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2012年4月25日

vol.92 佐瀬農園 (千葉県)

なぜウンチク探検隊を90回以上も重ねながら、トルコギキョウ育種の大家佐瀬農園さんになぜ行かないのかと長い間疑問を持っていらした方もいらっしゃるのでしょう。

それはご存知の通り、星の巡りあわせといいますか、人との出会いにはタイミングというものが重要だからということです。

なにせトルコギキョウ界の重鎮ですから、もちろんだーいぶ昔から佐瀬農園にお伺いせねば!と思ってはおりましたが、ウンタン8年目にして今回佐瀬農園さんの星とウンタンの星が出合いましたので、満を持して取材に臨みたいと思います。

いざ!
ウンタン史上“初の東京ゲートブリッジ”。
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本日晴天につき、歩行者がたくさん!
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今や世界一高いタワーとしてギネスにも認定されたスカイツリーも良く見えて、散策日和じゃ。
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大田市場から葛西方面まで短時間で、且つ無料で行けてしまう喜びを初めて享受しました!
我ら湾岸族には大変有難いインフラが完成したというわけです。
なんて考えているうちに、あっという間に千葉県入り。

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両側を満開の桜に迎えられ、やってきたのは東金(とうがね)市

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その名の通り、関東圏のに位置し、その太平洋を臨む海岸は色に輝く・・・カナ
そう。ここはあの「九十九里浜」。
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「想ひー出ぇの~、くゥ・じゅ・ウ・く・り・はまぁあ~♪♬」と歌が聞こえてきそうですが(昭和生まれだから?)、ゲートブリッジのおかげで予定より30分早く着いたので、「想い出の九十九里浜」の鼻歌を歌いながら九十九里浜を歩き、・・・ちなみに時間帯的に“夕陽は泣いて”いませんでしたが・・・春のまだひんやりとした太平洋の風を感じたところで、気を引き締めて佐瀬農園へGO!


九十九里浜からたった4km内陸のところでトルコギキョウの育種と生産をされているのが、佐瀬農園の佐瀬昇さんと奥様のとし子さん
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この辺りも大昔は海だったようで、佐瀬さんの敷地内は砂地&白い貝殻の破片がまだ残っています。
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佐瀬さんの栽培施設は佐瀬家の広い敷地の中にあります。
この東金地域は温暖な気候に恵まれ、古くから農業・商業等の産業を中心に発展してきました。また大消費地東京まで60kmという立地条件にも恵まれ、青果物の生産のみならず、園芸産業も切り花、鉢物問わず盛んです。


農業中心の世帯が多い中、佐瀬さんにおいても例外ではなく、ご両親は野菜を作っていらっしゃいました。佐瀬さんご自身もその後を継ぐこと以外の選択肢は全く頭の中になかったといいます。

☆★☆佐瀬さんとトルコギキョウとの出会い~育種にハマルまで
就農当初に作っていたものは“ナス”nasu.jpg
ところが1970年代、当時20代前半だった佐瀬さんは野菜を作り続けながらも・・・

「もう日本人は腹いっぱいだべな。もはや野菜ムリだよなー」

と思っていたといいます。


当時、特に野菜は「量の力」が強く、時代の流れからも共選や組合など組織の威力には敵うまいと感じていました。そこで地域の人たちを集めて共選で出荷していましたが、それでも全国で圧倒的な力を持つ大きな出荷団体には到底太刀打ちできない。このままではキツイ。。。(+_+)

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「何かねっぺなー・・・」
(↑訳:「(野菜のほかに)なにか作るものないかなー」)


・・・と頬杖をついて考えていたかどうかは分かりませんが、そう思っているところに県の試験場の先生に花の生産を勧められました。

それが花と佐瀬さんとの出会い。最初に手掛けたのはなんとカスミソウ。1980年代、カスミソウは花を使うときにマストアイテムとして重宝され、空前絶後の人気を誇りました。

