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2012年11月21日
vol.98 奥 隆善 氏(チョコレートコスモス)後編
前回の続きで、育種家の奥隆善さん後編です。
さて、ここでハボタンも少しだけご紹介いたします。奥さんはこれから旬を迎えるハボタンも育種、生産されています。
↓ハボタンの圃場
大田花き営業担当のYモトによると、奥さんのハボタンは、こんな感じなんだと↓
ナヌ??(・_・*)(*・_・)(*~^~)/??
全然わからん。ハボタンてこんな形だったっけ?
スプレー状に頭がたくさん付いていて、根も付いているってこと?(上も下もスプレー??)
「そうなんですよ」
とYモト。
これはただならぬ気配・・・
こちらが、奥さん的スペシャルハボタンの圃場。
摘心をして、スプレーに仕立てています。
しかもこれだけきれいに高さも頭のサイズも揃って、巻きも美しい@@@
「ハボタンをスプレーに仕立てるのはとても難しいんだ」と奥さん
Yモトに聞いても、現時点で奥さん以外にあれほどきれいなスプレー仕立てができる人はいないんじゃないかといいます。
「普通のハボタンよりも栽培に2カ月長くかかるよ。その分、虫や病気のリスクも上がるし、台風対策もしなくちゃいけないし、コストがかかる割には製品率が低いからね、大変だよ。そして技術は意外とローテクなんだ。でも、できるだけ手間がかけずに製品率を高めるような技術を確立したんだ」
どうのようにやっていらっしゃるんですか?
「チッチッチ。それは言えないな」ヒミツ(o′З`)b☆
これは、ウンチク探検隊の切り込み術を以ってしても、スプレー仕立てにする秘密は門外不出と教えていただけませんでした・・・(+_+)チーン!修行が足りん!
では別のことを教えていただきましょう。
どうして根付きでご出荷されるのでしょうか。何か意味があるのでしょうか?
「① 日持ちが良い
② 気持ちが良い
③ 縁起が良い」
なるほど“良い”ことが三拍子揃いましたね。
効率も良いのですか?
「効率は悪いかな(笑)。
気を付けて慎重に抜かないといけないしね。
でもお正月は縁起物が大切。効率は関係ナシ!」
なるほど、あくまでもユーザー目線を離れない奥さんのポリシーは、何を作るにしてもぶれることがありません。
そしてハボタンの圃場でも見つけました!「外側が大きくなる」現象。
端の株が一回り大きくなっているのが、写真からご覧いただけると思います。
この露地の場合は、そこだけ土質が砂地になっていて、水はけが良い分、生長も早くなってしまうのだそうです。それも「泥に交じって土質を研究し尽くしてわかったこと」。
輪サイズも測ってみると、直径が異なります。
↓圃場の中の方は、仕上がりの直径10cm程度。
ところが、“外側”の直径は、なんと15-6cmにもなるのです。
直径が小さい物の方がキュッと締まって、巻きも多い。しかし、外側はだら~ん、びよ~んと・・・(あ、失礼)・・・ってほどでもありませんが、プロが見ればわかるくらいの違いではありますが、巻きが甘く、全体的に大きくなってしまっているのです。
「だから“外側の商品”は極力大田花きには出荷しない」
ありがとうございます!
話をチョコモスに戻しまして、みなさんが不思議に思っていらっしゃるであろうチョコモスの色についてご説明したいと思います。
チョコモスはなぜこんな色をしているの?
チョコモスの色はアントシアニンとカロチノイドからできます。
「アントシアニンは紫外線と酸素で誘導されるんだよ」
なるほど。奥さんの施設に張ってあるフィルムは、紫外線を透過するものなんだそうです。
同じ透明のフィルムに見えても、紫外線を通すものと通さないものとがあるのだとか。
施設内で作れば、昼夜の温度差も大きくなり、よく丈が伸びる上に、紫外線も着色に十分な強さを吸収することができるので、その分品質の良い物ができるのです。
増殖は?
チョコモスは挿し芽で殖やします。
「放っておいたら、生き残れない」と奥さん。
チョコモスは自然に殖えない品種です。美しい一面のコスモス畑はご覧になったことがあると思いますが、チョコモスは放っておいてもあのようにならないわけです。
なぜでしょう。
「自家不和合性が高く、・・・つまりチョコモス同士では、タネもできない。
野生のチョコモスは絶滅したとされている。チョコモスは園芸界のトキかパンダみたいなものなんだ」
それを人の手によって命を繋いで、生活者の皆さまが楽しめるようにする。
そこにひとつのチョコモスのワンダーがあるのです!
