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2013年6月18日
vol.100 JAみなみ信州 【後編】品目紹介と日本農業賞おめでとうの巻
前編に引き続きJAみなみ信州の後編は、ダリア以外をご紹介していきまーす!
★オキシペタルム
みなみ信州は花でいえば元々オキシペタルムから始まった花き産地です。
・・・ん?オキ△★_ΩΘ?
ソレ何の花?と思われた方へ、ここがこの花が残す大きな課題の一つ。
↓この花のことです。
え?ブルースターじゃないの?!と思われた方へ。
厳密にいうとブルースターというのは品種名です。つまり、バラの中のローテローゼにあたる名前です。
従いまして、例えばこの写真の品種名はピュアブルーなので、ブルースターではありませんということになります。しかもブルースターという品種は現在ほとんど流通していません。
むしろ、ブルースターとは全く別の花といっていいほどあらゆる点が改良され、生まれ変わっています。
そう考えると、こんなにかわいらしい花の名前が、なんとも難しい学名のオキシペタルム(以下「オキシ」と呼ばせていただくことがあります)という名前で流通しているのが何だかミスマッチに思えてきます。馴染みの薄い名前を使って消費拡大を推進していくのは、大変な障壁になります。この名前はオキシ自身のためにもなんとかしたい課題の一つです。(最近、学名はTweediaトゥイーディアが使われることがあります)
なんて、ブーブー(-ε-)言っている場合ではなく、こちらはJAみなみ信州でオキシ一筋30年の池田毅さん。
生産のみでなくオキシの育種家さんでもあり、白、ピンク、紫など様々な色と形と性質のものを生み出されているのです。
ダリアの周年栽培を方針の軸に据えてから、多くの農家さんがダリア生産に切り替えましたが、オキシの魅力に取りつかれ、今でもなお、オキシの育種、生産から手掛けていらっしゃる、まさに日本を代表するオキシペタルムのトップブリーダーなのです!
池田さんの心を離さないオキシの魅力とは何ですか?
「初めて見たときにね、"なんだこの絵具を垂らしたような色は!?"っていうスゴイ衝撃を覚えたんだ。片面だけに花をつける面白さと、水彩画のような濃淡。
オキシと意見が合ったというか、美意識が通じたっていう感じかな」
オキシを一目見た瞬間に電流が走ったような感覚ですか?!
いわゆる一目惚れというやつですね、い・け・だ・さん❤
ぬぁんと、早速見つけてしまいました!
さすが育種家さんの圃場には、まだ見ぬ潜在パワーに溢れた逸材が隠されていますね~!
池田さんの圃場で見つけたのは初めて見るオキシペタルム。
ブルーでもなくピンクでもホワイトでもなく、なんとパーポー(←パープル)!
まさに第4の色Σ(゚口゚;
しかも、この品種は巷で有名なAKB48のおねーちゃんがある日池田さんの圃場を訪れて、「私の名前を付けてください!」ということになり、命名された"マリヤンヌパープル"。
なんだか仮想物語のような流れですが、現実のお話。事実は小説より奇なり・・・ですね!
"鈴木まりや"さんという方だったそうで、ニックネームを「マリヤンヌ」というそうです。まりやさんは、今上海のAKBでご活躍中だとか。いーまーい~ずこぉ~♪(「荒城の月」風)
しかし、この品種はまだ固定しているところで、すぐ出荷とはなりません。
オキシの品種固定は誕生から10年かかると池田さんはおっしゃいますので、マリヤンヌパーポーのデビューはまだまだ当分先となります。とはいえ、日々花に従事する私たちに将来の楽しみと夢を提供してくださっていますね。
ところで、オキシペタルムの魅力の一つがこの花の中心部分、それぞれの品種が持つ色のコントラストが美しい~(≧∇≦)!
ん?でもなんでしょ?中心を囲む王冠ぽい部分?!
これは副花冠(ふくかかん)という部分で、雄しべの一部が変形したものです。その中にスカイツリーのようにそびえ立つのが雌ずい(しずい)、つまりめしべのこと。
ん?では本当の雄しべは?
