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2015年10月20日
vol.112 片桐農園様★カボチャをめぐる冒険 第6話<最終回>
片桐農園様の生産へのこだわりの途中でした。片桐農園様後編の今回は・・・
<第6話 目次>
◆生産
CHAPTER 4. こだわる?こだわらない?土のクオリティ
CHAPTER 5. 空飛ぶカボチャ
CHAPTER 6. ネズミとコオロギのカジリ対決
◆謎のコーヒー麻袋
◆そもそもどうしてカボチャ?
◆今後の方針
◆カボチャのトリビア
◆たかがカボチャ、されどカボチャ
をお届けします。
CHAPTER4: カボチャの土
片桐さん、カボチャの土にはどのようなものが適していますか?
「カボチャはそんなに土の好き嫌いはないんだよ。
極端な酸性、あるいはアルカリ性でない限りは問題ない。
日本の土壌は基本的には弱酸性。アルカリ土壌は栃木県の足尾の一部とか、局地的に限られたほんの何十ヘクタールくらい。あとはすべて酸性土壌だからおよそ問題ないんだ。」
なるほど、それがカボチャが作りやすいと言われるゆえんでもあるわけですね。
それでも尚、片桐さんはひと工夫。
もみ殻とブタちゃんの堆肥を混ぜています。堆肥は生まれたばかりの子豚ちゃんのもの。きめが細かすぎてそのままでは使えないので、もみ殻に吸着させて、これを圃場に混ぜ込みます。
「私たちは休耕田を使っているんだけど、田んぼの土はpHが5.5-5.8くらい。普通の野菜はできないことも多いんだけど、カボチャならできる。
土壌pHに対して適応性が非常に高いのがカボチャの良いところ。"塩害"にも強い。」
("円買い"ではありませんよ。円買いも強くなってほしいところではありますが)
CHAPTER 5 : 空飛ぶカボチャ
カボチャにはほかにも良いところがあると片桐さんはおっしゃいます。
「カボチャの生産は生長こそすれば土地面積が必要だけど、植える面積自体は少なくていいんだ。
だから、実はとても面積効率の良い農産物なんだよ。」
ホントですか?それはなんだか意外です。
「空飛ぶカボチャって知ってる?」
そ、空飛ぶカボチャ??ウーン (Θ_Θ;)想像できない・・・
こんなん??
いやいや、まさかね(;・・)ゞ
「北海道ならではなんだけど、ビニールハウスで栽培したものが収穫が終わると、ビニールをはいでそこにカボチャの苗を植える。
すると骨組みに沿って蔦が生長していくから、空中で実が成るんだ。だから空飛ぶカボチャって言われているんだよ。」
実は空飛ぶカボチャ、北空知の吉澤さんの圃場で拝見していました。
この骨組みに沿って這っているいる蔦はカボチャ。
一瞬目を疑いますが、確かにブドウのように宙に浮いてカボチャが成っています(゚O゚;!
↑こちらは生食用の坊ちゃんカボチャ。
↓観賞用もこのスタイルで栽培していました。
この方式で栽培すると、カボチャの実のうち地面と接するところがないので、むらなく均一に色が付きます。
「栽培面積がたとえ1平方メートルでも、太陽さえ当たれば、カボチャはどこでもできる。土地を選ばないし、カボチャは良い作物なんだよ。」
片桐さんのところでは現在はこの方法を採用していませんが、開拓時代からカボチャ生産に打ち込んできた北海道の先人たちの知恵をこのように説明してくださいました。
CHAPTER 6 : ネズミのコオロギのカジリ対決
片桐さんの頭を痛める原因の一つ・・・カボチャの傷。傷は商品価格に直結してきますから、本当に厄介な問題です(´ε`;)
みなさま、こちらをご覧くださいませ。
<キズA> <キズB>
これらは虫や動物などにガブリとやられたことを物語っています。
このキズAとBの違い、分かりますか?
この違いを見極めることが何者の仕業かを知る上でとても重要です。
傷の性質を見る→カブリついた時期がわかる→犯人が誰かわかるのです。
例えば、キズAは生育中の6-7月にかじられ、キズBは生育が完了してから8-9月にかじられたもの。
なぜわかるかというと、かじられてその跡がかさぶたになって、こんもりと盛り上がっているかどうか。
盛り上がっていれば6-7月にかじられたもの。北空知さんのお絵かきカボチャの原理と同じです。(カボチャをめぐる冒険第2話参照)
ところが、生長が終わってからかじられたものはその場所が凹むだけ。だからキズBのようになってしまうのです。
しかしまあ、どのような厄介者がカボチャをかじっていくのでしょうか。
「ネズミとコオロギだよ。」
うギャー!カンベーン(ノ_-。)
どちらがどちらをかじった跡でしょうか?