この世のチョコモスはすべからく人の手によって種の保存が図られたもの。
種で殖やせるようになるのが次世代チョコモス育成の課題だと奥さんは言います。
こちらは奥さんの作業場。
あちらで作業をしていらっしゃるのは、奥さんの奥さんですか?
「母です~」(*^-^*)
あ、お母様でいらっしゃいましたか。これまた失礼いたしました。
あまりにも若々しくハツラツとされていたものですから^_^;
奥さんのお母様で奥泰子(おく・やすこ)さんです。
泰子さんの主なお仕事は、こちらの出荷場で品質チェックと選別、梱包をすることです。
25本ずつ束にして、50本1ケースでご出荷いただいています。
しかし、奥さんはいつも26本と、1本多く入れていただいています。
「保険だよ。お客様に迷惑かけちゃうといけないから」
なるほど、奥さん親子ならではのお心遣い。
アラ?なんだか出荷場の中を見ていると、不思議がたくさん!
まず1つはすんごい数の軍手、軍手、軍手!!!アッチ見ても、コッチ見ても!
一体、何人の従業員様がいらっしゃるのでしょうか。
「私と母だけだよ。アルバイトもなし」
え!?
じゃあ、この軍手は何にご利用されているのですか?
「使い捨てなんだ。ウィルスとか入らないように、使い捨てにしているんだよ。
古くなるまで使っていては衛生面が保てない。
これらの軍手は手を守るためではなく、植物を守るための物なんだ。
使い捨てなのに、洗濯して干してあるのはどうしてですか?
「私が捨てると、父が拾ってきて、自分の趣味の園芸に使うんだよ・・・(笑)」
だからなんですね。奥さんが使う時はいつも新品を下ろします。
ハサミも圃場で使うものはさておき、親株に使うものは、1回1回必ず消毒をするそうです。
大きなトラブルを未然防ぐこと。これが大切。ウィルスとかの病気は一見わからないけど、ある日突然ドカーンとやってくるんだ。
例えばタバコにもウィルスがあるって知ってる?」
タバコですか?すみません、勉強不足で・・・(+_+)トホホ
「乾いたタバコにも、タバコモザイクウィルスという、とても感染力が強いウィルスがいるんだ。
モザイク病という植物の病気を引き起こすウィルスだよ。
だから、スモーカーは圃場にも作業場にも立ち入り厳禁にしている。たとえお客様でもご遠慮いただいているんだよ」
いがっだぁ~、ウン探はノン・スモーカーです♪
その時にタバコを吸っていなくても、入場厳禁。なぜならスモーカーの手には、既にウィルスが付いているからです。
特に苗を管理したり、親株がある圃場は、一つ一つの作業でコマメに消毒をするのだそうです。
軍手といい、この徹底ぶりは奥さんのプロ意識の賜物!
この秘密の小部屋は何でしょうか。
作業場の奥でドア越しのぽわ~んと光る幻想的なスペースを見つけました。
なにやらフラスコ苗らしきものがたくさん置いてあります。よもや・・・
「私のバイテク室だよ」
やはりッ!さすがバイテク修了した奥さんだけあります!個人でバイテク室を所有している方は初めて拝見いたしました。
「培養(=殖やすこと)をしたり、バクテリアのあるなしをチェックしたり。時間も忘れて、夜な夜なここにこもって組織培養などの仕事をするんだ」
バクテリアが付いていたものと付いていないものをシャーレーでチェックすると、こんな感じ。
ギョ(@_@;)↓バクテリアが付いていた場合 ↓付いていない場合
奥さんはこのくらい繊細に、一つ一つの苗が正常な状態であるかどうかをチェックしているのです。
その姿はこういう感じ。
このようにして、新品種の開発や無菌の質の良い親を培養しているのです。
うわぁ~、ココ一帯だけ突然理系な感じ。
この大きいタンクは「高温高圧滅菌機」
キッチンにある圧力鍋と同じ。これで煮物作るとおいしいんですよ
こちらは、マグネティックスターラーといって、マドラーのような棒やオタマジャクシを使わなくても、中身をグルグル撹拌できる秘密兵器。マグネットでこれがクルクル回ることで撹拌される。
すんごいバリエーションに富んだピペット群!
