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2014年10月24日
vol.107 横山園芸☆ダイヤモンドリリー【後編】
前編の続きです。
前編では、「横山さんとダイリリとの出合い」、およびダイリリの市場価値に改革をもたらした横山さんの生産技術についてご紹介しました。
後編は、花持ち改良や育種、その他についてご紹介してまいります。
切り前と啓蒙活動 ~花持ち改良編~
ウン探的単眼視点で「ダイリリの昔」を語らせてもらえば、茎や花首は貧弱で、草丈せいぜい30-40cm程度。
1本に3-4輪付いていて、殆どがツボミで最後まで咲かない。
つぼみの首がくたっとしおれてさようなら・・・みたいなイメージだったわけです。
「面白くないでしょ。自分が花を楽しむ立場だったら、不本意でしょ、そーゆーのって。
楽しむ立場になって考えましたよ。そして、あらゆる書籍に示されている切り前(収穫のタイミング)を完全無視!して、切り前をゼロから自分で考え直したんだ」
その結論はいかに?!
「花を咲かせて出荷する。これが私の答え。最低でも2-3輪は咲かせてから。
完全なつぼみで出荷するのが常識だった市場では、当初は随分叩かれてね。これじゃ咲きすぎてダメだって」
以前の切り前のイメージ↓
市場に何を言われても信念があったわけですね。
「開花した最初の1輪がたとえ傷付いたり、折れてダメになったとしても、咲かせて出荷した方がよっぽど長持ちする。同じ品種でも私が出荷したものなら更に1-2週間花持ちするものが作れるようになった」
どのように理解を促したのですか?
「セリ人の横で頭を下げて買っていただいたり、お花屋さんに手紙やご案内を配ったり、フェアをしたり、圃場に来てもらって本来の魅力を見てもらったり・・・品種や切り前も含め、ダイリリの魅力についてコツコツ理解を求める啓蒙活動を積み上げていったんだ」
名付けて松下幸之助作戦!(by横山さん)
「松下幸之助はいいものは、まずはみんなに使ってもらうことが第一歩。そのことでリピートがくる。これがほんものなんだという彼の語録を信じてコツコツとやったんだ。
最初は平均単価40-50円だったわけだから。
1つの球根から1本しか採花できないダイリリは、単価40-50円では出荷すればするほど赤字。
ダイリリから得る収入は、最初はご飯を食べるのも大変なくらいだったけど・・・」
切り前の研究も理解してもらうも時間がかかったと思います。辞めずに横山さんの心をつなぎとめたものは信念だったと推察します。そしてその信念は、日々の深い研究と広い分野の勉強から積み上げられたものだったのではないでしょうか。
"誰も使っていないということは無限の市場があることだ"とも言っていた松下幸之助氏。
横山さんには、最初から無限の可能性をダイリリに見出していたのかもしれません。
「つぼみは切った瞬間から開こうとする。だからつぼみが小さい時に切れば、そのサイズの花しか咲かないし、中の方の小さいつぼみは咲かずに枯れていく。
もともと球根に力があるから咲かせて出荷したほうが開花輪も大きくなるし、つぼみがあとからあとから開花してくるから、長く楽しむことができるんだ。
考えてみればツボミが小さいときに切ったら、花全体も小さくなるのは当然だよね。
コレ、ホントは企業秘密なんだけど!(笑)」
最近は、多くの品目で切り前を再検討する流れになっていますね。代表的なところで、トルコギキョウ、ラナンンキュラス然り。輪菊などでも咲かせて出荷するタイプのものがありますね。主役級の花はみなある程度咲かせてから出荷する傾向にあります。
「この時の改革がなければ、今の自分はいないと思う。
それまでの主流では、ダイリリが日の目を見ることはなかっただろうと思う」
横山さんが生産を始めたころは、園芸界の閉塞感や保守的な雰囲気を感じていたといいます。多様化・個性を尊重する時代の到来に加え、世代交代、若い世代の台頭というのも重要な要素だったのかもしれません。
育種と選抜 ~キラキラ編~
ダイリリといえば、花弁のキラキラが特徴です。これは花弁の細胞に含まれるでんぷん質が光に反射して光って見えるのです。
「赤系品種は金粉をまぶしたような、温かみのある金色系に輝き、ピンク系はメタリックのようなシルバー系に光るんだよ」
Ohhhh~!本当に!ピンク系はダイヤモンドダストを思わせる輝き!*:.。☆..。.(´∀`人)
「キラキラが多い方が、それだけ細胞がたくさん集まっていて、花弁も肉厚であるということだから、良いダイリリはよりキラキラしているといっていいんだよ」
ダイリリをお手に取られたときは、ぜひ輝きを観察してみてくださいませ。
この魅力の一つであるキラキラを増やすためには、どのようにしたらいいのでしょうか。
「品種選抜が重要だよ。夜中に電気点けてキラキラ度の高いものを選別していくんだ」
ん?夜中に?