「キズAがコオロギで、キズBがネズミ。
ネズミは生育中の青いカボチャは絶対かじらない。完熟した糖分の高いカボチャばかりを狙っていくんだ」
えーーーー、ズルーーーイ(-ε-)ブーブー
ネズミってそんなふうに鼻が利くのですね。
「そうなんだろうね。ネズミは見事にペポを避けて、完熟したパンプキン、あるいはパンプキンとの交配種ばかりを食べていくよ。
コオロギの食害の原因は分かっているんだ。定植したときに敷く黒いマルチングのせい。
特に初期の生育をしっかりさせることが重要だから、この黒いマルチングは、カボチャ生産にとってはベストアイテム。
ところが、土とこの黒いマルチングの間の小さな隙間がコオロギにとってはとっても心地良いものなんだ。」
では黒のマルチングはどうしても施さないといけないのですか?何のため?
「黒いマルチングをすると日光が当たらなくなって、雑草が生えなくなる。雑草が生えると、カボチャの苗の生長を阻害するでしょ。4町歩の圃場だからマンパワーで雑草を処理しきれないからね。だから生えないようにするのが一番。」
これはなかなか頭の痛い問題です。
農資材メーカーさんには、是非コオロギ忌避剤入りのマルチングシートを開発していただきたいものです(懇願)!
★謎のコーヒー麻袋(またい)
んん?なんじゃ、なんじゃ?これは一体なんでしょう?なんでこんなところに麻の布が??
「これはカボチャを出荷するときの緩衝剤に使うんだよ」
ぬぁんと、この麻布は、片桐農園式カボチャ用クッション!しかも元はコーヒー豆を海外から輸入するときに使うバッグなんです。
それをカボチャ用緩衝剤に!
へ~、なんだかとってもユニーク~ッ!でも、どうして??o(゚◇゚o)?
「クッションはいろいろな素材でやってみたんだけど、小売店さんが"おしゃれでいいね"って喜んでくれるんだ。」
コーヒー麻袋は、コーヒーの生豆を生産地から消費国に運搬する際に使う袋。生産国や銘柄、等級など、あるいは生産国ならではの絵が描かれていて、とても趣深いものです。
絵柄もとってもシャレオツ~♪
なんだか遠く生産国のことを思ってしまいますね。一体、どこで仕入れるのでしょうか?
「小樽に袋物専門の古物屋さんがあるんだよ。お米の袋、菜種の袋、コーヒーの袋など、世界の農産物の袋を取り扱っているところなんだ。
この袋を裁断して使うんだけど、裁断中にコーヒーがぽろぽろ出てくるんだよ(笑)」
わッ!ホントだ。
コーヒー豆がカボチャ農園に転がっている!
「ちゃんと焙煎すると飲めるんだよ~!」
わー、おもろー。焙煎して飲んだことありますか?
「ない」
さすがに、そりゃないか・・・。
それにしてもカボチャとコーヒーなんて面白い組み合わせ。
そのコーヒーの袋をこれで裁断して、カボチャの緩衝剤としてちょうどいい大きさに仕立てます。
確かにかわいい。喜ばれるの、わかります。
「ケニアとかタンザニア、中南米とか、いろんな国からくるよ。
↓これなんかは日本向け専用にデザインされもの。」
あんりまあ、ホント、よく見ると鶯やら、富士山まで描いてあるではありませんか。
最近はコーヒー豆の価格も高くなり、コーヒー麻袋も入手しづらくなったとおっしゃいますが、それでも尚、小売店さんに喜んでもろえるようこの素材にこだわります。品種も梱包材も、お客様に喜んでもらうことが片桐さんの選択基準。お仕事の細部に至るまで、片桐さんの精神性と哲学を見て取ることができます。
みなさま、カボチャの箱を開けてコーヒー麻袋が緩衝剤として入っていたら、それは片桐さんのカボチャです。片桐さんのお客様への思いもカボチャと一緒に受け取ってください。
★そもそもどうしてカボチャ?
もともと片桐さんは園芸農家さん。花き専門なのです。今でも鉢物や苗ものを取り扱っています。
ですから、カボチャを作るといっても観賞用のカボチャに特化しています。
「やってみようかなと思ったのは20年くらい前かな。」
何かきっかけは?