しかーし、1年でカスミは撤収!(←潔いですね~)
というのも、ちょうどその時にトルコギキョウの覆輪(ふくりん)タイプ(※)が世の中に一斉デビューし、注目を浴びたという、トルコギキョウ市場史の中では劇的な出来事が起きたのです。


そのときに試験場の先生が「トルコ、いいかも!」( ^―゜)b
と言ったので、「じゃ、やってみっか」と軽~い気持ちで始めてみたのが佐瀬さんがトルコギキョウを手がけたきっかけでした。


illust70_thumb.gif用語解説その①  「覆輪タイプ」

その字の如く「輪を覆っている」タイプのことで、このように花弁の先が縁取られたタイプのことをいいます。
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トルコを知る上では必須単語です!

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「カスミは、もはやどこでも作っているから、トルコが面白いかもと徒に作ってみたんだ。
ホンモノなんて見たことなかったのにね

え??∑(゜◇゜;) ナヌッ!?
ホンモノを見たことがなかったって??


「トルコギキョウは世間に出たばかりのときでね、一般の人の認知度は極めて低かったし、私も写真では見たことがあったけど、実物を見たことなかったんだ」


ホンモノを見たことがなくても、素早く生産に取り組む佐瀬さんの高い行動力(高動力と書くのか?)を示しています。


「最初の1回だけ種苗会社からプラグ苗(※)を買ってね。その後はずっと現在に至るまで、全量できた花からタネを採って栽培しているんだ

えーーーーっ!∑(゜◇゜;) と驚かれたみなさま、そうです。それが佐瀬さんの生業なのです。

通常の生産者さんは、種苗会社からプラグ苗を買って育てます。
しかし、佐瀬さんの場合は、育種のために咲いた花からタネを採り、出荷用も合わせ全量タネから育てているのです。


illust70_thumb.gif用語解説その②  「プラグ苗」
プラスチックなどでできた多穴トレーにタネをまいて移植できるまでに育てた苗のこと。電気のコンセントに差すプラグのように簡単に差せる(定植できる)ことからその名が付いた。


タネから育てることを実生(みしょう)といいますが、どのような特徴があるのでしょうか・・・?

だいぶざっくりと申し上げますと、出来上がりに個体差が出やすくなります、ハイ。
プラグ苗から育て場合は、既にその子の性質が決まっていますので、比較的個体ごとの差が小さい。あの子もこの子も同じ性質と見た目の子ができるわけですね。差が小さいから同じ環境で育てると、全てが同じように収穫でき、安定生産に繋がるわけです。
同じものを大量に生産できる、つまり市場流通に向いているわけです。


一方、実生で育てると、あの子とこの子の差が出やすい。つまり、変異が出やすいということなのです。そして生産も不安定になる。


「トルコギキョウの苗で有名なサカタのタネさんやタキイ種苗さんなどからF1(エフワン※)の良い品種の苗を買えば、個体差もなく生産も安定するんだ。

だけど試験場の先生に“タネ採ってみれば?”と言われてね」


illust70_thumb.gif用語解説その③  「F1」(エフワン)
花き業界でF1といえば、“フィリアル・ワン(Filial 1=First Filial Generation)”を指し、「第1世代」を意味する。

異なる性質を持つ植物を掛け合わせてできた雑種第1世代のことで、一般には両親よりも優れた形質になることが多いのが特徴。しかし、その優れたF1からタネを採っても同じ姿にはならない。
フォーミュラ・ワンではありませんX X X、くれぐれも。F1.jpg


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「6割くらいしか出荷できないときもあったよ」
と佐瀬さん。

つまり、タネを採ってもあの子とこの子の差が大きく、同じ姿になりにくいので、ひとつの箱に入れて市場に出荷できないわけです。6割を出荷して、残りの4割の中に気に入った変異があれば、そのタネをとってまた撒いて殖やして、またその中から良いものを選んでタネを撒いて殖やして・・・の繰り返し。

