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2014年10月20日
vol.107 横山園芸☆ダイヤモンドリリー【前編】
ひっさびさのうんちく探検隊は、高く晴れあがった秋空の下から、まさに今旬を迎えているダイヤモンドリリーについてのウンチクをお届けいたします!
うーん「(ーヘー;)、ダイヤモンドリリーってちょっと名前が長いので、この際"ダイリリ"って呼んでしまうことにしますッ!
ダイリリといえば、なんといっても「横山園芸」!横山園芸のファンのみなさま、おまっとちゃん!(こんなノリでえぇんかな?)
横山園芸を知らない方は、ぜひこの機に連想のチェーンで繋げてください。横山園芸は世界でも最もダイリリの品種を保有している育種家と思われ、また、数年前は知る人の少なかったダイリリを秋の主役級の花に昇格させた張本人でもあります。
「ダイリリといえば横山園芸」の認識は今や花き業界のスタンダード。どなたにも異論はないでしょう。それは、横山園芸が一般的な生産者とは、ちと違うからです。その所以を探ってまいりましょう。
こちらが横山園芸の横山直樹(よこやま・なおき)さん。
埼玉県との境にある東京都清瀬市で花の育種・生産をする若き篤農家です。何を隠そう、横山さんは農家のサラブレッド☆
農家のサラブレッドとはどういうことか説明させてください。
昔、武蔵野と呼ばれる東京都と埼玉県にまたがるこの一帯は雑木林でした。適度に木陰もできるとても良い場所で、近くには"御殿山"の名前が残るっているように、お殿様の保養地となっていたほど。
←現在ではこんなにきれいに整備されていますが。
江戸時代に、この広大な武蔵野平野一帯を、ある6軒の家族が一生懸命開拓し農業を始めました。この6軒を武蔵野開拓六家といいます。このうちの1軒が横山さんのご先祖様に当たります。直樹さんはその末裔で、栄光の15代目。
「狩猟民族に見えるかもしれませんけど、根っからの農耕民族なんです(笑)」
という横山さん。
いえいえ、横山さんと少しでもお話したら、そのハートの温かさから農耕民族であることは十分に納得できるはずです。
しかし昔から花農家だったわけではありません。
「明治時代には藍染めをやっていたんだ」
植物の藍を栽培して、染めものを販売していたんだそうです。圃場には藍染めの時に使っていた壺がごろんとしていて、藍染め屋さんだったこと物語っています。アリババと40人の盗賊の油壺を思い起こさせるその大きさたるや、大人一人がすっぽり入るに十分すぎるほどです。
ところが、世の中に工業化の波が訪れたとき、藍染めも例外ではなく、個人では競争力がなくなり藍染めの一切合財を売り払って、改めて土地を買い野菜を作り始めた・・・のが、直樹さんのお祖父様のお祖父様。
花を始めたのは直樹さんのお父様ですが、その時はまだ野菜との兼業。花専業にしたのは直樹さんからです。
直樹さんはダイリリばかりでなく、ネリネ、クリスマスローズ、その他種々の球根類の育種と生産育種・生産、並びにシクラメン(とりわけ原種系)の生産を行っています。
圃場の入り口には、線香花火を竹ひごで再現したかのようなオブジェがたくさん・・・。
こ、これは何ですかΣ(゚口゚;
「コレぜ~んぶネリネの仲間」
ネリネの仲間(ヒガンバナ科)の植物で、開花後に種子ができた後のものです。竹ひごではなく、本物の植物です。よく見るとひとつひとつ形やサイズが違います。まったくカッコいいオブジェですね。
「品種によっては、種子ができた時にこのボール状の頭がポロリと取れて、アフリカの大地をコロコロと転がりながら中に入っている種子をばらまくものもあるんだよ」
その光景を目の当たりにしたら、まるで生き物のように思うでしょう。ホント面白い植物です。
横山さんとダイリリとの出合い
横山さんがダイリリやネリネなどの球根植物と出合ったきっかけは何だったのでしょうか。
「端的に言えば親父がやっていたから」
しかし、お父様がダイリリを始めるにはドラマがありました。
「ダイリリは南アフリカ原産の植物。
現地でダイヤモンドの採掘に投資していた英国のロスチャイルド家がダイリリに目を付けて、ごっそり英国に持って帰ってきたんだ。
だけど、増殖率や生産性が悪かったからお金にならず、趣味家の花となった。それが世界のあちこちに散らばって、東は日本へもやってきた。
日本へはそのほかの品目もいろいろ入ってきて、その時の種苗を園芸家たちで分けて管理しようということになったんだけど、ひとつの品目が複数の人の手に渡ってしまうと、遺伝子管理が難しくなってしまうから、親父がネリネやダイリリ担当として一切を引き受けることになったんだよ」