「雄しべは中の方にあり外からは見えないんだ。そこに花粉塊が付いていて、蜂が来たときにしたに押し込んだりして受粉するんだよ。人工的に授粉する場合は、筆を使うんだよ」
変わり枝を見つけたらそこから10年。オキシの育種はなにしろ気の長い道のりです。時間もかかるし、一度始めたら止められないというのが、池田さんがオキシに30年傾注している理由の一つでもあるかもしれません。ウン探も30年続いて、池田さんの新品種をまたいろいろとご紹介したいですね。
池田さんのオキシは、花弁が固く、花付きが良く、花持ちも良いのが特徴です。
↑切れ目なく連なる花が美しいですね。
花つきの良さ、透き通るような白、品の良さ、ブライダルで使ったら1輪は小さいながら断然目を引きますね。
色によっても全く性質が異なるという池田さん。
それは純粋に遺伝子レベルの品種特性なのですが、例えばピンクとブルーの品種は、形は似ていても「人と猿くらい違う!」のだとか。
なるほど、池田さんは性質を知り尽くしている分、私たちには似ているように思える部分も、全く違うことが分かるのかもしれません。西洋の人からしたら、見た目では日本人と近隣アジア人の区別がつかないというのと同じでしょうかね?
私たちとは遺伝子レベルで全く異なるその猿に悪さをされて、池田さんは頭を痛めています。実はサルだけではなく、シカやイノシシなど強敵揃い。
みなさんアレをご覧ください!LOOK UP!!
補修されたハウスの天井。なんとサルが飛び込んで来た跡なんだそうで、飛び込んできてハウスが損傷したことがこれまでに5回もあるのだとか。ほんとサル相手に損害賠償請求したいくらいですね!
池田さん、ところでオキシの良い水揚げ方法を教えてもらえませんか?(ケッコウナヤム・・・)
「オキシは切り口から白い樹液が出てくるからね、生ける前にそれを流しきった方が長持ちするよ。
一般家庭では切り口を20秒水に浸けて樹液を洗い流せば大丈夫。湯揚げの必要もない。基本的には出荷前に産地で水が上がるように処理しているからね。
今は品種改良されて、以前のオキシとは全然水揚げも花持ちも違うんだ。いわゆるブルースターと言われていた時代とは姿が似ていても、植物としてのポテンシャルは全く違う」
お~!オキシの世界に改革が起こったということですね。
池田さんとしては、今後オキシの育種の方向性をどのように進めていきたいと思われますか?
「一般家庭用の鉢物になる品種創出を目指す!」
なんと頼もしい、将来はオキシの新しいマーケットが生まれそうですv(≧∇≦)v
みなさん、みなみ信州から出荷されるオキシに大注目ですよ~!
JAみなみ信州からの月別オキシ出荷推移(大田花き取扱;2010-2012年)
★アストランティア
またまた難しい名前の花と思われたかもしれませんが、こちらの花のことです。
見たことある方もない方も、今回のうんちく探検隊で覚えちゃってください!
名前はラテン語のアストラ(astra=星)からきています。その名の通り星のように放射状に光を放つ形をしていらっしゃるではありませんか!
星の意味から命名された草花はたまに見かけますね。
例えばステルン・クーゲル。ステルンが「星」で、ドイツ語の「星の球」という意味。五角形が集まりひとつの球を形成しています。
キク科のアスターもasterも同様です。
花と星というのは、古来から人々が夢や希望を抱く対象となっていたという点において、何か共通するものがあるのかもしれません。
さて、本題に戻りますが、その人々の憧れの的アストランティアを栽培するのが、こちらの坂井貞敏さん・美加子さんご夫妻。
鋭いウン探読者の皆様なら、お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。 普通のアストランティアより少し色が濃く見えませんか?
この品種は坂井さんが自ら選抜されたもので、みなみ信州のオリジナル商品なのです!
その名も「みなみレッド」。
写真↑の上がみなみレッドで、下がみなさんがよく見るアストランティアに近い色だと思います。
坂井さんのところでも淡い品種を栽培していましたが、突然変異で濃い品種が生まれ、引き寄せられるように花に近づいて行ったといいます。
「それを株ごと引き抜いて、鉢に植え替えて、大切に増やすんだ」
という坂井さん。色ばかりでなく、輪も大きく、どれもその直系は4cm近くあります。
取材中も休みなく働かれる美加子さんの手を拝見すると・・・
なんと"アストランティア・タコ"ができているではありませんか!?
↑中指の関節に2個!わかりますか?