作業に膨大な時間と労力がかかっても、これを一言で「選抜を重ねる」と言います。

佐瀬さんのトルコはまさに“選抜×選抜選手権”に生き残ったスーパー選手たち。これを通称“サセ・トルコ”といいます。(佐瀬さんに断りもせずに、市場では勝手にそう呼ばせていただいております)
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育種とはこのように品種を固定していくという、とても時間がかり地道で根気のいる作業なのです。

出荷率も低くなるし、時間もかかる。どうして、佐瀬さんはこのような地道な育種をしているのでしょうか。

「私は子供のころからハトが好きで、昔はハトの交配をしていたんだよ

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は、ハ、ハ・トッ??(´゚д゚`)ポカーン

ハトってあの「鳩」ですか?パタパタと飛ぶ??パタパタパタッ


「そう、そう。あのハト。
ハトが好きで教科書じゃなくてハトの本をカバンに入れていたんだ」

ナヌッ??佐瀬さん、ただ者ではなさそうな臭いがしてきました・・・(・ω・)クンクン


「小学校3年生のときからハトを飼い始めてね、大人になって自由に使えるお金が増えたら、ハトの交配で人生勝負しようと思っていたんだよ。それが大人になると勝手が違ってきて、農業に従事したわけなんだけどね。

だから先生にタネを採ってみたらと言われた時には、“待ってました(≧∇≦)!!”とばかりに始めたよ。何の抵抗もなく、今に至るまで楽しくね!

つまり、“タネを採ってみたら?”という先生からの提案は“トルコを交配して、オリジナル品種を作ってみたら?”という「育種のススメ」だったわけです。


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まあそれにしてもハトからトルコギキョウって同じ交配でもずいぶん“飛ぶ”ような気がしますが・・・

「全く同じだよ(笑)。
ハトもいろんな種類がいて、自分が好きなあっちとこっちのハトを掛け合わせてみるわけだから。
私のトルコの交配の原点は子供の頃に夢中になったハトの交配にあるといっても過言ではないよ」


佐瀬さんがトルコのプラグ苗を購入したのは、後にも先にも導入当初の1回だけ。以降全てタネを採って実生で育てています。


他の人とは違う方法で栽培を始めた佐瀬さんでしたが、この実生栽培も順風満帆ではありません。


「バブルが崩壊して、少し遅れて花の業界全体が落ち込んでいったでしょ。

その時には花の生産者も減ったよね」

そうです、日本における花の消費の大きな流れとして、日本のGDPの成長とともに花の消費も徐々に伸び、1990年大阪で開催された花の万博(国際花と緑の博覧会)をきかっけに、花き産業は爆発的に進化。花の生産、消費の先進国として歩み始めます。

花の場合はバブル崩壊後、他業界よりレスポンスが遅れ、およそ10年後にピークを迎え、1998年に3,000億円(市場取り扱い金額、一般社団法人日本花き卸売市場協会所属市場の総計)ほどになります。


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(データ元:一般社団法人日本花き卸売市場協会)

ところが、上のグラフが示すように1999年から2000年にかけては取り扱い金額は急落。その後も業界の取り扱い金額は緩やかではありますが減少の一途を辿っています。


「’99年と2000年にはトルコギキョウは生産だけじゃなくて、個人育種家も随分撤退したよ。
いわゆる“冬の時代の到来”ってやつね。花生産を生業にしていても、トルコだけやめたりした人もいたからね」


そのような時代の流れの中、佐瀬さんはやめようとは思わなかったのですか?
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「なにせタネ採っちゃったからね~。
そのタネから今度はどんな花が咲くのか“また見てみたい”という気持ちが強くて、やめられなかったんだよ」


なるほど、すごい好奇心!育種家さんならではのやめられないサイクルですね!


「もうここまでくると病気だよね(笑)。
儲かるかどうかより、タネを採っては花を見たい、そのタネを採っては次の花を見たいの繰り返し。
やめることなんて一切考えたことなかった」

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奥様「本当に好きなんでしょうに、夜中に“ちょっと見てくる!”とふら~っと出て行って、2-3時間戻ってこないのよぉ~」

何をしに行かれるのですか?