ダイリリが南アフリカから飛び出して、世界に流通するようになったというのも、あのロスチャイルド家が関係しているのだといいます。ロスチャイルド家といえば19世紀末から20世紀初頭にかけて、南アのダイヤモンド鉱石採掘に大きな投資を行い、ダイヤモンドのDeBeers(デビアス)社設立の際に多大な支援をした財閥です。
んで、ここからはちょっくらネットサーフィンしたくらいではなかなか出てこない話になるのですが、ダイヤモンドや金の鉱脈を掘り当て、英国にじゃんじゃか送るのと一緒に、ダイヤモンドリリーも持って帰ってきたのです。しかも、結構えげつないほど根こそぎ。
ま、それだけダイリリがキラキラと輝いて美しかったということでしょう。
ダイヤモンドと一緒に南アから持ってきたダイヤモンドのような輝きを放つユリのような花だから、ダイヤモンドリリー。英国人が命名しました。
ダイヤモンドリリーの方は開花率が悪く、商売にならなかったから趣味の範囲のお楽しみとなりました。
ダイリリは、南アフリカから英国に渡り、日本へ島流しにされて、今横山家で温かく迎えられ育てられているというわけです。
何とも壮大な話。
品種数でいけば、世界でも横山さんのところに最も多くダイリリが集められているものと思われます。商売にならないと言われたダイリリですから、一生懸命品種改良をしている人も、横山さんをおいて世界ではあまりいないでしょう。
「きれいな花をつけるのに、儲からなかったダイリリにとって、日本は流転の地」という直樹さん。
ダイリリは流通期がとても限られているものですし、バラやキクのような大品目と違って本数も多く流通するものではありません。つまり出荷したとしても、それほど大きな売り上げが期待できない。おまけに、品種改良やら育種業務ときたら、本来はそれだけでは採算が採れるものではありません。
「親父は苦しい思いをしたと思う」
と直樹さんは思いを巡らせます。
市場価格で白いダイリリが1本500円という高値で取引されたこともあった。それくらい希少なものだった。しかし、生産効率や増殖率が悪いということで、生産をやめていく人が多かった。
「廃れるというよりは、注目されなかった」
それ以上に、ユリなどほかの球根の方が注目されたし、作りやすかったのかも。
家業を継ぐ
直樹さんは、大変な思いをしてダイリリとずっと向き合うお父様をどのように見ていらしたのでしょうか。
「農家を継ぐのをやめようと思った瞬間もあったよ。大変なのに儲からないっていうイメージも世の中には何となくあったしね。
だけど、農家になりたいというよりは、植物が好きだったという理由の方が大きいかな。
好きというのを強く認識していたわけではなく、小さい頃から栽培ベンチの下に潜って遊んだりして自然に花とふれあい、人にあげれば喜んでもらえる顔を見て、花や植物は人を幸せにできるんだなと実感したよ。
花を作るのは確かに大変。苦労は売っちゃいけないけど、花の良さとロマンを売る。こういうことを大切にしていきたいなと思ったんだ」
横山さんにとって、植物は常に身近な存在であり、ごく当然のように生活の一部になっていたのです。
お父様のお姿が大変そうに見えたかどうかに関わらず、園芸のお仕事を継がれるというのは、ごく自然の流れだったということでしょう。
そのようにして横山さんはダイリリの、いわば「神主」となるわけですが、神主となったばかりではなく、消費マーケットにおけるダイリリのステータスアップに大きく貢献してきました。
ざっくりまとめると、以下の通りです。
①30-40cm程度の細く華奢な脇役イメージだったダイリリを、60-70cm採れる主役級の花にした。
1本に10輪以上付け、球状に仕上げることにより、限定的にしか出荷されないダイリリの価値向上を達成しました。
②切り前を再検討することにより、日持ちをさらに1-2週間延ばすことができ、開花率も向上させた。
③限定的だったダイリリの出荷期を、山上げ(山梨)することによって3倍に延ばした。
現在は10月1日から11月中旬まで可能。
これらは日々研究を重ねた横山さんの「生産技術」「育種力」「情熱」のトライアングルで達成したことです。
では、こだわりの生産から探っていきたいと思います。
生産技術 ~大輪ちゃんを作る編~
横山さんちのダイリリは、すべからく大輪ちゃん!
のちほど輪径の採寸結果を発表いたしますが、どのようにすれば大輪ちゃんが誕生するのでしょうか。
ポイントの一つとしてポットで栽培することが挙げられます。しかも!
「球根に対し、少し小さめのポットで栽培することがポイントなんだよ」
その心は?
