとまあタイミング良く満開。

DSC09864.jpg←これは和歌山の神社で撮影

植物はすべからく土に生えると思いがちですが、木や岩に“着生”して生活するものもあるのです。普段の散歩道でも“ちょっと観察”してみると面白いでしょう。チャンスは神社仏閣やナンチャラ自然公園などにあり。これらの場所で大木を見つけたときはその枝をよく見てみると、ランが着生している可能性大です!

着生ランにはコチョウランやカトレア、バンダ、デンドロビウム、オンシジウム、デンファレなどがあります。

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そしてエピデンはどちらかというと・・・・

drrrrrrrrrrrr←ドラムロール


着生ランになります。
それが証拠になんと・・・↓↓↓この通り!


エピデンのエピ(Epi)はギリシャ語で「上に」


デンドラム(dendrum)「木」の意味


に由来しているのです!!

つまり、「エピ+デンドラム」で「木の上に」の意味なのです!!ソノママ!!

自ら“アタクシは着生ランです”で言っているようなもの!
まさに日本人男性にとっての「日本太郎」のような名前なのです。


これぞトリビア!トレビア~ンでございます。♬♩♫♪☻(´∀`*) (独り感動!)


ここで伊藤蘭ちゃんはどちらに属するのかと思われた50代のお父様たち!ランちゃんはキャンディーズですよ~!“永遠に不滅です!”、ハイ。


ところでバークと一緒に入っているこの白っぽい粒々は??
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「肥料だよ」
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“肥料”って何を指すのですか?


「窒素・リン酸・カリ(カリウム)」

はい、ここポイントです!illust2012_thumb.jpg

これはあらゆる植物にとって最も重要な三大栄養素
農業を学び始めた人が最初に習うABCです。


★ 窒素は植物を大きく生長させる役割
★ リン酸は開花結実させる役割
★ カリウムは根(ランの場合はバルブ)を発育させる役割

をそれぞれ担います。


これらを植物が必要としている適量をバランスよく与えることが生産者さんの腕の見せ所です。

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「このツブツブ肥料にはその栄養素がバランスよく含まれているんだ。
ポリオレフィン系(ざっくり言うとポリマーのこと)の樹脂で回りが加工されていて、気温が25度になると自然に栄養が溶出する仕組みになっているんだ」

スゴイ!小さな粒の中に緻密に計算された世界が凝縮されているんですね!

「そう、25度設定だからそれ以上気温が高くなったら早く溶出するし、それ以下だったら少しペースが遅くなる。
じわじわ出てくるから安心なんだ。シンビは地生ランだけど、エピデンは着生ランだから、肥料もシンビより少なくて済むからね、こういう肥料もじっくり溶出するものが好ましいんだよ」

中澤さんはこのあたりのこともなんだか熟知しています。
なぜそんなに詳しいか、その秘密はこのコーナーを最後まで読んで下さった方だけに教えちゃいます!




以前、ウン探でシンビジウムの切り花生産者さんを訪問したときに、「山上げ」をしていると伺ったのですが、エピデンも「山上げ」(※)するのですか?

※山上げとは?
御説明いたしましょうillust2012_thumb.jpg


シンビジウムなどで夏の高温期を避けるために、標高の高い高冷地に移動することです。このことにより開花を促進することができるのです。

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「エピデンの山上げも一時期はしていたんだけど、今はやっていない。シンビジウムの出荷が終わった春にエピデンを出荷したいから山上げしないんだ。山上げをするとシンビジウムと出荷期が重なってしまうからね。


でもシンビは山上げしているよ。
高知の夏は都会に比べたら過ごしやすいけど、夜温が下がらないんだ」


確かに、夜温が下がりにくいのは近年の傾向でもありますよね。田舎育ちのウン探隊員は、幼い頃は窓を開ければ寝られるくらい十分涼しかったと記憶していますが、現在は同じ場所でももう窓を開けただけでは、もう寝苦しくて、寝苦しくて・・・
夜温が下がらないということは、日中との温度差が少ないということですね。
でも、どうして夜温が下がらないと植物に良くないのでしょうか?