「そう、全体を照らす太陽の光では、キラキラが分かりにくいことがある。
夕日や朝日、あるいは、懐中電灯のような一方向の光の方が反射率が高くてキラキラがわかりやすいんだ。だからヘッドライトを点けて、夜中に見回るんだ!キラキラしているダイリリはよく目立つよ☆」
キラーーーン!
「こんな感じ」で!
ふと顔を上げたら、横山さんがぬぁんとヘッドライトを装着していた!カッコよし☆☆☆
「ま、ゆっくり花を見る時間が夜しかなかったというのもあるんだけど。」
選抜して良いものを生み出す一方で、品種はどんどん増えていく。どのように品種管理をするのですか?
「遺伝子は捨てないけど、整理する必要がある。10個あるものは2個に整理する。
昔は親父が1泊2日でいない間に、穴を掘って、温室1棟分の球根を全部その穴に埋めたこともあったよ」(≧∀≦)゚テヘ
ぬぁんと勇気ある行動!ばれませんでした?
「ばれるよ。ばれるんだけど、ばれないように残った鉢を広げて空間を埋めていた(笑)」
目に浮かぶようですね。戻っていらしたお父様は何ておっしゃいましたか。
「やりやがったな!みたいな雰囲気はあったよ。
でも売れないのだったら、少しスクラップする必要があるとは思っていたかもしれないね。
何も言わずに見ていてくれた」
偉大なお父様ですね。
ご自身で集めたものは愛着も人一倍ですし、スクラップの必要を感じていてもなかなか実行できないところを、直樹さんがやってくれたと、感謝の気持ちもあったのかもしれませんね。
「捨てるのも大事な一方で、見極めないといけないのは、"売れる売れない"だけではないということ。
必要に迫られて捨てたんだけど、そのお陰で埋もれていたものが見えてきた。
"育種は捨てること"ということを実感した瞬間だった」
並行して、当時出荷していた市場の買参人さんのご意見を取り入れたことが今の品種につながったといいます。
「少しくすんだ色とか褐色系のものも残したりね。自分ひとりではその判断はなかった。
"困ったらウチに全部出しな"と支えてくれたお花屋さんたちがいてくれて、その方たちの支えがあり自信を持って取捨選択ができたんだ」
育種 ~「手で折れて、曲がらない」編~
実は横山さんが育種の段階でもう一つ気にしていることがあります。
それは手で切り取ることができること品種を残すということです・・・って、ええぇぇーーーー!?(゚ロ゚;)エェッ!?
さきほど、茎が丈夫なものっておっしゃっていませんでした?(前編参照)
そこは矛盾しないのですか?
