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2016年1月29日

vol.113 JAふかや 前編■LAユリ

みなさま、新春!でございます。はなんと素晴らしい響きなのでしょう(´∀`)!

本年も産地ウンチク探検隊をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

さて、素晴らしい響きの新春第一号は、東京から100km足らずのココ埼玉県深谷(ふかや)市を探検します!

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うンわッ、なんだか東京駅のようなクラシックで重厚感のある駅・・・こちらはJR高崎線深谷駅。

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この駅は東京駅を模して平成8年に完成しました。なぜ東京駅を模したのか、ここがポイントです。

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実は、深谷はレンガ造りが盛んで、東京駅の煉瓦は深谷で作ったものだからです。深谷駅はレンガ調のパネルを使っていますが、それでもビクトリア様式の気品が青い空の下に漂います。

(あ、空、青くない??実は曇りでした^ ^;)tokyoST.jpg

何を隠そうその煉瓦を作った深谷の日本煉瓦製造株式会社こそ、明治20年に近代日本経済の父と呼ばれる渋沢栄一氏が設立した会社です。そう、渋沢栄一氏の生誕の地こそ、ココ深谷なのです。ワオw(*゚o゚*)w

また、日本煉瓦製造は東京駅ばかりでなく、司法省(現法務省)や日本銀行、迎賓館、旧東京裁判所、旧警視庁など、名だたる建設物の建築材となっています。

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渋沢栄一氏にばかり気を取られていてはいけません。スーパーやコンビニの冷凍庫の中でひしめき合うアイスクリーム。

今や主食にしている人もいらっしゃるかもしれませんが、そのアイスクリーム生産量は埼玉が日本一。その生産を支える企業こそ、深谷に構える昭和6年創業の赤城乳業さん。

 

そして、深谷といえば公認キャラクターのふっかちゃんIMG_7570.jpg

到着した瞬間からあちこちでかわいいふっかちゃんがお出迎え❤

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ふっかちゃんの頭から大胆にもドカンと生えている角こそ、日本一の出荷量を誇る深谷ねぎ

平地で内陸、寒暖の差が大きい上に関東平野で日照量が多い深谷は、野菜や花の生産に適しているのです。

IMG_7676.jpg←深谷ネギ畑

この気候特性を生かして栽培される農産物は、もちろんネギだけではありません。

埼玉県といえば深谷も含め花き園芸の一大産地。

とりわけ切り花でいえば、生産額全国第1位のユリと第2位のチューリップ!

 今回はこの2つの花をご紹介いたします。それでは深谷の花の魅力にズームイン!(古い?)

 

前編はユリ。

☆深谷のユリ

IMG_7574.jpg全国一のユリ産地としてお邪魔したのは、JAふかや深谷ゆり部会、部会長の植竹好宏(うえたけ・よしひろ)さん・・・とご紹介しようと思ったら、

「あ、これ全国ネット?」

なんて、メディア慣れした植竹さんは早速確認。

「はい、全国ネットというか世界中どこからでも閲覧できるインターネットです。」

とウン探が答えた瞬間、

shaving.jpg「じゃあ、髭剃ってくる!」

・・・とたちまちご自宅に消えた後、さっぱりされた爽やかNHKアナウンサー系硬派なジェントルマンとして再登場されました。

改めまして、こちらがJAふかや深谷ゆり部会、部会長の植竹さんです。

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そんな植竹さんに伺ったお話は、以下の順でご紹介いたします。

■ユリの球根

■土と水と太陽

■LAユリの選択

■2014年2月の雪害を乗り越えて

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■ユリの球根

ウンチク探検隊をご愛読くださっている皆様なら既にご存知かと思いますが、ユリは球根から育てます。

取材当日、ちょうどオランダから届いたばかりの球根がありました!JAふかや南部営農経済センターの髙野健一朗(こうの・けんいちろう)さんが指さす先にある、黒い箱の中にその球根が入っているのです。

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ブシャーとひっくり返してみるとこんな感じ。

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土のように見えますが原則的に土は輸入できないので、土ではなくピートモスというミズゴケが原材料になったものに保護されて船便で日本に到着します。

球根のサイズは直径4-5cmくらい。このとき良い球根はどのように見分けるのですか?