「消耗が大きくなっちゃうんだ」

消耗!!そう、そうですよね~!!
・・・って、はて?つまりどういうことですか??←ナカナカ物分かりが悪クテェ(-.-;)

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「ラン類はバルブに栄養が貯まるでしょう。でも暑いと体力を消耗するから栄養が貯まらなくなるんだ。そして株自体の力がなくなる。
でも冷涼な山間地に持って行くと消耗が減るから株に力が出るんだよ」


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どのタイミングで山上げするのですか?
“暑い”って感じるのって、個人差があると思うのですが・・・欧米人と日本人とでは確実に体感温度がちゃうしなぁ・・・その上、ランと人なんてもっと違うのでは?ランの気持ちを推察するなんてどうするのでしょうか。
何を基準に??ムムム・・・


花芽が出たら山上げするんだよ」

そうですか!意外と明快!


「だいたい6月下旬から7月なんだけどね、このときに花芽が出ているかを確認して、出ていたら山上げを始めるんだよ。

山上げをすると、花芽の伸長が良くなるので早く出荷できるんだ。例えば山上げせずに今まで1月に出荷していたものが、山上げをすれば12月に出荷できる」


なるほど、12月の切り花マーケットの大きな需要期に出荷できたら、これはいいですね。

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「そうでしょ。従来12月後半の年末ぎりぎりに開花していた花も、山上げをするようになってから11月から出荷できるようになったんだ」


それは実需者にとってもいいことですね。

それにしてもその山上げ作業を中澤さんとご子息の佑介さんとで行うのですか?


「そうだよ。でも2人では手が足りないから、臨時で人を雇うんだ。4トンロングの大きなトラックを借りて一つ一つ手作業で圃場から出して、トラックに積んで、1-2時間かけて山まで行って荷を下ろすんだよ」

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本当に、これらの大変な作業を「山上げ」という小学1年生で習う初級漢字を含む3文字で片付けてしまうには、あまりにも簡単すぎるではないか!!

それをどのくらい往復するのですか?


「山上げに12往復くらい、山下げにまた12往復くらいかな。

12車(しゃ)って言うんだけどね」

トゥ・・・トゥウェルヴ!!∑(゜◇゜;) ←って全然英語で言う必要ないのですが・・・この驚きをどう表現しようかなと思いまして。

手間も大変ですが、人を雇ったりトラックを借りたりではなかなかコストもかかりそうですね。


「そうなんだよ。そのほかに山の地権者に場所と施設代を払うでしょ。それも全て生産コストのうちだから、山上げするってことはとても労力とお金と時間のかかることなんだ。

それでも安定して出荷できるというメリットを得られるからね。
“消費者”、“市場”、“生産者としての信頼”と全ての人にとっていいことだと思うから、私たちのポリシーでやっているんだよ。5年前くらいから始めたんだ。

シンビは鉢の生産の方が先だったでしょ。
山上げの技術は鉢の生産者さんが長年積み上げた技術なんだ。それを現在では切り花に応用している。

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だから切りシンビの生産は歴史が浅いといえども、園芸業界では確立された技術なんだ。
つまり開花コントロールを可能にしたということだから、歴史的に見たらとても画期的なことなんだよ。花の気分に任せていつ咲くか分からない開花を確実に調整できるようにしたわけだから」


なるほど、山上げによって安定して出荷できる“確実性”を確保できるわけですね。
高知県、とりわけこの太平洋に面した南国市はその名の通り日照量も多く、冬も温暖。山も近いので山上げも比較的効率的に行えるという優位性があるのです!



実は中澤さんは今でも切り花生産の8割はシンビジウムです。
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鉢物の品種の中から切り花に向く品種を選ぶということですが、どのような基準で“切り花に向いている”とご判断されるのですか?


「ひとつはもちろん水揚げと花保ちね。これが良くないといけない。これはエピデンも同じ。

それから傷が付きやすいものはNG。気付かないうちに傷が付いて、輸送中に表面化して、お客様の元に届いたときには大変なことになる。花弁が肉厚で傷が付きにくいものがいいね。

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それから、“根が強い”もの。これは品種にもよるんだけどね」

根が強いかどうかはどこで見るのですか?