佐瀬さん「夜に花が閉じないトルコを探しに行くんだ」


夜に閉じないトルコ・・・?「(゚ペ)ハニャ?

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そうなんです、皆さんご存じでしたか?トルコギキョウは本来夜になると花を閉じる昼咲き植物なのです。多くの植物が昼咲きですが、ご存知の通りサボテンの月下美人や一部スイレンの品種などは夜咲きになります。
(ウンタンスクリーンの前のみなさま、ご自身は昼咲き?夜咲き?どちらのタイプでしょうか?)


「消費者からの声で、閉じないトルコが欲しいって言われてね・・・」


なるほど、それで閉じない性質のものが咲いていたら、そのタネを採って殖やしていこうというわけで、あえて夜になってから圃場を見に行っていたわけですね!
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そのような品種は見つかりましたか?


「閉じない性質のものが見つかったわけじゃないんだけど、1株だけ八重のフリンジタイプのものを見つけてね。
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世の中はまだ一重が主流で覆輪が人気の絶頂だった。だけど八重を見て“これだ!”って思ったんだよ」


スタンダードは一重だった時期に、八重のフリンジタイプに可能性を見い出して拾い上げたのはなぜですか?

「自分が好きな形だったんだ。やっぱり自分が好きじゃないと気合が入らない。特にバブルがはじけて右肩下がりの状況下で、経済性第一で考えていたら捨てていたかもしれないよね。
お金になる・ならないは関係ナシで、ただ純粋に自分が好きな形だった。

しかも、八重だから一度開くとそのままロックされて、閉じなくなる


OH!なるほど!!
ふわふわのスカートを何重にもしてはいたらスカートはボワッと膨らんで閉じなくなりますね。それと同じことで、八重のフリル付きトルコが一度開花すると、夜になっても閉じなくなったわけですね。
佐瀬さんの感性にヒットし、なおかつフリンジが厚いから結果閉じないことがわかった。一まさに石二鳥的な品種を見つけたわけですね。

「自分の感性で選んだものを、いつか世間が共感してくれればラッキーくらいにしか思っていないけどね」
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そのように育種を進め、現在は何品種くらいあるのですか?

「12-13品種かな。
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昔は70-80品種くらいあったけどね。
でも今は各種苗会社さんがなんでも揃えているから、隙間がないんだ」


なるほど、色・形・サイズどれにおいても品種が豊富で、ニッチがないわけですね。

でも育種を繰り返していたら、増えていくばかりで10数品種ではすまないと思いますが、市場出荷しない品種はどうされるのですか?


「捨てる」


ギョッ∑(゜◇゜;)
でました、断捨離宣言!!

「種苗会社のカタログを見て、たくさん出てきたら捨てる。

だいたい新品種も3年経つと量がまとまって出てくる。私が生んだ品種もそうだけど、生産者さんが市場で買って交配して別の名前で出荷されたりするんだよね。茶系は特にそういうことが起こっている」

そうそう、佐瀬さんといえば、茶系のアンティークカラーの生みの親!
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今では一般的になり多品種を揃える茶系トルコも、そのオリジンは佐瀬さんの育種にあったのです。

最初に茶色が出た時に、捨てずに残そうと思ったのはなぜですか?


“佐瀬さん、きたねェ色のトルコねーがぁ?”とある仲卸さんに言われてね。

それから中間色とか変異の中にあったアンティークカラーに目を付けるようになったんだ。普通なら捨てるんだけどね。

一方で日本でも外国からの人が増えたでしょ。だから原色もぜってー必要だっていう確信があったんだ。

その両方のバランスを取りながら残していくんだよ」


なるほど、販売や消費のアドバイスに耳を傾けながらも、常に社会全体の動向にアンテナを張り自分で判断していく。ここに育種に比重を置く経営者としてのポリシーを見て取ることができます。

☆★☆トルコのタネ、見たことありますか?