「鱗片が締まり、
球根全体にキュッと締まりがあること。大小ではないんだ。

水ぶくれで大きくてもブヨブヨしているものは良くないからね」

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え?水ぶくれ??ブヨブヨ??あッ?アタクシ??どーもすみません( ´)Д(`; )

 

「ナニ言ってんの。球根のことだよ。水ぶくれしていると青カビが出たりいろいろ問題があるからね。

それから、下根がしっかりしていることが大事。」

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↑このように、球根の下に、太い根がもしゃもしゃと生えていることが大事。 

「でもオランダの球根の納入業者さんが丁寧に神経を使って良い球根を選んで送ってくれるから、そう悪い球根はないよ・・・!」

IMG_7623.jpgオランダの球根の輸出業者さんは長期冷蔵に耐えるよう、球根を包むピートモスの湿度調整もした上で出荷してくれます。

「水分を含み過ぎて鱗片の腐敗やフザリウム菌の繁殖を引き起こさないよう、あるいは乾きすぎて枯死しないよう、色々と工夫をされて出荷してくれているんだよ」

球根の輸送にも細かなノウハウがあるのですね。

「そうそう、ノウハウがあるし技術だし、日々進化していると思うよ」

 

ちなみに、こちらは収穫が終わったユリの球根を引き抜いてみると・・・

 

ジャジャン☆こんな感じ!

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うンわッΣ(◎o◎;)!何やらさらにもしゃもしゃしてすごいことになっていますが・・・ 

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「生長過程で上根(うわね)が生長してこうなるんだよ」

 まるで、天然のドレッドヘアのようやわ~。こうなっていれば良いユリが収穫できたというわけですね。

キーワードはドレッドヘアのような根っこ。 

 

■土と水と太陽

植竹さんのハウスがある関東平野のこの地域は、関東ローム層の粘土化した火山灰層に覆われています。

しかし、一級河川の利根川と荒川に挟まれ、水分や砂利具合など複雑な土壌のように思いますが、ユリにとってはがでしょうか。IMG_7649.jpg 

「ユリは土質を選ばないんだよ。

だから世界中どこででも比較的作りやすい。ただ、pH値とEC値(電気伝導度、土中の肥料の総量)だけ整えるように気を付けているけど、基本的には関東ローム層の土をそのまま使っているよ。」

そのまま使うと言ってももちろんそのまま使うわけではなく、まずはこのように耕耘(こううん)機で耕して、溝を作っていきます。

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フカフカの土の中に入っていくので、地下足袋は植竹さんにとって七つ道具の一つ。

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IMG_7614.jpg「畑の中に入っていくけど、土が足の中に入らないし、滑らないし、痛くならないからいいんだ!」

うわー、きれいにできたー。

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土を耕せたら、オランダから届いた球根をピートモスの中から手袋もせず一つ一つ傷つけないよう丁寧にカゴに取り出していきます。

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「こうして手で定植するんだよ。」

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球根どうしの間隔に決まりはあるのでしょうか。

「基本的には15センチ真四角で定植するのが部会の決まりです。」

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植竹さんレベルのベテランさんになると定規は使いませんが、これで15センチ間隔になっているのです。

では深さは? 

「球根の2-3倍くらいの深さに植えます。ユリ全般にそうだよ」

このように丁寧に置いたら、畝の山を崩し土をかぶせて、さらにその上にもみ殻を敷いてできあがり☆

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 あれ?えーっと、?c(゚.゚*)。。。もみ殻は何のため?

「乾燥防止だよ。特に夏場はこれをしないと表面がカラカラに乾いてしまうからね。

もみ殻を敷くことで土の表面から水分が蒸散するのを防ぐんだ。また栽培した後も、もみ殻や藁が肥代わりにもなるんだよ。」

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マルチングシート代わりといえそうですね。

 

水遣りももちろん大切な農作業の一つ。どのくらいで灌水するのですか?

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「決まっているわけではないんだけど、今回は一週間ぶりくらいかな~」

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ユリは水遣りが比較的少ないということでしょうか。

「そうでもないよ。ユリの場合は、次の3つを見ながら水遣りをするんだ。

・土の状態

・空気の乾燥具合

・気候

だから水遣りの間隔は決まっていないんだ。

特によく見るのは、この表層土!」

表層土を見る?

「そう、特に最近は表層部分1-2cmを意識した灌水に努めております~(ニコニコッ!)