でも、どうして手にタコができるのでしょうか。
「こうやってね、手で採花していくのよ。
そうするとね、だんだんここの皮膚が硬くなって、タコができちゃうの」うふふ^^
その口調から、美加子さんは掛け値なくアストランティアに対して愛情を注いでいる様子が良く伝わってきます。
美加子さんは「アストランティアは形が可愛いだけでなく、散らないし、花粉も落ちない便利な花でもあります。色々なシーンに使ってください」と話します。
みなみレッドは5-6月を中心に出荷されます。
大田花きでの取扱は以下の通り。(2010-2012年実績)
★フサスグリ
そして今回、最後の品目、フサスグリ。
こちらは圃場のみご覧ください。こんな風に高い標高の平らな場所で作っているのですね。
今年の作柄はまずまず。
実付きもなかなかよろしゅうござんしょ!葉も小粒できれいです。
フサスグリへの要望などございましたら、是非忌憚ないご意見をお寄せ下さい♪
大田花きでの取扱は以下の通りです。
★集荷所と清水芳実(しみず・よしみ)部会長
こちらがみなみ信州の集荷所です。
広いみなみ信州(なんてたって香川県と同じくらいの面積ですから!)では、このような集荷所がいくつかあり、まず生産者さんたちはここに自らの商品を持ち込む、もしくは農協のトラックが生産者さんの商品を集めて回り、集荷されます。
↓生産者さん自ら持ち込む様子
↓生産者さんのところに集荷に回ってきて到着したトラック
集荷所に届けられた商品をチェックをしているのは、ベテラン選手の佐々木さん。
「ダリアは全量検品します。
きれいだなと思って見るのではなく、何かあるかもしれないと注意しながら、丁寧にチェックします」
どのようなところを見るのですか?
「虫などは付いていないか、花傷みはないか、規格に合っているか(ボリューム・長さ)、添付された伝票と申告内容があっているかなどをチェックします。
長さが合っていない場合には市場への送り状の内容を修正したり、虫付きなどがあれば取り除いて入り数を変えたりします」
口調は優しい佐々木さんですが、お仕事は真剣そのもの!ちょっとしたシミや虫付きも見逃しません。
←例えばこの白い"かまくら"という品種。
右側の花弁に黒いポツポツがあるのがわかるでしょうか。佐々木さんは針でつついたようなこのようなシミも見逃すことなく、規格外としてはじかれます。
ここでの選別もみなみ信州のブランド維持に一役買っているわけですね。
佐々木さんのプロチェックをパスした商品は、行先を清水さんの采配によって決められ、全国の卸売市場に出荷されます。
どれどれ、大田花きはあるかな~・・・・・
ありました、ありました!写真左はダリアの久保田直人さん(前編にて紹介)と右側がオキシの池田さんの商品です。
大田花きにご出荷くださりありがとうございますm(_ _)m
こちらはみなみ信州の花き部会を取りまとめる部会長の清水芳実さん。清水さんご自身はダリアとリンゴを栽培されています。
みなみ信州の花き部会の部会長をされていて、大変なことは?
「なんてったって570軒近い部会員がいるからね、顔と名前が一致しない人がたくさんいる。部会長の任期は2年で、私は今1年たったところだから、全員と会ったわけではないし、一度くらい会っても覚えるのは難しいよね。
それから、花も200品目以上作っているから、この花の顔と名前を覚えるのがまた大変なんだよ」
花も1年中出荷されているわけではありませんからそうですよね。大きい部会だけに、人も花も覚えるのが大変ということですね。
「生産者さんの高齢化が問題だったけど、こちらは後継者も出てきて明るい兆し。
今年は6億を目指し、将来的には8億円の部会になっていきたいと思うよ」
出ました「8億円宣言!」w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)w オォォーーー!!
もうこれは必達ですね。
◆清水部会長より消費者の皆さまへ一言
「JAみなみ信州の花を知って、どんどん使ってください。みなみ信州にご注文いただければ、品目もたいていのものは揃います」
これは頼りになります。みなさん、是非みなみ信州の花を使ってください。
◆急斜面を活用した農耕地
標高900メートル付近まで上がってきたところで、ふと目の前に開けた急斜面・・・よく見ればなんとここでも花を作っているではありませんか!?
「ヒペリカムとシュウメイギク、栗の木の木陰でアジサイ、ワラビなど、こういうところで70歳代、80歳代の人たちが花生産をしているんだよ」
と説明してくださる塩澤さん。
ワラビも作っていらっしゃるんですね。
「ここはマツタケの名産地でたくさん採れるんだけど、ワラビを乾燥させて、マツタケを出荷するときに箱の下に敷くんだ」
みなみ信州はいろいろ収穫できていいところですね。
それにしてもこの傾斜!
あたくしのフォトテク(写真の技術)ではなかなか伝わらないのではないと思うので、どのくらいのきつい傾斜か、試しにJAみなみ信州にこの4月に入社したピチピチの22歳、中島香奈さんにこの傾斜にトライしてもらっちゃいましょう!
ほら!この傾斜を登るのに、苦闘されている様子が伝わりますか?
ピチピチガールの中島さんがこれほど苦戦するほど本当に急斜面なのです!70-80歳代の方たちがその傾斜を克服してこの地で農業を営んでいらっしゃるとは・・・!