ところでみなさん、トルコのタネを見たことありますか?
ケシの実のように小さいんですよ!

佐瀬さんがウンタン取材班に特別に(!)見せてくださいました。
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「このひと山で何万粒とある。
1ミリリットルで15,000-16,000粒くらいあるんだよ。

それをこういうマス目の入ったトレーに撒くんだ」
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え?∑(゜◇゜;)
もしかして、それを1粒ずつプラグ苗のトレーに撒くのですか?
しかも、この1マス、えんらいちっこいなーーーッ!
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「貴重なタネはそうだね。
ドの強いメガネをかけて、1-3粒ずつを取ってまくんだ」


1-3粒ずつってどうやって取るのですか?


「楊枝の先に水を付けて少し湿らせてから、タネを先端にくっつけるんだよ」

わおーーー・・・気が遠くなるような作業です。


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「でもそのほかの普通の品種は味の素のコショウを入れるビンに入れて、ゴマ塩をまくみたいにパラパラとまく


芽が出たら余分な芽は間引いて、2ヶ月後に定植します。


その芽が育って、ツボミができたら、交配はめしべが開く前につぼみをこうやってこじ開けて、早い段階でピンセットで授粉します。

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「ピンセットでつまむのがボクの楽しみ♪」


わー、だいぶマニア入ってます。


佐瀬さんの出荷品種はすべてこのようにして生まれた変異なのです。


「でもやりすぎるとご飯が食べられなくなっちゃう。生産は出荷のためのものだけど、育種は出荷に直結するものではないからね」

育種のコツはありますか?

“じっと我慢の子であった”。

慌てるとロクなことないよね。何かしらアクシデントに見舞われる。慌てずじっくりやっていれば、最後はお天道様に助けられる。

変異は神様からのプレゼントfuwafuwahert_jpg200.jpg
神様に“お前、やってみろ”って試されているんじゃないかと思うんだ。変異を見逃さずに、それを拾って可能性を追求する」
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なんだか“変異=夢の扉”という感じですね。
佐瀬さんはトルコの新品種に対して飽くなき追求を続けています。


☆★☆ネーミングの秘密

サセ・トルコファンの方でしたらご存知かもしれませんが、佐瀬さんが育種された品種の名前を見てみると・・・
貴公子・貴婦人・森の雫・雅(みやび)・楊貴妃・曙・・・と和名ばかりが採用されています。

大変センスがあって、トルコに詳しくない人でも一度聞けばすぐ覚えられるような良い名前ですね。
どなたがつけていらっしゃるのでしょうか。


「名前はぜんぶカーチャン」


DSC03092.jpgなるほど、納得です。
どうやったらそのようなセンスの良い名前を思いつくのですか?


「商品になるまで毎日その花を見ているから、いざネーミングのときになるとポン!と思い浮かぶのよ。」
ととし子さん。
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「でも決定は私ね」と佐瀬さん。
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はいはい、わかりました。みなさん、“決定”は佐瀬さんでーす( ^―゜)b
でもどうして和名にこだわるのですか?


日本人だから。
オレ、ヤなの、カタカナで書くの。カタカナ、イミワカンナイ。
英語嫌いだし^_^;

それから、色名を使わずに色を想像できる名前にするのが最も良いと思っているんだ。やむを得ず使うこともあるけど」


なるほど、ここにも育種家としての佐瀬さんのポリシーを見ることができます。

☆★☆ちょっとだけ生産について

理想的な花の付き方は、1苗から3つの花枝に分かれ、大輪の開花がほぼ同じ高さで3輪&ツボミが1-2輪付いている状態。これがサセ・トルコの黄金率です。
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トルコの花芽はこのように↓ジャンジャカ上がってくるので、
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1箇所から2本花芽が上がってきたら、1本は情け容赦なくピンチ!(これを「芽かき」といいます)
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残った花芽に力を集中させていきます↓
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そうすると残った花は切られた花の分まで生きようと大輪に開くのです。
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水は決して適量を超えることなく、少しずつ遣りながらゆっくりゆっくり育てます。
ここでも「じっと我慢」がキーワードなんですね。