畝によって西日の当たる肩の部分がどうしても乾きやすい。 だから表層土の色を見極めながら灌水判断をするんだ。

でも水をジャブジャブやると、背丈が無駄に伸び過ぎちゃうしね。」

 

日照量の多い関東平野。それだけに、日々農業に勤しむ植竹さんには日照の強弱を肌で捉え、表土を見て、灌水のタイミングを計っています。

 

■LAユリの選択

LAユリとは、テッポウユリ(学名:Lilium longiflorum ロンギフロラム)とアジアティックハイブリッドAsiatic Hybrid、スカシユリの系統)との交配種です。

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テッポウユリ     ×     アジアティックハイブリッド     =    LAユリ(写真の品種名はセラダ)

ロンギフロラム-アジアティック・ユリというところですが、あまりにも長すぎるのでそれぞれの頭文字をとって、通称LAユリと呼ばれます。

黄色やオレンジ色が多いこと、また山ユリやオニユリにあるような花弁のそばかすがない(スポットレス)ことが特徴です。

yamayuri.jpg ←ヤマユリ:花弁のスポット(そばかす)がある。

LAユリは1992年に日本に紹介された比較的新しいグループですが、現在日本ではユリの中では品種数最多を誇る部類です。

深谷ではこのLAユリが全体の9割を占めます。そもそもなぜLAユリを選択したのでしょうか。

IMG_7599.jpg「製品率が高いことが大きいかな。ロスが少ないんだ。

深谷では元々スカシユリとオリエンタルユリを作っていましたが、スカシユリよりも輪が大きく見栄えがして、且つオリエンタルユリよりロスが少ない。この中間のLAユリは営利生産に向いていたんだ。

だから深谷はLAユリの生産において全国初の部会を設立したんだよ。」

 

また、暑さに強いのもLAユリのイイトコロ~。周年栽培のためには、LAユリは相性の良い花なのです。

更には近年ヒートポンプを入れたことにより、クオリティもグッとアップ↑

冬は湿度を下げて病気を未然に防ぐため、また夏場は夜温を下げるために使います。

 

深谷で球根切り花の生産が盛んになったのはいつごろなのでしょうか。

「昭和30-40年代かな。深谷でチューリップ、スイセン、クロッカスなどの球根切り花があって、その中でユリも導入されたんだ。

kaiko.jpgそもそもは関東平野は米・麦・養蚕(べいばくようさん)が盛んでしょ。深谷でも養蚕が盛んで、お蚕(かいこ)さんのえさになる桑をたくさん作っていたんだ。

その桑の木の閑散作物として戦前から桑の木の間に球根を植えたっていうのがきっかけ。この辺りの栄養分の少ない土壌には土質を選ばない球根がちょうどあったのかもしれないね。

東京にも使いことから周年栽培の技術か早くに確立して、ユリの生産が大きく普及して根付いていったんだよ。」

LAユリの良いところはどのような点でしょうか。

「花の輪が大きすぎないところが一つ。

このことによって、他の花との調和が取れやすいし、例えばご家庭で飾っていただくにも大袈裟でなくていい。おうちの雰囲気とも合いやすいでしょ。

他には花色が豊富なところだよ。」

ごく一部ですが、JAふかや様の品種はこちら。

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写真左からパーティダイヤモンド・エルディーボ・ハイドパーク

明るく鮮やかな発色と陶器のような花弁の質感に魅力がありますね。

 

■2014年2月の雪害を乗り越えて

まだ記憶に新しい2014年2月半ばの記録的な大雪。

諏年栽培を実現し全国シェアの20-25%を占めながら、深谷のユリは全体で7割、とりわけ植竹さんのハウスは9割以上(つまりほとんど)が潰れてしまい、甚大な被害を受けてしまいました。

 

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「上からハウスごと雪がドサッと落ちてきたから、伸びていた芽は全て潰れてしまったよ。

まだ芽が出ていないものであったけど結局温度がかけられないから、凍害(とうがい)でダメになってしまったんだ。

花芽が上がっているものもあったけど、潰れていなくても全て凍結してしまうし、生長しなくなってしまう。ほとんどが台無しになってしまったよ」

 