“ピペット”という音自体が懐かしいなぁ。
「ピペットもそれぞれに名前があって、これがコマゴメピペット、これがメスピペット、これがパスツールピペット、★Θ▲×Σピペット・・・」
あぁ、もうい~です。。。(+_+)ムズカシ
とまあ、ネット上のこのコーナーにご紹介させていただくには多いくらいの情報量、しかしアタクシのノートの中に眠らせておくにはもったいないくらいのオモシロ・ストーリーなのですが、ざっくばらんな性格代表のアタクシにえいやーとまとめさせていただければ、奥さんのチョコモスをスペシャル品質たらしめているのは・・・
“ひたむきな情熱と、この上なく緻密な仕事”です。
軍手やハサミの取り扱い一つとっても然り!
たとえば、この日、外国から仕入れた苗をプラグ苗用のトレイに入れる作業をしていました。
その作業たるや、動きに無駄がなく、美しく、丁寧だけど素早く、この器用そうな手先ですいすいと仕事を片付けていくのです。
なんだかもう、犬で言う“腹をご主人様に見せて何でも言うこと聞いちゃいます”と言っているかのごとく、土も苗も意思を持った生き物のように、奥さんの思う通りに動いていくのです。
そして、それほど能力のある奥さんが、例えば大企業でスター選手として活躍するでもなく、或いは独立されて大規模経営するでもなく、なぜこのようなスタイルで営まれているのか、・・・ま、愚問かもしれませんが、聞いてみました。
「自己責任でやれば、言い訳をしなくて済む。
また経営は、規模ではなく質を向上させたい」
というポリシーがあるからなのです。
このような独立心の強い奥さんがこの伊賀の里に生まれたのか・・・ということですが、これはあくまでも一探検隊員としての見解にすぎませんが、
“ココが伊賀の里であるから”だと思っています。
つまり、この辺りの忍者の里と呼ばれるところは、奥さんから教えていただいた通り、元々は土着の豪族が治める土地でした。しかし、朝廷や幕府などの国家勢力が山を越えて攻めてくるわけです。
そこで、豪族たちは「我らが土地だ!」と武装して、敵が山を越える前にゲリラ戦や奇襲戦で応戦していたのではないかと思います。応戦する際には山を目に見えぬ速さでシャカシャカと走り回っていたでしょうし、相手を罠にかけようと山に穴を落とし穴を掘ったりして様々な仕掛けを施したことでしょう。
この辺りに忍者の里と言われる所が多いのは、このような武装した土着の豪族が元だったのではないかと思いました。
マンガのハットリ君のような「はっとトリック」のような忍術はどこまで本当か定かではありませんが、元々はそのような武装した土着の豪族から、忍者と呼ばれる人たちが生まれたのではないでしょうか。
また、奥さんのような独立心旺盛な方がこの地に生まれたのは、国家勢力に迎合することを潔しとしない、この辺りの里山気質を反映してのことではないかなと。
中でも伊賀忍者は、野草を薬草にすることを研究したそうです。つまり、伊賀忍者の末裔は薬屋さん。
奥さんの研究熱心なところも、この土地の気質を反映しているのかもしれません。
仕事の緻密さもひたむきな姿勢もまた、奥家のDNAとこのお土地柄が色濃く反映された結果ではないかという思いを馳せながら、帰路に就くウンチク探検隊でした。
推測が違っていたらすみません。
ところが「僕の祖先は忍者ではなく武士です」と。
なるほど、奥さんのご自宅は武家作り。脇の小道は、まるで帯刀した武士が、威風堂々歩く姿が見えてきそうです。
そもそも、どうしてチョコモス?