「矛盾しないよ。手で折れるものでも茎は丈夫に仕立てられる。
ハサミを使うと、
① ウィルスが入りやすくなる
② 両手がふさがるから、仕事の効率が下がる」
だから、右手でポキポキ折れるものを選抜していくんだ」
草丈が十分に採れて、茎は丈夫なんだけど手で折れる。花弁はキラキラ。これが良いダイリリです。
育種方向性
ダイリリの育種の方向性を聞いてみました。
・・・が、すぐにこれは勉強不足のうん探の愚問であることに気付かされました。
それでも、横山さんは根気良く丁寧に答えてくださいました。
「面白いことでもあるんだけど、ダイリリという植物は"コレいいかも!?"と目を付けたとして、それが種から花を咲かせるまで5-6年かかるんだ。そこから生産を商業ベースに乗せるまで更に6-7年かかるんだよ」
そんなに時間のかかることなのですか。
「そう。更には、もともと開花率も良くない花だから、一旦花が咲いて綺麗だなと思っても、商業ベースに乗せられるかを確認するために、増殖する前に開花率をみるんだ。これを"検定"というんだよ。
この検定に6-7年かかる。
これをさらに100本以上にして商業的に生産していこうとすると、トータルで15-6年かかるんだ。」
なるほど、そうなると現在のデザイナーさんたちの潮流を追いかけることがいかに無意味かということですね。
「結果論として出たものを売って行くしかないという難しさもある。
だから私としては、流行を追うというよりも世界の品種を見て"何がないのか"、"どうだったらいいのか"というのをポイントにしている。
それと同時に、私も花を楽しむ立場でこの花はどうだったらいいのかを考えている。
例えば花持ちがいい方が好ましいし、存在感も大きい方がいい。あるいは、せっかく"ダイヤモンド"リリーという名前があるのだから、キラキラと輝いている方がいい。
そして、長い間脇役でしかなかったこの花も、主役級のボリュームを出せるようになってきたから、品種選抜ばかりでなく、作り方・育て方もそのような方向で進めているんだ」
その通り、横山さんちのダイリリはボール状!
「できるだけヒガンバナから遠い形になるようにイメージしているんだ。
花と花の間に隙間のないくらい、ぼってりとした存在感のもの、花首など頑丈なものに仕上げていきたいと一心で育種と生産に注力しているよ。」
お客様の声を反映させるばかりでなく、生産性や存在感、世界の中での希少性をを見て決める。
理想の追求と消去法を掛け合わせる。
それを続けてきて、ちょうど今14-5年目。今年は横山さんの集大成元年です。
ちなみに、こちらはダイリリの原種。園芸品種より花弁が細く、現在市場流通しているダイリリと雰囲気が大きく異なります。
横山さんにとってダイリリとは?
「ほっとするもの。植物って正直だし。とりわけダイリリなどネリネの仲間は、こんなにめまぐるしく変化する時代の流れの中で、時代に合わせて早く開花したりしない植物。冷蔵庫や薬剤処理をやっても決してサイクルを早くしたりできるものではない。常にマイペースを貫く強者だよね。
季節感があって、人間のペースではなく植物のペースで育っていくことが魅力のひとつ。ダイリリは自分の心の安定でもありペースメーカーにもなってくれるものなんだ」
また、"ダイリリの潔さが好き"という横山さん。
開花前に葉が枯れたかと思うと、長い間蓄えてきたエネルギーを一気に放出させるかのように開花し、また秋になると新しい芽が出てくる。開花の美しさは一瞬に凝縮され、生命が終わったかのように見えるが、また新しい芽が出てくる。この生命力の緩急とダイナミズムに引きつけられるんだそうです。
「それから、純粋に輝きがあってキレイだよね」
とダイリリ以上に大きな瞳を輝かせてお話する横山さん。
「栽培している植物たちは、自分表現ツールであり、武器であり、ガソリンでもあり、どんな苦労をもいとわず一生懸命にさせてくれるもの。
花は私の人生そのものである。(←ここだけ藤岡弘風の野太い声)」
横山さんの夢 ~南アフリカへの恩返し~
ダイリリは、はるばる南アフリカから日本へ大移動の果てに、日本でその魅力と価値を認められつつあります。
「それを、本当のふるさとである南アフリカに返してあげたい。」
返す?原産地の南アに?