「そうだね、例えば天候不順って言っても、ウチの上空だけが天候不順なわけじゃないでしょ。本州の天候はほぼ似たように変化しているのだから、自分だけが大変なわけじゃないと他産地に思いを馳せながら我慢して作るんだ」


「それから、ついつい水をやりたくなっちゃうんだけど、やりすぎないように我慢するの。

花弁の固い丈夫なトルコを作るには、水をぎりぎりまで切るといいのよ。
もうそれこそ、水が足りなくて首が少し垂れるくらいまで水を切るんです」と奥様。

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どうやら生産に詳しいのは、奥様のようです。


トルコギキョウは、北アメリカはテキサス州原産のリンドウ科。高温でたくさん水をやりながら過保護に育てると、どんどんどんどん伸びてしまい、節間も伸びて葉や花に“しまり”がなく、だらりとしたものができてしまいます。
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「節間はその花の人生を物語っているからね。
長かったり短かったりすると、それだけストレスがあったということだよね」

なるほど、みなさまトルコを買ったときは花にばかり見とれず、是非節間もチェックしてみてください。

☆★☆まさかの手抜き!?
え?もしかして抜いてる???
わおッ!切り花を根っこから抜いて収穫するなんて、初めて見ました!!コレ常識??
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そうなんです、トルコギキョウの場合はハサミで切って収穫する場合と、佐瀬さんのように引き抜く場合とがあります。(それぞれの生産者さんの選択です)
で、でもどうして抜いてしまうのですか?

「この方が楽だから」

トルコは1苗1採花が基本。1度切ったら、その苗は終了。

トルコギキョウの改植は毎年のこと。タネ、あるいは苗を植えて、芽が伸びて花が咲いて、一度収穫したら終わり。前回のエピデンドラムやバラなどのように株を充実させて、そこから上がった新芽を育てるということではありません。

トルコの採花は一度きり。花を切ったら、その苗ごと終了なのです。

遅かれ早かれ 結局は抜くのですから、後で抜く手間を考えたら、収穫しながら抜いてしまった方が効率的なのです。
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そんなわけで佐瀬さんのうちでは「手抜き」・・・いやいや、さぼる方の手抜きではありませんよ、「手で引っこ抜く」手抜きなのです。


☆★☆究極のサセ・トルコがあったら教えてください

佐瀬さん「受精しないトルコ」


ん?(゚ー゚*?)


「これを見てごらん。
通常は開花するとこうしてめしべも開いていつでも受粉できる状態になるでしょ。
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でもこれはめしべが開いていない。
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つまりこれは受精しないトルコなんだ」


受精しないトルコ・・・“子孫を残せない”ってことですよね?そのようなトルコに何かメリットはあるのですか?


「花保ちが良い」


そうなのです。受精しないトルコは花保ちが良くなります。なぜなら「植物は総じて受精すると命尽きるから」です。


植物は何でもそうですが、子孫を残すことを人生最大の使命としているので、受精が終わると“任務全う!”と死に向かっていくのです。

従って、受精しないトルコというのは、任務全うの瞬間がないので死に向かっていくのが遅い。
そりゃ枯れますよ、いつかは。でも、受精するトルコよりは寿命を延ばすことができるのです。

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「いつまでたっても開かないめしべのことを
変形雌ずい(しずい)っていうんだ。


自然界ではあり得ないことだよね。受粉できないということは子孫を残せないということだから、普通は絶滅する。
でもそのタイプの変異が出たときに、それを拾って選抜を重ねて固定したんだ」


子孫を残せないのにどうやって殖やすのですか?
「こうやってめしべをピンセットで開いて人工授粉をするんだ。
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風媒花でも虫媒花でもなく、人媒花ね!それでもタネの採取量は極めて少ない。

雌しべの開かないトルコを見たときには、そのWONDERも感じてほしいな」


佐瀬さんはこの「受精しないトルコ」について国内と米国にて特許を取得しました(平成20年)。植物の形質で特許を取得したのはなんと国内初だそうです。

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☆佐瀬さんにとってトルコギキョウとは?