奥さんはどのようにしてチョコモスに出会い、育種人生を懸けるまでになったのでしょうか。
「腐れ縁だよ」
あ、今、4,000字くらいのストーリーを“腐れ縁”の3文字で片付けようとしましたね(-ε-)
「うん、まあ簡単に言うとね、最初の出会いは学生の時に見たカタログだったんだけど、写真も不鮮明だし、妙に黒いし、フェイクだろうと思っていたんだ。だけどアルバイトをしていたお花屋さんで仕入れた実物を見てみると、本当に黒くてかわいくて、本物のチョコレートのような香りがあった。
↓
そこで、試験管の中で挿し芽をしてみたら、うまくいった。
↓
殖やしていたら、研究室の教授にチョコモスは「野生の条件下では絶滅したものだ」と教えもらった。
人工的に殖やそうとしなければ、生き残れない品種だってこと。“自家不和合性”が強く、花粉が付いても、種ができないんだ。でも、チョコモスでもあっちとこっちの品種だったら、受精できるのではないかと教授が背中を押してくれた。
↓
別の准教授に「キバナコスモスを育ててみない?」と勧められて、チョコモスの隣に植えた。
↓
するとある日、子房が膨らんでいてね。“もしかして、タネできた?”って思った。
↓
でも結局枯れて、タネは採れなかった。胚珠培養(※)ならいけるかも!?と思ってやってみたら、うまくいったんだ。
※胚珠培養
異なる品種の間で交配すると、受精はしても胚(=エンブリオ、人間でいうところの胎児)が発達しにくい場合がある。そのようなケースにおいて胚珠を人工培地に移して培養する方法。子房ができれば、そこから胚珠を取り出すのは比較的容易。
でも“チョコモスの子供ができた!”と研究室で報告したら、“大丈夫、何か間違いだよ”と皆に一蹴された(笑)。
↓
そこで花を咲かせてみたら、見たこともない赤い花だった。
虫がキバナコスモスと受粉してくれていた。虫はチョコモスだろうが、キバナだろうが関係なく花粉を運んでくれる。
チョコモスとキバナコスモスとを隣に植えさせてもらったことが運命だった」
それ以来、奥さんのチョコモスに対する飽くなき探求が続いているというわけです。
「チョコモスの件でメキシコの大学の先生のところにお話しを伺いに行ったり、今度はその先生がココ伊賀の里まで遊びに来てくれたりしたこともあったよ。
コスモスを通じてインターナショナルな付き合いが始まったんだ」
花は言語を越えて、人と人とを結び付ける。・・・奥さん語録④
あ、ちょっと待ってください!
お話を伺っている間に・・・あれれ~???!!!∑(゚ロ゚!)
奥さん!一斉にチョコモスの元気がなくなってきちゃいました!
大丈夫ですか、この状況?
水不足?
それとも寒くなったから?どうしよ、どうしよッ??(汗)アワワ
「チョコモスは夜になると寝るんだよ。
たまに“首が曲がっているから”と返品になったりするんだけど、それはチョコモスの性質なんだ。太陽が上がればまたピンとする。
チョコモスの首が曲がってきたら、夜になった証拠。一緒寝てください」
奥さん語録集
“外側”の商品は極力出荷しない・・・特に大田花きには、よく選別して出荷していただいています。奥さんのチョコモスは信頼の印!
花生産はP-Q-S!・・・Price(価格)、Quality(品質)、Style(形態、流通面)をお客様の求めるものにシフトせよ!
泥の気持ちは泥になってみないと分からない・・・農業を始める時は、泥まみれになってでもその土地の地形や地質を徹底的に調べるべし!土質のみならず、全てに対する飽くなき探求心が必要!
花は言語を越えて、人と人とを結び付ける・・・すヴぁらすぃ!(≧∇≦)
湖は生きている・・・農業はその土地の歴史を知ることに始まる。Explore Japan!
チョコモスを小売店頭であまり見かけたことのない方へ
チョコモスはこの時期よくウェディングブーケなどによく使われます。
“え?赤黒いのが?”と思われるかもしれませんが、この時期のウェディングブーケで“シックな秋”と“大人なニュアンス”を演出するのに、チョコモスの品の良さがピカイチなのです。
(写真ご提供:pianta様)
奥さんから消費者の皆さまへひとこと
・ チョコモスは鮮度保持剤を必ず使ってください。
そうすれば決して日持ちの短い品目ではありません。
・ 夜は首を曲げて寝るので、枯れたと思って驚かずに、一緒に寝てください。
・ 伊賀の里から情熱を込めて作られたチョコモスを是非使ってください。
超おまけ的 伊賀の里雑学のススメ☆☆☆
そしてここは何と松尾芭蕉生誕の地でもあるのです。
ここが芭蕉の生家。正保元(1644)年、次男としてこの家に生まれたそうです。
そしてその隣が奥さんが生まれた病院!昭和52(1977)年、奥家のご長男として生まれました。
只今、花嫁さんを大募集中です。奥さんのところにお嫁に行ったら、きっと幸せになれますよ。
丸1日お世話になったウン探が保証します