「株分けができるかどうかってことなんだけどね。株分けができないってことは、根が弱いということ。丈も伸びないから切り花には向かないんだ。

あとは花粉が落ちないものね
落ちるとリップの色が赤くなっちゃうんだよね」


コチラが実際に花粉が落ちて赤くなったもの。こちらは本来はリップの赤い品種ではないので、こうなると花の価値が落ちてしまいます。
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“リップ”といっも「なんのこっちゃ「(゚ペ)??」という方もいらっしゃると思いますので、ついでにシンビジウムの花を構成している部分の名前をおさらいしちゃいましょう!

シンビの花の構成要素は以下のようになっています。
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① ドーサルセパル(dorsal sepal)
    dorsal=“背面の”という意味 sepal=“ガク片”のことです。
     アッパーセパル(upper sepal)と言うこともあります。

② ラテラルセパル(lateral sepal)  
   latelar=“側面の”という意味
      ローワーセパル(lower sepal)と言うこともあります。

③ ペタル petal=“花弁”、つまり花びらのこと♪

④ リップ lip=“唇”に由来します


あ、なるほど、つまり①と②はガクなんですね。③が花びらなんだ。
見た目には全然区別つきませんが、触ると実は違いが分かります!

③だけ少し柔らかい。今度シンビを見る機会があったら、是非皆様の審美(シンビ)眼で見てみてください!


そういえば、シンビってバラなどにあるようなガクらしいガクがない・・・アレ??

cymbisepal.jpg←ホラ、ない・・・(-.-)

例えばバラでいうところのこのガクに当たる部分が見当たらない・・・ドコドコ(@◇@;)?
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と思っていたら、①と②がガクだったんだ~(T_T)(感激!!)
数十年の謎が解けたぁー・・・?

そうなのです。実は、この「後ろに3枚のガクがあり、前に2枚の花弁がある」というのがランの花の定義なのです。

7060713.jpgランの中でもマスデバリアのようにそれが変化を遂げて別の形をしているものもありますが、本来はこの「ガク片3枚+花弁2枚」がランがランたる故なのです!


「花粉が落ちることを“花が泣く”っていうんだよ」


もうここまで来ると、なんだか“シンビツウ”になった気分です。
なかなかシンビの切り花用を見つけるのはハードルが高いんですね。

「でも、美しさに魅せられてついつい苗を買っちゃうんだけど^_^;」


ここがまた中澤さんらしいところですね。本当のお好きなのです。


「神秘的だからね」


シンビがシンピ的だなんて、中澤さんもなかなかダジャレ好きですかぁ?
んもう、隅に置けませんね!ゞ( ̄∇ ̄;)

そのような中澤さんのシンビ中心の生産に、どのような経緯でエピデンが導入されたのでしょうか。


「シンビとは違う、何か変わったものを作りたいと思いがあったんだ」


例えばどのようなものをイメージされていたのですか?


「1月、2月はシンビの卸値が比較的下がる時期なんだ。だからこの時期に出荷できるもの、そしてシンビの出荷が終わる春先から出荷できる何か“春のイメージ”を作れるものを考えて、エピデンを導入したんだよ」

“春のイメージ”・・・ですか。
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「そう、今までのエピデンは濃い色とか暗い色が多かったでしょ。そのエピデンにパステル調の“春のイメージ”を託したいと思ったんだ」
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なるほど、さすが中澤さん、コンセプトが明確です。
圃場もその“春のイメージ”が十分に表現されています。

淡い色のエピデンは県内外のご友人からの情報により、育種と生産を始めたといいます。


「転機は農水省にあったんだよ。
6、7年くらい前だったかな、農水省の本庁で花を展示する機会があって、そこで球体に極めて近い状態に仕上げたエピデンを展示したんだ」

春のイメージを託した球形のエピデンだったわけですね!
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「ソフトボールくらい大きくて真丸のものを展示したんだよ。これが思った以上に反響が良くてね、市場関係者からの関心を集めたんだよ。これが自分たちの自信にもなって“もっとやってみよう!”と思うようになったんだ」