「一つは品種によって球根のサイズが全く違うから、ポットの大きさや植え替えのタイミングをそれぞれに計っていかないといけない。それぞれに個性を引き出すために鉢で個別管理をするんだよ」
そして、もう一つのポイントが重要です。
「球根にストレスをかけることが必要。
ポットで栽培するのも、ストレスをかけるためなんだ」
ストレス?
植物にストレスをかけるのですか?ポット管理をすることによって??☆!☆?☆ (☆_◎) ☆!☆?☆チンプンカンプン??
「地面に直植えしたり、大きなポットに植えると、ダイリリは"ワタシは生きていけるからいいわ"と花を咲かせずに悠々自適に生きてしまう。
ところが、根っこの両壁を制限して適度な圧力をかけることによって、ストレス、つまり生命の危機を感じて、子孫を残すために花を咲かせるんだよ。
イメージは歯磨き粉のチューブ。
ギュッと絞ると、ペーストがピュッと出るでしょ。イメージはあんな感じ。
もし、やんわりとしか握らなければどろぉ~っとしか出ないし、握らなければペーストが出ることすらない。
その原理と一緒で、球根にギュッと圧力をかけると、生命力を集中させて良い花を咲かせようとして、すごい勢いで花芽がグーッと上がるんだ。
この原理を使って、今まで花芽が30cm程度しか伸びなかったものを50-60cmまで伸びるようにしたんんだ。同じ品種でも全然違う結果になるんだよ」
なるほど!これがダイリリ改革のひとつ大きな要素なんですね!
「ネリネやダイリリが元々とどのようなところに生息しているのか、さらにはその中でも良い花を咲かせるものはどのようなところに咲いているのかを調べたら答えが出たんだ。
花付きの良いダイリリは南アフリカの岩場に生えている!」
え!?Σ(゚д゚;) ヌオォ!?
いッ、岩場??
可憐な姿とはギャップがあって意外ですね。
「日本でいうサル山のようなところ。
こういうところに自生しているものに限って、花付きが良かったりするんだ。」
え?そんなところですか?
「そうそう、岩場の斜面でゴツゴツゴツゴツした狭い空間に球根を蓄え、根を伸ばしていくもの。その間から、ぴょーーんと花首を伸ばしていい花をつけているんだ。
ところが、林の中や肥沃な土地にあるダイリリは、小さな球根は確かにいっぱいあるんだけど、開花の痕跡がない。良すぎる環境にいるとだれちゃうような感じだよね」
横山さん、観察力・洞察力があるんですね。
「実際に自生地に赴いたり、本で読んだりしてわかったんだ。
良い環境でよいものを作り上げるという常識から、ストレスを与えた極限の環境から良いものを生み出すという、逆転の発想だよね。」
どのくらい窮屈にするのでしょうか・・・なんて聞いても、自分がポットに入って体験するわけにもいかないし、う~ん・・・と困っていたら、ちょうど分球のタイミングを迎えたポットの中を見せてくれました!スゴイネ~!横山さん、ありがとうございます号泣(/_<。)
どれどっれ~
ポットから抜き出して・・・この状態では、一見まだそれほど窮屈な感じがしません。
ところが、横山さんが解体していくうちに・・・
うわ~!出てくる出てくる!
「これが親株」と言いながら、次から次へと分球していく横山さん。
球根ばかりでなく、根も太くて丈夫です!
これでおしまいかと思ったら、まだまだ分球が続きます!
ワン、ツー、スリー、フォ・・・・・ρ(・_・)
ぬぁんと、合計6球も納まっていたのです。
しかも、なんがーい根がグルグルに巻かれています。この立派な球根と根っこ。芸術的にすら見えてきます。
「こうなって初めて良い花が咲くんだよ。
この状態でポットに4年間植えっぱなし。一番小さいもので2年目の球根」
何が信じられないって、この3寸ポットにこれだけ球根が入っていたということです!
それをまたポットに納めようと思っても、コンビニのチキンナゲット状態。
もう元には戻せません!
しかーし!d( ̄▽ ̄)!!