「そう、実はロスチャイルド家がダイリリを南アから持ち出した時、根こそぎ持って行ってしまったため、もう現地にはほとんど残っていない。南アの植物園で働く人ですら、ダイリリを知らなかったりするんだ。
だけど、本来ダイリリは故郷の南アでも魅力と価値を認められてほしいと思う。そして、ダイリリを大きな産業として南アがさらに発展するといいと思う。私はその手伝いをしたい。これは、ダイリリでご飯を食べさせてもらっている私の恩返しであり、夢なのです」
良いダイリリの見分け方三箇条(①②は横山園芸直伝虎の巻)
①茎や花首がしっかりしていること
触ってみて、細くてもしっかりしていればOK。
②花弁が厚いもの
質感を見る。花弁が厚い、イコール、一つひとつの細胞が大きく、数も多いということなので、その分キラキラが増します。
花持ちの良さに直結しますので、必ずチェックしましょう。
プラースッ!横山さんのダイリリであれば、間違いありません!by ウン探
横山さんの園芸の原点 ~シクラメン~
実は、横山さんの園芸に対する興味の原点は、ダイリリではなくこの原種のシクラメンにあったと言います。
年末に出回る一般的なシクラメンではなく、あくまでも原種のシクラメンです。
「小さいころから、親父が圃場で働く傍らで、ベンチの下で遊んだりしていたんだ。そのときベンチの下には原種のシクラメンがたくさん咲いていた(現在もそうであるように)。私の園芸への興味はそこから始まったといえる。
英国に園芸留学していたときに、50-60年生きてきた、塊茎(かいけい=シクラメンの根の塊)の巨大なシクラメンに出合ってね。年末に販売される一般的なシクラメンは、1年使い捨てが当たり前の認識でしょ。50-60年も生きるシクラメンを見たときは、強烈な印象を得たよ。寒さ暑さに負けず、長生きするスゴイ植物だなってね。」
こちらは、横山さんちの国内最大級の原種のシクラメン。40年ものです。
透明感のある花弁と繊細な立ち姿、香りも見事です。
まるで清純な天使か妖精が住んでいるかのような美しさ。これに心を奪われるのは必然至極。
「ヨーロッパでは"アルプスのスミレ"と呼ばれているんだ」
なかなか言い得て妙ですな。確かに、こうして原種を見るとスミレのように可憐な花です。小輪で繊細な印象、花弁に透明感があるのが特徴です。
上向きのこのようなものまでありました!
「ダイリリの横山園芸」かと思いきや、シクラメンやクリスマスローズ、そのほか球根植物の専門家でもあるのです。
そのような園芸全般に詳しい横山さんは、園芸農業の先生にも変身します。
東京農業大学で非常勤講師として教鞭を執ること早6-7年。経営や育種の視点から教鞭を取っていらっしゃるのです。
農大クラスでの横山先生の別名はぬぁんと「園芸界の松岡修造」!
それだけ横山さんが植物に熱く、情熱が生徒さん達にもそれが伝わっているということでしょう。
10年、20年単位で結果が出るダイリリと日々向き合う横山さん。増殖率が低く、生産性が悪いからとロスチャイルド家が手放したダイリリと日本で気長に付き合い、それまでの市場価値を一新し、ダイリリのイメージに革新を起こしました。
それも、すべて植物本位の視点を持ち、利他の境地でお仕事をされる横山さんのような考えの持ち主のなせる業でしょう。ダイリリがペースを変えず、生産に無理の効かないからこそ、横山さんの心の安定になるといいます。
植え替えや切り前のタイミングなど、瞬間を見極めつつも一つの植物をずっと見つめ続ける。鋭い観察力と根気を持ち合わせた、誠実で思いやりの篤い人となりなのでしょう。
皆様も、この季節にしか流通しないダイリリと向き合い、ぜひダイヤモンドリリーの歴史と横山さんのスピリットを感じてください。
お・ま・け ~
ダイヤモンドリリーは、ヒガンバナ科ネリネ属の植物で、学名をNerine sarniensis(ネリネ・サルサルニエンシス)といいます。また、ネリネ・サルニエンシスをもとに改良した品種もダイヤモンドリリーとなります。
ネリネ属?あの球根植物のネリネ?
"ネリネとダイリリって、どう違うの?"と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
良い質問ですd(゚-^*)good!!
ネリネもダイリリも同じヒガンバナ科ネリネ属の植物。原産も南アフリカで、極めて近い植物といっていいでしょう。
しかし上述の通り、ダイリリがsarniensisを中心に改良したものである一方、ネリネはNerine bowdenii(ボーデニー)という品種を中心に改良したものです。花弁を見ると、ネリネの方が細く、若干フリルが入っていることがダイリリとの違いです。また、ネリネの花弁はダイリリほどキラキラしていません。
ネリネかダイリリか、似たような花に出合ってどちらかわからないときは、花弁をよく観察してみましょう!
詳しくは「花研手帳2015」32-33ページをご参照ください。横山園芸さん監修による見分け方一覧表が掲載されています!そのほか、似たような植物であるリコリスとヒガンバナを合わせ、 4品目の違いを比較しています。
<写真・文責>:ikuko naito@花研