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折しも花きマーケットでは切り花品種の大輪旋風が吹き荒れていました。中澤さんの立体的で存在感のある大輪球状エピデンは市場関係者にとって大変新鮮に映り、大きな可能性を感じさせるものだったことと想像します。

大輪ブームの中にあって、面で見せる花ではなく、ドーム型の立体を表現できる数少ない大輪品目、しかも高級イメージを携えたランであることを考えると、農水での展示ではまさに“新進気鋭の逸材”として威光を放っていたに違いありません。


それにしても、限りなく球体に近い形に仕上げるというのは、なんという技術でしょう。


「球体に作るというのは、先に咲いた花を長く残して新しく咲く花と合わせて球状にするわけだから、花保ちが良い品種じゃないとできないし、その分生産のリスクも高くなるんだよ」


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球状に作るためには、先に咲いた花を奇麗な状態で咲かせ続けながら、新しく咲く花を待たなければならないのです。

ちなみに花が終わるとこういう感じ。
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花を長く圃場で咲かせて球状に仕上げるまでには、どのようなリスクがあるのですか?

ボト(※)によるシミが発生したりするんだ。特に3,4月ね。この時期は“菜種梅雨”があるから湿度が上がるから、ボトになりやすいんだ」

※ボトとは?
ご説明いたしましょう!「ボト」とは「ボトリチス菌」の略で、加湿の状態で発生しやすくなる悪役の菌のことです。この菌が付いてしまうと灰色かび病となり、花弁に黒っぽい斑点が現れたり、茎葉が解けるように腐ったりしてしまいます。時間の経過とともに拡散してしまう場合が多いので、ボトを見つけた場合は速やかに処分する必要があります。エピデンもそうですが、バラやトルコギキョウなどにも発生しやすく、十分注意しなければいけません。ボトを出してしまうと生産者さんの信頼にも関わりますから、生産者さんにとっては天敵とも言えるかもしれません。


菜種梅雨とは3-4月に連続して降る雨のことで、菜の花が咲くころの雨だから菜種梅雨といいます。主に関東以西の太平洋側で見られる現象です。
なるほど、春の象徴でもある菜種のイメージにしたいのに、“菜種梅雨”に悩まされるわけですね。何と皮肉な・・・。

「そもそもこの時期には、エピデンの鉢物出荷で終盤を迎えた生産者さんたちが、切り花にして出荷していたんだ。
だから、以前は今ほどエピデンの評価も高くなかったんだよ。でも私たちはそのエピデンのイメージを払拭したかった。
結構な挑戦だったんだよ。しかもエピデンで切り花専門の生産者が周りにいなかったから更にハードルが高いよね」


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「でもこれを乗り越えて、“新しい高級感”を提案していきたいと思ったんだ」


というのはご子息の佑介さん。頼もしいですね。


「そう、エピデン自体の認知度もあまり高くなかったし、従来のエピデンとは違う価値観を提案していきたいと思ったんだよ。
だからこそ“魅力溢れる色が必要!”と考え様々な品種を選抜したんだ」

とお父様。

「たとえばこのエピデンの色を見てみて。

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元々はこの真中の色だったんだけど、枝変わりで上の色とか下の色とか出て来てね、“春っぽい”でしょ。だからこの色を固定して出荷しているんだよ」

なるほど、枝変わりが出たら、中澤さんのセンスとインスピレーションでエピデンの本当の価値を見つけて増やしていくわけですね。


「こんなのもあるんだ」

な、なんと絞り?

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そのお隣はボカシ??
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“春っぽい”上に、なんとも和にも洋にも合わせやすい色の入り方ですね。
このような花まで作り出して消費者やフローリストの皆さまの心をくすぐっていらっしゃるのはさすが!!

「昔はコチョウランやオンシジウムの切り花などを作っていたこともあったんだよ!」


なんと!∑(゜◇゜;)
実はランのマルチプレーヤー!!