生き残った球根を救ったとしても、栽培する施設が全て崩壊してしまったので、すぐには栽培を再開できません。

被害は収穫間際のユリ、生長中のユリ、球根を含め、植竹さんの圃場の全てのユリなど出荷物ばかりでなく、栽培施設も壊れて立て直しをしないといけないので、ダブルパンチ(*_*;

降雪から半年後の2014年9月から少しずつ出荷を開始。

「2015年11月に施設はほとんど修復されたよ」

2015年11月ってまだほんの2か月前ではありませんか!?・・・雪害から1年10か月が経過したころです。いかに雪害の被害が大きかったかを物語っています。

 「耐雪式のハウスに立て直し、生産ができる状態には戻ったよ。

でも、生産体系を組み立て直す必要がある。今後の色バランスや球根の導入計画など、ハードは一応整ったけど、ソフトはまだまだこれからなんだ。

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雪害のお見舞いで天皇・皇后陛下がお越しくださってね」

 

て、て、テッ、天皇陛下??

そう、2014年2月の記録的な大雪で雪害に見舞われた植竹さんのハウスには、ぬぁんと天皇陛下・皇后さまがお見舞いに来てくださったのです。

 

「そうそう、歩くパワースポットッという感じで、神々しかったね。

ハウスの入り口からまさにこのルートを歩いていらしたんだよ」

わー、天皇皇后陛下が踏まれた土と同じ土の上に立っているウン探・・・ありがたき幸せ~。

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どのようなお言葉をいただいたのでしょうか?

「いろいろお話させていただきましたケド、とりわけ印象に残っているのは、育種のお話はご興味を持たれたようでございました。」

(天皇陛下の話題になると、なんだかお互い急に丁寧語のレベルが上がる^ ^;)

 

オランダで育種されていることをお話ししたところ、"ヤマユリを栽培したりすることもあるのですか"ということも聞かれましたので、"ヤマユリはございません。改良された営利栽培用の品種のみを作っています"と答えました。」

 あ、さようでございましたか。

 

大雪の日は何をされていましたか?しんしんと降り積もる重い雪で気が気でなかったのでは?

 

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「私はソチオリンピックのフィギュアスケート羽生君を応援していたんだ。それがちょうど午前3時頃。優勝が決まって表彰式があっ

たのがちょうど4時ころ。"ヤッター!羽生君、スゲーナー"って喜んでいたんだよ。

 

それが終わって雪でも降っているようだし、様子見ながらタバコでも買いに行こうかと外に出たんだ。

すると、"んッ?雰囲気が少し違う"って思ってハウスまで歩いたら、暗闇の中でもハウスのぼんやりとした山がないってことがわかってね。

そこからあちこちと連絡撮りあって、被害確認が始まったんだ。

雪が腰の高さまで積もったからね、もちろん車も出せないし、スキーを履いて移動したくらいだよ。」

 

被害を目の当たりにしたときの衝撃は?

   

「球根代が払えない!

ハウスの新設費どうしよう!?というのが頭をよぎったね」 

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球根代の支払いやハウスの新設費を何とか工面しながら、部会長植竹さんをはじめ深谷ゆり部会のみなさまはいま再びスタート地点に立ちました。

深谷のユリは周年出荷。特に4-6月は最高のクオリティです!

ボリューム感、花の大きさ、品種構成、全てにおいてお客様の満足が高くなるタイミングです。

是非、今シーズンの深谷のユリにご期待ください。

 

生活者のみなさま、生花店のみなさまにおかれましても、JAふかや様を応援のほどよろしくお願い申し上げます。

 

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■JAふかや深谷ゆり部会の格言■

・農業は常に自然との対峙。

 日差しを肌で感じて、土を見て灌水のタイミングを図ろう。

 ときに予想をはるかに上回る自然災害に襲われるが、常に未来を見て進んでいきたい(by 植竹さん)

 天皇・皇后陛下、お越しくださりありがとうございます❤

・球根はオランダからキュッとしまったものを輸入。上根がもしゃもしゃなものを定植し、下根がドレッドヘアのようにもしゃもしゃになるまで育てよ。

・JAふかやのLAユリは周年栽培、安定供給が売り。雪害から復活中で、これからも喜ばれるユリを出荷しますので、是非深谷のユリをご指名ください!

後編のJAふかやチューリップ部会に続きます。

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<写真・文責>:ikuko naito@花研

Copyright(C) Ota Floriculture Auction Co.,Ltd.