この窮屈な状態が、良い花を咲かせるためにはちょうどいいのです。
"一つ屋根の下"って感じかな。人も多くの人の中で揉まれて人間性が磨かれるように・・・
「1つの球根の寿命は12年ほど。
最初に開花するまで4年程度かかるから、現役で活躍する期間は8年なんだよ」
なるほど、開花させるようになってから8年でお役目終了ですか。
「ダイリリはひとつの球根から1年に1本しか開花しないんだよ」
わ、これまたダイリリの生産性が悪いといわれるゆえんですね。
市場に1,000本出荷しようと思ったら、1,000個の球根がないといけない。その分場所もとりますね。
1年に1回、1つの球根から究極の1本を絞り出す。ここに横山さんのスピリットが凝縮されているように思います。
「これが今、ウチで一番大きいもののひとつだよ」
と見せてくださったのが、こちら。
計測したところ、花の輪サイズ・・・・・脅威の14cm。
しかも、1つの花序に、ワン、ツー、スリー、フォ・・・ふっくらとした開花間近のツボミを合わせ、11輪も付いています。
これは私たちのダイリリに対するイメージを大きく変えるサイズです。
また、大きいのは輪サイズだけではありません。
その草丈! メジャーを100cmに固定して横に並べました。
ぬぁんと、およそ70cmの草丈があります。
し、信じられませんw(゚0゚*)w 引田天功のマジックショーを見たかのような驚き!
それから、みなさーん、ちゅーもーくッ!
昔のダイリリは、横山さんの右手にあるようなイメージでしたが、それを左手のダイリリにまで作り上げるようになったのが横山さんなのです。よくある施術前・施術後を比較したかのような、目を疑うほどの大きな差をご覧ください!
まさに横山さんが目指してきた存在感のあるダイリリを体現しています。
もうこれは革命ともいうべき生産技術でしょうΣ(゚д゚;)
茎も長いだけでなく、丈夫!
ダイリリでフェンシングができそうなくらいです。突かれても痛くないけど。
「たかが5cmもない球根から、60cmも70cmも長くブットイ茎がぴょろーと伸びて大輪の花を咲かせるのがすごいね。
茎の長さもお"前、何頭身だよ!?"って思っちゃうよね」
と横山さん。
栽培している横山さん自身も、引き出された植物のパワーに驚かされています。
生産技術 ~出荷期を長くする編~
もうひとつ、横山さんがダイリリにもたらした大きな変革があります。
それは、開花期をずらしてダイリリ全体の出荷期間を長くしたということです。
「本来ダイリリは10月下旬から11月上旬の2-3週間の間に1年分が怒涛のように出荷され、パッと出荷が終わるという性質なんだ」
短期間に出荷が溢れるから、市場での取引価格も安定せず、生産者さんは余計に手放したくなるわけです。
(申し訳ございませんm(_ _)m)
しかし出荷期が少しでも長くなれば、ダイリリの市場価値が上がります。
「開花時期をずらして、10月1日から11月中下旬まで出荷できる体系を確立したよ」
おっと!出荷期間が倍以上!!
劇的に長くなり、ダイリリは瞬間芸の花から秋を代表する季節の花へと躍進しました。
「ダイリリはヒガンバナ科の植物だから、秋に咲かせて冬に葉が出て・・・というのが普通のサイクル。花が枯れると葉が出てくるんだ。
通常の球根類は、季節をずらして開花させる場合、夏に冷蔵庫に入れたりするけど、ダイリリがほかの球根植物と違うところは、花が終わって葉が出た段階で、葉の基幹部分に来年の花芽がもう形成され始めているってことなんだ。
実はこのタイミングで冷蔵庫に入れると、花芽が死んでしまうんだ」
この状態↓で、既に葉の奥に来年の花芽が形成され始めている。
なるほど、花が終わったからといって冷蔵庫に入れることができないところがダイリリの開花調整をできない理由なのですね。
「しかも、花芽は1年かけて形成されるから焦らせすぎてもダメ。なにをやっても、開花調整がほとんど効かない植物なんだよ。」
それが商業的に大量生産されない理由の一つでもあるわけですね。
ところが横山さんは「山上げ」をすることによって、開花調整に成功したのです。
「平地では暑すぎる夏期に、山梨の高冷地に持っていくんだ(これを"山上げ"といいます)。冷蔵庫ではなく、快適な涼しさの中で花芽を生かしておいて、花芽が顔を出し始めたときに清瀬に戻してパッと花を咲かせる。
球根の開花調整の本を読んで、いろいろな温度と環境の中で試してわかったことなんだ」
春が到来してから、一定の積算温度に到達したら(←1日の平均気温が○℃の日×○日続く=数字はオフレコにしちゃおっと( ̄X ̄;))山上げする。
山上げで開花をずらすだけでなく、開花率も良くなります。清瀬からちょうど100キロの山梨県忍野村(おしのむら)という富士山の麓へ。季節になると1回山上げするのに5回山梨へ、また下ろしてくるのに5回山梨へ(これを"山下げ"とは言いません!念のため)。
たとえ冷蔵庫に入れたとしても摂氏何度なら花芽が生きていられるか、横山さんは他人が思えば気が遠くなるほどのトライアンドエラーを繰り返して、限界値を知ることができたといいます。