この急斜面を克服する工夫はいたるところに。
トロッコレール
それにしても、この渡し板・・・幅25cmくらいのこんな細いところをご高齢のおじーちゃま、おばーちゃまたちが渡って日々農作業をされていらっしゃると思うと、心配でなりなりません。くれぐれもお気を付けて!
「猫の額のような狭い場所も、更には急斜面であっても、こうやって農耕地にして 活用することができるんだ」
570軒近いみなみ信州の生産者さんは、大規模に花生産されているばかりではなく、傾斜のある小さな面積も花き生産のために耕している方もいらっしゃいます。耕地面積の大小、環境の有利・不利にかかわらず、意欲的に農業に取り組み、鋭利生産されているのです!
そしてなんと、この功績が称えられ、2013年3月、全国でも花き部会は初の日本農業賞(NHK、JA全中などの主催)で大賞を受賞されたのです!
こちらが栄誉ある農業大賞カップ
JAみなみ信州といえば、前編で述べた通り元々はオキシペタルムの産地でしたが、オキシ自体はバラやキクほど消費の多いものではありません。つまり、花だけでそれほど稼げるものではありませんでしたが、生産の主軸をダリアに据え、且つ施設栽培を利用して周年栽培を確立することで、生産金額を劇的に増やすことに成功しました。
また、みなみ信州の広大なエリアと標高差を生かした200品目以上の供給を拡大、結果的に長野の産業を盛り上げ、国内に多い山間部を有効活用するビジネスモデルをも作り上げたわけですね。
部会発足当初は3.6億円だった販売金額は2011年には5.4億に飛躍。まさに戦略に基づいたみなみ信州の躍進があったわけです。
さらには猫の額ほどの土地でも花作りを可能にし、おじーちゃま、おばーちゃまたちが生き甲斐をもって、元気に農業に励んでくれるようにした。
なんと言ってもこの功績が大きいのです。
平成25年厚生労働省発表の都道府県別寿命ランキングを見ると、長野県の寿命は男女ともにぬぁんと堂々第1位!
そのくらいご高齢のみなさまがお元気でいらっしゃるということですね。
元気が先か、やり甲斐が先かわかりませんが、もしかしたら花き生産という農業でみなさまの生き甲斐を作ったことも、本年発表で男女ともに1位に輝いたことに貢献しているのかもしれません。
そして、彼らの燃える花魂に火を点けたのがチャッカマン塩澤さんなのです。
プラス部会全体の団結力と実行力なしではこのような名誉ある賞はもらえません。この賞を受賞したことが、また生産意欲向上に繋がり、みなみ信州の大車輪は大きく前進しているのです。
日本の花き産地としてピリリと辛い、そして大きな存在感を誇るJAみなみ信州なのでした。
◆JAみなみ信州の格言 「日本農業賞受賞おめでとう記念」バージョン
・ダリアは電照栽培を使い、周年出荷を確立すべし。全国唯一の産地になる!
・ダリアの土は団粒構造がベスト!ダリアは土が作る!んだども、土はオラたちが作る!
・ダリアとの出会いは神様の贈り物。歯を食いしばって頑張れば、きっといい出会いがある!
・傾斜のきつい山間地も有効活用すべし!農作物は花がいいね!
・JAみなみ信州をJAみなみ信州たらしめているのは、地の利と技術とやる気とネットワーク!
おじーちゃま、おばーちゃまから20代の若手選手まで、みんな「明るく楽しい花生産」に取り組んでいます!
花作りの生き甲斐が生産者に活力を与え(・・・かどうか定かではありませんが、願わくばYES!)、長野県は全国1位の長寿県という実績を誇ります!
◆ホットなニュース
ちょうどみなみ信州に取材に伺った6月3日、14年後の2027年に開通予定のリニアのモデルがお目見えしたとニュースになっていました。このリニア、正式名称を「リニア中央新幹線 LO(エルゼロ)系」といい、東京から大阪間を時速500キロの猛スピードで結ぶ夢の特急網です。
そんなハイパー特急リニアが、なんと飯田に停車しみなみ信州の管内を横断するようになるのです!東京-名古屋間が40分だというので、飯田へは東京から30分程度で着いてしまうということでしょうか(驚)!
今回は飯田まで新宿から高速バスで4時間かけてお邪魔しました。人口約10万人の飯田市、みなみ信州の管内では17万人の商圏でありながら、住民のみなさんにとっては県外へのアクセスは大変不便なものでした。
ところが14年後には東京への日帰り出張をも実現してしまう夢のリニアなのです!
開通するころには飯田の産業もインフラも大きく様変わりすることでしょう。
全国一の長寿県にありながら、国内でも随一の成長株、みなみ信州!
これはもうみなみ信州の発展に目が離せません!
みなみ信州の花からも目を離さないでください(≧∇≦) !