佐瀬さん 「・・・」

と考えている間にすかさず奥様が、

「あなたの人生そのままじゃない。これらのトルコは主人そのものです」
と温かい口調で話されました。

数十年にわたり、毎日最も近いところでご主人とトルコギキョウを見つめていらっしゃる奥様だからこそ見えるものがあるのでしょう。その言葉には文字にする以上に深みがあります。

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佐瀬さん「そうだね、良い遊び道具に巡り合えたと思うよ。いわゆるシゴトのような大変さは感じない」


奥様「あなたにはぴったりだったわね。いまや家族の一員という感じ」

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そういうお二人の掛け合いに、永い間理解し合い、助け合いながらトルコに携わり、二人三脚というよりもトルコを含めた3人で育んできた愛情を感じました。

もしかしたら、佐瀬農園の運営は佐瀬・昇さん、とし子さん、トル子さんで成り立っているのかもしれません。


☆次の10年で目指すものはありますか?

「やっぱり珍しいものを作りたい

トルコはいっぱい名前があるけど、ふたを開けたらみんな同じ品種だったりするでしょ。でも、ふたを開けた瞬間に“あ、これは佐瀬農園のトルコだ”と分かるものを目指したい、そして消費者に喜んでもらえるもの。
諦めたらTHE ENDだよね。諦めずにコツコツと続けていくこと


消費者のところまで旅をするのだから、花保ちが良いことや輸送に耐えるものであることは当たり前。切り花として最低限の条件を満たした上で、とても変わったものを市場にデビューさせたい」


う~ん、今のトルコから更に進化して、変わったものってどんなものでしょうか・・・この先のトルコの進化形ってどこにあるのでしょうか?
もしかして、隠し玉があったりしますか?


「実はあるんだ(*^^)vニン!」

と写真を見せてくださいました。
なるほどぉ、これですか!素晴らしい!こんな花見たことありません。
一般の方ならこれがトルコだとは思わないでしょう。

どんな花かって?
現時点では門外不出なので、代わりにあたくしの気まぐれドローイングを披露いたしましょう。こちらでみなさまの豊かな想像を巡らせてくださいませ。
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う、うまい!うますぎる!実によく描けている!∑(゜◇゜;)
あー、バラシテしまった。まずい、佐瀬さん、絵がうますぎてごめんなさいm(_ _)m ホント??
ひとまずこちらは来年デビューの予定です。くれぐれもお見逃しなく!


image22.gif☆佐瀬農園の格言

・ 日本人はほぼ3年で飽きる。5年経ったら絶対飽きる!
  生産はタネを採るところから始めて、面白いものが生まれたら、消費者に提案すべし!

・ サセ・トルコは選抜に選抜を重ねたスーパープレイヤーたち。全て佐瀬農園のオリジナルスターなのです。

・ 育種も生産も“じっと我慢の子であった”!

・ 育種は楽しくてたまらない!でも生産とのバランスを取って、きっちりがっちり経営すべし。
  私はとにかくカーチャンに感謝です!

☆消費者のみなさまへひとこと

もっともっと花を楽しんでほしいな。
また、できるだけ楽しんでもらえるものを作りたいと思う。飾って喜んでもらえるのが一番嬉しいね。
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ご参考までに佐瀬さんの出荷期(2011年4月-2012年3月)
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※出荷量の波は年によって異なります。

image22.gif☆本日の最重要キーワード

「サセ・トルコ」
佐瀬昇さんが育種したトルコギキョウのこと。選抜に選抜を重ねた無二のオリジナル品種。トルコの領域を打破した画期的な品種ばかりで、デザイナーさんに愛されるのが特徴。
是非この機会に覚えてくださいませ~♪



<写真・文責>:ikuko naito@花研illust2018_thumb.jpg


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