「娘が米国のテネシーに留学したとき、滞在先のおばちゃんチに、たまたま花きのカタログがあったんだよ。
それを娘がお土産にもらってきて見せてもらったら、そこからカボチャが載っていたんだ。
米国ではこんなに面白い品種がたくさんあるのかとウキウキして集め出したんだ。」
でかした!片桐さんのお嬢様^^!!なんて気が利くのでしょう。
「初めて作ったときに市場に出したら、思ったよりも良い値段で取引できてね。そこから栽培面積を広げていったんだ。」
片桐さんは、もう40年以上も花壇苗を中心とした花き生産に従事していらっしゃる生粋のフラワーピーポーなのですが、そこにお嬢様の米国留学がきっかけで、カボチャという生産品目が加わったというワケです。
では、なぜ米国にそんなに多彩なカボチャの種類があるのでしょうか。
「それは南北アメリカがカボチャの原産地だから」
・・・ということは、米国留学にお嬢様を見送られた片桐さんの采配の結果ということですね。
★今後の方針
カボチャ4町歩、30品種以上もある片桐さんに、今後の方向性を伺いました。
「1町歩あたり1-1.5万個くらいのカボチャが採れる。今ある4町歩からきちんと収穫できれば収量は十分なんだ。だからこれ以上圃場を拡大するつもりはない。
しかし、今の圃場に手間をかけて、きちんと収穫できるようにしなくてはいけないと思っているよ。
今年、収量が減ったのは長雨のせい。畑に水が入ったからダメになった。もし、圃場を少しでも高くしておいたら、その害はなかったはず。以前はそうしていたんだけど、面積が拡大するにつれやらなくなってきてしまっていた。うまくいっていたこともあるしね。
でも、"ズボラこく(※)"のは、農業では良くないことだと、今回はは身に染みて痛感した年だった。
※「手間を省いて、スボラをしてしまうこと。」注釈不要とは思いましたが、念のため・・・
来年から原点に戻って圃場を高く作るよ。プラオという農機具をいれて、土を起こして作るんだ。それをやれば、20cmくらいは高くできる。今回の大雨でもクリアできるようになる見込みだよ。もう今年のような思いは二度としないようにする。」
今年の痛手を胸に刻み、来年以降の対策を語る片桐さん。忸怩たる思いでいっぱいなのでしょうが、それを一切お顔に出さず、ニコニコと笑顔で答えてくれます。
それから、市場の変化に伴い、片桐さんのもう一つの方針。
「早い需要に応えられるように、早生品種を検討していこうと思うんだ。
着果日数110日の品種では、最早でも9月10日に収穫。でも65日の品種なら8月末くらいに収穫できる。
だから65日の品種を中心に取り入れていきたいね。」
是非、来年からも片桐さんのカボチャに注目したいと思います。
★(ちょっとだけ)カボチャのトリビア
片桐さんに教えていただいた、カボチャのトリビア。
カボチャはカンボジアから日本に渡ったからカボチャというのはご存知の方も多いと思いますが、元々は南北アメリカ原産。それをスペイン人が大航海時代に自国に持ち帰り、ヨーロッパに広めました。
栽培が容易なこと、栄養価が高い上においしいことなどで、拡散のスピードは速かったといいます。生産性が良くておいしければ、皆が作るのでその分、速く伝播するわけですね。
スペイン人が南インドシナに航海したときに、世界各地に落としていったか、置いて行ったかでアジアにもカボチャが伝わりました。そのうちの一つの国が現在のカンボジア。地球の裏側からヨーロッパを経由し、日本に渡来したわけですが、日本にとっては、カンボジアから伝わったので、"カボチャ"というわけですね。
日本で栽培し始めたときは救荒作物としてカボチャが作られました。天候不順で畑作や水稲のなどができないときはカボチャが作られたのです。
似たような野菜の命名例で面白いのが、サツマイモ。
サツマイモは中国から琉球を経て、鹿児島(薩摩)、本州へと伝わりました。
本州の人からすれば薩摩から伝わったので、"サツマイモ"と呼びます。
しかし、薩摩の人は琉球から伝わったので、"琉球イモ"と呼びます。
さらには琉球の人は、中国から伝わったので"唐イモ"と呼ぶのだとか。
野菜の伝来と命名の関係は面白いものですね。
★たかがカボチャ、されどカボチャ
片桐さんにとってカボチャってなんですか。
「ホント、たかがカボチャ、されどカボチャだって思うね。
カボチャ作りは楽しいよ。売れるともっと楽しい。
定植してみて何が生まれるかわからないっていうところが醍醐味だね。とりあえず品種の予定を立てて作るんだけど、実際には交配して違うものができるんだ。オレンジが出るはずだったのに、真っ黒けが出てきたり、真っ白のカボチャが出てきたり。
完全にメンデルの法則だね。カボチャは自家受粉はしないので、必ずハチが飛んできて、ほかの株の花粉と交配してくれないと着果しない。だから、雑種となるんだけど、先祖還りのような思いもしないカボチャが生まれてくる。
この面白さがあるからこそ、カボチャ生産は私のHOBBYでもあるんだ。真剣そのものだけど。
たかがカボチャなんだよ。でも私にとってはされどカボチャなんだ。人生を楽しくしてくれるもの!」
そんなスピリットで生産に携わっている片桐さんのカボチャを、みなさまには是非一度手に取って、楽しさをシェアしていただきたいと思います。
ウンチク探検隊のカボチャをめぐる冒険は、この第6話をもっておしまいです。
しかし、ハロウィン本番はこれから!この冒険の終わりが、みなさまにとっての始まりです!
・・・な~ンちゃって★
みなさま、今年もHAPPY HALLOWEENをお過ごしくださいませ
また逢ふ日まで、ごきげんよう。
蛇足的ですが、ハロウィンに関するトリビアはこちら・・・ハロウィン発祥の際は、カボチャではなく別の野菜を使っていたのです!その野菜とは?
<写真・文責>:ikuko naito@花研