「特にオンシジウムは輸入花のない時代だったからね。でも輸入が増えてきて価格を取りづらい時代になったでしょ。だから辞めたんだ。もちろん今でも輸入勢と住み分けをして国内でコチョウランやオンシを作っている方はいるけどね」


いろいろなランを手掛けてきた中澤さんですが、エピデンをあるときお知り合いの方に鉢のエピデンを見せてもらった時は、一目で“切り花でいけそう”(♛‿♛)ノ*♡*♡゜*:.ღ .:*・゜キラキラ♡゜*:.ღ .:*・゜という直感を覚えたといいます。


そこから次のような段階を追って、生産が増えていったといいます。
→コレもしかしたら面白いかも?
→じゃ、ちょっとやってみよっか!
→なんだかいいみたいだから、もっとやってみよっか!

このエピデンに対する着眼点にしても、その品種の可能性にしても、どうしてこのような“いけるかも?”直感が働くのでしょうか。


「たくさん産地を見てきたから、“いけるかも?”のような感覚が身に付いたんだよ」


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産地をたくさん見ていらしたとは・・・つまり?


「実は経済連に勤めていたんだ」


そう、そもそも中澤さんは高知県経済連(現在の全農高知)にお勤めだったとおっしゃいます。

当初は肥料関係の部署にいらして、その後技術部署へ異動。それからは結果の農家さんを巡回するのが重要なお仕事の一つでした。当時、野菜から果樹から花から全て「畑」で収穫するものを作る県下の有名な生産者さんは殆ど訪問したといいます。


「本当の生産を目の当たりにしたよ」


なるほど、これが肥料や生産技術のことを詳しくご存知だったワケだったのですね!


経済連にお勤めの一方で、花好きから趣味としてシンビジウムを作っていました。
河野メリクロンさんのオリエンタルクイーンとオリエンタルキングという最初のメリクロン苗を導入したのが第一歩だったといいます。

※メリクロンとは
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育てたい植物の生長点の組織を取り出し、寒天などの無菌状態で培養、繁殖させることです。特長は個体差がなく統一された苗を作りやすいことにあります。メリステム(meristem=分裂組織)とクローン(clone)を合わせてできた造語です。


そのうちのある品種が思った以上に良い結果が出たため、ご自身の気持ちの位置付けができたといいます。それ以降、どんどんシンビの生産を増やしていき生産者として独立したというわけです。


将来はどのようなエピデンを作っていきたいと思いますか。
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「これからももっと面白い色を出して、エピデンの本当の価値を楽しんでもらいたいと思うね。
そのためには多くの品種を安定的に作り続けていく。その中でも更に“キラリ”と光るものを付けくわえていくことも忘れてはいけないなと思うよ。

また、エピデンは大輪でありながら、ダイナミックというより上品で柔らかいムードを携えているよね。その雰囲気を大切にしながら、且つ花保ちの良いものを安定出荷できるようにしていきたいと思うな」


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エピデンの花言葉は「可憐な美」

中澤さんはこれからも、この花言葉通りの雰囲気を大切にしながらも、立体的な気品を備えたものをご出荷してくださることでしょう。


★中澤蘭園の格言

・ エピデンドラムを通して体現するのは“春のイメージ”。
  可憐で上品なエピデンを作り、新しいエピデンの価値観を提案すべし!

・ シンビジウムは消費者、市場、生産者、“三方幸せ”のために山上げで開花時期を調整すべし! 
  でも山上げはコストも手間もかかるだよー。

・ センスとインスピレーションで切り花に向く新しい品種を開発すべし! 
  
・ エピデンは着生ラン。コンポストにはバークを使い、肥料はゆっくりあげましょう! 
 神社仏閣巡りは着生ラン探しがオモシロイ!( ^ー゜)b 上向いて歩けばイイコトあるかも☆


★消費者とお花屋さんの皆様に一言

ナイショですが、他品目も栽培研究中です!

おっと、これは意味深発言ですね!
ずっと多彩なランを広く手掛けていた中澤蘭園さんから、近い将来どのような品目が出荷されるのか楽しみです!

四国のエピデンドラム~後編~に続く


<写真・文責:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


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